EP 8
【帰還】戦利品とツヤツヤの肌
夕暮れ時のカイト農場。
畑仕事と夕食の仕込みを終えたカイトが、縁側で麦茶を飲んでくつろいでいると、正門の方から足音が聞こえてきた。
「ただいま戻りましたぁ……。もうヘトヘトですぅ……」
「ふふふ……ふーっふっふっふ! 大勝利よ! 私の、私だけの城よ!!」
帰ってきたのは、キャルルとリーザだった。
カイトは二人を労おうと立ち上がったが、その異様な姿を見て、ピタリと動きを止めた。
「お帰り……って、えっ?」
カイトは瞬きを繰り返した。
まず、リーザ。
彼女の両腕には、天魔窟デパートの高級ブランド名が入った紙袋が、これでもかと抱えられている。しかし、中に入っているのは商品ではなく、数日分の小さなパウチやミニボトル(試供品)の山だった。
そして、キャルル。
彼女の方はもっと異常だった。
「キャルルちゃん……なんか、顔がテカテカしてない? いや、物理的に光ってない!?」
そう、キャルルの肌が、夕日を反射して尋常ではない「ツヤ」を放っていたのだ。
ゆで卵の薄皮を剥いた直後のような、圧倒的な透明感。
内側からパーンと張ったような、驚異のモチモチ肌。
しかも、彼女が動くたびに、高級デパートの1階でしか嗅げないような「複雑でリッチなフローラル系の香り」が漂ってくる。
「あ、カイトさん……。その、色々ありまして……」
キャルルが恥ずかしそうに頬を掻く。
その指が頬に触れた瞬間、**『ぷるんっ♪』**という、効果音のような弾力音が鳴った。
「音鳴った!? なにそれ、どういう状態!?」
「デパートの地下から『コスメ・ゴーレム』っていう、化粧品のオバケが出たんです。それを蹴り飛ばしたら、爆発して中身を全部浴びちゃって……。気付いたら、お肌がツヤツヤに……」
キャルルがため息をつく。
服はリーザの「生活魔法」で乾かしたが、肌の奥底まで浸透した高級エキスの効果は凄まじく、洗っても落ちなかったらしい。
「いや、怪我がないならいいけど……。匂いがすごいね。歩く高級デパートみたいだ」
「カイト! キャルルばっかり見ないでよ!」
リーザが紙袋を縁側にドサリと置き、腰に手を当てて胸を張った。
「私のこの『戦利品』を見なさい! BA(美容部員)たちとの血みどろの心理戦を制して勝ち取った、各ブランドの最高級ラインナップよ! これで私も、ルチアナたちの『地球の化粧水』に対抗できるわ!」
リーザの顔も、戦いの熱気と、何らかのサンプルを道中で塗りたくったせいで、妙にテカテカしていた。
「……いや、リーザちゃんのもテカテカしてるけど。ていうか、それ全部タダでもらってきたの? 完全にクレーマー……いや、迷惑客じゃん」
カイトがジト目で指摘する。
「失礼ね! これはただのテカりじゃないわ! **『勝利の輝き(タダ)』**よ!」
リーザがドヤ顔で言い放つ。
「タダより高いものはない」という言葉は、彼女の辞書には存在しない。
「それに、私たちが『この農場で使って宣伝してあげる』って言ったら、BAのお姉さんたちも涙ぐんで(※早く帰ってほしくて)渡してくれたのよ! これは立派なインフルエンサー活動よ!」
「絶対に違うと思うけど……」
カイトが呆れ果てていると、そこへ、ルチアナから『SK-∞』を買って美肌になったラスティアとフレアが、館から出てきた。
「あら? なんかすごくいい匂いがすると思ったら、二人が帰ってきたのね」
「まあ。……キャルルさん、随分とお肌の調子がよろしいですわね?」
ラスティアとフレアが、キャルルの発光する肌を見て目を丸くする。
「地球の高級化粧水(金貨5枚)を使った私たちより、潤ってないかしら……?」
「……ええ。悔しいですけれど、あのツヤは尋常ではありませんわ」
「ふっふっふ、見たか富裕層! 持たざる者(貧乏人)の底力よ!」
リーザが勝ち誇ったように笑う。
「まあ、私はタダで貰ったサンプルをこれからチマチマ使うんだけどね!」
自慢の方向性が悲しすぎるが、本人が幸せそうなので誰もツッコまなかった。
「……はぁ。疲れたから、私もうお風呂入って寝ますぅ……」
キャルルがウサ耳を垂らしてトボトボと歩き出す。
「ちょっと待った!」
そんなキャルルの肩を、ラスティアがガシッと掴んだ。
「今夜はこれから、龍魔呂のBARで女子会(打ち上げ)よ! 美肌になったんだから、いい男に見せに行かないと損でしょ!」
「えっ!? りゅ、龍魔呂さんのBAR……!?」
その名前を聞いた瞬間、キャルルのウサ耳がピン! と跳ね上がった。
疲労など一瞬で吹き飛んだ。
「い、行きます! 私、行きますぅぅ!」
ピカピカの肌(物理)で恋する乙女が、再びやる気を取り戻す。
今夜の『BAR 龍魔呂』は、様々な美と欲望(と匂い)が交錯する、カオスな夜会になりそうだった。




