135.異世界での再会
リオ=村雨涼
ハル=林千晴
ゼイレム近くの山の中腹。
ここは、銀級レベルの冒険者では死にに行くようなものだと言われる難易度を誇る場所。
幸い、魔法攻撃が通じるので、ダンジョンなどで得た属性剣や属性弓など、魔法攻撃に変換できる武器があればそれなりに立ち回れる。
逆に言えば、物理攻撃の手段しかなければ、この山の攻略自体を諦めるべきだ。
そして対策をしていたとしても、踏み入れてはならない場所に踏み入れてしまえば命の保証は出来ない。
火を纏う災害級の鳥の魔物、フレムバードに見つかればまず命はないと思え。
縄張り意識が強いのか、一定の場所に踏み込まなければ襲ってくることはないのがせめてもの温情か。
これが、ゼイレムのギルドで周知されている情報らしい。
ホムンクルスから聞いたものなので、そう間違ってはいないだろう。
もっとも、ホムンクルスはこのフレムバードのことをスーと勘違いしてるか、それが歪んで伝わったものと解釈していたようだが。
まあ、何だ。何が言いたいかと言うと。
魔法系スキル一切持ってないメンツで中腹に佇んでるのは、自殺志願者でしかないってことだ。
僕と芝のことだよ。
「…っざけんなよテメェ!あとちょっとのとこで邪魔しやがって!俺はテメェなんざ眼中にねえんだよ!」
「わー、両想いじゃんやったねー」
「ハア!?耳腐ってんのかよ!?俺はお前のことなんざ全っ然好きじゃねえよ!」
「うん、だから両想いだろ?同じ想い。私もお前のこと微塵も好きじゃねえよ?」
「は?」
「そこまで意外そうな顔せんでも」
「ハッ、嘘だろ。お前が俺を好きじゃねえとかありえねえだろ」
「何で断言できるんだよ。つか何その自信?どっから来んの?お前のやり口見てお前を好きでいられる奴いるわけなくね?」
「そう言って俺の気を引く作戦かよ?相変わらずガキくせー奴だな」
「やべー、話通じねえ。どっかの誰かを思い出すー」
『ムカイバラのことなのだ…?』
スー正解。
何て言うか、自分の中で「こう!」って思いこんだ事実を軸にしてるもんだから、その軸間違ってますよって意見が通らない感じか?
こいつの中で「村雨涼は芝が好きでしょうがない」みたいな事実が出来上がってしまってるんだろうな。吐き気するぅ。
まあ、10年前の僕を考えるとそう思っても仕方ないのかな?いい迷惑である。
正直気持ち悪い。そのせいか、何かぐらぐらしてきたような…
―――ピシ、パキ…
体の奥で響く音に焦りが生まれた。
…違う、精神的な嫌悪感による体調不良なんかじゃない。
前兆だ。この音は、今まで何度か聞いた、アルさんの能力が解ける時の音。
ああくそ、このタイミングでか…!
今はまずい。せめてあと一日ズレてればと思うけど、そんなこと思ってもどうにもならない。
「ぐ………」
「あ?俺に嫌われてるって知って気分でも悪くなったんでちゅかー?」
「きっっも………」
「あ!?ざけんなよ!クソ底辺が俺の邪魔したってだけで許せねえのにふざけたこと言ってんじゃねえよ!」
『あ、主!?大丈夫なのだ…!?顔色悪いのだ!』
「つか何だこの鳥?空にいるのもだけどよ…てめえの差し金か?そんなに俺と千晴の邪魔してえのかよ!」
「………はぁ?」
何でハル?
…ああ、駄目だ。無理やり掛けてもらった能力なせいか、反動が酷い。
しばらく『透過』の能力で解けないよう集中していたのも理由かもしれない。
無理に引き延ばしたせいで、アルさんが掛けてくれた能力が薄まって、変身時に感じる反動を限りなくゼロにする力が消えてるのかも。
熱いような、冷たいような、頭が割れるような、揺さぶられてるような、そんなよくわからない感覚。
あ、これは駄目だ。体調に表れる不調の波が引く感覚がしない。これ以上この姿を保つのは無理だと本能で察した。
このまま、…解ける。
ピキ、パキ、バキッ―――…
「ぐ…っ」
『主!』
「ああ?んだよ、体調悪いフリして俺の気を引こうってか?てめえなんか介抱してやるかってんだよ。千晴と俺のハッピーライフを邪魔しやがって」
「………っ」
「ぶっ殺してやろうか?大好きな俺に殺されるってんなら本望だろぉ?」
『っこの、壁バン男、燃やしてやるのだ…っ!』
笑かすなスー。何だ壁バンて…あ、さっきの?
物理壁に思いっきり顔ぶつけたから?まああれは意図してやったもんだけどさ。
笑いたいのに笑えるだけの余力がない。
体の中心から沸き上がる熱と痛みで割れそうだ。実際、割れそうなのは間違ってないだろう。
14歳の僕の体を突き破って24歳の僕が出てくるようなイメージなのかもしれない。
立っていられなくて膝をついて、右手で胸元のあたりの服を掴んだ。
…熱い。
熱い、けど、違う?
あれ、この熱さは、内側じゃなくて別の…
「…ぅあっ!」
『主っ!』
―――バキン!
一際大きな音がして、さっきまで感じていた頭痛や体を巡る熱さや冷たさが一気に引っ込んだ。
そして俯く顔の横から垂れる黒いものは…
「…髪…」
『あ、あるじ…?』
「は?何だ、これ…?いきなり髪が伸びて…?」
「あーーー…くっそタイミング悪い…」
見える範囲に地面についた手が見えた。大きさは大して変わらないが。
一番変わったのは、髪型と身長くらいだろう。あと顔も大人っぽくはなってる、はずだ。自分では見えやしないけど。
…ああ、もう。こんなとこで元の姿に戻るなんて、本当にタイミングが悪い。
体調の悪さも無くなったので、一気に立ち上がって、スーを見た。
めちゃくちゃ驚いてるみたいだけど、一瞬ハっとしたかと思うと、普通の顔に戻った。
既に話してあるので思い当たったらしい。これが本来の僕だってことに。
「は?イメチェン…?」
「はあ?」
「へー?ふぅーん?お前、俺の気を引きたいにも程があんだろ。魔道具か何かか」
「…何言ってんだお前」
「まあ、さっきまでのお前よりはマシだけどよー。もうちょっとあった方が俺好みっつーか?頑張ってその程度かよ」
「あ?」
「何なら協力してやろうか?そんなに俺に構って欲しいってんなら、ソレでっかくしてやってもいいぜ?」
「ああ、そういえばお前女の敵だったな」
さっきからどこ見てんだこいつ、と思ったら胸見てやがった。このドスケベ野郎。
そりゃ14歳からは成長してるだろうけど、こいつの頭どうなってんだ。
この姿になったの、芝のためとでも思ってんのか?どんな勘違いだよ。
まあ事情を知るわけもないから勘違いしても仕方ないのか?説明してやる気はないし、勝手に勘違いしてろ、もう。
「あー、ってなると、よく見えねえし服は邪魔だな。切っちまえばいいか」
「この服に何かしたらブチギレるぞ私は」
ナズの作品だからなこれは!!!
槍を構えるのはいいけど左手の動きがキモいんだよ。何揉んでんだ。いや、考えたくない。
今、芝との距離は多少あるが、恐らくこれは槍の間合いなんだろう。自分のやりやすい距離に移動したらしい。
僕は超接近戦だからな。落ちてる石を投げてもいいけど…さて、どうしたものか。
『燃やす、燃やす、燃やす…』
落ち着いて、スー。
スーに触発されたのか、上空にいたフレムバードも何だか旋回している。
これ、獲物狙ってる時の動きでは…?そして獲物って芝なのでは…?
「ハッ、大人しくすんならちっとは可愛がってやってもいいぜ?泣いて喜べよ」
「お前最初っから人の話微塵も聞いてねえな。喜べる要素ねえよ」
どうでもいいのに変わりはないけどうんざりしてきた。
投擲玉はないけど、護身術は使えるし無機物干渉スキルも使える。いざとなれば戦輪もある。
ひとまず、気絶でもさせとくか…?
そう思ってお守りに触れて戦輪にしようとした時。
「っわ、熱!?」
『っ、主!?今度はどうしたのだ!?』
そういえば、胸元に感じた熱は内側からじゃなかった。
そうだ、胸元にあるのは、お守りと通信機…で…
それに思い至った途端、それが強く光った。
「うわ…!」
『主っ!』
「な、なんだよこれッ!?」
光を遮ろうとしてくれたのか、スーが顔に飛びついてきた。
でもスー自身も光ってるからどの道眩しいんだけど…いや、スーの光の方が仄かだから目へのダメージは少ないけどさ。
『うー、今度は何なのだー…』
「…何だこの鳥?おいリオ、どういう状況だこれ」
「………んあ?」
スーを顔から引っぺがすと、その向こうに見知った顔が見えた。
でも、それはこの異世界で見るはずがない顔で。
「…幻覚?ピフォルさんちの子の仕業かな?」
「誰だピフォル」
『しょ、召喚者…!?く、黒髪じゃないのだ!』
ああうん、黒髪じゃないな。日本人じゃないもんこいつ。
…何でここにいるんですかね、ルーさん…?
うん、そういえばお守りと通信機を通じて『道』を作るだろうと予想はしてましたけど?
でも本人が来るとは思わんて!せいぜい道具を送ってくるくらいだと思ってたよ!
怪訝そうにこっちを見るのは、仕事仲間であり、元ヤンブラコン野郎のルークだった。まさかすぎる。
「は?何だこの超美女…」
あ、そういやいたなコイツ。
てかその単語はルーにとって禁句なんだけど…今まで何回シメられたか。ちなみにマジの締め技である。手加減という単語はこいつの辞書に多分存在しない。
…いや待って、何か超気持ち悪い顔してないか芝のやつ?
ルーの顔に一目惚れして人生狂わされそうになった奴はそれなりにいるらしいけど、え、ヤバくないか?
どう考えてもルーの顔だけ見て良からぬこと考えてる奴の顔!!!
そしてルーが一番嫌いな人種!!!
ほらー!ルーが超嫌そうな顔してる!お前美形の自覚あるのか!顔歪みすぎ!
「リオ、こいつ殺していいか?いいよな?ハイかヤーしか返事は認めねえ」
「肯定以外の選択肢用意してから質問してどうぞ!!!」
『何かやべー召喚者が現れたのだ…』
「つか思ったより元気だなお前。話は聞いちゃいたが…ちっと聞いてた話とは違う気もするけど」
「そうかもな!多分違うと思うよちょっと今大変なことになってるからな!」
「…このクソガキが関係あんのか?やっぱ殺すか。…あとこの鳥、もしかしてスーとかいうやつか?」
「そうだよ。可愛いだろ。あとで撫でさせてあげるよ。この女の敵どうにかした後でな」
ナズの弟くんと接触してたみたいだし、こっちの異世界での事情もある程度聞いてるんだろう。
そりゃ僕は普段カツラ帽子被ってるし男装してるからな。今の姿とは結び付かんだろ。
…意図せず元の年齢にも戻っちゃったけどさ。
つか、確認するためとはいえ頭わしわし撫でんな。雑か。元から跳ねた癖毛だから別にいいけども。
「へぇー、村雨お前、俺に美女紹介してくれんのかよ?いいぜ、ついでにお前も一緒に可愛がってやっても」
「「は?」」
『変なとこでハモらないで欲しいのだ』
「おいリオこいつ何だキモい」
「ワンブレスかよ。芝だよ」
「………げぇえ…」
「すげー声出すじゃん。どうした?」
「予定狂った…よりによってか…何つータイミングで…」
よりによって?
ああ、でもルーたちも芝については知ってるはずなんだよな。
異世界転移の元凶が芝だと知らせてきたのは、京さんらしいからルーも知ってるはずだ。
会いたくなかったのか?
「いっそここで殺して埋めてくか…見かけなかったって言い張れば…いや…」
「おーい、何か怖いこと考えてね?つか私はとりあえずコイツは気絶でもさせとこうかと思ったんだけど」
「あ?女二人で俺に敵うと思ってんのかよ?スキルもねえくせに。大人しくしてりゃベッドの上では優しくしてやんぜ?」
「うーん、気持ち悪い!生理的嫌悪ってこれだね!」
「リオ、下がれ」
「いや、この世界は私の方が慣れてるから…」
あっちの世界ではルーは結構強いけど、この異世界クラーフじゃ召喚直後の召喚者と同じだ。
多分ルーのことだからレアスキルとか取得してるんだろうけど、レベル1じゃ心許ない。
ここは僕が守らないと。…って、ルーといて僕が守る側なの新鮮だな。
仕事の時は僕が新人なもんだから、ルーに限らず皆守ってくれてたんだよな。
ハッ…これは、恩返しする絶好の機会なのでは?
「ふっ、このチャンス逃してなるものか…!溜まりに溜まった恩、今こそ返してくれる…!」
「…誤訳でもされてんのか?何返されるんだ俺は」
「恩だよ!?」
『報復でも企んでるような言い回しだったのだ…』
「ウッソ違うって!不満は基本その場で発散してるから報復とかないない!」
「…そういやそうだったな、お前はそういう奴だった」
基本こいつは口が悪いので、イラっとしたら地味な方法でやり返したりしていた。
髪にリボン結んだ時はガチギレされたけど、京さんにはグッジョブって言われたな。
でも背中にブラコンって書いた紙貼った時は「別にいいか」ってスルーされたりしたっけ。心広いんだか狭いんだかわからんなこいつ。
てか不満に思ったことは都度「ふざけんな」って意見言わないと気づかないんだよな。日本人ほど空気を読むのは上手くないから。
…いや、訂正。日本人でも空気読めない奴いたわ。
「オイ無視してんじゃねえぞ村雨のくせに!」
「私のくせにって何」
「今この場で一番いらねえ存在はお前だろ。さっさとどっか行けストーカーの妄想ド腐れ野郎」
「流れるように悪口出るじゃん」
「花女と京の意見だ」
「そっか、じゃあ間違ってないな。…間違ってないの?思ってたよりも数倍ヤバイ奴なんだけど!」
「こいつが引き起こしたあれそれの全容聞いたら納得できるしドン引きするぞ」
「やだなあ!聞きたくない!」
「報告の義務があっから諦めて聞け」
「ぅええええ…聞くけど後にして」
「無視すんなっつってんだろ!」
うるせえな。
でもさあ、仕方なくない?だって優先順位考えたら、そりゃ友達との会話が優先に決まってんじゃん。
しかも仕事仲間でもあるんだから、仕事に関する報告ありそうとなると真剣に聞くだろ。
どうでもいい奴なんて、存在ごと頭の隅っこに追いやられたり頭からはみ出しても仕方ないよね。
ってことで今の僕、芝のこと割と軽率に存在忘れるぞ。
『主、多分考えてること半分くらい口から出てるのだ』
「やっべ」
「この声、鳥か?喋れるのか」
「念話ってスキルだよ。任意の相手に声を届けるスキルっぽい。スー、こいつにも聞こえるようにしたんだ?」
『聞こえても問題ないと思ったのだ。そっちの壁バン男には聞かせる気ないけど』
「壁バン男…?何かされたのかリオ?」
「…むしろ私がした側?あのな、全力疾走してきたこいつの顔面に思いっきり透明の壁ぶつけたんだ。悪気はなかった」
「ウケる。よくやった」
「あれてめえの仕業かよ!?何しやがった!」
「だって変質者が爆走してきたら止めないとって思うじゃん。万が一にでも友達に掴みかかったらって思ったら変態死すべし慈悲はないってなるじゃん」
「正当防衛扱いでぶちのめしても許されるだろ」
「あのな、ごめん。…極力、触りたくなかった」
「………そうか」
「ほら、私、か弱い女だからさ…」
「それだけは同意できねえ」
「何でだよ!」
『でも主、直後にコイツの腕捻り上げてたのだ』
「いらんこと思い出さんでよろしい!」
あの時はナズとハルが近かった。少しでも二人から遠ざけようと『物理壁』を出したわけで。
腕を捻り上げた時は転移玉が見えたからだ。使われるとまずいと思って、僕個人の嫌悪感よりも使わせない方が優先だと思った。
まさか、捻り上げただけの衝撃で取り落とすとは思わなかったんだ。
そんな強い力だったわけでもないのに。何だこいつ実はもやしだったのか?僕ごときの攻撃力にビビってんじゃねえよ…
多分レベルは僕の方が上だろうけど、攻撃力低いんだぞ。何ならアキ兄さんがレベル5時点の攻撃力くらいしかないぞ僕。今15なのにな!
そんな、くだらないやり取りで時間を使ったせいだろうか。
スーとフレムバードが警戒の声で鳴いた。
何事かと思えば、周りに魔物が集まってきていたらしい。…ここは中腹だ。中腹レベルの、ゴーレムとリザードが群れでこちらを窺っていた。
…うわ、これはまずい。
「…何だ、こいつら?魔物、ってやつか?」
「やばい、中腹の魔物だ。魔法攻撃がないとマトモに攻撃通らないんだ。一応打撃も効くけど」
「リオは有効な攻撃あんのか?」
「打撃くらいだ。魔法系は無し。怯ませて体勢崩す戦い方で、とどめは他の皆に任せてた」
他に投擲玉でとりもち使ったり、リザード系には刺激物とか目にぶつけて絶叫させたりとかしてたけど、今投擲玉持ってないから使えない。
あとは蹴術メイン、そして攻撃を物理壁で無効化するという戦法で立ち回ってたくらいか。
そうして僕に注目しているうちに皆が魔法の詠唱終えて魔法ぶちかます、というやり方だったからな。
一応スーがいるけど、同じことが出来るだろうか。フレムバードも…助けてくれそう、かな?
あとはルーの能力やステータス次第だけど…
「ちょっと不快感あるかもだけど、いいか?」
「は?」
「有効な攻撃あるかどうか調べたい」
「…まあ、いいが…」
よっしゃ言質とった。
んじゃ、ルーのステータス見せてもらって…
名前:ル*…
年齢:*…
性別:男
LV:1(あと100)
職業:渡り人
状態:MP継続消費・微
HP:70/70
MP:388/500
スキル:体術LV3(あと300) 火魔法LV1(あと100) 空間魔法LV2(あと200) 感知LV3(あと300) 強化LV2(あと200)
「…このチート野郎!才能の塊か!」
「はあ?」
何だ初期スキル5つって!しかもレベル1じゃないの多いって!そしてMP500て!僕の5倍!しかもHPも高い!
これが本当の才能者ってやつか。僕ほんとにミジンコだな…
気にするべきは「状態」のMP継続消費だけど、これ多分クラーフと日本の『道』繋いでるから、道の維持に消費されてるんだろうな。
空間魔法持ってるの、この能力がスキルに変換された時に一番近いスキルだったのかもしれない。このチートめ。
「ともかく、魔法スキルの火魔法があるから多少何とかなるかも。あと体術と強化があるから接近戦もいけそう」
『…魔法の素養めっちゃ高い気がするのだ』
「私、皆無なのにズルくね?」
「お前の能力じゃ仕方ねえんじゃねえか?しかし、火魔法か…確かに使えそうかもな」
芝に聞こえないように小声で伝える。
自分が何をできるか、多少わかったためかどう立ち回るか決まったようだ。
こういう時、ルーの判断力はすさまじい。それだけ、色々あったんだろうけど。
「私は『蹴術』『護身術』『投擲』あたりが攻撃系スキルだ。防御寄りで攻撃力は低い打撃系で、魔法と状態異常は効かない」
「お前の方がチートってやつじゃねえのか」
「周りの魔物は魔法も状態異常も使わないし、私は攻撃手段に魔法系がない上にこいつら防御力高くて攻撃が通りにくいから私と相性悪いんだよ」
「ああ、なるほど。そういうやつか」
「スーは火と光の属性の鳥。魔法系。回復も得意の不死鳥フェニックスが元ネタ」
「それならやりようはあるな。俺は魔法か体術で切り抜けりゃいいってことか」
「私の護身術に『物理壁』っていう物理攻撃を一回無効化できる派生能力がある。攻撃当たりそうだったら出すから透明な壁にビビるなよ」
「よし、わかった。あとの話はこれ切り抜けてからだな。あのシバってのはどうする?」
「無視でいい。やられたらその時だ」
「っしゃ、むしろやられちまえ」
「スー、こいつがレベルアップとかしたらHP回復お願いな」
『了解したのだ!』
変装解除した時に脛当ても外してしまってるが、履いてるのは脛まであるブーツなので多少衝撃は軽減されるだろう。
どう立ち回るか二人と一羽で確認はしたので問題はない、が。
「クソッ、魔物避けが効いてねえのかよ!俺と美女の方来るんじゃねえ!村雨と鳥んとこ行けよ!」
「うーわ、私とスーに押し付ける気満々だよアイツ」
「お姉さん、こっちに!俺と逃げましょう!魔物はこいつらに何とかしてもらえばいいんです!」
「この場にお姉さんてリオしかいねえだろクソが俺に言うな」
都合がいい耳なのか、僕たちが小声で話してるせいか、芝には僕たちの声が聞こえてないらしい。
というか、僕たちは魔物を迎え撃つ気で構えてるってのに見えてないんだろうか。
この状態で何でルーがお前と逃げるって選択肢を取ると思ったのか。
それにしても、こいつは戦う気がないのか?ある意味で魔物と自分の戦力差を認識出来てるのかもしれないけど。
うん、絶対勝てないだろうしな。前に聞いたスキルだと、こいつも物理系だ。しかも槍だから斬撃。
ゴーレムと、リザードの鱗の防御は多少の斬撃だと効果がない。
アキ兄さんでさえ、若干の斬撃痕が残せる程度だ。属性剣だとバターみたいに溶かしたけど。
あとは目とか口にあたる部分を攻撃してたな。ここは普通に攻撃通ったから。
ただ見た目がグロいのでナズが嫌がり、アキ兄さんもハルも魔法攻撃に切り替えたってだけで、そういや物理の斬撃でもそこそこ活躍してたな…?
同じことを芝が出来るとは微塵も思わんが。
若干様子見をしてたらしいリザードが、痺れを切らしたのか襲い掛かってきた。
多少の広さはあるが、崖も近い道なので崖に向かって蹴り飛ばした。落ちた。
大した怪我でなければ崖を登って来そうだけど、思い切り腕へし折ったので多分そのまま落ちてお陀仏だろ。
「相性が悪いって話どうなった?」
「地形を利用しないと駄目な時点で私向きの相手じゃなくね?」
「思ったより逞しく生きてたんだなお前って感想しかねえ」
「この世界、図太く逞しくならないとまずかったからねー」
「あえて俺が守る必要はなさそうだな、っと!」
同じように飛び掛かってきたリザードを、ルーは回し蹴りで崖に落としていた。足長いなクソが。
ほんとにレベル1かこいつ???多分ステータスも高いんだろうな。僕の鑑定じゃ見れないけど!
「…あ?レベルアップ…?」
「今の倒したっぽいな」
『とりあえず回復しとくのだ!』
「…お?疲れが消えた」
「HPが回復したんだよ。レベルアップしたらHPとMP増えるんだ。元のHP数値据え置きで」
「はぁ、あー、これがゲームっつーやつか」
何であれ、レベルアップしたならありがたい。2だろうが3だろうが、1よりマシ。
それにHPが70もあったんだ。2の時点で140になるならだいぶ強いだろ。
リザードが襲ってきたことを皮切りにか、周りにいた魔物が一斉に襲ってきた。
芝が情けない悲鳴出してたけどスルーだ。構ってられん。
元から僕たちが走って移動しようとしていた方向を目指して移動するか。
まだ離れてるけど、あっちにはカーくんを出せるスペースもある。足場が広がればそれだけ有利だ。
崖に魔物を落とせるなら簡単だけど、逆にこっちが落ちるって心配もあるからな。スーがいるので大丈夫な気はするけど。
「あっちの方、目指して移動しよう」
「わかった、けどっ、クソ、数が多いしマトモに攻撃通らねえ、なッ!」
「手数が少ないからなー、スーとフレムバードも頑張ってくれてるけど」
「つか、あいつまでこっち来ようとしてんぞ」
「無視だ無視」
芝も抵抗はしようとしてるのか、槍を振り回していた。
が、ルーよりも攻撃がまともに通ってないし、こっちをチラチラ見てるしどうにかこっちへ来ようとしているようだ。
さっき、僕に魔物をなすりつけようとしてたから目的は明確だ。
そして思い通りにしてやる筋合いもない。なので無視でいい。
物理壁も自分やルーが危険そうな時しか使うつもりないし。
非道と思われるかもしれない。けど、正直そこまで余裕がない。自分はともかく、ルーはまだレベルが低い。何としても守らないと。
スーは飛んでいる上に素早いので、僕のフォローなんていらないだろう。逆に僕らのフォローをしてくれている。
となると、僕はルーを優先して立ち回ればいいわけだ。
上空からのスーの『翼撃』でリザードもゴーレムもダメージが入りまくっているし、足元が疎かになるやつもいる。
そういうのを優先して倒せば道を駆け抜けるくらいは出来るだろう。
なので、こっちは多分何とかなる。
残る懸念材料は、アキ兄さんたちがどこへ行ってしまったか、だろうか。
転移玉は危険な場所へは移動しない。加えて従魔のみんながいる。
まずいことにはなってないだろうとは思うけど、今は掲示板を見る隙もない。
多分、何か情報があるんだろうとは思うけど。頭の片隅に見える掲示板のアイコンが赤く点滅してる。多分緊急連絡だ。
けど確認するだけの余裕が、今はない。
「…ああもう、面倒くさい…っ!」
「ほんとにな。時間もねえってのに、落ち着く暇もねえのか」
「全部あいつが悪い!あいつさえいなきゃみんなで下山してただけだったのに!」
「まあ俺はお前だけに会いたかったから他のメンツいねえのは好都合だがな。報告内容がアレだから」
「…報告聞くの、怖くなってきたなー!」
多分ってか絶対「未来に関係すること」案件だろ!だから10年前の子たちに聞かせられないやつなんだろ!
これ切り抜けても面倒くさいことがあるの確定じゃんか!もー!
どうでもいい情報
ここにいる奴、全員が童貞&処女




