エピローグ3:宮本玲奈
――今日は、絶対に驚かせてやろうと思っていた。
普段はスーツ一辺倒。
だからこそ、浴衣で“女”の部分を前に出せば、亜紀さんを出し抜ける。
そう信じていた。
けれど――甘かった。
私と同じことを考えていたのか、亜紀さんも艶やかな浴衣姿で現れていた。
しかも、莉子さんまでいる。町内の人だから当然だとはいえ……美人三人衆、ってやつ?
なんとなく、三人並んで本部テントの前で直也を待つ羽目になった。
「キレイな浴衣美人を待たせるなんて、悪い男がいるんかな?」
通りすがりのオジサンがひやかすように言った。
――ほんとだよ!
私は心の中で叫んだ。
あぁ、早く来てよ、直也……!
※※※
そしてようやく、その人影が見えた。
直也。
今日は甚平姿。私たちを見て少し驚いたように目を丸くする。
よし、作戦は成功――そう思った。
……ほんの一瞬だけ。
だって、その隣にいたのは。
保奈美ちゃん。
浴衣姿に、きちんとまとめられた髪。
薄いメイクで大人っぽさを漂わせながらも、年相応の可愛らしさを隠しきれない。
眩しくて、見た瞬間……正直驚いた。
――わかっていた。覚悟はしていた。
でも、まさかここまでとは。
つい、舌打ちが漏れた。
「チッ」
斜め前、亜紀さんも同時に舌打ちしていた。
……なんだ、気持ちは同じか。
でも亜紀さん露骨。
舌打ちは全部亜紀さんのせいって事にしよっと。
※※※
その後、五人で屋台を回ることになった。
けれど問題は一つ。
保奈美ちゃんが、直也の手を絶対に離さない。
金魚すくいでも、綿あめでも、焼きそばでも。
ずっと。ずっと。ずーっと。
――絶対、わかっててやってる。
あれは“義妹ですから”っていう建前を盾にした、最強の一手だ。
私は思わず奥歯を噛んだ。
……この子の存在は完全に計算外だった。
※※※
まぁいい。
今日はこのあと、きっと亜紀さんが「飲みに行かない?」って誘ってくるだろう。
その時は女二人で、ビターに愚痴でもこぼしてやればいい。
だが、忘れてはいけないの。
直也にはシリコンバレー出張も、八幡平出張も控えている。
保奈美ちゃんが不在の場面は、これからいくらでもある。
――チャンスは、これから。
夜空に咲く花火を見上げながら、私は静かに誓った。
絶対に負けない。
直也の隣を守るのは、必ずこの私だ。
その時には、直也の手を私が握って絶対に離さない。




