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エピローグ5:一ノ瀬直也

 ――正直、驚いた。


 祭りの為に浴衣に着替えた保奈美の姿を見て、思わず言葉を失った。

 室内灯に照らされる浴衣姿。髪をきちんと結い上げ、うっすらと施された化粧。

 もともと美人な子ではあった。だけど――今夜の彼女は、それが本格的に開花したかのようで、眩しいほどだった。


 「……なんか、キレイだな」

 口に出した自分の言葉に、自分自身が驚く。


 保奈美は顔を赤らめた。

 こんなキレイな子が一人で歩いていたら絶対に悪いヤツが寄ってくる。

 オレが懸念していると、

 手を握るように言う。

そして小さな手でオレの手をしっかり握り続けていた。

 まるで絶対に離さない、とでもいうように。


 義妹だから、オレは線を引かなければならない。

 でも――その線の向こう側にいる保奈美は、ただの女の子ではない。

 可憐さと美しさが同居して、強く胸を打ってくる。

 ……慈しまずにはいられなかった。


※※※


 この春先。

 父と義母をバス事故によって失った。

 父義母が再婚して保奈美とオレが義兄妹となってから二ヶ月足らず。

 そして、それから更に二ヶ月の間に、オレの世界は大きく変わった。


 葬儀。相続の手続き。残された家の整理。

 慣れない料理を時には保奈美を一緒に作ったこともあった。

 夜遅くまで仕事を詰め込み、疲れて帰ったら、リビングの明かりの下で一人勉強していた保奈美の後ろ姿。

 もう随分前に忘れていたオレの大好きだった焼きリンゴを保奈美は作ってくれた。

 オレは元来涙を流さないタイプだが、あれは本当に懐かしく、自然に涙が流れてしまった。


 そして、あの日。

 気管支炎でダウンしたオレに、まるで昔の母が作ってくれたように、全く同じ味の雑炊を食べさせてくれたこと。

 「懐かしい味」としか言いようのないあの一杯。


 ――全てが、この二ヶ月足らずの間に起こったのだ。


 たった二ヶ月。けれど、濃密すぎる出来事の数々が、この子との距離を否応なく近づけた。

 

 でも絶対に間違えてはいけない。

オレは父に代わって、この子を守らなきゃならない。

 義母に代わって、この子を育てていかなきゃならないのだ。


 それは――絶対に揺らいではいけないオレの使命だ。


※※※


 もちろん、驚きや感謝もある。

 亜紀さんや玲奈までわざわざ浴衣で来てくれたのは驚いた。あの二人の存在は、仕事における心強いパートナーとしか言いようがない。オレが倒れるギリギリまで頑張りきれたのは、この二人のサポート無しにはあり得なかった。

 莉子も、昔から変わらず優しくて、自然体で支えてくれる。莉子は本当に優しい子だ。デートの約束も守らなければならない。


 でも――不思議なことに。

 その全てよりも、今は隣にいる保奈美の存在感が際立っていた。


 花火が夜空に咲く。

 ドン、と大きな音が胸に響く。

 その光の下で笑う保奈美は、もう「義妹」だと割り切るにはあまりにも眩しすぎる。


 だからこそ。

 オレは繰り返し、自分に言い聞かせる。


 ――これは義兄妹への思いなのだ。

 これは慈しみだ。

 これは責任だ。

 絶対に勘違いしてはならない。


 父と義母の遺した唯一のオレの家族。

 オレが絶対に守り抜くべき存在。


 オレの手をぎゅっと握りしめる保奈美。

 その温もりを返すように、オレも握り返した。


 花火の光に照らされた夜空に、静かに誓う。


 ――どんなことがあっても、この子を守る。

 この小さな手を離さない。


 この子が大人になるその日まで、

 オレは、この子と一緒に進んでいく。

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