第19話:一ノ瀬保奈美
四十九日の法要が終わった週末。
食卓の上に置かれたノートパソコンの画面には、数字がいくつも並んでいた。
私は椅子に座りながら、直也さんの説明を必死に聞いていた。
「だから、そんなに贅沢を保奈美ちゃんにさせてあげられるわけじゃない。でも、それは我慢して欲しい」
落ち着いた声。
叱るでもなく、諭すでもなく、ただ真剣に――私に分かるように、一つひとつかみ砕いて説明してくれる。
「もし、どうしても欲しいものがあったら……それは預金から買えるから、遠慮なく言うんだよ」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと掴まれた気がした。
――優しい。
本当に、直也さんはこんなにも優しい。
さらに直也さんは、少し姿勢を正して言った。
「バス会社からの補償金は、全部、義妹ちゃんの学資用の預金にする。大学でも、専門学校でも、大学院でも――行きたいところまで行けるようにオレがする」
瞬間、視界がにじんだ。
気が付いたら、涙がぽろぽろ零れ落ちていた。
「……そんなの、いらないよ」
声が震えていた。
「私は……高校を出たら働くつもりだったの。直也さんに、これ以上迷惑かけたくないから」
けれど直也さんは、首を横に振った。
「それは違う。オレは、義妹ちゃんに未来を諦めてほしくない。君には選ぶ権利があるんだ。だから自分がどうなりたいか、これからちゃんと考えるんだ」
言葉が、心の奥深くに突き刺さった。
――未来を諦めないでいい。
それは、母がいなくなったときに、胸の中で諦めかけた“希望”そのものだった。
「……直也さん」
嗚咽まじりに名前を呼んで、私は手で涙を拭った。
「本当に、ありがとう」
でも、今のままの私じゃダメだ。
泣いてばかりじゃ絶対ダメだ。
今、心の中で決意が固まっていく。
直也さんが安心して仕事に打ち込めるように。
そのために、この家を守るのは私の役目。
料理も、洗濯も、掃除も、全部きちんとやってみせる。
無駄遣いなんか絶対しない。
――私が、直也さんとの“家”を守るんだ。
それが、直也さんがここまでしてくれることへの、私なりの恩返し。
それに、いつまでも「義妹ちゃん」なんて呼ばせないようにしたい。
ちゃんと「保奈美」と呼んでもらいたいから。
そう呼んでもらえるようになるには、私がこの家を守っていると、直也さんに認めてもらう事が一番な気がしている。
だから、私は頑張らなければ。
涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、小さく拳を握りしめた。




