第74話:宮本玲奈
――直也が“室長”になった。
統括進行管理室長。
それもM3クラス。常設ポジションではないとはいえ、普通なら十年はかかる役職だ。
それを、いきなり超抜擢で任されるなんて。
驚きを通り越して、胸の奥がじんわり熱くなる。
悔しいとか、同期としてどうだとか、そんな次元じゃない。
――誇らしい。本当に誇らしい。
直也はもう既に『未来の社長候補』筆頭になっている。
その瞬間を見届けられるのは、私にとっても誇りだ。
……なのに。
よりにもよって、亜紀さんと“並び”で補佐役?
本当に人事は何を考えているのか。
私は直也の隣で、臨席して、資料を整え、交渉をサポートして――そうやって支えるつもりだったのに。
なのに、よりによってこの女狐モードの人と同じ役割だなんて。
案の定、会議中も、直也に「室長♡」と甘ったるい声をかけたり、肩揉みだの何だの、逆セクハラまがいの接近を繰り返している。
――油断ならない。全くもって気を許せない。
※※※
ようやく亜紀さんが要件で席を立ち、直也の横から離れた。
その瞬間、私はほっと息をつき、休憩スペースへ向かった。
冷たい水で喉を潤そうとしたとき、聞きたくない会話が耳に飛び込んできた。
PMO事務局の課長二人――。
よりによって、この人たちが、ソファに腰かけてコーヒー片手に盛り上がっている。
「いやぁ、亜紀くんと玲奈くん、どっちが推しかねぇ」
「私は玲奈くんですかね。仕事を着実にこなすし、内助の功って感じで」
「でも亜紀くんは色っぽいから、目で楽しませてくれるよな」
「ははっ、こんなこと言ったらすぐセクハラだって言われちゃうけどさ。世知辛い世の中だよなぁ」
「でも、玲奈くんのビジネススーツもいいですよ。あざとさがないところが逆に……ね」
――はぁぁぁ!?
信じられない。何この人たち。
この前時代過ぎるセクハラトーク。紳士集団とか国士とか、ウチの会社は言われているというけれど、ただの単なるダメな昭和オヤジ集団じゃない。
わざと、大きく咳払いしてやった。
「ゴホンッ!」
二人はビクリと肩を揺らし、気まずそうに視線を逸らした。
「……ちょっとコンビニに、行こっかな」
「そ、そうだな。電話してこよっと……」
すごすごと逃げていく課長二人。
――このPMO、直也がいないと全然ダメじゃないのかしら?
先行きが不安すぎる……。
直也は既に今後のプロジェクト進行の展望をラフで描き始めている。
一方で近々にもシリコンバレーに出張もしなければならない。
私自身もその同行だけでなく日本GBCの街丘さんにもお会いしたいし。
もちろん八幡平にも改めて視察に行く必要がある。
――やるべき事は山積しているのにな。
私は深く息を吐いた。
……でも、だからこそ。
この人の隣で、仕事を進められるのは私しかいない。
亜紀さんに負けるわけにはいかない。
直也――。
あなたを支えるのは、必ず私。
仕事だけでなくプライベートでも。
保奈美ちゃんは強敵だと思うけれど。
でも義妹は義妹だもん。
絶対に亜紀さんにも義妹ちゃんにも私は負けない。




