ハッピーエンドのそのまえに
アリス・サーフィス公爵令嬢が学園に戻ってきた時、学園ではお祭り騒ぎとなりました。
あのダンスパーティーの夜以来初めて、誰もが笑顔になりました。
心配しておりましたアリスは、あの夜以前と変わらない、いいえ、前よりも輝く微笑みを湛えていました。
「ねぇ、ミルフィ。誰にも内緒よ?」
そう言ってアリスは、学園を卒業したらアルーシャ先生と婚約する予定であることを教えてくれました。
アリスが、本当に愛する人と結ばれたこと、そして私にだけそれを打ち明けてくれたことが何より嬉しかったのです。
それは、「伯爵家の一人娘のくせに、何も満足に出来ない」と蔑まれて生きてきた私にとって宝物の言葉となりました。
詩的に言うなれば、パンドラの箱から希望が溢れていくような、そんな奇跡のような言葉でした。
あの最悪の夜の最悪の出来事は、時間にすれば30分もなかったかもしれません。それでも、様々な人の人生を変えました。
私が見た事実だけではない真実もたくさんあったのだと思います。
真実は人の心の数だけ秘められているものです。
カイル・ルーカス様は、一切の魔法が使えなくなりました。
今では王宮を辞められたお父様から、通常魔法の基礎を一から学んでいるそうです。
オルタナ先生は、後任の歴史学の先生がオルタナ先生の重大な歴史学の誤認に気づき、学園始まって以来の大問題となりました。
ダンスパーティーの夜のこともあり、もうこの学園以外でも教師を続けることは絶望的とのことです。
イザベル様は、あの夜から一週間もしないうちに男爵家から絶縁されました。
もともと愛人の娘を無理矢理引き取ったうえに、不祥事を起こしたらすぐに絶縁をしたそのやり方に、マリベル男爵家は周りの貴族から白い目で見られているようです。
イザベル様ご自身と、ダン様は平民ですので、その後のことは私の耳には入ってきません。
ただ、今回の件は巷でもかなり噂になっておりますので、平穏とは言い難い生活を送っているのではないでしょうか。
アラン殿下、いえ、アラン様は、第2王子様が正式な次期後継者に指名され、殿下ではなくなりました。
王妃様もお亡くなりになり、アラン様はとある男爵家に養子にいくとのことです。
王宮を追い出されて男爵家の養子に、ということにアリスは何か思うところがあるようでした。
人は誰でも過ちを犯します。
それでも私にとってあの5人の犯した過ちは決して許されないものです。
それにあの夜の出来事で彼ら自身が失ったものも決して戻ってこないでしょう。
けれど、アリスは言いました。
ハッピーエンドのそのまえに、悲しい悪夢を見ただけ。
ハッピーエンドのそのまえに、悪夢は自分で壊したの。
そしてもう忘れたわ。
アリスが忘れるなら私も忘れることとします。
少なくとも、5人が後悔し、反省し、前に進もうとするのなら、その道の邪魔をすることは決してしません。
アリスが愛する人と結ばれて、私の祈りは通じました。
物語はハッピーエンドで終わりでしょうか?
でも、アリスの人生はここで終わりではありません。
これからもアリスはずっと愛するアルーシャ様と人生を生きていくのです。
だから私はこの言葉で締めくくります。
happy ever after
ずっと幸せに。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。
至らないところもたくさんあったとは思いますが、皆さまに少しでも楽しんで読んでいただけたなら、とても嬉しいです。
本当にありがとうございました。