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142.砂上の楼閣(芝視点)


―――目を覚ました場所は、どこかの研究室のような場所だった。



(………は…?)



何でこんな場所に。

俺がいるべきは、豪華で、広い部屋のはず、で。

…ああそうだ。作り上げたはずの自分だけの城は、作り物の幻だった。

あの城の連中、俺たちを利用する気だった。隷属なんて、ふざけたものをつけやがって。

誰かに支配されるなんて我慢ならなかった。怒りで燃えた気がした。

いつの間にか、その隷属なんてモノは消えていたようだが怒りを抑える理由にならない。


活躍するはずだったダンジョンに入る前に、何匹もの魔物が襲ってきた。

結果的に俺たちは無事に済んだが、クズ共は全員連れ去られた。

俺たちに恐れをなして、ゴミでしかない奴らを餌と定めて攫って行ったようだ。

ざまあみろと思った。生き残るべきは俺たちだと天が味方してると思った。

けどその場で、俺たちに隷属なんてもんがつけられてるのがわかった。

誰かに、他人にいいようにされるなんざ我慢ならなくて、前に盗み出した転移玉を使って逃げることにした。

転移玉を使おうと手に取った時、同じことを考えてる奴を見つけた。

確か、眞壁とかいう一組の奴だ。スキルは覚えてない、が。



「…おい、俺も連れてけ!」

「…っはあ!?なん…っ」

「いいから、使え!」

「…うわ、何す…ッ」



眞壁が使おうとしていた転移玉を利用した。

一人じゃなくて俺も含めて転移するように。単に範囲内に入っただけとも言う。

眞壁が持ってた転移玉は三つとも使った。これだけ離れれば城の連中も追えないだろう。



「…っ、何、すんだよ…!俺、二つしか使うつもりなかったのに!無くなっちまったじゃねえか!」

「うるせえな、逃げられたんだからいいだろうが!」

「ふざけんなよ、お前…!」



逃げられたならいいだろ。俺のおかげで逃げ切れたかもしれねえってのに恨まれる理由がわからねえ。

が、こいつのスキルは確か結構使えたはずだ。確か『結界』だったか。安全地帯が作れるスキルだ。

…機嫌損ねたまんまじゃ面倒だな、仕方ねえ。



「ほら、一個やるよ」

「は?」

「二つ使って一つ残す予定だったんだろ、転移玉。俺が持ってたやつ一個やる。連れて来てもらった礼だ」

「あ、ああ、まあ、それなら…」



礼なんて全く思ってねえけど、こう言っといた方が俺に感謝するだろ。

あーあ、転移玉二つになっちまった。もったいねえ。

いつか隙見て取り返せばいいか…


転移してきた場所の近くに廃屋を見つけたので、ここを拠点にすることにした。

眞壁も賛成したしな。野郎二人で過ごすのかよ。せめて女と一緒ならな…

でもこいつの結界スキルは役立つから文句は言わねえようにするか。

二人で持っていた荷物を分け合って、野営用の毛布やら携帯食なんかで食いつなぐ日々。

魔物は少ないのか、滅多に見なかった。それに食えそうになかったし解体なんてのも出来ねえからスルーしてた。

でも陰気な男の顔ばっか見てんのもなあ…そんな毎日を過ごしていた時。



「反応が…!」

「な、何だその魔道具?」

「ダンジョン内で逸れた時のために班のリーダーに配布予定だったやつだよ。仲間が近づくと反応するレーダーだ」



といっても、範囲はそこまで広くないらしい。

俺は聞かされた範囲以上の広さを索敵できるみたいだけどな。

素晴らしいって皆に言われてたけど…あれも俺をおだてるためだったのか?いやでも実際に範囲は広かったんだから事実か。

そしてその反応を見ると、範囲内に誰かがいる。

が、しばらくすると消えた。範囲外に出ちまったらしい。


魔道具を持って廃墟から出て、索敵範囲を広めるように集中して…



「あの山みてえだな」

「うわ、あの高い山かよ。誰がいるってんだ?城の連中が追ってきたんじゃねえだろうな?」

「俺が見つけられたんだ。千晴が俺を呼んでるに決まってるだろ」

「…は?林?」



そうか、千晴とのイベントはこんな遠くで起きるやつだったのか。

しばらく会ってねえけど、やっぱ主人公である俺にヒロインとの再会イベントは用意されてたんだな。

あの城の奴らから逃げ出すってのがフラグだったのか。

何言ってんだ、みたいな顔してる眞壁は無視だ。

千晴が見つけてくれって言ってるなら、迎えに行ってやるしかねえだろ。



「俺は山に行ってくる。携帯食もらってくぞ。戻る時は転移玉で戻るから、お前はここで『結界』張ってろ。転移したやつは結界内に通すよう設定してろ」

「は?お、おい…」

「すぐ千晴連れて戻ってくる。多分数日かかんねえだろ」

「いや、でもよ…」

「千晴がいいって言ったら、お前にも共有してやってもいいんだぜ?」

「………っ」



隠してたのかはわからねえけど、コイツも千晴のことが好きなのは知ってる。

まああれだけイイ女だからな。無理もねえ。

って言っても、本当は共有してやるつもりなんかねえ。千晴は俺のもんだ。

でもこう言っときゃ、結界張ってじっとしてんだろ。正直、この結界スキルには助けられてるからな。

あーあ、俺もゲットしときゃよかったぜ、このスキル。


体技スキルがあるためか、長距離の移動もそこまで苦に感じなかった。

山に着いた時は廃屋から出て三日くらい経ってた。携帯食も水も減ってきたな…

でも、近づいてきたためか反応は捉えられるようになった。

ん?四人分…?あ、そういや千晴と同時期にいなくなった奴いたな、茜とか。

あと誰だっけ?静と…ああ、村雨か。うわ、いらねえな。千晴だけ連れだしゃいいか。まあ茜も連れてってやってもいいかもな。

けど、俺を見たら村雨が追いすがってきそうだな。うっぜ…ぶっ飛ばしとくか?



「…ん?ノイズ…?変だな、近づいてきたならクリアになるはずだろ…?」



山を進むにつれて魔道具の調子がおかしくなってきた。

まだ千晴と他三人の反応は捉えられてるけど…

あ、わかった、この山か。そういや魔道具は近くに大きなマナがあるとイカれることがあるとか言ってたな。

質の低い魔道具ほど、濃いマナにやられちまうとか何とか。

そうか、この山、マナが豊富な場所なんだな。

魔物避けと探索の魔道具、大丈夫かよ…?何とか堪えろよ。

調子が微妙になってきて範囲が狭くなった感じはするけど、物理的に近づいてるためか反応がなくなることはなかった。

山を進んで、森を抜けて、岩ばっかの地帯が眼前に広がる。

うわ、結構登ってきたな、これゲームだと第二ステージとかになるんじゃねえか?



「でも反応は近い、もう見えるんじゃ…クソ、岩山が邪魔で向こうが見えねえ」



でも岩山の向こう側っていうかなり近い場所にいるはず…

は?遠ざかってる?何で?

あ、違う道を行こうとしてんのか?クソ、めんどくせえな、追いかけるか。

魔道具の反応を頼りに進むが、あっちも別のルートで下山しようとしてるのか、遠ざかる。

ああクソ、姿が見えりゃ千晴に俺はここだって言えるのに。そしたらこっちに来るはずなのに。


―――キェエエァア…



「…っ、何だ?魔物か…?」



鳥か何かの魔物の声が聞こえた。そういや遠くから鳥っぽいの見えてたな。あれ魔物だったのか?

でももっと高いとこ飛んでたはずだろ。こんな下の方来ねえよな。気にせず進むか。



「…うおっ!?」



いや、いるはずねえって思ったばっかなのに出やがった!でけえ!

槍を振り回して追い払う。魔物避け、効いてねえのかよ!?

あ、でも嫌がってるか?纏わりつくだけで攻撃とかもしてこねえ。

ビビってるってことだな。じゃあどっか行けよ!わざわざ倒すの面倒なんだよ!

くそ、千晴を追いかけなきゃいけねえってのに…

魔道具を頼りに目でも探す。この辺りにいるはずなのに。


そう思ってたら、やっと見つけた。山道を走り抜けてる千晴だ。

何かやけにぼんやりしてるような気がするけど千晴に違いはない。

必死で追いかける。声は聞こえてるはずなのに、こっちを見もしない。離れて行く。

何でだよ、迎えにきてやったのに!思い切って曲がりくねった道を走るのが煩わしくて飛び越えた。向こう岸に着地すれば、千晴がぐっと近くなる。

気づかなかったが、そこには千晴以外にも三人の女がいた。うわ、いつ合流したんだよ。


まあいい、目当ては千晴だけだ。一番近くにいる静はスルーして千晴に手を伸ばし…



「フギョァッ!?」

「ぶっふぉお!」

「リオくんナイス!」

「まあガラスに正面衝突したらそうなりますよね!」



いきなり目の前に障害物、みたいなのが。

透明の、ガラス?何でこんなとこに!?

茜がリオとか言うから、もしかして今の村雨の仕業かよ!?

あいつ、俺が千晴しか見てねえからって嫉妬して自分の存在を主張したのか!?マジうぜえ女だな!


走る速度がちょっと遅くなったけど、元より男と女。俺ならすぐ追いつける。

近づいて転移玉であの廃屋に戻れれば、それでいい。

眞壁の奴には三人の誰かかもう三人とも押し付けてやりゃ満足するだろ。俺マジで優しいな。

転移玉の範囲まで近づいて、使うために手に持って掲げた時、いつの間にか村雨がすぐ近くに来ていた。


は?


そこからは最悪だ。

何故か村雨と二人で山に取り残された。ペットの鳥みたいなのもいたけどノーカンだ。鳥とかうるせえだけだろ。

近所のカラスなんか俺を見るとギャーギャー鳴いてうぜえし。ゴミぶん投げてきたこともあったからな。最低だ。

何でこんな奴と二人っきりにさせられなきゃなんねえんだよ!つか何で転移玉で転移できねえんだ!千晴はいなくなってんのに!

こいつ、どこまで俺と千晴の邪魔すれば気が済むんだ。どんだけ俺に執着してんだよ!

一回、ぶっ飛ばして嫌いだってわからせた方がいいな、これ。

今までは一応女だからってことで乱暴な手は遠慮してたけどよ。


何か俺のこと好きじゃねえとか世迷言言ってたけど、そこまでして俺の気を引きたいのかこいつ?

この手が通じねえってわかった途端、今度はあからさまに苦しむフリまでしやがった。

「体がつらいの、助けて」とでも言いたげだ。誰が助けるってんだ。

色気も何もねえ下手くそな悲鳴を上げた直後、村雨を見ると様子が変わってた。



「は?何だ、これ…?いきなり髪が伸びて…?」

「あーーー…くっそタイミング悪い…」



そう言って立ち上がった村雨は、何か違う人間に見えた。

いや、顔はほぼ村雨で本人に変わりはない。でも髪が伸びてるせいか雰囲気が変わって見えた。

何かの魔道具で変身でもしたか?俺に気に入られたくて?

あ、でも確かにちょっと大人っぽく見えてほんのちょーっとは俺好みに近づいてるかもな?

千晴より足りねえけど、胸もあるし。

これなら相手してやっても、まあ、いいかもな?

そう言ってやったのに、照れがあるのか拒否しやがったけど。…うぜ、駆け引きのつもりか?

大人しく言う事聞くなら相手してやってもよかったけど、嫌っつーならマジで相手してやんねえぞ?後でどんだけ泣いて縋ってもな。


それを察したのか、次はどっかから外国人の美女を連れてきたみたいだ。一緒に可愛がってくださいってか?

これも魔道具か何かか?転移玉か?つか、こんな美女とどうやって知り合ったんだコイツ。

美女を紹介すれば自分は無視されると気づいたのか、紹介しようとしやがらねえ。

ただ、会話の中から美女の名前がシルバーってことはわかった。

つか、うぜえな村雨のやつ。自分と仲良くしねえと美女を紹介してやるもんかって思ってんのか?

美女と自分がいかに仲良しか、みたいな態度を見せつけてきやがる。

村雨なんかといたら、美女の質が下がっちまう。そう思って俺の傍に来るように言ったけど、同性の方が安心するのか全然こっちに来てくれなかった。シャイか?

そんなことしてるうちに何故か魔物が襲って来て、何とか跳ねのける。

何か村雨もずっと着いてくるんだけど、どっか行かねえかなコイツ。俺は美女と並んで逃げてるけど、ずっとくっついてきやがる。

まあ多少魔物を追い払ってはいるみてえだけどよ…


結局魔物は、鳥が倒したらしい。

村雨が鳥に命令してるような、飼い主ムーブしてたけど、こいつそんな力ねえだろ。

自分といれば鳥が魔物倒してくれるから楽だよってアピールしてえのか?

自分の力じゃねえのを自分の手柄にするその態度が気に入らねえ。

そう思って懲らしめてやろうと思った。ついでに美女に俺の強さを知らしめたかった、のに。



「…ッ、ガ、…っ!?」

「はい、勝ち」



―――何が、起きた?

振るった槍が、何かオモチャみてえになった。振るうとゴムみたいに曲がる。何でだ…?

これは城の連中が用意したそこそこ良い槍のはずだ。刃こぼれもしないし、自動修復機能なんてもんもあるすげえ槍、のはず。

もちろんそんなのが刺さるはずもない。あっさり村雨にべちんだかぶにょんってマヌケな音で受け止められて…

蹴り、を入れられた?俺が、村雨なんかに…?

痛いって感覚さえわからず地面に叩きつけられて、せめてと思って睨む。

そしたら、ごめんなさいって泣き喚くと思って。


なのに、何だよ、その目。そんな、どうでもいいものを見るみたいな、目。

そんなはずねえ、こいつが俺をそんな目で見るはずがない。そう思った直後、気を失った。


―――そして、今だ。

山にいたはずなのに、何だ、ここ?廃屋でもない。どっちかっていうと、元の世界にあるような室内…



「…起きたのね、シバカイト」

「もー、面倒起こしてくれたヨー」



女の声がして、そっちを見ると、ドアから二人の女が入ってきた。

変な着ぐるみを着て。え、マヨネーズのパッケージにいそうな、え、何?あと何か関西とかにいそうなゆるキャラ…?



「………!?」

「言っておくけど顔は出さないわよ。ただでさえ話にならないのに余計話が通じなくなるってタレコミがあったからね」

「ちょっと息苦しいヨー。エリさん、さっさと終わらせようヨー」

「そうね、メイちゃん」



声からして、大人の女か?もう一人の発音怪しいのはちょっと幼い…とはいえ、成人はしてそうか?

キャラづけでもしてんのか?ちょっとイタい女だな。

大人の女の方は顔見てえかもしれねえけど、いや、顔見せねえってことは声ほど美人じゃなさげか。声は色っぽい女なんだがな。



「…嫌な解釈してそうね。まあいいわ。説明する気もないし」

「そうだネー。でも力の総量少ないし、すぐ吸い出せるからすぐ解放出来るヨー」

「完全に只人にしてしまえば、力を得ることはないものね。それなら後は自由にしてって感じかしら」

「でも、元の場所に戻さないとだからしばらく預かってないといけないヨー」

「そうだったわね…もう、その日までひたすら眠らせておけばいいんじゃない?」

「上に進言してみる?案外いいよって言うかもネ」

「そうね…じゃあ、私たちはお仕事しちゃいましょうか。異世界転移なんてやらかしたツケ、ちゃんと払うのね」

「もうキミの思い通りにはならないヨ。夢から覚める時間だヨー」

「………は?」



待て、待てよ。何言ってるかわかんねえよ。

ちゃんと説明しろよ。そもそもここどこなんだよ。

異世界転移って知ってるってことは、え、ここ、元の世界なのか?

それともまだ、あっちの異世界…?



「ここは、地球よ。どこの国かは…まあ知らなくていいわ。日本じゃないとだけ言っておくわね」

「は…?」

「私たちがやるのは、元凶の男が言ってた情報と齟齬がないかの確認。あなたはあの男と話したことを思い出しているだけでいい」

「出来るだけ詳しーく思い出してネ。そっちの方が映像化しやすいから!」

「は、あ…?」



何、言って…?

あの男って、あの、妙な声のことか?異世界転移を提案した、あの男。

そういや、いつの間にか聞こえなくなってた。異世界に渡った時から聞こえなくなったから、そのせいかと思ってたけど。

てか、何だよ、この状況。

変な椅子に座らせられて、腕も足も拘束具みたいなのが嵌められてやがる。

あとは頭とか、首にもあるか…?それで、そこから、何かが吸い出されてるような、気が…

何だ?何だよ…何で俺がこんな目に遭わねえといけねえんだよ。

ただ、千晴と一緒に異世界で幸せに過ごしたかっただけなのに。一生俺だけ見てればいいって思っただけなのに。

他にも、たまに女に囲まれてチヤホヤされたかったくらい、で。



「…気持ち悪い思考ね」

「大丈夫、映像もなかなかキモいヨ!妄想だから朧気なのが幸いだネ!」

「それ全然大丈夫じゃないわね?」



着ぐるみ女たちが何か言ってる。

声は聞こえるけど、頭にあまり入ってこない。

頭がぼんやりして、靄がかかったみたいで、何でか考えたくもないのに『あいつ』との会話が思い出された。


このままじゃ、千晴はお前のものにならない。他の男のものになりかねない。

俺の言う通りにしろ。そうすれば千晴はお前のものだ。何なら他にも好みの女がいれば、一緒にモノにしちまえばいい。

この世界じゃ浮気者だとか言われるかもしれねえが、別の世界ならそんなこと言われねえ。常識が違うからな。

モテる男は、何人だって女を侍らせていい。むしろそれが出来る方がいい男の証明になる。

…やるか?やるなら、そのための力を授けてやる。俺の言う通りにしろ。


そんなことを言われた記憶が蘇る。

途中までは叶った。女を侍らせても問題ない世界へ行くことができた。

でも、一番の目当てだった千晴は俺の前からいなくなった。

他の女も、多少擦り寄ってはきたけど、それだけだ。手を出す気にならなかった。

千晴に比べて顔が微妙だったりスタイルが良くなかったり。特にクラスメイトとかはガキにしか見えなかった。

それでも可愛がってやろうとは思ったけど、結局最後まで手を出す気になれなかった。興奮出来ねえんだよな…

やっぱ千晴くらいイイ女じゃねえと俺に釣り合わねえか。



「…気っ持ち悪ぅ…」

「重要情報とそれ以外のギャップが酷いヨー。何の拷問?もう見たくないヨー」

『が、頑張ってください、お二方!記録さえ出来れば検証などはこっちでやりますから、映像だけでも!』

「もう私、この件はこれを最後に力使わないからね…!あああやだわ、勝手に思考が流れてくるぅう…」

「あ、エリさん、この映像見るといいヨ!リオだヨ!リオがコイツのことぶっ飛ばしてるヨー」

「やだリオちゃんナイスかっこいい!」

「男に口説かれてる…シルバー?さん、ウケるネ」

「男って主張してるのに信じてもらえてないじゃないウケる。…ありがと、ちょっと気分転換出来たわ」

「気にしなくていいヨー。エリさんの能力とっても大事だからネー」



会話は、頭に入ってこない。

何か喋ってんな、とは思うけど、それよりも頭に次々浮かんでくる記憶に意識を引きずられる。

声だったり、映像を伴ってだったり色々だけど、こんなに一気に頭に浮かんでくるもんか…?

機械だったらオーバーヒート起こしてんじゃねえかってくらいの勢いで、奥にしまい込まれてたもんが表に引きずり出されてかき回される。

何だよ、こんなの考えたくねえのに何で。無理やり思い出させるな。もう休みたい、寝てしまいたい。

なのに覚醒状態っていうのか、意識は落ちてくれない。



「あ、…ア、が、ぅあ゛…」

『あ、ちょっと負担かかってますね』

「気にしないでいいわ。必要な情報全部抜き出せばあとはどれだけ休んでてもいいんだから」

「そうそう、今だけ頑張ればいいんだヨー」

『記憶の方はもう少しかかりそうですか?…能力の方は、全て吸い出せました。もうそいつは只人です』

「了解。ならもう干渉の能力はないのね」

「元々抵抗らしい抵抗もなかったヨ。やること変わんないネ」



苦しんでるのがわかってるはずなのに、誰も気にしてないような、声がする。

労わりとか、そういう感情がまったく感じられない。ただ、自分のやることだけを口に出してる、ような。

…何でだ、何で俺がこんな目に遭わなきゃならねえんだ。

くそ、くそ、くそ…ッ、誰か、助けろよ…!誰か……っ!



「………ぁ…」



―――助けを呼べるような相手が、思い浮かばなかった。


千晴なら…!

いや、まだイベントを起こしてないから、まだ、助けに来てくれるほど好感度が…

手を掴み損ねた、あの山での出来事。

消える直前の千晴の顔を今更思い出した。

どこかで見たことがある顔だ。

そう…


村雨と同じ、どうでもいいものを見るような、煩わしいものを見る、目だった。

愛も恋も親愛すらない、あえて抱くなら嫌悪感と言いたげな、顔。



「―――あ、ああぁああああああ…!」



芋蔓式に頭に浮かぶ、同じような顔。

見ないようにしていた、自分への悪感情。

あいつも、こいつも、向原も、眞壁も、村雨も、千晴、も…

きっと、目の前にいる、こいつらも。



「…今更気づいたようね、あなた自身が何をしたか。そういう感情を向けられて当然のことをしたと、やっと気づけたのね。もう遅いけど」

「着ぐるみの中で、私たちも同じ顔をしてると思うヨ。友達を攫った、大事な人を悲しませた、お前はその原因のひとつだから」

「あ、あああ、うそ、だ、俺は、皆に、好かれて、尊敬されて、愛され、て…」

「作り物の称賛に酔ってただけでしょう。日本にはこんな表現があるそうね」

「………あ…?」

「…裸の王様、って」

「あ―――…」

「映像が大きくブレたネ。心、壊れちゃったかも?」

「こんな程度で壊れるわけないわ。現実逃避して自分を守ってるだけよ。…滑稽ね」



自分の立っていた場所が、とっくに崩れていたような。

崩れていたのに、気づいてなかっただけだったような。

フィルター越しに見ていた光景が、フィルターを外されてまったく違う光景に見えた。

誰も彼もが俺を好きになる。それが当たり前だと思っていた。でも、自分のことしか考えずに周りをないがしろにしていたら、嫌われるのは当然のことで。

俺だけは違うと思っていた。うまく立ち回って、好かれるはずだと思い込んでいた。この世界は、俺が主役なんだからと。


…俺は主役なんかじゃない。ただ一人の、普通の人間に過ぎない。


それに気づくのが遅すぎた。手の中にあったはずのものは、愛も富も名声も力も、全部全部…もう、ない。

自分の行動で全てを手放してしまったんだと、今更気づいて絶望した。


「ちょっとウザいけど面白い奴」というキャラで寛大な奴や鈍感な奴中心に許されていたので、上辺だけの友情や尊敬は確かにあった。

一年も離れてれば無くなるようなものだけど、相手を本当に大事にしてれば本物の感情になってたかもしれない。

けど異世界での行動で、友情も恋愛感情未満の憧れも全部無くなった。リオ含め。

あとは何かあれば力が増してたかもしれない『干渉』の能力もこの時点で失って只人になった。

才能者の資質は生まれつきで、後天的に得られるものじゃない。只人から才能者になる術はない。力を増した半才能者が才能者レベルになることはある。

1から2にはなれても、0から1にはなれない。

半才能者は、①力が弱い才能者、②または能力の自覚がない才能者を指す。

才能者は、自分の能力を自分でコントロールして行使できる程度の力を持った人を指す。

リオは②の半才能者から、能力を自覚して才能者となったパターン。

芝は①のパターン。


・エリーゼ。精神干渉系の能力。記憶を表に引きずり出す使い方をしていた。僅かだが心の傷を和らげることも出来るし広げることも出来る。

・メイ。映像化能力。頭に浮かんだ情景や情報を映像として映し出す能力。千里眼スキルの『投影』に近い。

エリーゼとメイが組めば大抵の悪事は証拠つきで明るみになる。

専用の記録媒体(研究室開発)に落とし込めば、誰でもDVD観る感覚で見ることができる。極悪。


芝の記憶は自分の都合のいいように何ヶ所か改竄されている。

山の魔物を倒してたのはリオとルーじゃなくて自分だとか、自分が二人に着いて行ってたくせにリオが自分とルーに着いてきたとか。

なお、この記憶は芝がそう解釈と改竄してるだけで、エリーゼやメイが引きずり出した『記憶・記録』はそのまま起きた情景が抜き出されてる。

実際は嫌悪感たっぷりの顔で見てたのに、愛しい者を見るような顔をしてたとか、よくわからん記憶に置き換える人っているよねっていう。

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