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第13話:一ノ瀬保奈美

 薬が効いたのか、ようやく熱のしんどさが和らいできた。

 喉の痛みは残っているけれど、頭のぼんやりは少しずつ晴れてきて、布団の中で身じろぎしても体が鉛のように重い感覚は薄れている。

 ――ああ、ちょっと楽になった。


 けれど、その安堵の裏で、別の落ち着かなさが胸に広がっていた。


 階下から、賑やかな声が聞こえてくる。

 直也さんの低い声。その合間に、女性の笑い声や、食器が触れる小さな音。

 誰かがキッチンに立っているのだろう。鍋の煮える匂いまで、階段の上の私の部屋にまで漂ってくる。


 ……分かっている。

 莉子さんが作ってくれているのだ。

 私が熱で寝込んでいるあいだ、代わりに家事を担ってくれている。助かっているのは確かだ。


 でも――。


 この家は、私と直也さんの家なのに。

 そこに、他の女性が入り込んで、まるで当たり前のように料理をしている。

 その光景を思い浮かべるだけで、なんか面白くない。


 しかも、それだけじゃない。

 さっきから聞こえてくる声は、一人や二人じゃない。

 知らない人も混じっている。

 直也さんの会社の人たちなのかな。


 ……なにそれ。

 どうして、私のいないところで、直也さんの周りに女性が集まっているの。


 私は布団をきゅっと握りしめた。

 弱っているから余計に、心の中のざわつきが止まらない。


 直也さんって……やっぱりモテるのかな。

 大手の総合商社で働いていて、真面目で、優しくて、誠実。

 カッコいいし、頭もいいし、仕事ができる。

 ――モテない方が不思議だ。


 そう頭では理解している。

 けれど、胸の中はどうしてもモヤモヤする。

 「モテても不思議じゃない」のと、「モテてほしくない」のは全然別の話なのだ。


 私はまだ十六歳で、直也さんから見れば“守られる存在”でしかない。

 でも、この家に他の女性が踏み込んでくるのは……なんかイヤ。


 助けてもらっている立場だから、文句を言えるはずもない。

 なのに、どうしても苛立ちが消えなくて、余計に自分自身に腹が立った。


 「……私、なに考えてるんだろ」

 熱で赤い頬を枕に押しつけながら、呟いた。


 分からない。

 でも、直也さんのご飯を他の女性が作っているのは嫌だな――。

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