EP 2
【外道】勇者の嗜みは「タンス漁り」と「保険解約」
「さあ! 魔王を倒すための旅に出るわよ! ……の前に、まずは『資金調達』ね!」
【はじまりの村】の広場。
飲んだくれ(管理者)のルチアナが、空の酒瓶を片手に高らかに宣言した。
「資金調達? 村長さんからお小遣いでも貰えるんですか?」
武道家のキャルルがウサ耳をパタパタさせる。
「甘いわねキャルル。RPGにおける最初の資金調達といえば……これよ!」
ルチアナはズンズンと歩き出し、近くにあった村人の民家のドアを、ノックもせずにバーン! と蹴り開けた。
「お邪魔しまーす!」
そして、土足のままズカズカと上がり込み、部屋の隅にあった立派な壺を……。
ガシャァァンッ!!
躊躇なく蹴り割った。
中からチャリン、と数枚の銅貨が転がり落ちる。
「よし、3Gゲット! ついでにそこのタンスも……おっ、『やくそう』と『皮の帽子』があったわ! 頂きっ!」
『あああっ! 婆ちゃんの形見の壺がぁぁ!』
『ウチのタンス勝手に開けないでくだせぇ!』
突然の蛮行に、家主のNPC(村人)たちが悲鳴を上げて泣き崩れる。
「ちょぉぉぉ待てぇぇぇい!!」
農民のカイトが全力でツッコミを入れた。
「何やってんのルチアナ!? ただの強盗! 空き巣! 泥棒行為だよそれ!!」
「ハァ? カイト、あんたRPGやったことないの? 勇者が村人の家を漁るのは『世界の共通言語』よ。魔王を倒してやるんだから、これくらい必要経費でしょ」
ルチアナは全く悪びれる様子もなく、次の民家へと向かおうとする。
「いや、僕らの中に勇者いないじゃん! ただの飲んだくれと農民の不法侵入だから!」
「いいなぁ……私もお金欲しい……」
カイトのツッコミを他所に、貧乏神のリーザがフラフラと別の民家へ入り、壺をパリンと割った。
しかし、中から出てきたのは銅貨ではなく、一枚の羊皮紙だった。
「ん? なになに……『魔界金融:借金督促状。利息分として所持金から1,000G引き落とします』……って」
ピロン♪
リーザの頭上に【所持金:-11,000 G】という赤い文字が浮かび上がった。
「なんでよォォォォ!! 壺割っただけで借金増えたァァァ!!」
リーザが血の涙を流して地面を叩く。貧乏神の呪いは、ゲームシステムすら凌駕していた。
「……ちまちま壺を割ってても、らちが明かないわね」
ルチアナが舌打ちをした。
「魔王城に行くには、最新の武具を揃えないと。もっと手っ取り早く、ドカンと稼ぐ方法はないかしら……あ、そうだ」
ルチアナの目が、悪い顔(邪神のそれ)に変わった。
彼女が向かった先は、村の中心にある立派な建物――『村役場』だった。
「おい、ルチアナ! 今度は何する気だ!」
カイトが慌てて追いかける。料理人の龍魔呂や魔法使いのルナもぞろぞろとついていく。
役場の中に入ると、ファンタジーな世界観に似つかわしくない、近代的な『魔導情報端末』が置かれていた。(※ルチアナが適当に作った世界なので設定がガバガバである)
ルチアナは端末の前に座ると、目にも留まらぬ速さでキーボード(魔力鍵盤)を叩き始めた。
「フフフ……私には【管理者権限(God Mode)】があるのよ。この村の住人全員の個人データにアクセスして……と」
カイトの背筋に、嫌な汗が流れた。
「ルチアナ……まさか」
「見つけたわ! 村人Aの『生命保険』、村人Bの『学資保険』、そして村長がコツコツ貯めていた『積立NISA(マナ投資型)』の口座!」
ルチアナは邪悪な笑みを浮かべ、エンターキーをターンッ! と力強く叩いた。
「これらを全部、強制解約して、解約返戻金を私たちのパーティー口座に送金っと♡」
ピロン♪ ピロン♪ ピロロン♪
カイトたちの目の前に、信じられない額の通知が連続で浮かび上がった。
【パーティー資金:+50,000 G】
【パーティー資金:+120,000 G】
【パーティー資金:+8,500,000 G】
「はっ……はっぴゃくまん!?」
キャルルが目玉を飛び出させた。
「ふぅ。とりあえず1,000万G(約一億円)くらい調達したわ。これだけあれば、初期村の武器屋ごと買収できるわね」
ルチアナが満足げに立ち上がる。
一方、外の広場からは、絶望に満ちたNPCたちの慟哭が響き渡っていた。
『ああああっ! ワシの老後の資金(積立NISA)が消えとるぅぅ!』
『ウチの息子の大学費用(学資保険)がゼロに!?』
『村が……村が破産じゃあああ!!』
阿鼻叫喚の地獄絵図。
村は物理的ではなく、経済的に完全に焼き尽くされた。
「…………」
カイトは、手にした『ひのきのクワ』をポトリと落とした。
そして、涙目でルチアナに叫んだ。
「お前が魔王だろォォォォォ!!!!」
勇者(不在)パーティーの旅立ちは、村人たちに深い絶望と自己破産を植え付けるという、最悪のスタートを切ったのだった。




