24.採取の天使、廃業
トランタの町から出てしばらく。
でかい荷物を背負ったり肩からかけたりした状態で、街道を歩く。もっとも、荷物の中身は空だけど。
少し離れた場所に商人がいたり冒険者がいたりするけど、行先は次の町だったり森だったり様々だ。
町もまだ見える距離なので、それらの移動者に紛れて歩く。もう少し進めば岩場で影になっている所があるので、そこでカーくんに乗り込む予定である。
「うーん、まさかあそこまで嘆かれるとはな…」
「僕たちって、ギルド職員の間で採取の天使なんて謎異名がつけられてたのか。恥ずかしすぎる」
「ていうかさ、どんだけ採取の人気なかったの、トランタのギルド…」
「私たちのように登録したての子供冒険者に頼めればいいんですけどね」
「確かに、ハルの隠密がなくても魔物あんま会わなかったもんな、最初は。ちびっこでもこなせそうな依頼だよな」
「というか森の浅い場所だったら、他の冒険者が間引きしてるからそうそう魔物に出くわさないって」
「魔物じゃなくて討伐目的の冒険者が徘徊してるくらいだったしな。僕、最初亡霊かと思った」
「ああ、最初なんて『お前らも討伐依頼か、獲物は渡さんぞ』って血走った目で言われましたよね」
「俺らが採取目的で魔物は見つけても逃げるつもりって話したら菩薩顔で去って行ったけど」
「競争率激しいんだろうな、討伐依頼…ライバルいっぱいいるのか」
「ならゴブリンももっと討伐せえよって思ったよね」
レベルアップのおかげか、体力もついてるので疲れてはいないけど、スピードが段違いなのでさっさと乗ってしまいたい。
ギルドに挨拶に行ったら嘆かれ、どこの村に行くのかと聞かれたが、とりあえず育った集落(存在しない)に顔を出してから考えると言って躱した。
そう言われればそれ以上突っ込んで聞けなかったのだろう。あっさり解放された。
普通なら旅の安全を祈る程度のことしか言わないだろうに、ここまで嘆かれたのは僕らが面倒がられてる仕事を進んで請け負っていたからだろう。
他にも請け負ってくれる冒険者はいるにはいるが、片手間というか、討伐の合間に受ける程度。
僕らのようにメインで受けるという冒険者が少なかったのだと思われる。討伐依頼も、冒険者に嫌がられるゴブリン退治を受けたしな…
まあ、頑張ってもらいたい。僕らの穴なんてすぐ埋まるだろう。僕らが来た後も子供が何人か冒険者登録に来てたらしいし。
事前に調べていた通り、ギルドのない村から子供が冒険者登録に来るのはよくあることなのだそうだ。
後ろから馬車が走ってきたので、街道を外れることで避ける。
本来はその後街道に戻って進むのだろうが、外れてそのまま岩陰の方に行く。人もまばらだし気にする人もいないだろう。
街道を外れて魔物を倒しに行ったり薬草を見つけて採取に行ったりは普通にあることだ。
なので街道を外れてどこかに行く、というのは珍しいことじゃない。だから、目に入っても誰も気に留めないのだ。
それを利用して岩陰に行き、それなりのスペースがある場所でカーくんを出す。そしてそのまま乗り込んだ。
「はー、帰ってきた感じする~」
「朝ぶり~カーくん~あたし達の拠点~」
「離れてた時間短いのに、そんな懐かしまんでも」
「あ、もうすぐお昼ですね。何だかんだ2~3時間経ってます」
「うっし、昼飯作るか」
「僕は運転するよー」
「ぴぷー」
「キー?」
ラテとラムは運転が気になってるらしい。僕と一緒に運転席の方に来た。
まあ、これが動くのはあまり想像つかないんだろう。話を聞いてこの家(と認識してるもの)が移動するとは聞いたものの、どの程度かわからないのだろうし。
助手席の方に二匹して収まり、揺れるから注意なとだけ声をかける。だってシートベルトつけらんねえもの。蜘蛛とスライムだぞ。
ラテが一応糸を出して簡易シートベルトみたいなのを作ってたけど。僕がつけてるシートベルトを見て、とりあえず椅子と体を固定すればいいと認識したらしい。
いや、頭いいなこの子?可愛くて賢くて強い?すごいな?
それからすぐに発進した。ガラスを通して見える景色が変わっていくこと、かなりのスピードで進んでるらしいことを知って二匹は興奮していた。
何かラムの体が上に伸びて楕円形というか、よくわからん形になってる。テンション上がってるのか、もっとよくガラスの向こうを見たいからなのか。
楽しそうだし、いいか。結局二匹はアキ兄さんの「めしだぞー」の呼びかけがあるまで景色を見ていた。
「スキルレベル上がった!」
「おお、おめでとうアキ兄さん!これで8?」
「ああ。飲み物が増えたぞ!ジュースとかだけど」
「まじで?やったじゃん!今水と牛乳とインスタント緑茶と作ったハーブティだけだし。…いや充分だったわ」
「紅茶も出てきた。インスタントと、普通の?缶に入ってるお高そうなやつ?」
「召喚MP多そうです…」
インスタントはそうでもないと言ってリストを見せてくれた。
確かに。でもお高めのは消費MP多そうだな。インスタントの倍くらいだ。
他に野菜ジュースや乳酸飲料なんかもあるな。なかなかのラインナップだった。召喚するとしても、お高めのやつは後回しにするそうだ。
「そうですね。嗜好品ですし…でも必要そうな野菜なんかは大体召喚したんでしたっけ?」
「ちょくちょく新しいの追加されるし、まだまだコンプは遠いな。あ、あとは『解体』覚えた」
「召喚内容よりそっちの方が重要では???」
「それ、討伐任務の時とかにあると便利なやつじゃないか!?」
「…でも、食べられるものにしか使えない。召喚したやつ以外にも使えるけど、ライビには使えるけどウベルスには使えないっぽい」
「あー…料理スキルの派生だもんなあ…なるほど」
「それでも、だいぶ助かるのでは?だって多分魚とかにも使えるでしょうし」
「確かに」
「うん、使えた。さっき釣った魚に試してみたら出来たよ。開きになった。内臓とか頭はいらないから捨てた」
「ぴぷー!?」
「キィ!?」
「…あっ、ごめん、もしかして欲しかった…?ダストシュートに入れちゃったよ…」
「ぴぴぷ~…」
「キー…」
「外の景色に夢中で気づかなかったんだな…何かごめんな。…いや、僕のせいじゃないなこれ?」
「ま、まあ、ダストシュートなら無駄にはなりませんから…マナに変換されて動力になるから…」
「ちゃんと昼飯食ってんだから残飯まで食おうとせんでもいいだろうに」
「つ、次はあげるから、な?」
食い意地張った魔物だなあ…種族的に仕方ないのかもしれないけど。でも好き嫌いしない点では助かるか。
『解体』はそのままの意味で、対象に包丁を向けたら発動したらしい。捌こうとする意志があれば包丁がなくてもできるけど、今の所持ってた方がイメージしやすいそうだ。
消費魔力は良心的で、僅かだったと。魚が小さいせいかもしれないので、いつかでかい肉あたりで試してみたいと。
その辺を牛か豚走ってないかなとか言い出した。こわいのでやめて。てか豚ってオークでは…
「とりあえず、しばらくはスキルレベル上げですね。ナズ姉がそろそろ上がるのでは?」
「あー、そうかも?何の作業しようかな。カツラ帽子でもいじるかなぁ。しばらく使わないもんね?」
「そうだな。カーくん乗車中じゃ見た目誤魔化す必要ないし」
「帽子のデザインとかこのままでいい?」
「私はこのままで」
「俺ちょっと帽子の方を厚くしてほしいかも」
「いいよ。縁のところに皮使う?これ作った時皮は使えなかったしなあ」
「ああ、いいかも。ゴーグルひっかけてるからさ、長時間つけてたらちょっと締められてる感じが」
「あー、それは軽減できた方がいいね。うん、いじってみる」
「安物ゴーグルだからかな…ごめんな、こんなの買って…」
「いいっていいって。助かってるよ。締められてるからって緩めたら外れそうで、いい塩梅がわかんなくて」
髪型なんかも変更するか聞かれたけど、これは皆今まで通りでいいという返答だった。
一応ガレメナとかでも同じ変装にしておこうってことになったし。もしかしたらダンジョンで冒険者と出くわすかもしれないから、ダンジョンでも使う予定だ。
そうしてカツラ帽子を調整してたら、ナズもスキルレベルが上がったらしい。
「綿出たー!綿、綿が召喚に並んだ!やったあああああ!」
「おめでとう!テンションたっか!」
「今までファタの花からしかとれなかったもんな…」
「クッションが、布団が、半纏がー!」
「寒い所に行く予定はまだありませんが、コートとかに使えるかもですね」
「ああ、防寒具。いいなそれ。って考えると超助かるな」
もっとも、向かう場所は暑くも寒くもない場所だ。
雪山が近くにあるわけでもないし、ダンジョンとかで吹雪エリアとかにぶち当たらない限り出番はない気もする。
でも必要になってから慌てて作るよりも、今のうちに作っておいた方がいいのかも?
この辺の判断はナズに任せておこう。ナズが作りたいように作るのが一番だろうし。
つまり今までと変わらない。
「あとねえ『防御力上昇・微』がついたよ」
「ちょっと待って、そっちの方が重要情報じゃないか!?ええい、アキ兄さんといいナズといい、優先事項狂っとる!欲望に忠実なとこ好きだけど!」
「何かごめんな!?つか、今まで着てた服の防御力上がるってこと!?マジか!助かる!特にリオくん必要だろ!」
「自動修復と防御力上昇…微とはいえ、なかなか凄い装備になりますね」
「あるかないかわかんない効果だけどね、まだ」
「でもある方が何となく安心感あるぞ」
「アキ兄用とリオ兄用に皮の胸当て的なの作るね。サラシ兼防具で」
「お、おう」
「見た目がより冒険者っぽくなるので、いいと思います」
「うん、あと靴とかも『加工』でいじるよ。そしたら『防御力上昇・微』が反映されるから」
「数日はカーくんで過ごすだろうから、俺らシャツ着てるよ。その間にやってくれたら嬉しいかな」
「あ、そっか、新しく作るより元あるやつを加工した方が楽ですかね?」
「最初から作ってもいいけどね。経験値稼ぎにもなるし、てか冒険者用の服が一種類ってどうなの」
「自動修復あるし、ハルの『洗浄』もあったから着回ししても衛生的に問題なかったからなあ…一種類で足りてた…俺の女子力、低すぎ…?」
「似たデザインのやつもう1~2着ずつ作る?あ、でもナズの負担すごくなるか。最初に作ってもらう時もかなり無茶スケジュールだったし」
「レベル上がってるしMP増えてるし、大丈夫だよ。前みたいに2~3日でって訳でもないし。今はラテもいるから、いい糸使えるし作り直した方がいいかなあ」
「あー、前作ってもらったのは城からとってきた糸を使って作ったんだっけ。まあ、その辺はナズに任せる!」
「うん、しばらくのんびり進むんだったら最初から作るよー。経験値稼ぎも出来るし!」
「気に入ってるので同じデザインの服がいいです」
「おっけー!」
確かにしばらくのんびり進むから、やることが極端に減るのか。
僕は運転するからいいとして、アキ兄さんは料理と食事のストック作り、ナズは服の製作、ハルは隠密を使いつつ隠蔽やら分身やら色々試すと…
あれ、意外とみんなやることあるな。この中だとMPギリギリまで使っても大丈夫そうという理由で、MP消費が大きいものも練習するそうだ。
消費が多ければ多いほど経験値も溜まるし、いいことなんだろう。
そうして作業をして、夜。
「布団を!作りましたー!」
「おめでとう?」
「やっと、座席のソファベッドで寝るという野望がー!」
「それ諦めてなかったんだ!?いいけど!」
「いいですね。私も寝たいです。順番に寝ません?」
「いいよ!でも今夜はあたしでいい!?ラテも座席かテーブルにカゴ持ってきて一緒に寝ない!?」
「キー!」
「そうだな、ナズが一番でいいだろ。俺も一回ここで寝てみたかったんだよなー」
「僕も。寝心地とか度外視で、一回試してみたい」
「なら今夜はナズ姉で、明日以降私たちが順番にって感じでしょうか」
「僕最後でもいいよ」
と、布団で思い出した。
「ナズ、布団もう一式作る予定ってある?」
「ん?これ以外に?敷布団掛布団枕の三点セット?座席二つあるから両方で寝れるようにって意味?必要なら作るけど」
「いや、違う。まあそれでもいいけどさ、もうすぐカーくんの追加機能、空き室が作れそうだからさ」
「…あ!それか!」
「ありましたね。MP1000溜まったんですか?すごい…」
「まあリオ兄、今MP500だからね…」
「そうでした…」
そうなのである。レベルアップしてMPつぎ込めるようになったから一日に100とか溜めても余裕…とは言わないけど、問題なかったのだ。
そうして溜めてると1000近く溜まっていた。あと少しで達成する。
で、空き室を作ったら医務室だか仮眠室にしようと話していたのを思い出した。
この用途で使うなら最低寝るためのものは必要では?と思い至ったわけだ。
まさかこのタイミングで布団が作成できるとは想像してなかったけど。
「確かに布団必要そうっていうかメインじゃね?」
「なるほどー!いいよ、作るね!」
「ありがとう。枠組みは僕が用意するから、それに合ったサイズのが欲しいかな」
「…ん?枠組み?」
「ベッドの枠組み。召喚に一応ベッドあるんだよ。木製の。まあ枠組みしかないから布団とか一切ないやつ」
「ああなるほど!確かにリオくん植物製の召喚物多いって言ってたし、ベッドあってもおかしくないのか」
「全然必要なかったから召喚してないんだけど、空き室に設置するのに召喚しようと思って」
「あー、いいかも!オッケー!あとでサイズ教えて!」
「スプリングとかはどうします?召喚にあるんですか?それとも綿もっこもこで誤魔化す感じ?」
「召喚にないんだよなあ。僕のスキルで何かを柔らかくしてもいいけど微妙だし。だから敷布団二枚重ねとかで何とか…って考えてたんだけど」
「う、スプリングか…確かにあたしもないな。うん、敷布団二枚体制で行こう。綿入れまくってもっこもこにしてやるぜ」
「ダンジョンに出るスライムのドロップにスライムゼリーってあったよな。それ使えないか?」
「そんなに大量に手に入るかな?感触はいい感じだと思うけど」
「アキ兄さん、一応食べれるもんなのにスプリング代わりに使っていいの?」
「は?あれ食べれんの!?ごめん前言撤回。料理させて!」
「手のひら返しがひどい!」
ベッドのデザインは一番シンプルなのを選ぶ。ベッドヘッドも板一枚だ。
スペースのある場所で召喚して、ナズにサイズを測ってもらう。ベッドのサイズに合う布団を作ってくれるそうだ。
MPの溜め込みと布団の完成を待って、空き室を作成することになった。多分明日か明後日あたりにできると思う。
町を出た日は、そんな感じで平和(?)に終了した。
ちょっとした騒ぎが起きたのは、空き室が完成した日だった。




