17.食欲には勝てぬ
思えば、気づく切欠はあった。
ラテは、ライビが近づいたらすぐ反応していたけど、スライムに反応した時は、割と近くにまで近づいてからだったこと。
そう、ラテのスキルは『熱感知』だ。ライビに反応できてスライムへの反応が鈍いということは、スライムに熱らしい熱がないということで。
ただ蜘蛛という特性上、目が八つもあるし、気配を感じる能力はそこそこ高い。だから見える距離より遠くても反応はできた。
更に言うなら、ミニスライムよりヴェノムタランチュラの方が明らかに格上だ。少々発見が遅れたところで、下手を打つことはない。
だから、問題なく魔物の索敵が出来てると錯覚していた。いや、事実であって錯覚じゃないのかもしれない。
現にラテは僕らが余裕で構える時間を取れるくらい早く魔物を発見していたんだから。
そう、だから少々発見が遅れるくらい、何の問題もなかった。所詮ミニスライムは底辺に近いランクの魔物だ。
―――なら、底辺のランクでないスライムは?
その答えが、ラテの警戒という、想像したくなかった事態だ。
「キィイ、ギィ、イ…!」
「ら、ラテ…」
前足を前に、腹部分をやや後ろに、いつでも飛び掛かれるよう、糸を出せるよう、臨戦態勢をとるラテ。
その後ろには、主であるナズがいる。こちらに来るなと全力で威嚇していた。
ラテのその様子を見ているのか認識しているのか、いまいちわからない謎のスライム。
ミニスライムより明らかに大きい、と言っても小型のミニスライムの2~3倍ほどなので見上げる程でもない。小型犬サイズのラテとそう変わらない。
むしろ高さだけで言うなら見下ろすくらいのものだ。だが、明らかに格上の存在だということはわかった。
たかがスライム、なんて口が裂けても言えないくらいには。
だが、明らかに警戒すべき状況なのにどこか間抜けに見えるのは、僕らの手にあるのが武器ではなくおにぎりやそれを包んでいた残骸だと言う事か。
ハルのレベルが上がったことで、ノルマは達成したので町に戻ることになった。
けれど途中で全員の腹の虫が大合唱したことにより、遅い昼食をとることにした。
レベル上げは魔物との戦いだ。途中で昼を過ぎたのは気づいたが、のんびりご飯を食べられるわけもなく、スルーしたのである。
そして最近は三食きっちり食べていたためか、体内時計が正確で、緊張状態から脱したのを切欠に、腹の虫が鳴いた。
森の出口は近いし、川の近く、少し開けた場所で昼食…おにぎりを食べることにしたのだ。
あまり匂いもせず、片手で食べられるおにぎりを選んで作ってきたあたりがアキ兄さんの優しさだろう。
そのおにぎりは笹の葉に似た葉っぱで包まれていた。ラップもアルミホイルもないので、包むものに苦心した結果だろう。
昔の人がおにぎりを包んでた葉みたいなやつで、少しテンションが上がったのは内緒だ。ちなみに無毒無害な葉っぱであることは確認している。
その葉っぱを剥いておにぎりを出し、食べていた時にラテが突然警戒した声で鳴いた。
慌てて周りを見ると、ミニスライムではないスライムがいた、というわけである。
色はミニスライムより遥かに薄く、灰色、いや銀色に近いかもしれない。やや青みがかってるように見えるので、明るい場所で見たら透明な青なのかもしれない。
今は森の中なので、やや陰って見える。いや、今は色なんてどうでもいい。
それにしても、ラテといいこいつといい、何故本来いないはずの魔物がいるのか。偶然か?前も思ったがスタンピードの前兆か?
こちらの警戒を気にも留めていないのか、僅かに震えてこちらに進んできた。匍匐前進のような、のんびりした歩みだ。
けれどミニスライムは小型であるせいかは不明だが、かなり縦横無尽に跳ねて翻弄する魔物だ。
スライムの動きは遅い、なんて、間違っても思わない。背を向けて逃げたらそれ以上のスピードで追ってきて圧し潰すくらいするだろうと嫌でもわかる。
どう、すべきか。ラテが警戒してる以上、下手をすればラテと同格、下回っていたとしても四人もラテが庇えるわけがない。
ナズを庇ってるので、そこにアキ兄さんとハルを加えてもらうことは出来るだろうか。
「…ラテ、アキ兄さんとハルも、守れるか?」
「ギ…キィ?」
「…リオ兄?」
既におにぎりは腹の中なので、手にはナイフを握っている。
ミニスライムとは違い、体も大きい。果たしてこの短いナイフで核に届くだろうか。それでも斬撃なら多少効くはずだ。
攻撃を加えれば、まず間違いなくこちらに注意を向けるだろう。
僕が何をしようとしたのかわかったのか、アキ兄さんが僕の左手を左手で掴んできた。右手にはまだ葉に包まれ、半分残ったおにぎりがあるので不格好だ。
「前もそうだったけど、リオくん自分のこと大事にしないよな」
「…全滅よりいいだろ。僕はこの中で最年長なんだ。子供を守るのは大人の役目だ」
「友達を守りたいって思う子供のわがままも許してくれるよな、大人なら」
「…屁理屈じゃないか」
「うん、屁でも理屈でも何でもいい。俺もやる」
残ってたおにぎりを食べて、…食べるんだ…
それから、おにぎりを包んでいた葉を捨てて、今日武器として使っていた包丁を握る。それをスライムに向けていた。
それが切欠だったのか、スライムが動いた。体の一部を変形して触手のように鞭のように、こちらへ伸ばし―――…
「…は?」
「…んっ?」
アキ兄さんが捨てた、おにぎりを包んでいた葉っぱを絡めとった。
そして伸ばした触手を戻すことによって葉っぱはスライムの元に行き、スライムはそれを取り込んだ、というより多分食べた。
正直言おう。何が起こってるのかわからなかった。昨日も同じこと思った気がする。
…腹減ってた、のか?でもそれゴミなんだが…あ、スライムってゴミ食うんだっけ。食うってか融かすっていうか。
みるみる葉は融けてスライムに取り込まれていく。半透明だからその様子が見えるのだ。一部蠢いてるような何かがあると思ったら、口だったらしい。
そして消化しきったと思ったらぶるぶる震え、鳴いた。…鳴いた?
「ぴ、ぷ~~~~」
「ぴきーじゃないんだ!?」
「ぷるぷるじゃないんだ!?」
「リオ兄さんとナズ姉が何を想像したかわかってつらいです。そのスライムのことは忘れてもろて」
あ、はい。
某有名ゲームを思い浮かべました。ごめんなさい。
「え、えっと、何?腹減ってたのか?ご飯あげたら見逃してくれるか?」
「…ぷっ?」
「めちゃくちゃ惜しいけど、ウサギ肉、ひと塊なら…ッ!」
「…アキ兄…そんな、心底悔しそうな顔しなくても…」
「りんごもつけるし!」
「食べ合わせ悪そうです」
「…あ、気にしてない。食べて…いや、消化してるのか」
「消化はっや。やっぱ腹減ってたのか?まだいる?」
「ぴぷー」
「でも俺たちの分もいるから、みかんと桃1個ずつな。これで終わり。あとは自分で狩りしてくれ」
「それで人間狩り始めたら大変なことになりますけど…」
「あ、訂正、魔物を狩って何とかしてくれ」
「言葉わかるかなあ…?リオ兄、ナイフくんとか話せないの?」
「メタルスライムじゃないから無理っぽい」
「そ、っか~~~…」
どうやら敵意は最初からなかったらしい。もしかしたら餌の匂いにつられて…?
おにぎりなんて匂いほぼしないだろうと思って、短時間だしハルも消臭を使わなかった。まさか嗅ぎつけてくるやつがいたなんて。
まあ、目当てのもの食べただろうから、もういいだろ。
何か昨日同じようなことがあったせいか、この地域って変な魔物が集まるのかなと思考を飛ばした。
うん、こうなるんじゃないかって思った。でも思っただけでこれは僕のせいじゃない。
「…わ!?」
「アキ兄!?」
「大丈夫ですか!?」
「え、あ、いや…」
嫌な予感、という程でもないけど、これ。
え、昨日同じようなことがあったばかりって、これフラグじゃないよな…!?
「………テイムしますか、って…」
「あたしに続いて!?」
思わず顔を覆った。僕じゃない。僕のせいじゃない。フラグなんてなかった。
だからアキ兄さん、こっち見るな。あ、鑑定?いや、いいけども。え、鑑定させてくれるのこのスライム?
「テイム…するの?」
「あ、やめた方がいい?食費やばいかな?キャンピングカーに乗せるのまずい?」
「ぴ…ぷ~…?」
「寂しそう」
や、やめろ!あれだろ、断ったら「寂しそうに去って行った…」みたいなことになるんだろ!
ゲームじゃないからメッセージとか出ないだろうけど、何か切なくなる。
こっち見るなって言いたいけど、え、これ、決定権僕にもあったりすんの?
てか縋るような目で見んでくれんか、アキ兄さん。
「…食費は、今日アキ兄さんのレベル上がってMP増えたから召喚回数増えるだろうし、キャンピングカーは別に問題ないと思う。融かさなければ」
「俺らの家、融かしたりしない?」
「ぷ、ぷ、ぷ」
「首振って…首?震えてるから多分否定してると思いますね。多分この子頭いいと思います」
「あー、じゃあ俺はいいかな?」
「ぴーぷ!」
「…うん、よろしくな」
「ぴぷぷ!」
アキ兄さんが握手するみたいに手を出したら、その手にすりすりしてた。
これも、握手…なのか…?いや、アキ兄さんが撫でる方向にシフトしてたから握手じゃないな。
「あ、テイムした?一緒だねアキ兄」
「キ~~」
「ラテちゃん、もしかして警戒してたのって、ナズ姉が自分以外をテイムしないかって、そういう警戒…?」
「え?そういう意味?」
「今めちゃくちゃ安心してるよな、これ」
「あー、じゃあさっきのナズ庇ってたのって、この子は私の主!って主張?」
「まじか。僕てっきり臨戦態勢かと思ってたよ…」
「…あっ、従魔術取得した」
「アキ兄もかー」
「…リオくん、鑑定お願いしていい?」
「スライムからいこうか?」
「はーい、ちょっと君がどんな子か教えてねー」
「ぷ?ぴーぷー」
種族:エレメンタルスライム
年齢:1507歳
性別:なし
LV:148(あと8974882351)
状態:やや空腹
HP:48984511/48985214
MP:772433394/772435410
スキル:飽食LV47 弾性LV50 打撃無効 魔法耐性LV45 火魔術LV41 水魔術LV48 土魔術LV45 風魔術LV38 光魔術LV22 闇魔術LV39 回復魔法LV50 浄化魔法LV44 空間魔法LV28 詠唱破棄 形状変化LV42 魔力感知LV50 嗅覚感知LV49 身体強化LV50 鞭術LV33 消化LV43 放出LV29 神託
「やばい」
「やばいな」
「やばすぎ」
「やべえ」
突然語彙力が死んだ。でも無理もないだろ、何だこれ。ラテより強くないか!?いや、魔法特化っぽいけど!
名前にエレメンタルとかついてるから魔法系かなとは思ったけど想像以上だわ!しかもスキルレベルもやばい。カンストしてたりカンスト間近だったり。
つか、レベルのないスキルがあるな。打撃無効はわかる。打撃耐性の上位互換だ。『無効』になるとレベルがなくなるんだろう。
魔法耐性もカンストして魔法無効になったらマジでダメージ受けないんじゃないかこいつ。
それはいい。よくないけどまあいい。けど、神託、って何だ?初めて聞いたこんなスキル。というか年齢もすさまじい。この世界って出来たのいつだっけ…?
てか、これがテイムされていいわけ???レベル2のテイマーでもない異世界人に、テイムされてホントにいいの?
アキ兄さん、完全に餌付けしたろ。スキル見てもこの子絶対大食いだもん。食にこだわりありそう。で、異世界産のりんごとかに興味持ったパターンでは。
餌付けでこれが仲間になってほんとにいいの???
「どうしよう、性別ないのか。どんな名前にすれば」
「そこ???」
「だってスラ子にすればいいのかスラ男にすればいいのか」
「アキ兄さんもネーミングセンス迷子系女子だったか」
「………」
「ナズ姉が目逸らしてる」
「とりあえず、アキ兄さんのステータスも…うん、従魔術あるな」
名前:アキ(狭山 茜)
年齢:14
性別:女
LV:2(あと154)
職業:料理番
HP:20/50
MP:13/40
スキル:料理LV5(あと13) 従魔術LV1(あと100)
テイム:エレメンタルスライムLV148
「料理スキルの経験値も溜まってるね?」
「ライビ解体とかそのあたりだろ」
「あー、やっぱあれ経験になるんだ」
「テイムの項目あるので、ちゃんとテイムできたみたいですね。よろしくスライムさん」
「ぴぷ?ぷぅ~」
「か、かわいい…」
「確かに鳴き声可愛いな」
安心したせいか、どっと疲れた気がする。HPもちょっと減ってるような。1くらい。
あれ、待って、テイムしたってことは、昨日のあの手続きがまた…あああ、やること増えた…
みんな同じことに思い当たったのか、ちょっとげんなりしてた。まあ、仲間増えたって喜びで吹っ飛んだみたいだけど。
「ギルドに登録するなら、名前つけないとですね」
「ぷっ」
「ちょっとみんなで考えて…」
「駄目ですよアキ兄さん。アキ兄さんが考えてあげなきゃ。名前は親から子への最初のプレゼントって言うじゃないですか。きっと従魔も一緒です」
「ラテもナズのことじーっと見つめながら待ってたもんな。ほらスライムもアキ兄さんを見てる」
「ぅえええ?ネーミングセンスないんだけどさー」
「あたしもやで。どんだけ迷走したか見てたでしょ」
「でも結局ラテっていう可愛い名前つけてるだろ!」
「キ~」
「名前褒められたのわかったのか?ラテ照れてんじゃね?」
「ま、まあ、手伝いくらいはするから」
でも正直あたしに期待するな。
…ナズからそんな心の声が発せられてる気がする。
僕もネーミングセンスはクソだからなあ…
「やっぱ種族名から連想する?僕だともう某ゲームの名前ばっか出るから完全に戦力外と思って欲しい」
「でもエレメンタルスライムって聞いたことないですね。絶対強いやつでしょう?ここもじるとバレかねないので怖いですね」
「この子も形状変化スキルあるし、標準スライムのフリって出来るのかな?」
「ぷー?」
「この辺にいるのミニスライムだから、ミニスライムのフリできるか?」
「ぴ!」
「…お、縮んだ!ちっちゃい!ミニスライムだ!今日何匹かぶっ飛ばしたから覚えてるぞ!ちゃんとミニスライムになってる!」
「それ、ぶっ飛ばしたって部分言う必要あった?」
「まあ、レスパイダーは見たことないけどな、未だに。本物のレスパイダー知らないんだよな」
「ナワバリ、もう少し森の奥みたいですからね」
森の奥に行けば行くほど魔物も強いからな。
その中でレスパイダーは弱い魔物だけど、やっかいなのに違いはない。
気づかずに巣に踏み込んでそうだし、踏み込んだら危険極まりない。単体では弱いけど数の力は侮っちゃいけない。
「うーん、ミニィとか…いや、ほんとは違うんだからミニ部分は忘れるか」
「うん、忘れて。別の存在連想するから」
「うん、ネズ…いや何でもない」
ナズ、めっ!
リボンが頭に浮かんだだろ!いやあなた関係ないから!今スライムの話だから!
「エレ、エレー…エレン…メンタ…」
「何かを駆逐しそうだな」
「面太?誰ですか?」
「めんたいこ食べたくなった」
「食欲に寄り道しないでアキ兄」
「メンタル、タルタル…ソース…」
…腹減ってんのかな。それとも今日の晩御飯の献立考えてるとか?
ちょっと今は忘れて。何ならあとで一緒に考えるから。
「エレメンタル部分で名付けるの諦めた方がいい気がするな」
「でもそれだとスラスラとかスラっちとかに」
「わかりますけど」
「ス…ライム、ライムか…」
「また食欲に」
「食べ物はちょっとやめないか。自分の名前の食べ物って興味出るだろ。そういや召喚にライムあるの?」
「…ない…」
「レモンあるのにライムないの?あんまり食べてないからかな?よく食べるのから出るとか言ってたし」
「うん、今後出るとは思うけど、今はないな」
まあ、レモンとライムならレモンの方が身近だよな。
レモンの菓子とか多いしレモンティーとかもあるから。あと蜂蜜レモンとか。
って考えるとライムって僕もほとんど食べたことないな。ライムジュース飲んだことあるかも、くらい?
「そういえばスライムって何でも食べるのか、ラテが食べないようなゴミも食べるってことは、かなり便利に」
「でも元々ゴミ問題に困ってませんよ。ダストシュートありますから」
「そうだった。でも、外では助かるかも。あ、さっき食べたおにぎり包んでた葉っぱとか食べる?」
「ぴ?ぷぷぴー!」
「何で持ってんの?リオくん?」
「いや食った直後にこの子来たから、とりあえずその場に捨てるのもあれかと思って、丸めてポケットに…」
「う、うん、確かに外でこういうの食べた時のゴミって地味に困るね。他の荷物と一緒にするのも汚れそうだし」
そうなんだよな。しかもこの世界にはめったに見ないおにぎりだ。
ほぼ食ったけど葉っぱにちょこっとご飯粒の欠片とかついてるし、この状態のを捨てるのは躊躇われる。
だから戻ったらダストシュートにぶち込もうと思って、とりあえず回収していた。
でも食べて消化するなら、この世から消えるようなもんだし、いいかと思ったのだ。
スライム、喜んでるっぽいし。
「スライムにとっては餌になるのか?あ、消化してる。融けて…トケ…ドロ…」
「ちょっとやめてあげてその名前は」
「うーん…決めた!…ラムにする!」
「ラム?」
「って酒か?…アキ兄さん?」
「どこから来たのその名前?」
「スライムの一部」
「あー、そういえば」
「リオ兄さん、お酒って感想が出てくるってことはお酒飲むんですか?」
「飲まない。たぶん下戸。ラム酒も飲んだことは無い」
「アキ兄さんは?まさか…」
「の、飲んだことはないよ!見たことはあるけど。おとんが酒好きだからさあ」
「あー、なるほど?」
それなら知っててもおかしくないか。
僕も酒の種類とかそこまで詳しくないけど。
アキ兄さんの父親は洋酒が好きな人らしい。
「ぷ、ぷ、ぴ?」
「ん?うん、君の名前はラムだ。嫌か?」
「ぴぷぷ!ぷー!」
「あ、喜んでるな」
「うん、これなら名前の由来聞かれても問題なく答えられるし、よさそうでは」
「かわいい名前になったね!」
「ラテとラム…どっちも飲み物ですね…」
「それは考えないようにしよう、ハル」
「よーしよろしく!ラムち…ラムっち!」
「ラムちゃ………だめ、これは駄目です。よろしく、ラム」
うん、何か別のアニメキャラ浮かんできたよね。
アキ兄さんはそれ意識したわけじゃなさそうだけど。
むしろつけた後でそれに気づいたっぽいけど。
「そういや性別ないんだっけ?君づけもちゃんづけも悩まなくていいか」
「うん、スライムって種は性別とかないんじゃないかな?よろしくラム」
「ぴー!」
「キー!」
「あっラテと握手してる!かわいい!」
「握手…?前足と触手の握手…?まあいいか、可愛いし」
「仲良くできそうだな、よかった!ラテ、ラムとも仲良くしてやって!」
「キィ!」
「ラテの方が年下だけど一日先輩だねー従魔同士、仲良くなるかな?」
「あーぷるぷるしてる、気持ちいー」
「アキ兄さん、そこで寝ないで。ラムを枕にしないでください」
「すまぬ…しかしこれは離し難い…」
「ぴぷー」
「ひとまず、ラテはレスパイダーの姿に、ラムはミニスライムの姿になってもらえるか?今から町に戻るから」
「ラムは従魔登録だな。いい?」
「ぴぷ!」
予定は大幅に狂ったけど、やっと町に戻れることになった。
さすがに道中は平和に進めた。僕らと同じ、町へ戻るところらしい冒険者にチラチラ見られたりはしたけど。
うん、蜘蛛とスライムを頭に乗せてる冒険者は二度見するやつだよな…
ラテはナズの頭で、ラムはアキ兄さんの頭に乗っている。ラムはたまにぷるぷる動いてるけど、バランスでもとってるのだろうか。
案の定、門で微妙な顔された。連日かよ…という声が聞こえた気がする。ごめん、僕全然関係ないけど。
「ミニスライムか。まあゴミ処理目的でテイムする奴はそれなりにいるからおかしくないが」
「あー、やっぱり?森で遅めの昼ご飯食べてたら寄ってきたんだよな。ご飯包んでた葉っぱあげたら消化してたよ」
「だろうな。まあいいだろ。ただ昨日と同じで真っすぐギルドに向かってくれ」
「りょーかい」
そして昨日と似たようなやりとりをして従魔登録は完了した。
ギルドの受付の人には「明日は何をテイムしてくるんですか?」とか聞かれたけど。予定はないです。ないから、僕とハルを見ないで…
スライムのような不定形の場合、アクセサリーを装備できないので従魔の証はスタンプになるようだ。
刺青のように、体の一部に浮かび上がる特殊液らしい。これは水洗いしても取れず、魔力を込めると薄っすら光るので偽造もできないんだとか。
ただ、受付の人がそのスタンプを押そうとしたらラムは嫌がるようにぶるぶる震えた。
そして軽く受付の人の手に体当たりして、スタンプを落とす。落ちたスタンプを体でアキ兄さんの前に押し出すようにしていた。
「…ラム?」
「アキ兄さんに押してほしいんじゃないか?」
「え、それいいの?」
「ああ、構いませんよ。ただ押す時にすこーし魔力を込めていただく必要がありますけど」
「なるほど、えっと、こうか?」
「そうですそうです、そのまま、押したい場所にポンと」
「じゃあ額…はテイム印あるから、体の右側で」
スタンプの押印面が薄っすら光って、その光が押された場所に定着した。ラテの証と同じ形の紋様だ。ギルドで決められてる形なんだろう。
薄っすら黒いような灰色のような刺青に見える証が押印された。ギルドの人がその場所に手をかざして手に魔力を込めると、ぼんやり証が光る。
これがいざという時の証明なんだろう。問題なく光ったので、これで完了らしい。
「押印の際にちょっぴり魔力を使うので、ほら、冒険者の方にとって魔力は大事じゃないですか。ギリギリまで戦闘や生産に使いますし」
「ああ、確かに」
「なので、こういう手続きに魔力を使うのって嫌がるんです。だから基本的に受付の私達がやるんですよ。でもあなた達は気にしてないようでしたので」
「はー、そういうことか。じゃあほんとは誰がやってもいいやつだけど、冒険者に魔力使わせるのが申し訳ないからあなた方がやってただけ、ってことか」
「はい、ですので規則違反とかにもなりませんし、むしろ私たちが助かった形ですね。魔力、使わせてしまいましたけど、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないない。こんなことでラムが納得するならいくらでも」
「ふふ、ありがとうございます。では手続きは完了しました。またお越しくださいね」
「ありがとー」
「さよなら」
「また明日ー」
「失礼します」
そうしてギルドは後をした。
何だかんだでお金がちょっと溜まってるので買い物をしたいと言えば、雑貨屋に寄ってくれた。
小型だし従魔登録はしてるので、ラテとラムも一緒だ。興味があるのがキョロキョロしてた。
「あっこのリボン可愛い」
「ん?ナズがつけるのか?」
「あたしじゃなくてラテに似合うと思って。女の子だしオシャレしてもいいかなって」
「ラテは今のリボンがいいみたいだぞ?」
「ええー?」
「というか、ナズ姉が作ったリボンがいいって思ってそうです」
「お、正解っぽい。ハルの頭すりすりしてる」
「ふふふ、ナズ姉、ラテちゃんのリボンを新調するなら自分で作るしかありませんよ」
「う、うぇ~…頑張るけど、あたしセンスがなあ…」
「それこそこういうとこに売ってるの見て参考にすりゃいいじゃん。ほら、こういうのも可愛いぞ」
「自分用に買うのもいいんじゃないですか?」
「あたしには似合わんて」
「…そうか?」
「まあ、もう少し小さい子の方が似合うかもしれませんね。ナズ姉にも似合いそうですけど」
「んー、まあ好みもあるだろうしな」
「…お、それ買うのか?僕の買い物終わったから、買いたいのあるなら付き合うぞ」
「お帰りリオ兄。今はいいや」
「何買ったんですか?」
「色々。あとで見せるよ」
「そっか、じゃあ戻るか。他に買いたいものあるやついるか?」
「今日は大丈夫」
「私もないです」
「じゃ、戻るか」
一応僕が買い物したから冷やかしにはなってないし、大丈夫だろ。店員さんも気にしてなかったし。
ウィンドウショッピングって外国だと嫌われたりするらしいからなあ。国によるだろうけど。
というか、買い物するより早く休みたいのかもしれない。ごめんな、付き合わせて。僕がいないとキャンピングカーに入れないばっかりに…
人気が少なくなってきた辺りでハルが隠密を使って認識阻害を付与し始める。ラテは昨日ので理解したけど、初めてのラムは不思議そうにキョロキョロしてる。
そしていい感じの空き地を見つけて、キャンピングカーを出す。既にラムにも見えるよう設定してるので、飛び上がって驚いていた。
中に入って再度驚くラムに、申し訳ないけど笑ってしまった。
「ぷぷ、ぷ~?」
「ここが俺たちの家みたいなとこだよ」
「ぷ?ぴぷ~」
「そう、リオくんのスキル。あー、ラムの寝床ってどうしようか?」
「ラテと同じようにカゴ出す?違う色にすれば見分けつくだろ」
「いいな、そうしようか!後で選ばせて。今は晩飯の準備しよう。今日は肉よ!」
「う、ウサギ肉か~…」
「煮込み向きなんでしたっけ?」
「コンソメキューブ発見したから、スープ作るわ」
「え、そんなのあったのか…知らん…」
「案外把握してないなリオくん?棚にあったよ。サイコロ状のが10個。使ったら補充されるデフォルト調味料っぽい」
「私も最初の手伝いの時に確認したつもりだったんですけど、まだ全部把握してないのかもしれませんね」
「はー、まあ役立つならいいけど。肉入ったスープなら温まりそうだし腹にも溜まりそう」
「明日になったらもっと召喚の量増やせるし、楽しみになってきたな。肉ももっと欲しい」
「ともかく、明日だねー。あたしも明日もうちょい召喚しよ。レベル上がるかもしれないし」
「アキ兄さん、今日か明日スキルレベル上がりそうですよね」
「そういやそうだな」
アキ兄さん、ハルの順にシャワー浴びて、その後調理にかかってくれた。
黒髪にやっぱりラムがびっくりしてた。というか、よく見たら目と口あるな。さっきまで見えづらかったのは、隠していたのかもしれない。
目と口なんて弱点みたいなもんだし。今は見えるおかげで色々とわかりやすい。じーっとアキ兄さんのこと見てるとか。
うん、ラテもそうだけどラムもキッチン禁止されたからね。でも食べ物を作る場所ってのはわかってるらしく、納得はしたけど気になって仕方ないらしい。
つまみ食いを狙ってるというよりは、何ができるのか楽しみでそわそわしてる感じか。年齢はかなりいってるけど、反応は子供っぽくて可愛い。
人というか、誰かと接するということがなくて、対人関係とかまったく慣れてないのかもしれない。だから反応が素直なのか。
誰かと過ごしてなければ感情を隠したりコントロールする必要もないからな。テイムも初めてなんだろう。そう考えれば対人関係については赤子のようなものか。
そもそもスライム社会がどうなってるのかも知らんけど。でも確実に上位種だよなあ…
ちまちま作業をしてると、晩御飯が出てきた。今日も美味しそうだ。マジでアキ兄さんを勧誘してよかった。
スープは食べづらいかと思えば、ラテは器用に食べていたというか飲んでいた。ラムはスープに顔突っ込む形で啜っていると言うか取り込んでいるというか。
満足そうな鳴き声を出してるので、美味しかったんだろう。皿は綺麗に残ってたので、ちゃんと区別して消化対象を決められるらしい。
まあこの皿が消化されても別にいいけどな。この皿、僕が出したやつだし。
召喚で木の食器が出せるようになった時にいくつか出したものだ。城から盗ってきた食器はあるが、そこまで質はよくない。質がよくないから盗ってきたとも言う。
価値あるものを盗んだのがバレたら追ってきそうだし。どうでもいいものばっかり盗んだなら僕らの存在ごと放置するって選択もとれるだろうしな。
木の食器のいいところは割れにくいことだ。あと意外と軽い。皿もコップも厚みがあるのでちょっと無骨っぽく見えるけど、そういう見た目は全員気にしてない。
何ならこれ外でも使えそうだなと大歓迎されたのである。陶器とかガラスの皿やコップは割れやすいから、外ではちょっとね…
今の所野営する予定はないけど、そういう時も使えそうだし。多分、もっとレベル上がったら陶器やガラスの食器も召喚できると思う。
そうしたら今ある城からの盗品食器たちは全部ダストシュート行きになるだろう。そんなの盗んだりしてませんよハハハって言えるし、完全犯罪の成立だ。
あれ?こういう思考が駄目なのか?だから詐欺師とか出たのか?今は変わったけど。
「ラム、美味しかった?」
「ぴぷ!ぴぴぷー!」
「震えまくって興奮してる。満足したっぽいな」
「明日からはもっと食べさせてやるからな…!」
「量…量がね。あたしらは満腹だけど、多分スライム的にはね…」
「スキルにも飽食ってあったしなあ。あれ大食い系スキルの上位スキルだよな?」
「確かエネルギーを蓄えておけて、HPやMP減った時とかに回復速度爆上げするやつですね。自動回復系ほど強力でもないけどかなり生存力高めるスキルです」
「いっぱい食べさせなきゃ…!」
「ただでさえHPとMPおばけなのに、さらに回復速度上昇…敵で出たらどうやって倒せばいいのこんなん」
「魔法とか?」
「耐性があるんですよね」
「味方でよかったって結論でいい気がする。ラムーありがとー」
「ラムちゃ…ラムはいいけど、同種スライムが出たらどうするの?」
「い、いないだろ、こんなヤベースライム…そこらにいたら世界滅ぶわ」
「でもラムがいたんだよな。唯一種でもない限り、いるんじゃないか…?」
「リオ兄怖いこと言うやん。てか何?極稀に鬼強モンスターがポップするの?トランタ近くの森って」
「二回ありましたからね。二度あることは三度ある、って考えると…スタンピードの前兆とかじゃなければいいですけど」
「怖い怖い怖い何てこと言うんだ俺ノミの心臓なんだぞ!」
「ぷぷ~?ぴぷー」
「多分それはないって言ってくれてる!気がする!」
「アキ兄の希望じゃん!」
この飽食スキルもそうだけど、大食い系のスキルは便利ではある。が、デメリットもある。程度は軽いが、空腹を覚えやすくなるのだ。
そのため何でも食べようとするようになる。古くなった食材などもだ。そしてスキル名のように、食べる量が増える。
単純に増えるわけではなく、好物であれば少量でも満足度が高い。逆にまずいものや古いものは量を食べないと満足できない。
食べたことがないようなものだと満足度もかなり高く、驚くほど少量でもいい。今回のラムはこれにあたるのだろう。
恐らく、僕らの前に出てきた時は空腹すぎて、おにぎり程度の匂いでつられてきた。当然、異世界の料理なんて食べたことは無いだろう。
飽食レベルのスキルの場合、それこそ牛何頭分かの量が必要なはずだ。けれどラムは晩御飯で満足したらしい。
ステータスも、やや空腹から普通になっている。空腹が解消されている。大食い系スキル最大ともいえるデメリットが打ち消されている。
今まで食べたことがない味、それも料理スキル持ちなのでかなり美味しい。慢性的に空腹に悩む魔物からすればアキ兄さんは垂涎ものの存在なのかもしれない。
おかげで、ラムというトンデモ戦力がテイムされてくれたわけだけど。うん、さもありなん。
「そういえば、リオ兄、雑貨屋で何買ったの?」
「あ、確かに何か買ってたな」
「ああ、忘れてた。今出す」
「…え、何ですか、これ。必要あります…?」
「ゴーグル、モノクル、あと何だこれ。懐中時計…?あ、違う、虫めが…ルーペか?」
「言っちゃなんだけど、雑貨屋で買っただけあって子供のおもちゃっぽい」
「こういうのが必要なら専門の、それこそギルド御用達の店で買った方がいいのでは?ゴーグルも暗視能力がついた魔道具がありますし」
「でもそれダンジョン用だろ?…もしかしてダンジョン行きたいのか?別にいいけど」
「あ、いや、違う。雑貨屋で買ったのは単純に金の問題というか、おもちゃの方が子供らしいというか」
「…そういえば3つしかないけど、リオくんの分は?」
「僕の分はいらない。だって僕もう眼鏡あるし。この3つ、三人の鑑定用に買ったやつだよ」
「…鑑定用?」
「そう、僕のスキルで今この3つに鑑定能力付与した。しばらく身に着けるかポケット入れるとかでもいいけど、持っててほしい」
「え、待って、鑑定ってあの鑑定!?これに!?」
「そう。でも買ったばかりだしおもちゃ程度の出来のものだから、能力発現にちょっと時間かかる。3人の魔力がなじむとそれぞれ専用の道具になるから」
そう言って、僕はゴーグルをアキ兄さんの前に、ルーペをナズの前に、モノクルをハルの前に置いた。
アキ兄さんは普段男装してるし、カツラも前髪が長めだ。ゴーグルをしてもそこまで目立たないし、帽子もゴーグルがかかっててもおかしくない見た目だ。
普段帽子につけておいて、要所要所で使えばいいと思う。
ハルは大人しそうな外見で、この中ではどちらかといえば後衛タイプ、参謀タイプに見える。なので、モノクルをつけていてもイメージは変わらない。
頭良さそうな子、というイメージが定着してきてるし、実際頭はいいし記憶力もいいのだ。
ルーペは特に考えてなかったけど、とりあえず『何かを見る道具』を探していて、ちょうどいいと思って選んだものだ。
それに元々子供用のおもちゃとして作られたのか、小さな穴が空いている。紐を通して首にかける用途で空けられたのかもしれない。
紐、糸と連想して、ナズに渡すのが何となくしっくりきたのだ。
このルーペはほんとに少しだけよく見えるというもので、顕微鏡やもっと細かいものの観察には向かない。それでも子供はよく見えると喜びそうだ。
そうして子供が使うことを想定してるのか、見た目はただの丸くて厚みのある謎物体。アキ兄さんが言ったように懐中時計にも見える。
これは側面にルーペがしまわれており、蓋のように見える部分はカバー代わりなのだろう。側面を軽く押すと、中にあるルーペが出てくる。
一部で固定されてるのか、蓋とルーペはつながっており、分解はできない。完全に出すと8や∞のように見える。
そして蓋部分はちょっと固い素材なので、持ち手代わりに使える。顔に固定できないので不便かもしれないが、ゴーグルもモノクルも一点ものだったのだ。
というか、この世界、機械で量産とかされてないので、ひとつひとつ作っているのだろう。それを思えば、こうして目当てのものが3つも見つかったのは幸運かもしれない。
僕のスキルは『道具の力を引き出す、または強める』という方向性の能力だ。まったく関係のないことはできない。
眼鏡に付与された能力が『よく見えるようになる』という方向性の能力だったように。あとは若干目に対する防護もあるか。日除けとか。
鑑定の能力も、その延長線上だ。視た対象の情報が見えるようになる、という。なので、鑑定の能力を付与しようと思えば、そういう道具を使うしかない。
何かを見るための道具であれば、鑑定能力が発現するはず。そう考えて探しだしたのがこの3つ。
別に望遠鏡とかそういうものでもよかった。けどあの雑貨屋にはなかった。
僕のイメージも反映されるのか、『ガラスとかそういうものを通したらよく見える』と、そういう固定概念がある。
本当は僕の召喚から出せればよかったけど、生憎そういったものはまだリストにない。
というか、ガラス製はまだひとつもないのだ。そのため、召喚は諦めて、道具を購入するという方法をとった。
「今まで、情報が知りたい時は僕が鑑定しなきゃいけなかった。でもそれだと面倒だろうし、それぞれが鑑定できるようにしようって思ったんだ」
「ま、まじか…本来鑑定ってそうそう出来るもんじゃないってことだったから、最初から諦めてたよ…」
「うん、やっぱ難しいらしい。今はまだ出来ない。質のせいか、僕のレベルが低いせいか、鑑定能力の発現には至ってない」
「それで、しばらく持ってろってこと?魔力がなじむって言ってたけど」
「僕が眼鏡に鑑定能力を発現できたのは、この眼鏡が僕の所有物だったから。僕のスキルの力が反映されるのに一切時間かからなかった」
「…なるほど、今のこのゴーグルとかは、買ってきたばかりで所有者がいない状態…ってことですか。何なら雑貨屋の店主が所有者かも」
「そう。だから、それぞれの所有物って認識させないといけない。道具って使ってるうちに使いやすいって思うでしょ?そんな感じ」
「あー、買ってきたばっかの時はまだよその子感あるよな。ペンとかも、だんだん使い心地よくなってくる。自分が慣れたせいもあるだろうけど」
「なるほど、そんな感じかー」
「うん、すぐに使えるようにはならないけど、出来れば早く使えた方がいいと思って用意した。数日かかると思うから、今日から持ってて。スキルは使ってるからあとは時間だけ」
「よし、わかった!ありがとう!」
「えー、それで買ってくれたの!?ちょ、お金払うから!」
「あっそういえば、個人のお金から出して買った!?払う払う!」
「いや、スキルの経験値稼ぎとお試しでやったもんだから、うまくスキル使えず反発して壊れる可能性あったし、そんなんでテキトー気味に選んだもんだから、もらって」
「え、ええー…」
「初めての味付け試すために材料買って、失敗したら捨てるだろ?成功したらみんなにふるまうけど。そんな感じで買ったやつ。成功したから渡してるだけ」
「でも、成功作なら払うべきじゃ…」
「24歳の大人から14歳の若者に贈り物です!年上をたてて!」
「う、そ、そう言われると…」
「じゃあ、いただきます…?」
「うん、もらって。うまく使ってくれると嬉しい。元はおもちゃだからあんまいいもんじゃないけど」
子供が調子に乗って買ったもの、のようにも見える。すごいものだとは思わないだろう。しかも持ってるのは子供だ。
多少の微笑ましさで見られることはあっても、間違っても奪おうなんて考える奴はいないはず。盗むより自分で買えという話だ。
そういう大したことがなさそうな見た目のもの、というのも雑貨屋なんて場所で買った理由だ。
モノがいいという意味では、ギルド御用達の店が最高品質だろう。何より冒険者が使う前提で作られてるので丈夫だ。
でもその分お高い。金がないやつが奪い取ろうなんて、馬鹿なことを考えるかもしれない。
そんなものを、たったレベル2の14歳の子供が持っていたらどうなるか。…馬鹿が狙ってくるに決まってる。だからこんなのを選んだのだ。
実際はスキルで本来のものより丈夫だし、かなり弱いが自動修復もある。価値で言うとそれなりのものだろう。鑑定があると考えればさらに価値は上がる。
そんなものだと思わせないようにしたのだ。偽装スキルなんてあればもっとうまく出来るかもしれないが、ないものを求めても仕方ない。
ハルの隠蔽も、今は見えてるものには使えないらしい。今できるのは、普段見えてない…それこそステータスくらいだ。それでも助かるが。
そのうち道具も見えないようにしたりとか出来るかもしれない。けど、他のスキルの影響下にあるものには力が及びにくいらしいので、ゴーグルに使えるのはまだ先だろう。
「多分、リオ兄さんの鑑定より質は低いでしょうけど、楽しみになりますね。アキ兄さんが鑑定したらきっと美味かどうか出たりしますよ」
「そういえば、鑑定する人によって結果違うんだっけ」
「美味しいかどうかわかるなんて最高では?」
「そうだな。あ、注意点として、鑑定使おうとしたら魔力ちょっと使う。でも、僕と違ってみんなはスキル経験値にならないの注意な」
「えっ」
「あ、言われてみれば!?」
「リオ兄さんは、眼鏡に付与した自分のスキルの力…なので経験値になる。でも私達はただの借り物でしかない。なるほど…」
「ああー…鑑定しまくりって出来ないのかー…」
「MPはスキルの方に使いたいしねえ…どうしても必要な時とかの手段か。いや、それがあるだけでかなり助かるけど」
「…使い続けてれば、スキルとしての『鑑定』スキルを覚える可能性もありますけどね」
「勇者ってスキル取得しやすい、みたいな考察あったな。実際一回のテイムでアキ兄さんとナズは従魔術取得してるし、可能性あるか」
「それならリオくんが『鑑定』スキル覚えてないのおかしくない?」
「そりゃ相性があるんじゃないか?剣術持った奴が体術をあっさり取得しても魔術は全然取得できない、みたいに」
「あー…相性かあ」
「私も料理の手伝いしてますけど、料理スキルとか覚えてませんしね。覚えやすいものと覚えにくいものがあるのは確かだと思いますよ」
「それもそうかあ」
渡すものも渡したし、今日やることは大体終わっただろうか。
まだかなり早いが寝てしまおうか。疲労が強いせいか、そんなことを考えた。
が、みんな似たようなものだったらしい。今日は早々に寝ることにした。
四人でベッドに入って、ベッド近くの床にカゴが2つ。片方が淡い紫、もう片方が薄い青だ。ラムは青みがかった銀色なのでこれにしたらしい。
普通に見れば薄青のスライムなので、ブルスライムにも見えるかもしれない。まあ実物をみたことがないので予想だが。
だってギルドの魔物図鑑、絵だし。青い丸っこい物体としか描かれてなかったから、微妙な色味の違いなんてわからない。
まあそれはいいとして、ナズの作った青系の布を敷きつめたカゴは、ラムも気に入ったらしい。頼むから布食うなよ。
布入れた時、食べていいの?と言いたげに口開けたからなこの子。アキ兄さんがめって叱ったらやめたけど。
どうやら、スキルで作られた布はスライム的にはごちそうらしい。マナが多く含まれてる…というか、ほぼマナで作られてるようなものみたいだからな。
だからこそマナを変質させるような形で加工なんて出来るんだろうし。
それ考えたら、よく皿を食わずに残したなぁ…まあキャンピングカーの中のものは食うなって言ってあるし大丈夫だろう。
というか、今一番のごちそうはアキ兄さんが作ったご飯と認識してるようだし。食べていいって言われたものだけ食べてるのかもしれない。
布は、どうぞって差し出したから食べていいものかな?と思ったんだろうか。
ともあれ、今日は疲れた。おやすみなさい。
スライムの名前。
最初は、カフェ繋がりでオレかモカの予定でした。やめた。