第73話:新堂亜紀
――直也くんが“室長”になった。
プロジェクト統括進行管理室長。
名刺を見せられた瞬間、私のテンションはMAXになった。
室長! しかも職格はM3クラス!
私たちの同期世代でもまだ全然、誰も届いていないポストだ。
もう、このままいけば課長クラスなんて時間の問題。
いや、ITセクターからのとんでもない「未来の社長候補」の誕生だ。
――ほんとにすごい。
誇らしい。嬉しい。
そして何より……今や私の“上司”なのだ。
もう目一杯お使えしなきゃ。
「直也室長♡」
思わず呼んでしまった。
「や、やめてください。亜紀さん……」
直也くんが照れている。
その顔がまたたまらなく可愛い。ふふ、やっぱり呼んじゃう。
「だって室長でしよ?―し・つ・ちょ・う!」
――でも。一方でめちゃくちゃ気に食わない。
どうして補佐役に玲奈まで入っているの!?
統括進行管理室の補佐は“私だけ”で十分だったはず。
仕事のサポートだけじゃない、
女性としてプライベートも全部私が引き受けるつもりだったのに。
一体ウチのクソ人事は何を考えてるのよ!
玲奈なんて直也くんの引き継ぎ案件だったDeepFuture AIで、たまたまタイミング良すぎたってだけじゃない。彼女だけで何が出来たというのか。
その点私は日本GBCにも繋げ、それが日本GBCだけでなくAACにも繋がるきっかけになったのだ。それは全部私は直也くんの為に必死に繋げたのに。
私の中はプンプンモードだ。
でも、そうしながらも、私は笑顔を貼り付けて直也に身を寄せる。
「室長♡、今日もお疲れさまです。……ねぇ、肩揉んで差し上げましょうか?」
「えっ、いや……」
直也が困惑する。その隙を狙ったかのように玲奈が声を挟んだ。
「亜紀さん。それはサポートじゃなくて、ただの“甘やかし”ですよね? ていうか、セクハラ規定違反になりませんか?」
ぐっ……!
痛いところを突かれた。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
「いいじゃない。室長は過労が原因で倒れたんだから、まずは癒して差し上げないと」
強引に直也の後ろから女狐アタック――。
「癒すなら、まず仕事を減らすのが一番です。だから、引き継ぎ資料の整理とまとめは私が引き受けますね、室長♡」
玲奈がさらりと笑みを浮かべて直也に迫る。
――くっ、この子……!
完全に“女狐モード”に入った私に、正面から真正直にぶつかってくるなんて。
直也は直也で「いや、二人とも無理しなくていいよ……」と困惑しているけれど、もう私と玲奈の間では目に見えない火花がバチバチ散っている。
――そのとき。
すぐ近くに座っていた、PMO事務局の課長二人がヒソヒソ声を交わした。
本来ITセクターと資源セクターはあまり相性が良くない筈なのに。
この二人はすぐに打ち解けたみたい?
「……ねぇ、なんかここ、やけに空気悪くないですかね?」
「ですね……。ちょっとタバコでも吸いに行きますか」
「そうしよ。オレも缶コーヒー買ってこよ〜と」
顔を引きつらせたまま、そそくさと席を立っていく。
――完全にドン引きされてる!?
でもいい。
彼らには気の毒だけど、ここは絶対譲れない戦場。
直也室長を支えるのは私。
そして、女として直也くんの横にいるのも私。
あの保奈美ちゃんがラスボス化しているのが気になるけれど。
玲奈?
こんな小娘、上等よ。
このプロジェクト、仕事も恋も、勝負はここから――!




