表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/84

第48話:一ノ瀬直也

街丘さんから紹介を受けた大田秀介氏――AAC(Agentic Ad Companion)社のCEO。

連絡を入れると驚くほどスムーズに日程が決まり、即日リモートでの打ち合わせが設定された。


画面越しに映った彼は、シリコンバレーらしいカジュアルなシャツ姿。だが、その瞳の奥には確かな熱と実績に裏打ちされた自信があった。


「――御社のAIデータセンター構想、非常に興味深いです。われわれのAd Companion事業は、今や米国だけでなくアジア市場でも導入が進みつつあります。しかし、現状のクラウド依存では限界が見えてきた。もし“エコ”で持続可能なAI専用の計算基盤を日米連携で整備できるなら……事業を一段加速できるでしょう」


短いやり取りの中で、核心に触れる答えを得られた。

街丘さんからの紹介であることが、大田氏の信頼を勝ち取る上で大きな後押しになっているのは明らかだった。


――これで、米国側に強力なカードを一枚得た。


打ち合わせを終えたその足で、すぐに街丘さんにお礼の電話を入れる。

「街丘さん。本当にありがとうございます。大田さんが前向きにご検討くださるとのお言葉を頂けました」

受話口の向こうで、彼女は淡々と、しかし満足げに言った。

「お役に立てたようで良かったです。……ただ、資本参画そのものを日本GBCとして俎上に載せるには、率直に言って、もう少し材料が欲しいです。そちら側で、国際的にも説得力を持つ“外部プレイヤー”を用意できませんか?」


――つまり、次はイーサン・クラークだ。

DeepFuture AIのCEO。世界の最前線に立つ起業家。

いち早くオレはDeepFuture AIに投資を決めてきた経緯がある。

そしてオレをフォローして玲奈がイーサン・クラークを繋げてくれていた。


いよいよ彼と真正面から対峙する時が来たのだ。


※※※


前日の夜。

リビングのテーブルの上は、紙の資料とノートPCで埋まっていた。

保奈美が心配そうに、何度も「無理しないで」と声をかけてきたが、手を止めることはできなかった。


「必ず説得する」

そう自分に言い聞かせながら、最後の一行まで埋める。


市場分析。環境対応。電力シミュレーション。

国策との整合性、米国との共同性――すべてを一枚の矢にして放つ。


時計が午前二時を回った頃、ようやく「これでいける」と思える形に仕上がった。

喉の奥がひりついて、咳が込み上げそうになる。だが水を飲み、無理やり押し込んだ。


※※※


翌日。

六本木アークヒルズで押さえておいた会議室へと向かう。

背広の内ポケットには、厚みのある資料ファイル。

隣を歩く玲奈は、落ち着いた表情の中に緊張を隠していた。


「……直也、大丈夫?」

「問題ない。昨日のうちに仕上げた」

咳払いをひとつして、歩を進める。


エレベーターの数字が一つずつ上がるにつれて、胸の奥の鼓動も早くなっていった。

――ここを突破すれば、すべてが繋がる。


※※※


会議室の扉が閉まる音が、妙に大きく響いた。

六本木アークヒルズの高層階。外の眺望を背に座るイーサン・クラークは、相変わらず堂々とした姿だった。


「直也。まずは、これまでのサポートに感謝するよ」

低く落ち着いた声。

彼は軽く目を細めて続けた。

「そして――今日は新しいプランを聞かせてほしい」


深呼吸を一つ。

喉が少し焼けるように痛んだが、表には出さない。

オレは手元の資料を開き、ゆっくりと語り始めた。


「現在、AIは“電力を食い過ぎる”と批判されています。既に欧州でも規制議論が始まり、米国でも環境団体の声は無視できなくなりつつある。

 私たちが構想するAIデータセンターは、地熱発電を基盤に据えることで、持続可能性という非常にシンプルかつ説得力のある回答を提示できます」


スライドには、地熱発電所の熱源と冷却システムの図が映し出される。

再生可能エネルギーを基盤とするサーバー群。

エコを“言葉”ではなく“設計”で体現する仕組みだ。


「そしてもう一つの課題――半導体の安定供給です。世界的に供給不安が続く中で、日本の国策半導体メーカー、グリゴラが正式に協力を約束してくれています。

 彼らのロードマップに、このAIデータセンター向けのGPU供給を組み込む用意がある。つまり、電力と半導体という二つのボトルネックを同時に解消できる体制を整えられるのです」


言葉を区切り、相手の表情をうかがう。

イーサンは、腕を組んだまま静かに頷いていた。

沈黙の数秒が、永遠のように長い。


やがて彼は、ふっと笑みを浮かべた。

「直也。初めて会ったときのこと、覚えているか?」


「……“フィフティーンミニッツデシジョンできるのか”と、聞かれました」

「そうそう。そして君は何と答えた?」

「――“ファイブミニッツイズイナフ”と」

「ハハハ!」

イーサンは楽しげに笑い声を上げた。


テーブルの上に置かれた彼の指が、軽くリズムを刻む。

沈黙を破ったその仕草と笑みが、場の空気を決定的に変えた。


「その瞬間、私は思ったんだ。とんでもない奴が日本にもいたもんだ、ってな」


笑いを収めると、彼は真剣な眼差しでこちらを見据えた。


「結論を言おう。私は直也のプランに乗る。

 ただし、対外的に公表するタイミングは我々にも調整させてほしい。

 それから――シリコンバレー近辺でも、同様の設計思想のデータセンターを日米共同で開発することを、少なくとも“検討”すると約束してくれ。これは今すぐでなくても構わない。

 そして最後に……近いうちにまたシリコンバレーに来てくれ」


胸の奥に熱いものが込み上げてくる。

――これで条件が整える事ができた。

経産省、資源セクター、日本GBC、そして米国の注目されているAIプレイヤー。

すべてを繋げる最後のピースが、ようやく手に入ったのだ。


「……ありがとうございます、イーサン」

声は少しかすれていた。

だが、その震えの奥には、確かな確信が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ