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第16話:一ノ瀬保奈美

 六月の青空がまぶしい朝。

 久しぶりに制服に袖を通して、私は学校へと向かった。


 扁桃炎で寝込んでから、丸一週間以上のお休み。

 LINEではクラスの子たちに「ごめんね」「もう大丈夫」なんて返していたけれど、実際に教室のドアを開けると、いっせいに視線が集まった。


 「保奈美! 来たー!」

 「もう大丈夫なの?」

 「顔色いいじゃん、良かったぁ!」


 机に着く前から、友達たちに囲まれて、思わず照れ笑いを浮かべた。

 「うん。もう平気だよ。ありがとう、心配かけちゃって」


 休んでいたぶんの授業プリントを差し出してくれる子、ハンカチでそっと私の額を触る子。

 ……やっぱり、学校っていいな。

 家では直也さんと二人になってしまう。

直也さんはすごく優しいし、私が風邪の間はほとんど自宅でリモートワークにしてくれた。だから寂しくはなかったけれど、どうしても遠慮してしまう事だってある。

その点、ここには「同世代」の友達が大勢いる。


 「でもさ、風邪のときって大変じゃなかった? お義兄さん、仕事忙しいんでしょ?」

 隣の席の真央が、身を乗り出してくる。


 私は少し考えてから、正直に答えた。

 「うん。直也さんは忙しいけど……リモートワークにしてくれて、ずっとそばにいてくれたの。だから、一人で寝てても寂しくなくて」

 「えぇー! それ、なんかすごいね!」

 「やさしい!」


 友達たちの反応に、思わず頬が熱くなる。

 でも、本当に安心できたのだから仕方ない。


 「でもね……」

 つい、余計なことまで口を滑らせてしまった。

 「風邪でダウンしてた翌日、ご近所の―直也さんの―幼馴染さんが来てくれて……それから、直也さんの会社の女性が二人もお見舞いに来ちゃったの」


 「「ええええええっ!?」」

 一斉に教室がざわつく。

 やっぱり、言わなきゃよかった……。


 「それって、ただの同僚ってことはないよね?」

 「幼馴染って、いくらご近所でも、すぐ駆けつけてくれるって……そういう距離感なのかな?」

 「もしかして……お義兄さん、めっちゃモテるタイプなんじゃないの?」


 「ちょっと待って!」と慌てて否定したけれど、女子たちの好奇心はもう止まらない。

 「えー! 絶対そうでしょ!」

 「商社マンってだけで超絶勝ち組だし、優しくて家事まで一緒にやってくれるんでしょ? うちらの理想のお兄さんじゃん!」

 「それ言うなら、兄貴っていうより彼氏じゃない?……」


 「ちょっ、やめてってば!」

 私の声は完全にかき消されて、ガールズトークは炎上する一方だった。


 ――でも、正直なところ。

 胸の奥がちくりと痛んでいた。


 直也さんは、そういう人。

 優しくて、誠実で、だからこそ周りから好かれる。

 それは分かっている。分かってるけど……。


 私と直也さんの“家”に、他の女性が来るのはやっぱりイヤだ。

 なんだか、落ち着かない。

 モヤモヤする。


 「……別に、モテるのは、仕方がないけど」

 小さくつぶやいた言葉は、自分に言い聞かせるような強がりだった。

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