表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された勇者たちののんびり気味逃亡旅  作者: 邑雲
第三章:ダンジョン攻略
43/139

38.海の幸天国


『魔物であってもヒト族に警戒されぬようにするには…テイムが一番じゃろうなぁ』

『テイム…従魔になることでございますか』



シーサーペントと一緒に村に向かうことが決定。

その直後にマーフォークが言い出したのがこれだった。



「えー、一時的な同行にそこまでせんでも。てかすぐ解消ってできるのか?俺ラムと解消するつもりないから気にしたことなかったよ」

『出来るですね。あ、従魔術スキルはそのまま残るです。従魔がいないと経験値は溜まらないと思うですけど』

「へー、そうなんだ」

「興味なさそうだな、アキ兄さん」

「だってラムとは別れるつもりないしー知っても意味ないかなって」

『ご主人様…!』



アキ兄さんがさらっとイケメン発言しとる。

そして感動するラム。イケメンと美女ならロマンス始まってたな。

実際は男装女子とスライムだけど。



『スライムよ、おぬし思ったより感情豊かだったのじゃな…知らなんだ』

『自分も初めて知ったです。1500年間知らなかったです』

『ふむ、人間族とは思ったより興味深いのじゃなぁ。どうじゃ召喚者よ?このシーサーペントを従魔にしてやってはくれんか?』

「えー…?そんな軽く?」

「シーサーペントさん、嫌なら嫌って言った方がいいよ?」

『我は、ここにおる召喚者であれば構わぬが』

「案外乗り気だった」

『人間族を見直す切欠となった者ら故な。先ほどの料理も大変美味だった。興味が湧いた』

「アキ兄さんが餌付けしてしまった…」

「人聞きの悪い」

「いや見直す切欠になったって部分を重視しましょうよ…」

「でもそうなると、アキ兄がテイムすればいいの?」

『ご主人様は駄目です!』

『あるじさまも嫌ですのー!』

「おおう、従魔からお断りが。ってなると、僕かハルの二択になっちゃうんだけど」



従魔がいないの、僕とハルだけだもんな。

シーサーペントの条件はここにいる召喚者、つまり僕たち四人。

ええ、どっちがテイムすればいいんだろうか。



『ふむ、となれば…そちらの片眼鏡の女子がよいな』

「え、私?」

「ふられたわ」

「元気出してリオくん」

『い、いや、そなたが嫌というわけではなく!こちらの女子、我の感知から逃れることがあって興味が出たのだ』

「へ?感知って…」

『我は『熱感知』と『魔力感知』を持っておる。地上で、捉えられぬものはほぼないと言っていい。であるのに…我が勘違いで襲った時、この女子は我の感知から逃れたのだ』

「あー」

「あ、隠密スキル使った?」

「はい、いざとなればその、後ろに回り込んだりしてどうにか、なんて…海の中だったので無理な気もしてたんですけど」

『隠密スキル…?そのようなスキルがあったのか…!』

『隠形スキルの上位互換じゃな。なかなか素晴らしいスキルを持っておるではないか』

「城ではクズスキル扱いでしたけど…」

『見る目が無さすぎるにも程があるのじゃ。人間族の王家となった連中はどうも愚か者しか出んな…何が悪かったのやら』



オリジン目線でも奴らはどうしようもないのか。わかる。

ともあれ、シーサーペントがハルを気に入った理由もわかった。元より僕に魔術系の才能はないので、テイムしても従魔術を取得できない可能性が高い。実質一択だろう。

創造神クラフェルは出来るだけスキルを取得して欲しいらしいし、ほぼ確実に取得できるハルがテイムする方がいいはず。

反対意見はなかったので、さっそくハルがシーサーペントをテイムすることになった。



「…あ、これですね。テイムしますか、って…ええと、『はい』を選んで…」

『ふむ…従魔とは、このような感覚であるのか…!』

「あっ名前、名前つけないと…?あの、何か希望はありますか?」

『名前?ああ、それぞれの個体名ということか。特にはないな。我はここ数十年ずっとシーサーペントとしか呼ばれておらぬ』

「シーサーペント…」

「頑張れーハルー」

「いい名前つけよー」

「他人事だと思って無責任な…」

「いや俺らが協力した方が惨事になるだろ!思い出せよ俺らのネーミングセンス!」

「この戦いは二度と経験しないって誓ったんや…!」

「っじゃあ、リオ兄さん!」

「僕が一番駄目だろ!」

「いえ、鑑定してシーサーペントの情報を、と…私じゃスキルとか見れないし…」

「あ、そういう意味?別にいいけど、シーサーペントさんは見られていいの?」

『ほう、鑑定持ちであったか?別に構わぬが。元より従魔となれば丸裸も同然であろうし』

「スキルとしては持ってないけど…まあ、じゃあ見させてもらうのでー」



名前:なし

種族:シーサーペント

年齢:272歳

性別:メス

LV:118(あと41479322)

状態:普通

HP:51475432/51476598

MP:8942818/8942877


スキル:遊泳LV50 水操作LV48 毒牙LV21 爪術LV23 水魔術LV22 風魔法LV43 土魔法LV35 光魔法LV41 闇魔法LV44 水属性吸収 物理耐性・大LV44 魔法耐性・大LV37 毒耐性LV29 竜鱗LV33 変身LV22 熱感知LV33 魔力感知LV28 咆哮LV47 念話LV28



「女の子だ!」

「まじですか!」

『そんなに意外か!?』

「口調かっこいいからオスだと思ってたわ俺」

「右に同じ」

「大変です、これは可愛い名前にしなくては…!」

「おう、頑張れー。しかし想像ついてたけど水系めちゃめちゃ凄いな。吸収なんて初めて見た」

『水に浸かっておるだけで自然回復速度が上がるのだ。あとは水魔法や水魔術は我に効かぬ。逆に回復するぞ』

「つっっっよ」

「魔法全部すりぬけるリオ兄も大概おかしいからな」

「お黙り」

『何じゃそれは…魔法が効かぬのか?魔法主体で戦うわしらの天敵ではないか…』

「いや弱いからぶたれるだけで案外あっさり死ぬぞ僕は」

『ちょっと試してみてもよいか?魔法がすり抜けるのを見てみたいのじゃ』

「後ろに誰もいないのを確認してからならいいよ」



好奇心の塊か。シーサーペントも気になってちらちらこっちを見てるが、ハルが名前を考えてるのでハルの前から離れるつもりはないらしい。

真っ先に決まった名前を聞きたいのかもな。

それで、オリジンのマーフォークが魔法で弱い水鉄砲を僕に向かって撃った。

見事に僕の体を透過して、背後の樹にぶち当たる。それを見てケラケラ笑っていた。珍しいものを見たと言ってるので楽しかったらしい。

この世界では『無効』『吸収』など、魔法が効かないパターンはあるが、僕みたいにすり抜けるというのは、実体のない種族以外はないそうだ。

ぶつかって影響がないか、体に取り込まれる形で消える。そういうものだと。僕のこれは完全に体質だろうなあ…

少し大きい水球や、水の鞭のようなもの、消防車がブッパするような水流みたいなのも試されたが全部透過した。すり抜けるとわかっててもちょっと怖いわ。



『ああ楽しかった!良いものを見せてくれて感謝するのじゃ召喚者よ!スライムが同行しておる召喚者はよい連中だとクラフェル様にも伝えておくのじゃ』

「えっ」

『一応見つけたら報告せねばならんのじゃ。まあスライムが同行しておるから、わしから何かする必要はもうないがな』

「あー、そっか、見つけたら報告しろって『神託』降りてるのか」

『左様じゃ。もしオリジンが同行しておらなんだら、わしが何かする必要もあったじゃろうが…』

『問題ないです。ちゃんと皆にオリジン関連の話をして、クラフェル様にも報告してるです』

『知っておるのじゃ。クラフェル様から最近召喚者が来たと神託があったからの。わしはこの状況で海から離れられんと言ったら、魚を優先していいと言われたのじゃ』

『ご主人様たち以外の召喚者の続報、あるです…?自分はその神託聞いてないです』

『いや、召喚者が最近30人ほど来たという内容だけじゃったからな。既に知っておるスライムには神託を下しても情報の重複にしかならぬと思ったのじゃろう』

『ああ、なるほどです。確かにそれ、自分がクラフェル様に報告した内容です』

『もしかしたら個別に…人間族の城に近い場所にいるオリジンには指示が出たやもしれんがな』

『そっかー、そうですね』

『しかしスライムよ、いつ念話を習得したのじゃ?持っておらんかったじゃろうに』

『つい最近です。ご主人様たちと話す必要あったですから。オリジンとしても。まあ、単純に話したかっただけでもあるです』

『ははは、いつでもぼーっとしてたあのスライムが変わったものじゃ』

『だって動いたり考えたりするとお腹空くです…』

『ああなるほど、それで食事に困っておらぬ今は活動的なのじゃな。良い主人に巡り会えたではないか』

『はいです』



ああ、飽食スキルのせいか…確かに考えるだけでもカロリー消費するもんな。

疲れたら甘いものを食べろと言われるだけあって、糖分も大事だし。この世界、自然の甘味ってほぼ果物だからなかなか入手できなかったんだろう。

余計なエネルギーを消費しないために、出来るだけ動かずにぼーっとしてたのか。

今だとしょっちゅうプルプル動いてたりするけど、そっか、アキ兄さんのおかげだったのか。

聞いてしまったアキ兄さんが何か赤面して顔押さえてた。ラムのデレは普段から割とあるだろ、慣れなさい。



「…よし、サン。サンにします!」

『サン、か…良い名だ』

「太陽?」

「シーサーペントと太陽って関連なくない?太陽の下にいるシーサーペントなんて、鱗がきらきら光って綺麗としか思わんけど」

「リオくん、それ褒めてんのか苦言なのかわからん」

「いや思ったこと言っただけ…」

「サーペント部分からとっただけですよ。そういえば太陽でしたね。何となく響きがいいなと思って決めたんですけど」

「ああ、サーペントからか。ラム方式だな」

『ですー。ラムもスライムからとった名前ですしね』

『ふ、そうか。サンには太陽という意味もあるのか』

『ラテは飲み物みたいですのー』

『ラムもお酒みたいです』

「あ、サンって飲み物じゃなくない?」

「別に飲み物縛りしてるわけじゃないですよね!?え、違いますよね!?」

「まあ確かに」



ともあれ、これでシーサーペント改めサンがハルの従魔となった。ちなみにちゃんと従魔術は覚えたそうだ。

サンが念話を使えるので、意思疎通は当初から問題ないのがありがたい。



「めっちゃ今更だけど、ヘビ苦手な子いる?俺は平気」

「全然平気。足元20cmくらいのところで僕の反対方向に這っていったの見たけど何とも思わんかった。向かってきてたらびびったかも?」

「あたしも爬虫類系平気だなー。蛇って動くとこ何か見ちゃわない?模様がすーっと移動して見えるの不思議で」

「わかります。あとつぶらな瞳が可愛いなって思いますね」



そういや蛇も人によっちゃ苦手か。

蜘蛛も蛇も平気なんて女子力足りないのか?今は助かってるけど。

というか、サンってスキルところどころ気になるな。『爪術』とか『竜鱗』とか。

今は大蛇の姿だし、最初襲ってきた時は半分以上海の中だったから、元の姿をちゃんと見てないんだけど。

爪、あんの?蛇ってより龍か?そもそもシーサーペントってあっちじゃUMAみたいなもんだったし…

考えないようにしよ。てか『変身』って何だっけ…『形状変化』と同系統スキルだとは思うけど。下位スキル?上位スキル?どっちだ?

何となく形状変化の上位互換な気がしてるけども。

わからんことは聞くに限るな。



「変身は…形状変化の上位スキルですね」

「やっぱりか」

「鳴き声もその変身後の姿のものになるようです。たとえば人間に変身すれば普通に喋れますよ」

「マジ?え、形状変化だとどうなんの?ラムって人間の姿になれる!?」

『姿だけ似せるなら出来るです。大変ですけど。でもヒトの言葉は喋れないですね』

「大変って…あ、魔力消費的な意味で?」

『です』

「へー、じゃあサンは人間の姿で人間のフリも出来るんだ?」

『可能ではあるが…元の形とかなり異なる故、マナ消費が激しいな。維持も。必要とあらばやってみせるが』

「普段はいいや。自分に近い姿なら負担にならないってことなら…蛇系の小さい魔物に『変身』してもらえればいいかな」

『承知した。であれば、スネイク系にするか』

『ラムは普段ミニスライムになってるです。先輩はレスパイダーです』

『ふむ、では我はレスネイクでゆこうか』



レスネイク、蛇系魔物で最弱の魔物か。例の如く元はレッサースネイクだろう。

みるみる縮んで…ホントに小さい蛇になった。ハルの腕に巻き付けば、ハルの腕と同じくらいの長さだ。

くすんだ灰色のような若干緑っぽく見えるような色の鱗。ザ・蛇って感じだなこれ。



「可愛いです!」

『そ、そうか…?』

「あのあの、腕とか、肩とかに来てくれませんか?」

『あ、ああ、良いが…』

「ふふふ…わぁあ、可愛いです。不思議な感じです。あ、ちょっとしっとりしてる」

「あ、ハル、こういうの好きなんだ」

「目が可愛いです」

「それはちょっとわかる」

「何か蛇使いっぽい」

『よ、よくわからぬ…』

『まあまあ、気に入ってもらえたのじゃ。問題なかろう』

『そ、それはそうですが…』



大丈夫か、ハル。サンが戸惑ってるぞ。

腕に軽く絡みついて、顔と首…首?の部分は腕から離れてハルの方を向いている。

蛇の可動域って謎だよな。



『では、すまぬがしばらくそやつを頼んだぞ。何なら魔の森まで連れて行っても構わぬ』

「え、必要じゃないんですか?その、守り的な意味で…」

『ヒト族との話し合いが決裂すれば戦力としては欲しいが、それを避けるために行ってくれるのじゃろ?なれば自由よ。この広い世界を見て回る絶好の機会でもあるのじゃ』

「あー、確かに海周辺しか知らなかったらもったいない…か?」

『そ、それに、わしも全く何もせんのも落ち着かんのじゃ。重用しておるシーサーペントを召喚者に同行させたとあれば、クラフェル様も納得されようし』

『めちゃくちゃ自分本位な理由です』

『何じゃー!よかろうが!わしは魚の生態系が盛大に狂っとるここからしばらく離れられんのじゃー!これ以外に召喚者に手助けできる方法がないんじゃー!』

「い、いや、そんな何かして欲しいってわけじゃ…」

『召喚者に会ったの初めてじゃから、何かしたいんじゃー!』



子供かな?

両腕ばたばたさせて、下半身の魚部分もびちびちさせている。

見た目が子供なせいで違和感がない。1500歳とは。



『まあ、召喚者、海とかあまり来ないですしね。用事がない限り』

『そうなんじゃー!まったく見んのじゃ!悪人であれば引きずり込んで殺そうと思っておったが、善人も悪人も来んのじゃ!』

「あー、やっぱ召喚者でも悪人は始末するんだ…」

『この世界にとっても、元の世界にとっても害悪であろうからな。あちらの世界の神も悪人を引き取りたくないと言っておるそうじゃ』

「おおう…」

『まあそなたらであれば戻って来てほしいと思っておるじゃろ。戻るにしても残るにしても、あちらの世界の神もクラフェル様も受け入れてくださるはずじゃ』

「そう、ですか…」

『まだ迷ってるです?いっぱい迷っていいです。どの道、まだ先の話ですから』

『ははは、もし残るのであればまた顔を出してくれ。大歓迎じゃからな』

「は、はい…」



オリジンとしては、僕たちが帰ろうが残ろうがどちらでもいいんだろう。

ラムもそうだけど、僕たち自身の意見を重視してくれてるらしい。

人によっては無責任と感じるかもしれないが、オリジンとしては知ったことではないし僕らの進退を決められる立場でもない。

このくらいの寄り添いがきっと一番なんだろう。



『じゃあ、落ち着いたところで、釣り、再開するです?』

「よっしゃー!イワワとサババ以外あったら獲るぞー!」

「いきなり元気になるじゃん」

「ナマコとかいたら面白いな」

「そんなのよりイカとかタコの方がいいです」

『何じゃ、どういう生物じゃ?欲しいのならやるぞ。乱獲したやつらも魚以外は放置じゃったからな。生態系整えるために余ったやつら間引いても構わんぞ』

「マジで?」

『間引きのために殺してしまうよりは、美味しく食ってくれそうなそなたらの元に行った方がよかろうて』

「そっか、食物連鎖のあたりも狂っちゃってるのか。捕食者の方が多くなってるのかな?」

『簡単に言えばな。出来るだけ腹を減らさぬよう眠らせたり、別の海域に連れて行ったりはしてるのじゃが…どうしてもな。そういうものでよければ連れてくるぞ』

「ま、ま、マジか!」

「ええと、ゲソークに似た生物っています?軟体動物なんですけど」

『ふむ、おるな。というかゲソークも欲しいか?あいつ結構暴れん坊じゃから食って減らしてくれたらありがたいのじゃ』

「食えんのかな?」

「目の前にいたら鑑定して調べるけど」

「ああ、うん、アキ兄さんの鑑定だと食用かどうかもわかるもんな…」

『…何か、凄いのう?まあこちらも助かるし、しばらく待っておってくれ。余って困っておる海洋生物を連れてくるのじゃ』

「やったー!ありがとうございます!釣りして待ってます!」

「むしろ困ってるならあんまり釣りしない方がいいんじゃ…?」

『弱いものが食われるのは当然のことよ。気にせんでいいのじゃ』



おお、さすが世界のバランスのために生まれたオリジン。ある種の悟りを開いている。そう言って海に飛び込んでいった。

どうやらこの抉れ海付近に、水の魔物はいないらしい。通常の魚や貝などの海洋生物が減っているためだそうだ。

ああ、うん、魔物に餌にされたらガチで滅びるからな…そのため、戦力らしい戦力はほぼなく、たまに様子見のシーサーペントとマーフォークが来ていたと。


魚たちの営みは、自然のものに任せるのが一番と思っての措置だったらしい。その分、戦力がないため乱獲は許してしまってたんだろう。

シーサーペントやマーフォークがいる時に乱獲の犯人が来ていればとっくに捕まっていただろうが、すれ違っていた。頻度を考えればおかしな話ではない。

が、続くようならしばらくシーサーペントが近辺に張り込むことも考えていたらしい。

戦力としては申し分なくても、滞在するとなれば餌は近辺で調達するしかない。乱獲かシーサーペントの餌か、この辺りの海洋生物はどちらにせよピンチになる。

ああ、餌の問題か…それは滞在してないのも仕方ないな。一度食事をすれば数日は何も食べなくても問題ないらしい。

なので、餌が溢れている場所で食事をして、この近辺に滞在。空腹になったら去るというのを繰り返していたとか。


過去3回の乱獲は、そうしてシーサーペントが離れている時になされたことだったのだろう。

マーフォークが現れたことについては、シーサーペントはマーフォークの眷属のような扱いだったそうだ。

今日、シーサーペントが僕らの存在に気づき、マーフォークに連絡をしたらしい。結局、乱獲した犯人だというのは勘違いだったわけだが。

どうやらマーフォークに『眷属と距離関係なく連絡を取れる』スキルがあり、それを利用して連絡したらしい。『神託』スキルに似たものかもしれない。

距離は関係ないが、水中にいるのが絶対条件らしく、水に触れていない地上では使えないもののようだ。魚と海蛇ならほぼ水中にいるよな…



『我は卵の頃、外殻に毒を浴びたようで、生まれた後も毒に蝕まれておってな。泳ぐことすら満足に出来なんだ。それを見た親は我を見捨てたのだ』

「そんな…」

「でも、野生の社会じゃ無理もないのか…弱い子供は淘汰されるのは、野良猫とかでもあることだし」

『うむ、そういう訳で、それに関して我は親を恨んではおらぬ。今では当然のことと思っておるしな。が、その弱々しい我を救いあげてくださったのが…』

「マーフォーク?」

『左様。解毒をし、回復魔術をかけてくださった。それだけでなく面倒を見てくださったのだ。強い魔物が部下に欲しいという理由でな』

「ふーん…ん?強い魔物?必要…?」

『幼き我には思い至らなんだが、マーフォーク様はあの通りの外見なのでな。魔法は得意だがそれ以外は、などと言われ、愚かにも信じておったのだ』

『オリジンが弱いわけないですけどね。特に水中のフィッシュはアホほど強いです』

『あ、アホ…まあ、それを知らぬでな、なれば我は魔法以外の強さでマーフォーク様をお守りしようと思ったのだ。魚と海蛇であるのに我が眷属であるのはそういう理由だ』

「そっか、うん、サンはシーサーペントなのに蛇のオリジンじゃなくて何で魚のオリジンのとこいるのかなって思ったけど、納得した」

『そちらには会ったことがないな。恐らく陸にいるであろうし、我はずっと海で過ごしていた故な』

「ああ、生活圏が違うなら会わないでしょうね」

『それもあるですし、魔物が自分の祖となったオリジンに会ったことないのは割と普通です。自分もスライムの大半と会ってないです』

『ラテも蜘蛛のオリジン、知らないですのー』

「ああ、なるほど。それもそうか」



サーペント系は毒蛇じゃない。その割に毒牙とか毒耐性を持ってて妙だなとは思ったけど、そういうことか。

海には毒を使う魔物なんて普通にいるだろうし、卵に毒を浴びたのも、不運ではあるがありえることなのかもしれない。

耐性は、毒持ちの魔物の相手をしてレベルアップしていったのだろう。まさか自分の毒を自分になんて危険を伴うようなことしないだろうし。

一瞬、お前が言うなって言葉が聞こえた気もするけど無視だ。



「あんま釣れないねえ」

「魚の総数も減ってるっぽいしなー」

『網もかかってなさそうですのー』

『我らが来たことにより、驚いて警戒してしまっているのやもしれぬな。申し訳ない』

「まあそらしょうがない。やっぱ俺あっち行くかなー?」

「場所変えるのはいいかもしれませんね。ラムトリプル、ちゃんと連れてってくださいね」

『何かかっこいい名前がついたです』

『おお、不思議な響きであるな。どのような意味なのだ?』

「3匹のラム」

『…は?』

「3匹のラム」

「2回も言わんでよろしい」

「そんな3匹の子豚みたいな」

「と、トリプルって、3人組みたいな意味なので…リオ兄さんの意訳も間違ってはいないんですよ」

『あ、ああ、そうなのか。というか、何故3匹も…』

『これ、分裂スキルなんです。本体は自分です』

『ああ、なるほど。オリジン様であったなら我の攻撃を易々と無効化したのも当然のことよな』

「あれね、びっくりしたよね」

『でも分裂体のHP全然減ってないです。あれだけの規模の水くらったのに。調整してダメージ出ないような水球出すなんて繊細なコントロールがいるです』

「サンも強かった」

『我などまだまだである』

『魔術スキル持ってる時点でとても強いと思うです。フィッシュが大事にしてるのもわかるです』



海蛇は、魚よりも陸の適正がある。

マーフォークは、魚には難しい陸というフィールドを、見せてあげたかったのかもしれない。自分の元にいては見れない光景。

シーサーペントも陸上生活の適正はあるとはいえ、水が必要な種族だ。そのあたりは、ラムがいるから問題ないと思ったのかもしれない。

実際はカーくんにいれば水は使い放題なので、わざわざ水魔法や水魔術を使う必要はないのだが。

そういやこの子の寝床か住処どうしようか?…水槽とかあったっけ?なかったな。ガラス製品はまだ小さいのしかないのだ。しかもコップとか単純な作りのもの。

まさかシャワー室に突っ込むわけにもいかんし…あ、追加機能で湯舟…いや、そこに住まれたら困るわ。

あとでハルと相談しよう。

結局、サンの推測が正しかったのか、釣果は散々たるものだった。

アキ兄さんが2匹釣り、網に1匹引っかかっていたのみだ。アキ兄さんがマジですごい。サンも口開けてポカーンってしてるし。

しかも1匹は新規だ。ササケというらしい。鮭?



『アキ様、すごいですのー!』

「いやマジですごいなアキ兄!?」

「でも1匹しか釣れなかった…どうしよう」

「そりゃアキ兄さんが食べるべきだろ。今後入手出来た時、アイテムボックスに入れられるように」

「賛成です」

「うんうん、食べな?アキ兄」

『それがいいですのー!次に食べれそうな時食べさせてもらえればいいですのー』

『ラムもそれがいいと思うです』

「でも…うーん…鮭フレークにして、鮭ご飯にすればみんな食べれんじゃね!?」

「は?天才か?天才だったわ。最高か?好き」

「うちの兄(概念)が今日も天才ですみません世界」

「気持ちはめちゃくちゃわかりますが落ち着いてリオ兄さんとナズ姉」

『ご飯です?きのこご飯みたいなやつです?』

『ふれーく、ですのー?』

「百聞は一見に如かず!晩飯に作るわ!」

「やったー!」

『ヒャクブン…?』

「あ、慣用句です。話を聞くよりも目にした方がわかりやすい、という意味です」

『ああ、なるほど!』

「まあ実際は見るより食べて理解するんでしょうけどね」

「こまけえこたあいいんだよ!」



さてどうしようか。一旦、カーくんに引き上げるべき?でもマーフォーク戻ってくるだろうしな…

しかも追加の食材を持って。これは待った方がいいかと思ったところで、そのマーフォークが戻ってきた。



『待たせたのじゃー!こやつらは好きにしてくれていいのじゃ。欲しいものを選んでくれぬか?』

「マーフォーク様愛してる結婚しよ」

『…唐突に愛を囁かれて求婚されたのじゃ』

「死ぬほど舞い上がってるだけで本気じゃねーです。聞き流していいよマジで」

「リオ兄さんの言う通りです。いちいち真に受けてたら駄目ですよ」

『そ、そうか…こう言うのも何じゃが、わしも困っておったので、出来るだけ選んでくれるとありがたいのじゃ』



マーフォークの近くにでかい水の…檻?水球?そういうものが浮かんでいた。

中に大量の海洋生物が入っている。見るからに魔物もいるけど、大人しい。死んではないみたいだけど…



「ゲソーク思ったより気持ち悪いな」

「普通のイカっぽいのもいる。…イカカって言うらしいけど」

「何で音重ねてるんでしょうね、海の幸。そういうルール?」

「美味、美味、美味、可食…あ、これ食えないやつだ」

「よけとくか」

「リオくん魚籠いっぱい出して。選別してく」

「よっしゃ、任せろ。ここにはイカ入れよう。で、こっちは…」

「タコ入れましょう」

「タココっていうらしい」

「ちょっと可愛い」

「あ、こいつ毒ある」

『解毒するです?』

「お願い」



ラムが浄化魔法で解毒すると、食べられるものになったらしい。

そうか、毒持ちとかもいるよな、海なら。



「リオくん、毒持ち見分けてくれる?」

「うん、まず僕が見て、有毒無毒を選別して都度解毒。クリアしたのをアキ兄さんがチェックして」

「オッケー、ラム、リオくんについて、解毒お願いしていい?」

『はいです。やるです!』

「あたし食べれないやつ分けるよ。アキ兄、食べれないやつあたしにちょうだい。ラム、あとで食べる?」

『食べるです食べるです。欲しいです』

「私は魚籠ごとに種類を分けますかね。こっちがイカカで、こっちがタココ、こっちアユユにしますか」

「あー、それありがたいな。よし、食べれるのはハル、食べれないのはナズに渡すな」

「ハルそれ大変だからあたしも手伝うよ。食べれないやつ、多くないかもだし」



さくさく役割分担していく。うん、この体制なら大丈夫だろ。

正直面倒ではあるけど、これが終わったら美味しい魚介類が食べれると思うと面倒なんて考え吹っ飛ぶよね。

魚大好き。



『…大量に持ってきて申し訳ないと思うたが、余裕じゃったか…?』

『お宝の山です』

『…おぬしがおると便利じゃな、スライムよ。ヒト族が食えぬものは遠慮なく食ってくれてよいぞ。もう元の場所に戻せぬでな。生存戦争で危ういのじゃ』

『やったです』

「ラテー、魚籠が流されないよう糸で固定お願いしていい?」

『はいですのー!お手伝いするですのー!』

「しかしこれ手ぇ突っ込んで大丈夫なやつ?」

「てか襲ってこないだろうな」



いざ、という段階で不安になってきた。

網とかも使うつもりだけど、近くに突っ込むと壊されそうだ。

いや、網ならまだいいけど腕をボキっとやられると…それどころか食われる可能性もあるのでは。



『眠らせたり気絶させておるから大丈夫じゃ。この中におる限り、わしの力が及んでおるのじゃ。そなたらに傷一つつけさせやせんぞ』

「あ、やっぱ生きた状態かこれ」

『死ぬとすぐ腐食するからの』

「殺してもいいの?」

『食すなら殺す必要があるじゃろ。構わん』

「まあ、踊り食いとかあんま趣味じゃないしな…」

『…何じゃそれは?』

「はいはい、早く片付けよう。アイテムボックスに入れるためにはアキ兄さんが一通り食べる必要あるんだから、早くしないと日が暮れるぞ」

「やべっ」

『…しもうた、そうじゃな。いかん、こんな場所でヒト族が一晩過ごせるものか?長時間拘束してしもうたな』

「あ、問題ないです。気にしないでください。ちゃんと寝る場所は確保出来てるので!」

『お、おう、そうか…?』



うん、カーくんがあるからな。

出せるスペースもあるし、問題ないだろ。



『我は水中で問題ないので、今日のところは我の寝床は考えずともよいぞ』

「え、サン一緒じゃないの?まあ、慣れた場所の方がいいよね」

「あ、サンの寝床、考えてませんでしたね。ラテちゃんやラムと一緒なのはさすがに…」

『ラムたち、カゴですしね。シーサーペントは違う種類がいいかもです』

「後でハルと相談しようと思ってたんだよなー。ちなみに水槽はないです」

「一番の候補でしたが、まあ、仕方ないですね。…あとで考えましょう。今は仕分けです」

「そだな」



覚悟決めるか。

起きないなら思いっきり鷲掴みしても大丈夫だろ。

浮力もあるし、デカい魚でもこの水球の下に大きなシートでも敷けばすぐシメられるはず。



「じゃあ僕がこのデカ水球から出すから…」

「リオ兄、これつけてー」

「なんぞ?ゴム手袋?」

「っぽく作ったやつ。毒は効かないにしても、トゲ刺さったりするかもだし濡れるし、ちょっとでも防御した方がいいでしょ」

「ここにも天才いたわ。大好き」

「ありがとう?」

『取り出すの、ラムも手伝うですー。ラムは濡れても大丈夫ですし』

「触手便利だな!」

「よーし、開始!日が暮れる前には終わらせるぞ!」

「アキ兄、MPもつ?鑑定しまくって大丈夫?」

「今日新規召喚してないし多分大丈夫」

「僕の心配は…」

「MPおばけは心配してない」

「ラムやラテやサンほどじゃねーし!」



若干やさぐれながら水球に手を突っ込んだ。

これは水魔法の『水球』なのか、別のものなのかはわからない。が、超でかい水球の中にどっさり海の幸が漂っている。

改めて見てみると、魚以外にもイカなどの軟体動物、貝なんかもある。

絡みついてる海藻もあるけど、マーフォーク的には偶然くっついてきただけのものという認識だろう。

あの、これ、昆布なんだが…ケルププって名前だけど。しかしデカいな。


まあ、先に見覚えのあるやつからにしよう。

サババ、イワワはこの世界でも広く分布しているらしいし、食べたがってるのを知ってて持ってきてくれたのかもしれない。

これは既にアキ兄さんのアイテムボックスに入るしな。

それから、ササケもいた。あ、こいつは毒状態だ。ラムに「毒」と言って渡すと、すぐ浄化魔法をかけてくれた。


まず魔物以外をサクサク選別。毒状態なのはわずかなので、ほぼそのままアキ兄さんに渡す。

イカとタコめっちゃ滑るなこいつら!あと貝なんかもある。昆布渡した時にアキ兄さんがちょっと不思議そうにしたけど、昆布って伝えたら歓喜の悲鳴を上げてた。

どうやら「ケルププ=ケルプ(昆布)」だと思い至らなかったらしい。

そういえば海藻の類はまだ召喚のリストにないんだろうか?この様子を見るとないんだろうなと思うけど。

魔物以外の選別が終わったところで、とりあえず一種類ずつ塩焼きとかにしてアキ兄さんに一口だけでも食べさせる味見大会が決行された。バーベキューのやつ出しっぱだしな。

ちなみに残りはほとんどラムやラテが食べた。僕らも手伝え?いや、ちょっとずつじゃなくてガッツリ食べたいからさ…試食であんまりお腹膨らませたくない。

そしてアイテムボックスに入る条件を満たしたので、サックリお命頂戴してアイテムボックスに入れた。生きてると入らないからね…

ちなみに魚籠ごと入ったらしい。うん、別に魚籠(単品)いらんから入れ物として使ってくれていいよ。

それが終わったら、魔物だ。もしかしたらこれ経験値になるんだろうか…ある意味寄生レベリングより酷くないか…?



「なんかさあ、絶対今の僕らじゃ倒せないような中位の魔物とかっぽいんだけど」

「まさかすぎる」

「いやでも、必要ではあるし…ありがたく頂いてしまった方がいいのでは…?」

「これでレベルアップしたら笑うよね」

「嫌な予言しないでください…」

「まずゲソークいく?足一本食えば充分だろ」

「ゲソークのゲソ食うのか…」

「間違ってないけど親父ギャグっぽくてつらい」

「3匹いるし、順番にトドメ刺すか?まずアキ兄さんからいく?」

「お、おお、どこ刺せばいいんだこれ」

「イカってどう殺すの?弱点あんのかな」

「一応心臓あるけど、窒息が一般的かな…?」

「攻撃するなら上の方…あの辺ですね」

「心臓っぽいな。狙ってみるか」

「アキ兄さん、イカの構造とか知ってんの…?すごいな…?」

「おとんと釣りとか行った時に締め方教わった。そん時に色々聞いた」



イカカの処理も手慣れてたし、そんなこったろうとは思ったけども。

僕?イカのことなんて全く知らんですよ。美味しいことしかわからない。

ハルがさらっと弱点言っててビビったけど、そういやこの子の鑑定って弱点が見えるんだったわ。

そんな感じで、サクっとトドメ刺して炙ったゲソ食ってアイテムボックスに入れてた。あと2匹のゲソークも同様。

ちなみにレベルは上がらなかったので安心してたけど、経験値ガッツリ入ってたのでちょっと遠い目をした。

あとは怪魚っぽいのとかトラバサミの方が危険度低そうに見える貝だとか色々いた。

順番にとどめ刺してるとついに恐れていたことが。



「…俺、今レベル上がったわ」

「デスヨネー」

「全員ナイフを持て。レベル8になるまでトドメ刺しまくれ」

「わぁー…強制レベリングだー…」

「ありがたい、ありがたいですけど…こんなのでレベル上がっちゃっていいんでしょうか…!」

「魔物と直接戦うよりは、いいんだけど、いいんだけど…!」

『何じゃ、細かいこと気にするのー。悪いことをしとるわけでなし、遠慮せずにやるのじゃ。海に住まう者として、どんな形であれ糧になるなら良いことだと思うでな』

「うう、その言い方は卑怯…!」

『無意味な死ほど、虚しいものはないからな…主人たちの糧になるなら意味のある命になろうぞ』

「はい…」

「よし、じゃあ次リオくん行ってみようか」

「ぎにゃあああぬるぬる滑って刃をたてにくいーこのタコ野郎…!タコ焼きになってしまえ…!」

「…まだ短剣術持ってるハルの方がうまく出来そうじゃない?」

「じゃあこっちはハルが」

「あっはい一思いにやればいいんですね?」

「間違ってないけどちょっと怖い」



そんなこんなで、全員がレベル8になったのである。

次のダンジョンまでに7になれれば充分と言っていた数日前が懐かしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ