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異世界召喚された勇者たちののんびり気味逃亡旅  作者: 邑雲
第三章:ダンジョン攻略
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34.唯一(アキ視点)


思えば、最初からラムは覚悟をしていたんだろう。



『改めて、ラムです。名前、嬉しいです。ありがとうです。ご主人様、お別れする日までよろしくです』



『対話』を覚えて、初めてラムが伝えてきた言葉はこれだった。

何で初っ端の挨拶から別れを想定してるんだとか敬語可愛いなとか超丁寧だなとか名前嬉しいのかー頑張って考えてよかったーとか色々思ったけど。

軽く考えてたというか、深く考えなかった。ラムはこういう子なんだな、ってそう思っただけだった。

もっとあたしが頭がよければ、ハルやリオくんくらい注意深ければ気づけたかもしれない。

いつか別れが来ることを、ラムは知っていたと。しかも、別れはラム主体じゃなくて、あたしが別れの原因になる、って思ってたって。

別れること、あたしがラムを置いていくこと、最初から知ってた、みたいで。



『ご主人様?』

「…ラム」

『悩んでるです?今は、考えすぎない方がいいです。リオくんもそう言ってたです』

「うん…でも違う事考えようとしても、元に戻ってきちゃって」

『…ごめんなさい。でも、早く話した方がいいと思ったです』

「うん、そうだね。こんな話、ずっと後にされた方がつらかったと思うから…今話してくれてよかったと思う、きっと」



これは間違いないと思う。

元の世界に帰れそうにないから、こっちの世界で頑張ろうって決めた後で帰れるかもしれないなんて聞かされたら、せっかく頑張ろうと覚悟したのにって思っただろうから。

きっと帰る方法はある、ないかもしれないけど、帰れないって決まってるわけでもない。だから帰る希望は捨ててなかった。

こういう状態の時に帰る方法を教えてくれたんだから、帰れるって断言してくれたことは、本当によかったと思ってる。


王城を出た直後はこの世界で生きることも元の世界に戻ることも考えず、ただあの場所から逃げたいって思いしかなかった。

召喚された直後は帰りたいって思ってたけど、それを考えるよりも今置かれてる状況が悪すぎて、どうにかしないとって思いが先にきてた。

いや、帰れる帰れないを確定させたくなかった。王族は帰れないって言ってたけど、それを信じたわけじゃない。

信じられなさ過ぎて本当は帰れるんじゃ?なんて思ったくらいだ。でも、本当のところはわからない。

しっかりとした根拠を元に帰れる帰れないって確定してないから、確定してないからこそ希望があった。

だから『わからないから、わからないことを考えても仕方ない』って思って、先送りにした。考えないようにしてた。

その、脇に置いてたものを、出来るだけ見ないようにしてたものを正面からぶつけられた感じがして、びっくりしてるだけ、だと思う。


帰れないって確定されるより遥かに良い結果のはずなのに、帰れるって聞いた瞬間、あれ、そうなんだって肩透かしくらったような、何ともいえない気持ち。

この世界のことも好きだと思い始めてたからだろうか。ゲームみたいにスキルとか楽しいって思ってたからだろうか。

どうしてか、ほんのちょっと、残念って思ってしまった。元の世界に戻れるという事実に。

帰れないから、仕方なくこの世界で過ごすんだ。そんな風に流されてしまう未来を閉ざされてしまったような。

…ひどい。あたしは帰りたくないんだろうか。リオくんのように、帰ると断言できないあたしは薄情なんだろうか。

自分がとんでもない人でなしになった気分だ。



『ご主人様は優しい人です。ラムは知ってるです』

「…ラム」

『ラムは、突然ご主人様に選択肢を突き付けたです。ご主人様が考えないようにしてたことを、いきなり』

「………それ、は」

『突然、何の事前相談もなく、この世界に召喚したラージフールと同じことしたです。心構えなく、道筋を示したです』

「…そんなこと、ない。あいつらと一緒なんて、そんなこと!」

『お前の選択肢はこれだって突然突き付けた点は、同じです。強制じゃないだけで、決めるのはご主人様に委ねるという点は、違うかもですが』



ああ、そういえば。

あいつらは、スキルレベルを上げて魔族を倒せなんて、それ一択の道しか示さなかったなあ。

突然召喚して、望んでもないことを無理やりさせようとして。それを考えればラムの行動は全然優しい。同じだとは思わない。

まあ、突然だったって点だけは同じかもしれないけど、ラムは早く話した方が良いって、あたし達を思いやった上でとった行動だ。

こっちの都合全無視のあいつらとは全然違う。

こんな言い方したのは、きっと。



「ラムは優しいなぁ」

『…優しくないです』

「だって、わざと文句言いやすいようにしてくれたろ?あいつらと同じ、なんて言ってまで」

『…でも、同じだと思ったです』

「同じじゃないよ。全然違う。ラムはあたし達のことを考えてくれてる。あいつらとは違う」

『あれ、ご主人様ってメスです?』

「今更!?」



メスて。違わんけど。

あー、色々考えすぎて一人称戻っちゃってたか。アキじゃなくて茜だった時のこと思い出してたからつられたかな。

この子は性別がないってことだし、あまり頓着してないんだろう。で、口調で何となく男だと判断してたのかも。



「あたしと、あとリオくんも女の子だよ」

『リオくんもですか。あ、じゃあ皆メスですね。自分だけ仲間外れです』

「どっちでもないんだから気にしないの。ラムがオスでもメスでもどっちでもいいよ」

『ほんとです?じゃあ、今のままでいいです』

「町に入る前、女四人だといらないトラブル招くかもって話になったから、じゃあ男装するかーってなったんだよね」

『そうなんですか。よくわかんないですけど、それで無事だったならよかったです』

「ふふ、魔物には人間社会難しいかもね?」

『難しいです。人間族、どうしてそうなるです?って思う事たくさんするです』

「人間から見ても何でそうなったって思う事あるからなー」

『突然現れた謎スライムをテイムしたりするですし』

「あたしのことか!?」

『してほしいとは思ったですけど、本当にしてくれるとは思わなかったです。嬉しかったです』

「そっかー」



寄ってきたので何となく撫でる。

ぷるぷるしてて気持ちいい。こうやってラムを撫でるの癖になってるかもなー。

ていうか近くに来たらラテでも撫でるし、寄ってくるこいつらが悪い。ちょうどいい所に収まりやがるんだもん。



『撫でられるの、好きです』

「そうなの?あたしは感触が好きだから何となく撫でてるけど」

『もっと撫でてほしいです。今まで撫でられたことなかったので、気持ちいいって知らなかったです』

「へ?まじで?スライムなんて絶対撫で心地いいのに」

『移動のために掴まれるのと、攻撃以外で触れられることってなかったですから』

「おおう、魔物の闇。でもそっか、そういう生活してたらそうなるかぁ。ラムは家族もいなかったっぽいしな」

『同族は周りに生まれるのがいたですけど、触ったりしなかったです。生まれたてのスライム、弱いですから、消してしまうかもって思って触らなかったです』

「そっかー」

『だから、ご主人様や、リオくんやナズくん、ハルくんが自分をすぐ撫でるの、不思議で、…嬉しかったです』

「…うん」

『先輩が擦り寄ってくるの、嬉しかったです。体温とかわかんないですが、嬉しかった、です』

「ラテはラムを仲間と見做してるからなー」

『はい。まともに話すの、オリジンくらいだったので。こんな触れ合い、なかったです』

「オリジン同士って話せたの?」

『いえ、相手が念話持ってたです。正直、自分にはいらないと思ってたスキルですが、覚えておけばよかったって思ったです』

「そっか、片方が持ってたら話せるのか」

『です。自分の考えを伝える、声を通じるよう変換するスキルですので。覚えてたらテイム後すぐ話せたですのに。いえ、テイム前でも』

「いきなり現れたスライムに声かけられてもビビると思うけどな。声かけるとしたら何てかけてた?」

『さっき食べたやつ、まだあったら欲しいのでください、ですかね』

「…そういや葉っぱについたおにぎりの米食ってたね」

『ものすごく美味しかったです。びっくりしたです』



米と塩だけなのに…

いや、まあ、日本人としてはおにぎり大好きだけども。美味しいって言われたら嬉しいけども。



『食欲に負けた部分はあるですけど、あの時、不思議な魔力を感じてあそこに行ったです。空間魔法で』

「…そうなの?そういやいきなり出たような気が…」

『実際目にして、そこで召喚者だってわかったです。召喚者の魔力の波長、独特です。まあちょっと変わってるなくらいですけど』

「まじか」

『特にオリジンはすぐわかるはずです。クラフェル様から神託あったですし、わかるようにしてくれたみたいです』

「あ、そうなんだ。だからラムにはすぐわかったんだ」

『はいです。オリジンは召喚者の査定も兼ねてるですから。ご主人様たちはどのオリジンが見ても文句なしの合格だと思うです』

「へえ…?って、合格不合格とかあるんだ!?」

『元の世界に戻しても問題無さそうな人柄か、が一番ですね。悪人だったらこの世界から出さないです。戻されても迷惑らしいですから』

「そういやそんなこと言ってたね…」

『悪人だったら食べていいって言われたです。オリジンドラゴンは子竜の餌にするとか言ってたです』

「こわっ!?」



そうか、てか、ドラゴンいるんだこの世界。

まあ考えてみたらゲームでもよくいる代表的な魔物のひとつか。スライムもこの枠だろうし。



『でも実際は大多数の召喚者は巻き込まれただけの善人です。この世界の対応のせいで攻撃的になる人はいたですが、元の世界に戻れると知って落ち着いたりしたそうです』

「そうなんだ。今まで、結構いたんだろうな…どのくらいの人が帰れたの?」

『オリジンが見つけられた分しか知らないので、総数はわからないそうです。自分はご主人様たちが初めてです』

「そっかー」

『オリジンドラゴンはそこそこ見つけたみたいです。飛べるですから見つけやすいのかもです』

「ああ、ラムはスライムで、地上だもんなあ」

『空間魔法以外に移動範囲広がりそうなスキルないですしね。それにいつ召喚されるかもわからないですし…本当に偶然です』

「それもそうかぁ…あたしらの他だとあと30人くらいかな。今はラージフールにいると思うけど」

『…そうなんです?あとでクラフェル様に報告しておくです。もしかしたら『神託』で知らせてオリジンが向かうかもしれないです』

「え、まじで?そんなことできるんだ!?半分以上帰りたがってるはずだから、そうしてくれるとありがたいかも」

『伝えておくです。ただ、オリジンはヒトが暮らす場所には行かないようにしてるので、接触できるかはわからないですが』

「うん、それでもいい」



もしかしたらその中に悪人がいる可能性もあるけど、それはもうどうにもならない。

正直、あの城での仕打ちを思い出すと、庇いたくても躊躇してしまうくらいには酷かったから。

今でも見下した声と顔と台詞が頭に焼き付いてる。自分に向かって言われた言葉も、他の人に言っていた言葉も、特に、リオくんへの態度は酷かった。

スキル無しは見下していいものだと城の連中が示してしまったので、便乗したのかもしれない。

仮にも、同郷を、クラスメイトを、あんな風に言える奴らなんて信じたくはなかった。でも、事実だ。

そういえば、あの中にこの世界に来るように仕向けた奴がいるかも…なんてリオくんは言ってたけど。

召喚魔法陣でこの世界の連中が呼び出したわけだから、無関係になるのかな?つまりリオくんの仕事にはまったく関係なかった?



『リオくんがそんなこと言ってたです?』

「可能性の話っぽかったけど」

『無関係…かはわからないです。もしかしたら誘導があったかもですから』

「誘導?」

『別の世界から召喚するわけですので、流れる時間なんかもズレてたりするです。こっちが召喚使った時間とご主人様たちが召喚された時間、同じとは限らないです』

「え…?」



何か難しい話になってきた!?

あ、でもあたしら昼休みに召喚されたのに、こっち来た時は夕方にさしかかる前くらいだった、ような?

あと、ラージフールは地球の中学生じゃなくて別の世界の人間族を召喚しようとしてたけど、地球の誰かが「ここにいる人間を召喚してくれ」って誘導した可能性もあると。

だから、本来召喚されるはずの場所からじゃなくて、あたし達が召喚されることになった。誰かのせいで。

っていう可能性が、一応あるらしい。マジか。そんなのいたら戦犯じゃん。そんでリオくんが探してたやつの可能性高いじゃん。

あと時間については、クラフェル様が送還する時に、元の世界に戻る時間を、召喚された直後にすることも出来るんだとか。

もちろんこっちで過ごした時間分ずらすことも出来る。なので、世界を隔てるとある程度の時間いじりは可能だと。

ちょっと頭パンクしそう。重要情報じゃね?ハルとリオくん参加させとくべきだったかもしれない。

何となく一人で考えたくて、空き室もとい仮眠室兼医務室予定の部屋にいたからなあ。



「ごめん、ラム、この話、あとで三人にしといてくれる…?リオくんだけでもいいけど。多分知りたがってる情報だわ」

『わ、わかったです』

「今はナズもハルもちょっと頭の整理にいっぱいいっぱいだろうなぁ…リオくんは多少余裕あるかもだけど」

『ですね。ご主人様のところに行けってラムに言ったの、リオくんですから』

「そうなの?」

『一人で考えるのも大事だけど、今は一人にしたら危ういかもって、ラムと先輩に言ったです。ナズくんの所にも先輩が行ったです』

「そっか…うおお、これが年上の余裕か…」

『あとは、リオくんは帰るって決めてるからかもです。ご主人様たちはちょっと悩んでるっぽいので、その悩みがない分リオくんには余裕あるのかもです』

「ああ、それもあるかも…うん…」



そうなるとハルは大丈夫だろうか。しっかりしてるけど、それでも…

と思ったら、リオくんが必要とあらば話すと言ってたらしい。あ、じゃあ安心かな?

あたしは空き室、ナズとラテは寝室、ハルはリオくんが誘導して運転席か助手席の方へ連れて行ったらしい。

話をしていたとしても、大声でも出さない限り、聞こえないだろう。



『何でもいいので、話すと気晴らしになるそうです。効果あったです?』

「それもリオくんの受け売り?」

『はいです。リオくんの体験談、だそうです』

「…そっか、やっぱ、色々あったんだろうな。うん、ちょっと心軽くなったかも…」

『よかったです』

「…ねえ、ラム」

『はい』

「ラムは、あたしが帰ると思ってた?」

『どうですかね。わからなかったです。人間の考えは、想像つかないですから』

「そう、なの?最初に、別れの日までよろしくって言うから、てっきり別れを想定してるのかと…」

『ご主人様とラムは、いずれ別れるです。ご主人様が元の世界に戻るならそこで。残ったとしても…人間、数十年しか生きられないですから』

「…あ」



知ってたはずなのに、忘れていた。

ラムはこの世界が出来て割とすぐ生まれた命。年齢も1500歳を超えてる。寿命なんて知らないけど、10年20年で尽きるなんてあるはずない。

考えればわかったことなのに。あたしはラムを残していなくなるんだ。例え、この世界に残ったとしても。



『ラムはオリジンで、寿命はないです。だから、きっとご主人様を見送る側になるです。ご主人様が、どういう選択をしたとしても』

「そ、っか、それで…」

『ラムがご主人様を置いていくのは、ラムが殺される場合くらいです』

「想像つかんなあ…」

『はい、なので…ラムは、遅かれ早かれ、ご主人様とさよならするです。それがすぐなのか、数十年後かの違いで』

「ラム、今までたくさん見送ってきた?」

『はいです』

「そっかあ…」

『お別れは寂しいです。でもそれが嫌で会わなければよかったと思うのも何か違うです。ラムは、一緒にいられる時間を大事にしたいです』

「うん、そうだね」

『生きてさよならは初めてかもです。どこかで生きてるの、寂しいけど嬉しいです。寿命でさよならも寂しいです。でもきっとたくさん一緒にいられる時間あったから大丈夫です』

「…ラム」

『だからご主人様、ラムは、ご主人様がどっちを選んでも肯定するです』

「………っ」



ここまで言わせておいて「選べないから」なんて、絶対駄目だ。

納得できるかどうかはわからない。答えなんてないのかもしれない。それでも、自分で選ばないと、駄目だ。

ラムもラテも大好きだ。トランタの町も、好き。今から行く町だってもしかしたら。

でもふと両親の顔が浮かぶ。いつでも笑顔なんて、そんな家庭じゃないけど、仲はいい方だ。

ちょっとしたことで怒って、ちょっとしたことで笑って、最後には大笑いして有耶無耶に。そんなことばかりだ。

会えなくなる、なんて、嫌だと思った。こっちの方が大事だと思うとしても、お別れは言いたい。



「…ラム」

『はいです』

「もしこっちに残るとしたら…元の世界にいる両親に、さよならを言うのは、できる?育ててくれてありがとうって、伝えることは…」

『出来ると思うです。絶対じゃないですけど、今までそういう召喚者がいたらしいって話は聞いたことあるです。叶えられたかは…よくわかんないですけど』

「そっか…」

『どの道後でクラフェル様に報告するので、その時に聞いておくです』

「え、ありがとう」

『召喚者が未だにクラーフに来るのはこっちの落ち度なので、クラフェル様の力が及ぶ限り手助けする、って言ってたですから。出来なかったらごめんなさい』

「ううん、もしできたらなって思っただけだから」

『はいです。でも、元の世界に戻ったら、こっちに干渉することは出来ないです』

「…うん」

『…やっぱり寂しいですね。ご主人様、もっと撫でてほしいです』

「いいよ。いくらでも」



ぷにぷにを撫でる。至福。

しっかりした口調なのに、時々ぷ~って気の抜けた声が聞こえる。かわいい。



「クラフェル様って、こっちの世界に来たことはないんだっけ?」

『ないです。でも姿は知ってるです。現身というか依り代というか幻というか、そういうのでですけど』

「ふーん、それって触れるやつ?」

『触れないです。攻撃してもすり抜けてたです』

「攻撃したやついるんだ…」

『オリジンドラゴンとオリジンオークがやってたです。一発殴らせろって。クラフェル様、悪気なく失言するですから怒らせたんだと思うです』

「あ、そうなんだ…神様なのに…」

『むしろ神様だからこそかもです。神の常識とオリジンの常識がすれ違ったんだと思うです』

「あー、そういや考え方の土台が違うとか何とか言ってたなあ」

『ですです』



立場が違うだけでも見えてるものが違う。

それに加えて種族も違えば尚更だろうな。

事実、ラムとは考え方がだいぶ違った。それでも寄り添ってくれてるのはわかる。

ラムを撫でながら、思った。こうした触れ合いを、クラフェル様はしたことがないんだろうか。



「幻ってことは、クラフェル様、ラムを撫でられないのか。こんなにぷにぷにして気持ちいいのに、可哀想」

『かわいそう、です?』

「うん、こんなに可愛いラムをなでなで出来ないのは可哀想。生みの親なのに」

『親…そうですね。クラフェル様は、自分の親で上司みたいなものです』

「あと主人みたいなもの?一番大切な存在っていうか」

『…それは違うです。ラムの主人は、ご主人様だけです。クラフェル様のことは大事ですけど、大切じゃないです』

「へ?」



大事だけど、大切じゃない?

え、それイコールじゃないの?



『クラフェル様、ほっといても大丈夫です。自分が気にしなくても元気ですし用もないのに会いたいと思わないです』

「おお、思ったよりドライ…」

『多分自分以外のオリジンが気にかけると思うです。生んでくれたことは感謝してるですし、神託があったら従うですし優先するですけど』

「そっか、嫌いとかじゃないんだ」

『嫌いではないです。でもご主人様みたいに大好きだって思わないですし、何かあったら心配で仕方ないとも思わないです』

「ラム…」

『撫でて欲しいとも思わないです。クラフェル様とご主人様は、自分にとっては別枠です』

「別枠…」

『オリジンは同格の仲間、スライム族は仲間ですけど部下とか子供みたいな感じです。どっちも大事で、でもどっちが上とか思わないです』

「…そっか、うん、あたしも親と友達、好きだけどどっちが好きって聞かれたら、何か同じ好きじゃないしって思うなあ」

『多分それに近いです。オリジンもスライムもクラフェル様もご主人様たちも大事、でも向ける感情は違うです。だから一番って言われてもわからないです』

「そっか、そうだね。ごめん。あたしも一番好きなの誰って聞かれてもわかんないや。自分にわかんないこと聞いちゃった。ごめん」

『いえ、同じで嬉しいです。だから、ラムにとってご主人様は特別です。テイムの主従もあるですし、そうでなくても大好きです』

「うん、あたしもラムのこと大好き」

『嬉しいです。ラムは、リオくんもナズくんもハルくんも先輩も大好きです。でも、ご主人様はちょっと別の大好きです』

「テイムもあるしね」

『はいです。ラムは、ラムとして、ご主人様が好きです。オリジンだから召喚者を気にかけてるんじゃないです。ラムに名前をくれたご主人様だから大好きです』



名前。そういえば何度か言ってる。

今まではオリジンという、他のオリジンと一緒くたで呼ばれてた。でも、ラムという名前はラムだけのもの。

ラムの一人称、あまり気にしてなかったけど『自分』と『ラム』で使い分けてるんだろうか。

『自分』は、オリジンも含めた生まれてからの自分。『ラム』と呼ぶ時は、あたしにテイムされてる魔物として、オリジンの役目は関係ないただの魔物としての自分?

わからない。違うかもしれないし、そうかもしれない。

でもあたしのことが好きだって言ってるのは『ラム』だ。

ラムにとって、名前はとても大事なものなのかもしれない。あたしが思うよりずっと。

なら、大事だって言うなら。



「…ラム」

『はい?』

「ラムが言ってたの真似するけど…改めて自己紹介するね。あたし、茜。狭山茜。あっちでの名前だよ。ラージフールの追手をかわすために偽名使ってた」

『…アカネ、ご主人様の、お名前』

「こっちには季節ってあるのかな。春夏秋冬って。あたし、秋生まれなんだ。名前の響きと、生まれた季節をひっかけてアキって名乗ってた」

『そうだったですか。キセツ…はわからないです。ヒト族の間ではあるかもですけど。自分は知らないです』

「そっか、ねえラム、あたしの名前呼んでくれる?」

『…アキくん?アカネくん?』

「ふふふ、こっちでの名前とあっちでの名前ってことにしたら、どっちも正解だね」

『アキくん』

「なに?ラム」

『アカネくん』

「どうしたの?ラム」

『…ふふ、ご主人様』

「なーに?ラム」

『大好きです、ご主人様。ラムの、唯一』

「唯一?」

『ご主人様はアキくんだけです。もしご主人様が元の世界に戻って離れ離れになっても、ラムはラムのまま生きていくです。もう、テイムされることはないです』

「…ラム、それは」

『ラム以外の名前はいらないです。オリジンとしての働きも終わった。召喚者はリオくんのおかげでもう現れない。神託も滅多にない。自分はラムのまま、のんびり生きるです』

「ラムの、まま…」



テイムしたら名前を決める。

前に使ってた名前じゃなくなる。同じ名前をつける場合もあるかもしれないけど、それでも主人が変わるので、その人の従魔になる。

ラムは、あたしを最後の主人にすると言っているのだろうか。これからずっと長く生きるだろうに。

もっとも、今までもずっとオリジン以外の名前で呼ばれることはなかったと言ってたから、今まで通りになるだけかもしれない。

それでも、神でも何でもない、ただ迷い込んできただけの召喚者のあたしを、特別にすると。

料理以外できることはない。リオくんみたいな大人の余裕も、ナズみたいな女の子らしさも、ハルみたいな勤勉さも、何もないあたしなんかを。

原初のスライムなんて、すごい存在の、ラムが。



『だからご主人様、覚えていて欲しい。あなたは、ラムの唯一です』



どこにいたとしても、それは変わらない事実だと。言外にラムはそう言っていた。

ぐらぐら揺れてた足場が固まったような、自分のいる場所が定まったような、そんな感覚がした。



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