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第67話:一ノ瀬保奈美

 ――あの夜。

 自分のしたことを思い出すと、顔が真っ赤になってしまう。

 お義兄さんを抱きしめて眠るなんて……。

 あのときは必死だった。怖くて、泣きながら「罰だ」なんて言ってしまった。

 けれど翌朝、目が覚めた瞬間に自分の大胆さに気づき、布団の中でバタバタと身悶えしてしまった。


 「おはよう」

 掠れた声でそう言ってくれた直也さんを、まともに見られなかった。

 顔が熱くなりすぎて、視線を合わせたら倒れてしまいそうだったから。


 翌日、直也さんは当然会社を休んだ。

 私も学校を休んだ。

 「付き添う」と言い張ったら、先生に連絡して事情を説明し、了承してもらえた。

 だって心配で仕方がない。

 この人に何かあったら、私は本当に一人ぼっちになってしまうんだから。


 その翌日は土曜日だった。

 週末の二日間、直也さんはゆっくり休むことができた。

 咳も少しずつ収まり、熱も平熱に戻った。

 それでも私はリビングに布団を敷き、「心配だから」と言ってその横で眠った。


 「さすがにもう大丈夫だよ」と笑われたけれど、私は首を振った。

 「心配で寝られないんです」

 そう言うと、直也さんは少し困ったように笑いながら、結局私のわがままを受け入れてくれた。


※※※


 月曜日、火曜日。

 直也さんは休みを取り続け、私はその間も学校を休んで付き添った。

 そして、水曜日――。


 一緒に病院に行き、先生に診てもらった。

 聴診器を当てる先生の表情が和らいでいくのを見て、胸が高鳴る。


「気管や肺からの異音もなくなった。……もう大丈夫だね。明日から仕事を再開して構わないよ」


 その言葉に、思わず目頭が熱くなった。

 ようやく――やっと、安心できる。


※※※


 帰り道、私たちは莉子さんのお店に立ち寄った。

 直也さんが頭を下げる。

「心配をかけてすみませんでした」


 莉子さんは笑顔で「元気になってくれて本当に良かった」と言ってくれた。

 それだけでなく――。


「夏祭りの準備の件、あまり無理はしないでね。……でも、もし可能ならお願いします」


 夏祭り。

 もうすぐ、この街で迎える最初の夏祭りだ。


 ――直也さんと一緒に行きたい。

 その光景を想像しただけで、胸がきゅうっと締めつけられる。

 浴衣を着て、屋台の明かりの下を歩いて。手を伸ばせば、きっと温かさがそこにある。


 絶対にこの夏祭り、直也さんと一緒に行きたいな。

 出来れば手を繋いで。

 それが、今の私の一番の願いだ。

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