第70話:一ノ瀬直也
大会議室に集まった面々を見渡してみる
感慨深い思いがある。
ここからはもう、自分ひとりで背負い込むのではない。体制図をもとに、部課長クラスが中核となって動いていく。
オレもその一員として、自分の役割を果たし、この巨大プロジェクトに貢献していこう――そう思っていた。
壇上に立つITセクターの統括取締役が、マイクを手に声を響かせる。
「今回のJV推進体制についてだが……まずプロジェクト全体を統括するPMOを設置する。事務局長にはITセクターの課長を、副局長には資源セクターの課長をアサインする」
そこまでは予想通りだった。
だが、次の言葉に会場の空気が一変した。
「――そしてPMO直下に、統括進行管理室を臨時に設置する。本件プロジェクト全体をどう采配するかを検討し、適宜事務局長に連携、必要に応じて事務局長に代わり主導する事も期待する。この室長として、抜擢人事となるが……一ノ瀬直也を任命する」
一瞬、耳を疑った。
自分の名前? オレが……統括進行管理室長?
ざわめきが広がる。驚きと納得の入り混じった視線が一斉にこちらに注がれる。
胸が強く脈打ち、喉が渇いた。
統括取締役が続ける。
「一ノ瀬の職群はM3相当とする。ここまでの短期間で関係各所をまとめ上げ、プロジェクト化を実現させた功績を考慮した判断だ」
本部長が笑みを浮かべてこちらを見やった。
「おめでとう、一ノ瀬。同期の中でダントツの出世頭だな。プロジェクトの進行そのものだけでなく、対外的な調整を担う以上、それなりの肩書きが必要だと判断されたものだ」
会場のどこかで声が上がる。
「二階級特進って事じゃないか? 普通は戦死者しか与えられんぞ!」
「まぁ、ついこの間戦死しそうになっていたからな」
思わず笑いが巻き起こり、次の瞬間、拍手が広がった。
顔が熱くなる。
でも、嬉しかった。皆が――オレのこれまでを見てくれていた。
限界まで体を削って動いたことも、必死で国や海外を巻き込んできたことも。
その全てを、ちゃんと理解してくれていた。
オレは深々と頭を下げた。
※※※
更に、補佐役の人事が告げられる。
「統括進行管理室の補佐役兼事務局の対外調整サポート特別職として、新堂亜紀、そして宮本玲奈を配置する。これは日本GBCやDeepFuture AI、AACなどへの対応を考慮した上での判断だ。加えて――一ノ瀬に集中しかねない負荷を軽減させる目的もあるので、2人にはきちんとサポートを頼みたい。必要に応じてブレーキ役も含めて頼むぞ」
オレの両脇にいた亜紀さんと玲奈。
しかしこの発表があった直後から、なんか微妙な空気が……。
最も信頼できる同僚として、実にありがたい人事ではあるのだが、微妙な緊張を感じる。
亜紀は凛とした視線をオレに寄せ、玲奈は柔らかな笑みを浮かべながらも、その奥には何か強い光を宿している。
2人ともこれから仲良くやっていくべき筈なのだが……。
何故か静かな火花が散っている感じがする。
まぁしかし、これは重責を背負った者同士の緊張感なのだろう。
オレ自身もまだまだ全然実感がないくらいだから。
このプロジェクトは、もうオレひとりのものじゃない。
この仲間と共に、そしてこの新しい役割のもとで進めていくしかない。
大きく息を吸い込み、心に誓った。
――ここからが、本当の意味での戦いになるのだ。




