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異世界召喚された勇者たちののんびり気味逃亡旅  作者: 邑雲
第三章:ダンジョン攻略
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35.心情の吐露


ラムの話の前に自動操縦にしたので、カーくんはのんびり進んでいる。

さすがにいつものスピードで走らせるのは怖かったので。

隠密あるから危険はないってわかってはいるけど、気分的な問題だ。

いつもはここに座って運転している。座っているのに運転してないのは初めてかもしれない。

ハンドルに触れてない理由は、助手席に引っ張ってきた子と話すためだ。

話したいことがある程度まとまるまで、前を向いて進行方向をぼんやり眺める。

あ、鳥だ。鳥か?首二つあるから魔物じゃね?まあ飛んでったけど。



「…リオ兄さん」

「ん?」

「…ごめんなさい、わざわざ」

「小さいこと気にするな。何でもいいから話した方が楽になるぞ。心に溜めすぎるのが一番よくない」

「心に…そうですね」

「バカな話題でも気晴らしになれば充分だ。何なら美術教師のヅラの話でもいい」

「こんな異世界でまであの教師のこと思い出したくないんですけど」

「窓開けたら風が吹き込んできてカーテン舞い上がってカーテンにヅラ攫われたんだよな。見たかった」

「地獄の光景でしたよ。噴き出さないよう必死でした」

「どう控えめに見てもコントだっただろうしな」

「思い出させないでください。目の前で見ちゃったんです」

「大変だったな、美術部」



この話聞いた当時、腹筋爆散するかと思うほど笑ったんだよな。

ちょっと自信なかったけど、この出来事は既に起こったことで正解だったらしい。まだ起こってなかったらネタバレだったな。

まあ、部活中の悲劇なので美術部員には避けられないだろうから、予言になったとしても問題ないけど。多分。

そんな話をしたら多少力が抜けたのか、ハルはぽつぽつ話し出した。



「私、この世界、ゲーム感覚なんです」

「うん、わかる」

「私、運動音痴で、走るのだって遅いです」

「50m10秒台だっけ」

「はい、なのにこの世界だと、驚くほど速くて」

「そうなんだよなあ」



僕だって今みたいに速くなかった。

そもそも僕は瞬発力はあっても持久力がない。マラソンとかは走り切れたら称賛もの、というレベルだ。

他の三人に比べると体力はないが、それでもあっちの世界にいる時より体力はある。

数時間もレベリングのために魔物を倒すなんて、出来るわけがない。それが僕にとっての「当たり前」だ。



「武器だって、ほんとは駄目なはずなんです。絶対ダガーとか使ったら自分を刺すと思います」

「うん、僕もあんだけ蹴りまくってたら筋肉痛待ったなし。2日後くらいに」

「ちょっと遅くないですか…」

「普段あんまり運動しないからな」

「…そうですよね。あの、それで、だから、自分の体が全然自分って感じがしなくて、現実味がないっていうんでしょうか」

「なるほど」

「だから、ゲーム感覚、なんです」

「うん、納得した」



というか、そういう感覚なら僕にもある。

きっと他の二人もそうだ。自分の体が思ってより丈夫だとか、そういう感覚は。



「HPとかMPとか、経験値とか、ステータスとか、スキルとか」

「ああー」

「でも、痛みとかは本物で。走って息が切れるとか、疲れるとか、ずっと本を読んでたら目が疲れるとか腰が痛いとか」

「若さが足りない発言」

「ほっといてください。…そんなところは現実で、混乱してるというか」

「うんうん」

「無理やりここはゲームの世界だから、やめたら現実に帰れるって、そう自分を言い聞かせてた部分があるというか」

「…うん」

「そうじゃないと、おかしくなると思ったんです。魔物を倒すなんて、怖くて出来ないことのはずなのに出来てしまって、私が、私じゃなくなるようで」

「自分の心を守るために、そう思い込んでたんだ?」

「…はい」

「それは別に悪いことじゃないんじゃないか?」



だって誰しもゲームやる時、主人公の気持ちになりきるなんてしない。特に主人公にキャラづけされている時は。

でもこういうキャラだから、こういう考えになるのかって寄り添ったりはする。

中には何でそう考えるんだって展開もあるし、「主人公=自分」じゃなくて、主人公を見守る役目みたいに考える。

だから、本来の自分と違うなって感覚があった以上、そうして分けて考えるのは別におかしいことじゃないと思った。

ハルはきっと「ハル(この世界にいる自分)≠林千晴(日本人の自分)」と考えてしまっていた。無意識下で。



「そう、でしょうか。逃げてるだけな気がします。元の世界に戻れるって、ラムから…第三者から聞いて、何だか急に『あ、これ現実なんだ』って実感したというか」

「分けて考えてたものが、ほんとは分かれてない全部同じものだって思い至って、混乱した?」

「…はい」

「自分の頭だけの妄想、据え置きゲームだからプレイヤーは自分だけ。自分の中で完結してたはずのものが、他人に話題にされて、妄想でもゲームでもないって自覚した」

「…そうです」

「ゲームやめたらすぐ現実に戻れると思ってたものが、すぐには戻れないって突き付けられて混乱した」

「はい。…ひどいです、ラテちゃんもラムも、生きてるはずなのに作り物だと思い込んでた」

「でもどこかで現実だとも思ってた。心の中で完全に認めたら、自分の心を守っていたものがなくなるから、気づいてたけど誤魔化してた」

「…え、あれ、そうなんでしょうか…」

「僕はそう思った。あのさ、現実が見えてない人って目がすごく虚ろなんだよ。自分の声しか耳に入らない、他人の声なんて雑音にしか思ってない。でもハルは違った」

「…実感ありますね。見たことあるんですね、そういう人」

「あるよ」



自分のことだけどな。虚ろな目をしてたのは鏡に写った自分のこと。

親と決別した直後だ。

助けてくれたはずの恩人の言葉も雑音にしか聞こえてなかった。最初は、だけど。

ずっと寄り添ってくれて、ああ現実なんだとやっと自覚して、ようやく周りに意識を向けられた。そして今がある。



「だから、自分を守るためにそうして誤魔化してただけで、ちゃんと目の前の現実は見てたと思う。ハルはいつも真剣だった。情報収集も戦いも」

「…それは、」

「考えたくないなら、考えなくていい。今は脇に置いとけばいい。きっと、必要だと思ったらハルは向き合える強さを持ってるから」

「………っ」

「いい子だね。自分の弱い部分、醜い部分、ちゃんと言葉にできた。それだけでとても強い子だと思う」

「…ずるいです。大人だからって、子ども扱いして。本当なら私の方が誕生日早いのに」

「ははは、本当の村雨涼だったらな。今の私はハルより9歳数ヶ月年上だ」

「とし、うえ…」

「そうそう。子供は悩んだら大人に頼りなさい。そのために大人はいるんだから」

「…う、っ」

「泣きたいなら泣きなさい。子供の特権だ。大人になったら、泣きたくても泣けない時がある。悩みも心の淀みも何もかも、涙と一緒に外に流してしまえ」

「うぅ、え…っ」



ハルの泣き方は下手くそだった。

今まで泣きたくても我慢してきたんだろうか。泣くのに慣れてない、そう思った。

召喚のパネルを見て、柔らかいティッシュを出す。ボックスごとハルに渡して、視線はずっと正面に。

泣き顔は見ない。途切れ途切れの押し殺したような泣き声だけが聞こえる。

ティッシュを渡したら受け取ってくれたけど、その時にハルの方に差し出していた手を握られた。

人恋しいのかもしれない。軽く握り返すだけに留めたけど、それで充分だったらしい。


どのくらい経ったのか、さほど経っていないのかもしれない。

結局、大声で泣くことはしなかった。出来なかったのかもしれないけど。ひきつけを起こしたような、泣き方を知らないような不器用さが垣間見えた。

下に弟妹がいると言っていた。姉だからしっかりしないとと思って、泣くことすら出来なかったのか。いや、我慢しなければと気負っていたのか。

きっと泣けば親が慰めてくれただろうに、遠慮してしまったのか責任感で自分が泣くことは許せなかったのか。不器用な子だ。

それでも多少泣いたことですっきりはしたらしい。目元は赤いが、どことなく前を向いてるような、そんな目だった。



「冷やさないとまずいかもな。タオル濡らすか…」

「濡れタオルいる?あるよー」

「あ、アキ兄さ…」



突然後ろから声をかけられて驚いた。いつの間に。

そして何て準備のいい…と思ったら、理由を察した。

アキ兄さんも、目元が赤かったからだ。自分で準備したんだろう。

アキ兄さんは空き室にいたはずだ。あそこは洗面所が近いから、用意したのか。

自分の分以外も用意したのは、同じことになってる子がいると予想したからか。

洗面所にはタオル類がいくつもストックされてるしな。もちろんナズが召喚で出したやつだ。

アキ兄さんに抱えられてるラムは、ちょっと気まずげだった。この事態を起こしたのが自分だと思ってるからかもしれない。

とりあえず、いつかは話さないといけなかったことだろうし、早めに話してくれたことはありがたいと思っている。

それに、ラムが出来る最短で話してくれたんだ。念話を習得してすぐだからな。誠実さが垣間見える。

だから何も悪くないぞと思いながらラムを撫でると、目を閉じて少し震えた。心地よかったらしい。



「…ありがと、アキ兄さん」

「熱が引いたらスライムゼリーを目元に貼り付けよう。多分気持ちいいと思う」

「アキ兄さんが持ってるスライムゼリー、食用にする予定じゃなかったっけ?」

「そうだけど、まだストックはあるしひとつふたつ違う使い方したって構わないって」



アキ兄さんもすっきりした顔をしていた。

何を話したのかはわからないけど、ラムといい話が出来たんだろうと思う。

こうなると、ナズとラテが心配になるけど、これは任せるしかないだろう。第三者が入る方がこじれることもあるだろうし。

案外落ち着くとこに落ち着くかもしれない。思い悩んでそうなら、後で聞き出せばいいだけだ。



「あ~~~、たまらん…」

「気持ちいいですねえ…」

「風呂みたいな感想だな」



場所は変わって(数歩の距離)、居住区の座席。

アキ兄さんとハルが座って、背もたれに背を預けながら上を向いている。目元にスライムゼリー。

傍から見ると怪しげだが、突っ込まないでおこう。アキ兄さんはラムを乗せればよかったのではと思ったけど、ラムはアキ兄さんの膝にいて撫でられていた。

水分補給もした方がいいだろうと思って、お茶を淹れてみたけど…あんま美味しくない気がする。

アキ兄さんと同じ材料使ってるはずなのに。これが料理スキルの恩恵か…たまにお茶淹れてたから淹れ方は間違ってないはずなんだけどなあ。



「ふへへ…リオくんが淹れたお茶、リオくんの優しさが沁みる」

「…美味しくないってはっきり言っていいぞ」

「違いますよ。アキ兄さんが美味しすぎるんです。私が前に淹れた時、エグ味やばかったですよ。飲めるお茶になってる時点で称賛ものです」

「おお、嬉しいな。ありがとう。てか、自分で作ったり淹れたりすんの好きだからやってたけど、人が淹れたやつ飲むのも何かいいなあ…」

『わかるです。ご主人様が作ってくれるご飯、大好きです』

「私もー」

「そんなん僕だって大好きだわ。マジでアキ兄さん勧誘して正解だった…」

「リオ兄さん誘ってくれてありがとうございます。アキ兄さんも勧誘してくれてありがとうございます」



ほんと、あの時の自分グッジョブだったな…

最悪一人で逃げようと思ってたけど、まあそれも成功した可能性あるけど、今みたいに上手くはいってなかったはずだ。

日本に帰る手段のことを考えると、オリジンが必須らしいし、アキ兄さんがいなきゃラムはここにいなかっただろうし。

自分の力を過信しなくてよかった。元々劣ってるところだらけだし、一人の力なんてわずかなものだ。

スキルがあるから大丈夫、なんて勘違いしなくてよかった。


三人+一匹でまったりしてると、ナズが梯子から降りてきた。

こっち見て一瞬びっくりしてたのは、スライムゼリーにびびったからだろう。

ナズもちょっと泣いてたらしい。ラテはわからないけど、ナズの背中に張り付いたまま離れないので、何かしらの話はしていたと思われる。

濡れタオルとスライムゼリーのコンボの話をすると、若干呆れつつも効果がありそうだと思ったらしい。

この不思議な集団にナズが参加した。ラテはラムと同じで、ナズの膝の上だ。

今ここにスライムゼリーを顔に乗せて上を向いてる謎集団が爆誕した。新手の宗教か?

一応ナズに美味しくないお茶を淹れて、机に置いておいた。



「もう今日はこのまままったりしようかー俺動きたくないー」

「いつでもまったりしてるじゃないですかー」

「いつもよりまったりしてるよ。リオ兄が運転してないのも珍しい」

「この状態で運転するのもなーって気分」



ないとは思うけど、運転事故とか起こしたら怖いし。

いつもより注意力散漫…とまではいかないけど、運転だけに集中できる精神状態じゃない。



「俺も料理しない日あってもいいかもなー。今日のご飯はアイテムボックスにちまちま溜めてたの放出していい?」

「ん?アキ兄そんなことしてたの?」

「多めに作って、一人分くらいをとっておく感じで日々溜めてたんだよ。まあ、ダンジョンで食べるかって思ってたやつだけど」

「ああ、まともに料理できる環境じゃなさそうだしな、ダンジョンって」

「カーくんに乗り込めさえすればいつも通りだけどねえ」

「それが上手く行かなかった場合、と思って対策してたというか」

「えらい」

「うん、今日くらいは手抜き料理でも…いや、手抜きではないですね。いつも通りの美味しいご飯ですね」

「作りたてじゃないってだけ?ってアイテムボックスに入ってたら温かいままだから作りたてかあ」

「そうだなあ、今日はそれでいいんじゃないか。好きなことでも、たまに休んだっていいだろ。やりたい時にやればいい」

「うん、明日になったらまた料理したいーってなってると思うから、明日いっぱい作るよ。減ったストック分も補充したいし」

「てか今どんだけストックあるの?今日で全部放出ってなったらやばくない?」

「いや?普通に数日分のストックはあるよ。材料とかMPにも余裕出てきたし、多めに作ろうって思って作りまくったから」

「そっか、レベル上がったし料理スキルもレベルアップしてるから、余裕出てきたんだねぇ。新規召喚2つが限度って言ってた日が懐かしい」

「あの時はマジで色々ギリギリだったな。今は使いそうな食材一通り揃ってるから、無理に新規召喚しなくていいし。ネタでやるけど」

「ネタ食材って何?」

「デコポン召喚してたの見て、迷走してるのかなって思いました」

「生で食う以外にどうすんのそれ…」



毒にも薬にもならない会話。

さっきの話は意図的にしないようにしてるのか、無意識か。

ひとまず、全員共通で、今日はまったりしようということになった。

昼寝とかしてもいいかもな。僕は寝ないけど。

提案に賛成だったのか、三人とも昼寝することにしたらしい。

寝室と、空き室と、座席で。僕は運転席に引っ込んでのんびりすることにした。引っ込むって言うのかなこれ?

ラテとラムは寝床籠を持って、それぞれの主人と一緒にいるらしい。

一緒に寝るのか、ただ寄り添うだけなのかはわからないけど。



「晩飯の時間には起こすからなー」

「「「はーい」」」

「おやすみー」

「「「おやすみー」」」



一応逃亡中だなんて忘れるくらい、緊張感のない空間だ。

でもまあ、たまにはこんな日があってもいいよな、と思った。


ラテもラムと似たようなことを言ってるかもしれない

多分ここで故郷を離れた理由を話してる

死別じゃない別れなら大丈夫という言葉とともに

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