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エピローグ4:谷川莉子

 ――驚いた。


 まさか亜紀さんと玲奈さんまで、わざわざ浴衣を着て町内会のお祭りに来るなんて。

 会社の人たちがこの場にいる違和感もすごいけれど、それ以上に華やかで、テントの空気が一気に変わっていた。


 けれど、私が本当に気にしていたのはその二人じゃない。

 ――やっぱり。

 直也くんが連れてきたのは、保奈美ちゃん。


 そうだと思っていた。だから心の準備はしていた。

 “お姉さん”として接しよう、そう心に決めてもいた。


 でも。


 浴衣姿の保奈美ちゃんを目にした瞬間、言葉を失った。

 ――キレイ。

 それだけじゃない。髪を結い上げ、薄化粧で大人っぽさを漂わせながら、年相応の可憐さもきっちり残している。

 しかも直也くんの手を、当たり前のように握って離さない。


 ……入り込む隙が、ない。


 しかも浴衣の着こなしも完璧だった。

 衿の合わせも崩れていないし、帯の形もきれいに決まっている。

 驚いた。本当にきちんと練習してきたのだろう。

 ――あまりにも、この子は女子力が高すぎる。


 私はちらりと横目で亜紀さんと玲奈さんを見る。

 確かに二人はすごくキレイで、頭も良くて、仕事もできそうだ。

 でも、同時に「女」としての意識が強すぎるからか、余裕を失っている。

 案の定、二人同時に「チッ」と舌打ちした時には、思わず笑いそうになった。

 ――分かりやすいなぁ。


 でも保奈美ちゃんには、そういうものが全く通じない。

 悪意や駆け引きなんてゼロ。

 ただ自然に、直也くんの隣に立つ。

 それだけに一番厄介だ。

 もう私は分かっている。

 保奈美ちゃんがラスボスだ。


 とはいえ。私はもう“手札”を持っている。

 ――デートの約束。


 直也くん本人から「いいよ」と言ってもらった。

 だからまずはそこから。焦る必要はない。


 それに私はご近所。

 週末のジムだって一緒に行けるし、直也くんが趣味にしているジョギングのコースも熟知している。実際に何度も一緒に走った事もある。

 わざわざ計画を立てなくても、自然に会うチャンスはいくらでも作れる。

 隣で走りながら会話を重ねるだけで、直也くんとの距離はきっと縮まる。


 ――そう。焦らないこと。


 保奈美ちゃんがどんなにキレイでも、私には“幼馴染”という立場がある。

 小さい頃からずっと一緒に育ってきた時間は、そう簡単には埋められない。

 私が近所の子にイジメられていた際に守ってくれたのも直也くん。

 私が親子喧嘩して泣いていた時に、自分の家に連れて行って匿ってくれたのも直也くん。

 お父さんと直也くんだけで生活していた時に、いつもお惣菜をもって行ったし、時には手料理を振る舞ったのは私だ。

 そういう事を直也くんは絶対に忘れない人だから。

 だから私は焦る必要なんかない。


 夜空に大輪の花火が咲く。

 光に照らされた直也くんの横顔を、私はそっと見つめた。


 ――必ず、私が一歩リードする。

 この夏を、絶対に自分のチャンスにしてみせる。

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