63.馬鹿な考え
「鈴城さん、11時過ぎまで寝てたかー」
「朝ごはんか昼ごはんか迷う時間だな…」
「何気にしてるんですか」
まあ無理もないだろう。かなり疲れていたはずだ。
というか、森で数時間気絶していて風邪引いてないだけで充分だ。
病気の抗体あるのか不明だもんな。この辺りも『守護』で何とかなったか、昨日アキ兄さんが作ったおじやで体調をある程度持ち直したか。
実際はどうなのかわからないけど、ただ疲れてるだけの状態で済んでよかったと言える。
「ラージフール、ロクなことしませんね…何ですかその魔物もどき」
「わからん」
「あのロープの向こう側に行けば何かわかったかもしれないけど、行く気サラサラなかったしな」
「俺も。嫌な予感びしばし感じた。絶対見ちゃいけない系だと思う」
「魔道具が実験とか言ってたんでしょ?戦争でもするつもりなのかな」
「元々、魔族と事を構えるつもりだったみたいですし、それでは?」
「俺たち…てか勇者もそれ目的で呼んだっぽいしな」
「そんな戦争とっとと離脱するに限る。敵前逃亡?好きに言えって感じだ。子供にやらせるな、そんなこと」
「リオ兄、どうどう」
そもそも自分たちの国で世界だろ。助っ人を異世界から呼ぶ意味がわからない。しかも子供をだ。
何で縁もゆかりもない異世界の子供を戦わせようとするのか。
大人だったらいいってもんでもないけど、子供を利用しようとする時点でありえない。
それに表向きラージフールは人間至上主義で、魔物は絶対悪みたいなスタンスだったはず。
なら、あの魔物もどきは何だって話だ。絶対悪と公言してるものを自分たちで作る?主張が一貫してないだろ。ダブスタか。
少なくとも、あの魔道具を作って設置したのはラージフールの奴で確定。
だったら入り口ロープと繋がってる先もラージフールに関係がある場所だろう。というか高確率で王城じゃないか?
あいつら城の連中らしいし、城主導でやってる可能性も高い。
ここで感じるのは、自分達で戦おうとする姿勢が見えないことだ。
いや、騎士は戦うかもしれないけど、今の所、自分達の力が足りないからどうしても助けて欲しい、って気持ちが見えないんだよな。
召喚者が戦って当然、って思いこんでるようにしか見えない。
こっちとしてはふざけんなって話だ。極論、今まで知りもしなかった世界がどうなろうとどうでもいい。
僕らにとって大事なのは今まで生きてきた世界なんだから。
「まあ、そういうのに嫌気がさして逃げてるわけだしさ」
「ご高説()な。あれまじで意味不明だったよね。宇宙人かなって思った。魔族を倒せとかさ、何であたし達がやんなきゃいけないのって思ったよ」
「せめて誠意が見えていたら…いえ、それでも意味不明ですよね。何で無関係の私たちが危険を冒さなきゃいけないのかっていう」
「ラノベとかだと、元の世界に戻るために魔族の秘宝が必要なんですって理由あったりするけど、そういうわけでもないし」
「あたしらがやるメリット、ゼロなんよ」
「もう、あいつらの話やめよう。考えてもっていうか考えるだけ無駄だと僕は思います!」
「せやな」
「じゃあ別の話をしましょう。リオ兄さんの、何です?斬撃属性の投擲武器?」
「OH」
やぶへび。
いや、でもしなきゃいけない話だよな。
「リオ兄がお守りを大事に身につけてるのは知ってたけど、それ武器だったの?」
「…違うよ。これはお守り。それは間違いない。手作りだけどな」
「手作り?リオくんの?」
「…違う。恩人が作ってくれたものなんだ。…誕生日プレゼントにもらったんだよ。今年…いや、去年か」
「………あ…」
「え、っと、じゃあ、もらって、2ヶ月…3ヶ月?」
「…うん」
「それは…使いたく、ないな。もらってすぐ壊すなんて、貰い物でやりたくないよ。気まずいにも程がある。しかも恩人相手。うわ、そんなの使わせちゃってたのか、ごめん」
「アキ兄さんは悪くないよ。悪いのはラージフール、それから…そういう使い方が出来るって知ったのに使わなかった僕」
「リオ兄さん…」
いつ気づいたかははっきりわからない。
ただ、もしかしてという思い付きのようなものはあった。無機物操作を覚えた時、投擲スキルを習得した時。
点と点が線につながったような、つながりかけたような、ふわっとした感覚。
それでもはっきり「お守りの飾りを武器に出来る」と認識したのは投擲スキルのレベルが上がって、5に届いたくらいの時期だった。
スキルレベル5は使い慣れてきた頃にあたるのか、何となく応用が出来るというか感覚が研ぎ澄まされるというか、そういう感覚があった。
その感覚を覚えた時に、ふと気づいたのだ。
点と点が線につながったものが表面に浮かび上がったというか、深層心理でもしかしてと思っていたことを明確に認識させたというか。
『…いざとなれば、それを使ってくださいね。身替わりか武器か、何かの足しにはなるでしょう』
―――身替わりか『武器』か。
それは比喩でも何でもなく、そういう用途で使えるように作ったってことですか、なんて。
『お守りに、と思って作りました。特殊な力があるとか、そういう訳ではないのですが』
本当は、どうなんですか。
それとも、意図していなかっただけで、あなたが作った時点で何かしらの力が宿った可能性があるってことですか。
問いかけたい、でもそれを問う相手がここにはいない。
『リオ、私は、そんなものより貴方の命の方が大事ですよ。お願いですから、危ないと思ったら使ってくださいね』
この言葉に、心からの肯定を返せなかった。
けど結果的に、あのひとの言う通り、危ないと思った時に使うことになった。そしてそれで現状打破が出来た。
私の取るに足らない気持ちより、あのひとの言葉の方が正しい。
わかってる、わかってるけど心が納得してくれない。
そう、間違っているのは私。
危ないとわかっている場面で、出し惜しみをしてしまった。
『あまり自分を責めるんじゃないのだ、主』
「…スー?」
『わたしは主の従魔。多少の気持ちは伝わってくるのだ。表面も表面しか読み取れないけど、その表面で感じ取れるほど主は後悔でいっぱいなのだ』
「………」
『大事なものは誰にだってあるのだ。譲れないものだって。主にとって譲れないものが、きっとそのお守りなのだ』
「…うん」
『譲れない、譲りたくないものを譲ってまで、主はわたし達を助けてくれたのだ。だからあまり責めるんじゃないのだ』
「…でも…」
『主、それを武器に出来るって知ったの、いつなのだ?最近じゃないのだ?』
「…うん、最近…」
『じゃあ本当に使えるか試すことも出来ないでさっき初めて実戦で使ったのだ?初めてであれだけ使えるものなのか…?』
『リオくん、投擲のスキルレベル自体は7とかですからね。あと多分、無機物干渉のスキルも使ってるように見えたです』
「一切、練習しないで、あれ…?すごいなリオくん…?」
「一体どんなことしてたのリオ兄…」
「ちょっと想像つきませんね。さすがにやって見せてとは言いづらいですし」
驚くくらい、責める言葉はなかった。
手を抜いていたも同然なのに。
「リオくん、今ひどい顔色してる」
「ごめんなさい、興味本位みたいな聞き方してしまいました。リオ兄さんに斬撃属性が加わったら心強いなって、そう思って…」
「うん、リオ兄が嫌なら使わなくていいから。てかまともに魔物倒せないあたしが偉そうに言える立場じゃないし」
本当はもっと思うことはあるだろう。
でも、僕への気遣いを優先してくれている。
自分本位な考え方しか出来ない自分が恥ずかしくなった。
「…また、使うかは…わからない」
「うん、それでいいよ。恩人さんからの誕生日プレゼントなんて、本当に大事なものだろうし」
「武器にするには…ちょっと怖いですよね。ちなみに無機物干渉スキルの修復対象になるんですよね?さっき使った分、耐久減ってたりしません?」
「あ、確かに!でも、うん、武器じゃなくても道具だから大丈夫…のはず…?てかリオ兄のメイン蹴術だろうし、無理に使わんでもいいよね」
「投擲だってあれあるもんな。投擲玉。充分じゃね?さっきはスライムもどきだらけだったから必要だったけど」
「…うん、いざという時の切り札にしましょう。使わなくていいです。でも使った方がいいと判断した時は使ってくれると嬉しいです」
「まあ斬撃属性が必要なら俺が先に何とかするけどな」
「私も斬撃属性持ってますしね」
「あれ?むしろ足りてないの打撃じゃね?リオ兄、打撃属性やめないで?あたし一人になっちゃう」
『我も斬撃属性を持っておるぞ。爪術が斬撃属性になるでな』
『わたしの翼撃も斬撃属性なのだ。鋭い羽の形をしたマナだから、物理属性じゃなくて魔法属性になるけど』
『…毒牙って、なに属性になりますの…?』
『斬撃属性です。ちなみにラムは鞭術があるので打撃属性です』
「あれ、結構斬撃属性豊富だな俺ら?」
優しさが沁みる。同時に自分の矮小さも知る。
ここまで気遣わせて、何も結論付けないのはさすがに良くない。
魔物に気遣われ、年下に気遣われ。人の優しさに甘えてきって生きるわけにはいかない。
「うん、必要になったら…使う、かも」
投擲スキルと無機物干渉スキルの合わせ技だ。
きっと、僕の中で一番強い攻撃でもあるだろう。軌道を操れて、武器の攻撃力や耐久力は高められる。少々のことじゃ壊れやしない。
あのひとだって、こういう使い方を想定してた可能性もある。何ならやっと使ったか、なんて言うかもしれない。
でも、それでも、まだ怖い。
壊されたら?熱で溶かされたら?崖なんかに落とされたら?僕の、干渉範囲から外れたら?
もう二度と手元に戻ってこない可能性を、捨てきれない。この異世界では普通にありそうだから。
…それでも、彼女たちを守るためなら、使える気がする。
「…その時は、使うよ」
「うん、ありがとうな、リオくん」
ひとまず今日はゆっくりしようかという結論になった。
運転できるメンタルじゃなくても、自動運転で少しでも進むかと考えたが却下された。
『主、今MPの残り、いくつなのだ?」
「え?いくつって………18…!?」
「18ィ!?」
「リオ兄が!?」
「MP1000なのに、残り18…?考えられるとすれば、その、戦いですよね…」
『空間魔法で飛ぶのはラムとスーがやったです。リオくんが使ったとすれば、空間把握と、建物への問いかけ、鍵の解錠、魔道具の声を聞く、それ以外は戦いです』
「思ってたよりだいぶ色々使ってた」
「そもそも、無機物操作ってかなりのMP使うやつでしたよね…リオ兄さんと相性がいいものだったとは思いますけど、投げた軌道捻じ曲げるって、どれだけの…」
「そっか、あれ、無機物操作も使うから超すごかったのか。気軽にホイホイ使えるやつじゃなかったか…」
「ザコ戦とかで使ったらあっという間にMPなくなりそう。よしリオ兄、封印しよ?」
「た…確かに、これじゃほぼ使えないな…戦闘時間長かったのもあるけど、この消費量はやばいか…?」
「だって数値にして600くらい使ってるだろ、戦いだけで。この消費量、俺らが何回MP枯渇迎えると思ってんの?」
『だから主、今日はいっぱい働いたからもう休むのだ!あの三人と一緒でもう寝てもいいくらいなのだ!』
「スーに一票」
「アキ兄さんも休んでいいんですよ…?」
「あー、うん、じゃあ昼寝でもしようかな…?」
『一緒に寝るです』
「ラムもお疲れ。スーも一緒に寝ちゃいな?」
「私たちが起きてますから。何かあったらすぐ知らせますから」
にこやかだが、暗に「はよ寝ろ」って言われてる気がする。
まあでも寝た方がMPも回復するし、いいのかな。大立ち回りで疲れたのは本当だし。
どの道起きてても出来そうなことは少ない。この残りMPじゃスキルの経験値稼ぎもロクに出来ないし。
「晩ご飯作りたいから、起きてこなかったら夕方くらいに起こして。殴ってもいいから」
「わかった。任せて」
「ナズ、待って。その勢いのいい拳はちょっとしまって。俺死ぬから」
「作り置きでもいいんですよ?アキ兄さんも残りMP心許ないのでは?」
「料理くらいなら出来るよ」
「で、リオ兄は晩御飯まで寝な?」
「三人組と同じ扱い…だと…?」
『いいから寝るのだ。寝室でいいのだ?』
「はい。行ってらっしゃい」
「同じ場所で寝るなら、アキ兄さんを起こす時に一緒に起こし…」
「いいからさっさと寝なさい」
「あい」
「馬鹿だなリオくん、ハルを怒らせちゃ駄目だぞ…」
半ば引きずるように寝室まで連れてかれた。
何なら首の後ろあたりの布、スーに掴まれて引っ張られてたからな。吊るされるかと思った。
ベッドに寝たら寝たで、ナズにそっとアイマスクを装備させられた。何故。いらんて。
隣に寝てるアキ兄さんにもつけてたっぽいけど。
何でわかったかって?アキ兄さんの「ホァッ!?」て声が聞こえたからです。
その後に梯子を下りる音が聞こえたので、アイマスクつけただけでナズは満足したらしい。
『…闇魔法に『睡眠』があるです』
「使うか」
「いりません」
アキ兄さん、軽率にゴーサイン出そうとしないで。
ああ、でもベッドに横たわったら疲れを自覚してきた。ベッドふわふわだし何か顔の横にもふわふわが…スーじゃね?これ。
いや、うん、別に寝るのが嫌って言ってるわけじゃないし、眠くなってきたので大人しく寝るけども。
あ、でも、昼寝なんて、いつぶりだろう…?
思い出そうとして、その作業が億劫に感じて、感じる眠気に身を任せることにした。
「…おやすみ」
「おやすみー」
『おやすみなさいです』
『おやすみなのだ』
返事を聞けたか定かじゃない。そのくらい、ストンと意識が落ちた。




