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第十七章 金塊、、ヤニ、、そして海鮮鍋

畑から出たのは、漬物石(数億円)でした

 サクッ、サクッ。

 心地よい音が、早朝の澄んだ空気に響き渡る。

 ここはカイト農場。

 天魔窟ダンジョンのほど近くに存在する、あらゆる常識が通用しない規格外のサンクチュアリだ。

「うん、いい土だ。今日のお芋も機嫌がよさそうだね」

 農場主であるカイトは、愛用のくわを振るいながら、満面の笑みを浮かべていた。

 狙うは秋の味覚、サツマイモ。

 ただし、カイトが育てたそれは『Sランク・蜜芋ハニーポテト』と呼ばれ、一口食べれば王族ですら理性を失って貪り食うという、魔性の野菜である。

 カイトは慎重に鍬を入れる。

 野菜を傷つけないように。赤子の肌を撫でるように。

 ガチンッ!!

 不意に、鍬の先に硬い感触が伝わった。

 石か?

 カイトは首を傾げ、その障害物を掘り起こす。

「……うわぁ、また石だ。しかも、すごく邪魔な形をしてるなぁ」

 土の中から現れたのは、カイトの頭ほどもある巨大な「塊」だった。

 泥を払うと、朝日に照らされてピカーーーッ!! と暴力的な輝きを放つ。

 黄金ゴールド

 純度99.99%。

 推定重量、20キログラム。

 日本円にして、およそ数億円相当のインゴット(塊)である。

「うーん、眩しい。目に悪いね、これ」

 カイトは顔をしかめた。

 彼にとって重要なのは「美味しい野菜が育つふかふかの土」であり、鍬の刃を欠けさせる硬い異物は、ただの邪魔者でしかない。

「捨てようかな……いや、待てよ?」

 カイトの手が止まる。

 持ち上げてみる。

 ズッシリとした重量感。

 表面の適度なゴツゴツ感。

「あ! これ、ちょうどいいじゃん!」

 カイトがポンと手を打った、その時だ。

「よう、大将。精が出るな」

「……朝から騒がしいな、カイト」

 畑のあぜ道を、二人の男が歩いてきた。

 一人はダンディな初老の紳士。竜王デューク。

 もう一人は、鋭い目つきの青年。狼王フェンリル。

 この農場の「飲み仲間」兼「用心棒ペット」たちだ。

「あ、おはようデューク、フェンリル。見てよこれ」

 カイトは泥だらけの金塊を無造作に掲げて見せた。

「畑から出てきたんだけどさ」

「ん? なんだ、ただのきんか」

 デュークは一瞥いちべつしただけで、興味なさそうに視線を外した。

 懐から太い葉巻を取り出し、指先から出した極小の火炎ブレスで着火する。

 スパーーッ。紫煙が空へ昇る。

「金なんぞあっても、ラーメンの出汁にはならんからな。……今日のスープの出来はイマイチだ。豚骨の骨髄が足りん」

「そりゃ残念だね」

「全くだ。……おい駄犬、火」

「誰が駄犬だ、トカゲ親父」

 フェンリルが悪態をつきながら、自身のタバコ『マルボロ・アイスブラスト』をくわえる。

 指パッチンで氷の火花を散らし、器用に火をつけた。

 ヒュゥゥゥ……プハァ。

 メンソールの冷たい煙が漂う。

「……あぁ、だりぃ。こんな石ころ(数億円)より、天魔窟の最下層でS級魔物狩った方がよっぽど面白いぜ。血湧き肉躍るバトルこそが至高だ」

「二人とも、これ要らないの?」

「要らん(即答)」

「興味ねぇ」

 男たちの美学に、「金」という不純物は混じらない。

 彼らにとって重要なのは、「至高の一杯ラーメン」と「至高の戦い」、そしてこの「一服の紫煙」だけなのだ。

「そっか。じゃあ、当初の予定通りに使おうっと」

 カイトは金塊を抱え、納屋の軒下にある「漬物樽」へと向かった。

 樽の中には、昨日収穫したばかりの瑞々しい白菜が詰まっている。

「白菜の漬物を作ってたんだけど、重石おもしが足りなくて困ってたんだよねぇ。この重さ、まさにシンデレラフィットだよ」

 ドスンッ。

 カイトは無造作に、数億円の金塊を白菜の上に置いた。

 金塊がギュウゥと白菜を押し込み、美味しい汁が滲み出る。

「よし、完璧! これで美味しいお漬物ができるぞー」

 カイトが満足げに汗を拭った、その瞬間。

「ぎゃああああああああああああッ!!!」

 農場全体を揺るがすような、悲痛な絶叫が響き渡った。

 声の主は、ボサボサの髪でふらりと現れた人魚族のアイドル、リーザだった。

 彼女の手には、朝食代わりの「パンの耳」が握りしめられている。

 その瞳は、漬物樽の上に鎮座する黄金の輝きに釘付けになり、血走っていた。

「な、ななな、何してんのよぉぉぉカイトぉぉぉ!! そ、そそそ、それは漬物石じゃないわよぉぉ! 家賃よ! ボイトレ代よ! 私の借金完済の光よぉぉぉ!!」

「え? リーザちゃん、どうしたの? お腹痛い?」

「頭が痛いわよあんたの金銭感覚のせいでぇぇ!!」

 リーザはパンの耳を放り投げ、漬物樽に向かってダイビングした。

 しかし。

 その前に、葉巻をくわえたデュークが立ちはだかる。

「おい小娘。騒ぐな。煙が不味くなる」

「どいてよトカゲェ! あの石があれば、私は本物のアイドルになれるのよぉぉ!」

 朝の農場に、欲望と紫煙と野菜の匂いが入り混じる。

 カイトは不思議そうに首を傾げた。

「……変なの。ただの石なのにねぇ」

 こうして、農場を揺るがす『黄金の漬物石騒動』の幕が上がったのである。

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