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第25話:一ノ瀬直也

 東北新幹線の車窓に、緑が流れていく。

 東京駅を出て二時間余り。盛岡駅のホームに降り立つと、流石に梅雨時の東京よりも少しだけしのぎやすい空気が肌を撫でた。


 待っていたのは東北電力の関連会社の担当者と、地元自治体の企画課の職員。黒塗りのワゴン車に乗り込み、八幡平に向かう。

 車内にはオレの所属するITセクションの課長、資源セクションの部長、そして亜紀先輩の姿。シートベルトを締めながら、オレはタブレットを開き、事前に準備した視察資料を確認していた。


 「今日は松尾八幡平地熱発電所、それから周辺の既存井戸の状況を見ていただきます」

 案内役の担当者の声に、課長が小さく頷いた。


 車は高速を降り、山道へ。

 鬱蒼とした森を抜けると、白い蒸気が立ち上るのが見えた。あたり一帯に漂う硫黄の匂い。


 「これが松尾八幡平の地熱発電所です」

 案内人の声と同時に、視界が開けた。建物の脇から伸びるパイプ、立ちのぼる蒸気。大地の熱が、確かにここで電力に変わっている。


 「現在の出力は23MW。既存の井戸の寿命はあと十年は持つと言われています。ただし拡張には、追加の井戸掘削が必要になります」


 部長が腕を組んで唸った。

 「井戸一本あたりの掘削コストは?」

 「およそ30億から40億円規模です」

 「リスクは?」

 「掘削しても必ず成功するわけではありません。成功確率はおよそ五割程度と見込まれています」


 ――なるほど。資源ビジネスらしい数字だ。


 だが、課長は食い下がった。

 「もしデータセンターが“出口”として確約されるなら、資源セクションとしても前向きに投資を検討できます。ベースロード電源が地熱で担保できるのは強みだからな」


 オレも口を挟む。

 「追加の井戸をフルスケールで一気に掘るのではなく、既存井戸の周辺にモジュール型で増設する手法は取れませんか? 投資負担を小分けにしつつ、並行的に開発できるはずです」


 「ふむ。……確かにそのやり方なら、リスクを分散しながら規模を拡大できるか」

 部長がうなずく。


 午後、八幡平の温泉街に宿を取った。

 会議室として借りた和室で、夜遅くまで議論は続いた。


 「問題は温泉組合との調整です」

 地元自治体の職員が口を開く。

 「温泉資源を奪われるという懸念を払拭しなければ、地域合意は得られません」


 課長が腕を組んで唸った。

 「観光業はこの町の命綱だからな……」

 オレはノートに走り書きしながら、心の中で整理する。


 ――共存策が必要だ。

 温泉を守りつつ、地熱も使う。その両立を示す具体策。


 「例えば、“特区”として指定を受けるのはどうでしょう」

 口を開くと、視線が集まった。

 「地熱発電と温泉業を両立させるモデル地区として、国から支援を引き出す。補助金や規制緩和を組み合わせれば、地域の納得も得やすいはずです」


 「……それは面白いアイデアだな。但しやるからには経産省や環境省を巻き込む必要がある。その辺の調整を探る必要があるな」

 課長がうなずいた。


 翌日。

 東北電力の幹部と会議。

 「需要側が明確なら、我々としてもJVジョイントベンチャー設置の可能性は充分にあると考えています」

 静かな言葉に、会議室の空気が変わった。


 資源セクションの部長が身を乗り出す。

 「データセンター専用の電源供給網――自営送電線の整備も含めて協議したい」

 「可能性はある。技術的にも制度的にも、前例は少ないが不可能ではない」


 ……いける。

 オレの胸に確信が芽生えた。


 調査の走り書きを整理し、骨子をまとめる。

 - 既存井戸の活用+モジュール方式でリスク分散

 - 「特区」指定による行政支援の導入

 - 自営送電線による専用電力網の確保

 - 温泉地との共存策(地域還元と観光振興策をパッケージ化)


これを10年〜20年スパンなどという間延びした期間ではなく、5年程度で一気に実現に持っていく方法を考えなければならない。

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