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第31話:新堂亜紀

 グラスに注がれた琥珀色の液体を、ぐるりと揺らす。

 冷たい氷がカランと音を立てた。


 「……乾杯」

 向かい合ってグラスを合わせると、玲奈は少し遅れて「乾杯」と笑った。

 けれど、その笑顔はどこか空虚だった。


 正直に言えば、私は直也を今晩誘いたかった。

 出張帰りで疲れている彼を、少し強めの酒で酔わせて、そのまま……。

 「うちに泊まっていけば?」と口に出すところまで、想像していた。


 ――でも、彼は帰ってしまった。

 “義妹”が待つ自宅へ。


 その瞬間、私はひどく面白くなかった。

 だから、玲奈を呼び出した。


 本来なら、立場が微妙な相手。

 お互いに直也の存在を意識しているのは、言葉にせずとも分かっている。

 だけど今夜は、女二人でしか吐き出せない気分だった。


 「……で? どうだったんですか?八幡平は」

 氷を口に含みながら玲奈が訊く。


 私はグラスを置き、肩をすくめる。

 「面白い計画よ。現地も手応えはあった。……まぁ、電力会社からも、それから自治体からも直也くんが一番評価されてたわね」


 玲奈がわずかに眉をひそめ、すぐに苦笑に変えた。

 「そりゃそうですよ。今のウチのITセクションでも、彼ほど多方面を見ながら仕事を進められる人物なんて他にいませんからね。」


 わかっている。

 彼女の言葉は本心だ。

 でも、その声色の奥には――やっぱり、面白くない感情が滲んでいた。

 私も同じ。


 「……ねぇ、どうして私たち、こんなに面白くない気分なのに、一緒に飲んでるのかしらね」

 自嘲気味に言うと、玲奈は少しだけ黙り込み、それから視線を落とした。


 「たぶん――帰ってきた直也が、すぐに自宅に帰ったから、じゃないですか?」

 「……そうね」


 女二人。

 グラスの氷が解けて、水っぽくなったウィスキーが喉を焼く。

 東京の夜景を窓越しに見つめながら、言葉は次第に少なくなっていく。


 ――面白くない。

 でも、彼が評価されるのは嬉しい。

 その矛盾を抱えたまま、今夜も酒が進んでいった。

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