第53話:宮本玲奈
スマホに通知が走った。
直也と一緒に送ったビジネスチャット――イーサン・クラーク宛のメッセージに、すぐ既読がついたかと思うと、返事が返ってきた。
「今ちょうど起きている。VooMを繋ごう」
驚くほど即答だった。
時差を考えれば深夜のはずなのに、世界を股にかけるCEOの一日は常に動いているのだろう。
※※※
急ぎノートPCを開き、VooMを接続する。
画面に映ったイーサンは、Tシャツ姿でカップを片手にしていた。カジュアルなのに、言葉の端々から放たれる覇気が、こちらの背筋を自然と伸ばさせる。
「直也、玲奈。まずは――おめでとう。日本政府からの支援が正式に望めると聞いた」
低く響く声。まっすぐにカメラを見据えるその眼差しは、まるでこちらの鼓動を測るかのようだ。
「ありがとうございます。経産省からのバックアップは、事実上確約されました」
直也が資料を示しながら簡潔に答える。
イーサンは頷き、すぐに次の言葉を重ねた。
「このモデルは日本だけでは終わらせない。同じ設計思想を米国でも展開する。そして、さらに世界へ。AIを動かす電力を“エコ”に変換した上で、一気に先行するビッグテック勢に対抗する。それが我々に与えられた好機だ」
その言葉に、直也も即座に反応した。
「全面的に賛成です。エコであることは、批判をかわすだけでなく、新しい時代のイメージを形にできます。約束している通り、シリコンバレーでの同じモデルでのデータセンター検討は、引き続き私が担当したいと思います。ただ、先ずは日本の最初のケースを優先させてください」
「もちろんOKだ!」
二人の意見は、驚くほど噛み合っていた。
聞いているだけの私の胸が、熱くなる。
※※※
イーサンは続けた。
「すでにDeepFuture AIのステークスホルダーの了解は取り付けてある。だから、日本で経産省とJVを発表するタイミングを事前に共有してくれ。こちらでも同様に発表を合わせるよ」
「承知しました。正式な日程が決まった段階で共有します」
直也が即答する。
「それと――」
イーサンの声色が、少しだけ柔らかくなった。
「日本で話した通り、改めてシリコンバレーに来てほしい。……お前に会わせたい人間がいる。きっと驚くはずだ」
――会わせたい人?
誰だろう。
胸の奥が、不意にざわついた。
画面越しに笑みを浮かべるイーサン。
直也は迷いなく答えた。
「今回の件が落ち着いたら、すぐに伺います」
通話が切れたあと、会議室に静寂が戻る。
私はノートPCの画面を閉じながら、胸の奥に熱いものが残っているのを感じていた。
――あのイーサン・クラークが、次世代のビッグテック候補と目されるDeepFuture AIが。
そのCEOが、直也を“渡米してほしい存在”として請うている。
誇らしい。
同時に、眩しすぎて怖くなる。
でも、やっぱり誇らしい。
きっと、この人は世界を動かす。
私はそれを間近で見届ける存在になりたい。
そして――どんなに無茶をしても壊れてしまわないように。
私が直也を、必ず守らなきゃ。




