表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/208

EP 2

【外道】勇者の嗜みは「タンス漁り」と「保険解約」

「さあ! 魔王を倒すための旅に出るわよ! ……の前に、まずは『資金調達』ね!」

【はじまりの村】の広場。

飲んだくれ(管理者)のルチアナが、空の酒瓶を片手に高らかに宣言した。

「資金調達? 村長さんからお小遣いでも貰えるんですか?」

武道家のキャルルがウサ耳をパタパタさせる。

「甘いわねキャルル。RPGにおける最初の資金調達といえば……これよ!」

ルチアナはズンズンと歩き出し、近くにあった村人の民家のドアを、ノックもせずにバーン! と蹴り開けた。

「お邪魔しまーす!」

そして、土足のままズカズカと上がり込み、部屋の隅にあった立派な壺を……。

ガシャァァンッ!!

躊躇なく蹴り割った。

中からチャリン、と数枚の銅貨が転がり落ちる。

「よし、3Gゴールドゲット! ついでにそこのタンスも……おっ、『やくそう』と『皮の帽子』があったわ! 頂きっ!」

『あああっ! 婆ちゃんの形見の壺がぁぁ!』

『ウチのタンス勝手に開けないでくだせぇ!』

突然の蛮行に、家主のNPC(村人)たちが悲鳴を上げて泣き崩れる。

「ちょぉぉぉ待てぇぇぇい!!」

農民のカイトが全力でツッコミを入れた。

「何やってんのルチアナ!? ただの強盗! 空き巣! 泥棒行為だよそれ!!」

「ハァ? カイト、あんたRPGやったことないの? 勇者が村人の家を漁るのは『世界の共通言語おやくそく』よ。魔王を倒してやるんだから、これくらい必要経費でしょ」

ルチアナは全く悪びれる様子もなく、次の民家へと向かおうとする。

「いや、僕らの中に勇者いないじゃん! ただの飲んだくれと農民の不法侵入だから!」

「いいなぁ……私もお金欲しい……」

カイトのツッコミを他所に、貧乏神のリーザがフラフラと別の民家へ入り、壺をパリンと割った。

しかし、中から出てきたのは銅貨ではなく、一枚の羊皮紙だった。

「ん? なになに……『魔界金融:借金督促状。利息分として所持金から1,000G引き落とします』……って」

ピロン♪

リーザの頭上に【所持金:-11,000 G】という赤い文字が浮かび上がった。

「なんでよォォォォ!! 壺割っただけで借金増えたァァァ!!」

リーザが血の涙を流して地面を叩く。貧乏神の呪いは、ゲームシステムすら凌駕していた。

「……ちまちま壺を割ってても、らちが明かないわね」

ルチアナが舌打ちをした。

「魔王城に行くには、最新の武具を揃えないと。もっと手っ取り早く、ドカンと稼ぐ方法はないかしら……あ、そうだ」

ルチアナの目が、悪い顔(邪神のそれ)に変わった。

彼女が向かった先は、村の中心にある立派な建物――『村役場』だった。

「おい、ルチアナ! 今度は何する気だ!」

カイトが慌てて追いかける。料理人の龍魔呂や魔法使いのルナもぞろぞろとついていく。

役場の中に入ると、ファンタジーな世界観に似つかわしくない、近代的な『魔導情報端末』が置かれていた。(※ルチアナが適当に作った世界なので設定がガバガバである)

ルチアナは端末の前に座ると、目にも留まらぬ速さでキーボード(魔力鍵盤)を叩き始めた。

「フフフ……私には【管理者権限(God Mode)】があるのよ。この村の住人全員の個人データにアクセスして……と」

カイトの背筋に、嫌な汗が流れた。

「ルチアナ……まさか」

「見つけたわ! 村人Aの『生命保険』、村人Bの『学資保険』、そして村長がコツコツ貯めていた『積立NISA(マナ投資型)』の口座!」

ルチアナは邪悪な笑みを浮かべ、エンターキーをターンッ! と力強く叩いた。

「これらを全部、強制解約キャンセルして、解約返戻金を私たちのパーティー口座に送金っと♡」

ピロン♪ ピロン♪ ピロロン♪

カイトたちの目の前に、信じられない額の通知が連続で浮かび上がった。

【パーティー資金:+50,000 G】

【パーティー資金:+120,000 G】

【パーティー資金:+8,500,000 G】

「はっ……はっぴゃくまん!?」

キャルルが目玉を飛び出させた。

「ふぅ。とりあえず1,000万G(約一億円)くらい調達したわ。これだけあれば、初期村の武器屋ごと買収できるわね」

ルチアナが満足げに立ち上がる。

一方、外の広場からは、絶望に満ちたNPCたちの慟哭が響き渡っていた。

『ああああっ! ワシの老後の資金(積立NISA)が消えとるぅぅ!』

『ウチの息子の大学費用(学資保険)がゼロに!?』

『村が……村が破産じゃあああ!!』

阿鼻叫喚の地獄絵図。

村は物理的ではなく、経済的に完全に焼き尽くされた。

「…………」

カイトは、手にした『ひのきのクワ』をポトリと落とした。

そして、涙目でルチアナに叫んだ。

「お前が魔王だろォォォォォ!!!!」

勇者(不在)パーティーの旅立ちは、村人たちに深い絶望と自己破産を植え付けるという、最悪のスタートを切ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ