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66部

「秘政会のやつらが前島大臣に罪を着せて私腹を肥やしていたというのは本当の様です。

おそらく『SH』は自分のグループの人間を守るために前島大臣を生贄にする計画だったのでしょう。」

 谷が報告して、伊藤が怒りにまかせて近くにあった椅子を蹴る。西川が落ち着いた声で

「もとから『SH』にとって私達は捨て駒なのだから、このような結果が出ることも想定しておくべきだったということですね。」

「こうなったら、あの『SH』の情報をマスコミにリークしてやるしかないだろ。

犯罪計画を他人に売っている奴がいるってな!」

 伊藤の怒りにまかせた発言に藤江が

「どうやってリークするんですか?

だいたい、存在自体を証明できない『SH』について、正確な情報などありませんよ。

我々のしてきたことの賜物である『マスメディアの信頼を失くす』ことが逆に、あらゆる情報の信用性・信頼性を求めるようになっています。

 我々の知っている『SH』の情報はその呼び方と若い男だということだけです。

この若い男というのもただの使い走りの可能性もありますから何一つとして存在を証明できるものはないと言わざるを得ない状況ですよ?」

 伊藤は反論しようとしたが言葉が見つからなかったのか舌打ちをして黙ってしまった。

「次の一手が肝心です。『SH』の計画のままなら、前島大臣を辞任に追いやる情報を次々にリークしていき、他の大物政治家も辞職させるか自殺に追い込む手段を選択していく。

 その上で、マスコミの信用を覆すような情報を流すことによってマスコミという力を失くす。

 これが『SH』の計画でした。でも、彼に裏切られていた以上、彼の計画をそのまま実行しようとは思えません。」

 西川が落ち着いて話すと藤江が西川の意見に賛同したかのようにうなずき、

「我々独自の計画を考えた方がよさそうですね。」

「そんなことできるわけないだろ。私はこの前も言ったが『SH』の計画があったからこそここまでこれたんだ。私達だけでは何もできない、それが現実だと思う。」

 谷がおびえたように言ったのが気に入らなかったのか伊藤が

「じゃあ、このまま何もしなくなるのか?それとも私がやりましたって自首するのか?」

「いや、そんなことは言ってないけど・・・」

「伊藤さんも谷さんも落ち着きましょう。何も今すぐ何かしようということではありません。

私達の目的を叶えるためのいい策が出るまで動かなければいいんです。

 先の放送も警察が私達を誘い出すために計画を狂わせた可能性がありますから。」

 西川が言うと、伊藤も谷も静かに座った。その時、伊藤の携帯が鳴り、伊藤が立ち上がって少し離れたところで電話に出た。

「ああ、久しぶりだな。・・・・・・・んっ?ああ、そうだよ、・・・・・・・・はぁ、本当か?

 ああ、わかった、教えてくれてありがとうな。」

 電話を切って席に座り直したところで、谷が

「誰ですか?」

「N局にいる情報提供者だ。西川、鈴木のおっさんが警察に捕まったらしい。」

「どういうことですか?」

 西川が問い返すと、伊藤は面倒くさそうに

「まず、あの番組を制作しているのが相田というディレクターらしい。その男は知ってるか?」

「ええ、相田さんは真実の報道を心掛ける人ですし、現場の全体に心配りができる凄い人でした。

あの人の作った番組であの情報が流れたんですか?」

「ああ。その番組を止めに行った鈴木のおっさんが、放送を止める機械に手をかけたところで腕をつかんできた男がいたらしい。それを強引に振りほどいたところ、つかんだ男が警察官で公務執行妨害で現行犯逮捕されたらしい。」

「おかしいですね。放送を止めに行ったところに既に警察がいたというのは完全におかしいですよね?」

 藤江が言い、伊藤が

「そうだ。その時点で既に警察がいて、『佐和田』を名乗った人物からの情報を流している番組を辞めさせようとした人物を捕まえたことの意味がわかるだろう?」

「警察の仕掛けた罠だったから、やめさせるわけにはいかなかった。ということでしょうね。」

西川が言い、伊藤も頷く。

「それで、鈴木社長はどうなったんですか?」

 西川が聞くと伊藤が悪意のある笑みを浮かべて

「まだ拘置所にいるらしい。しかも、会社からは見放されて懲戒解雇が検討されているようだ。

どうやら、乗り込んだ時にパワハラ発言をしていたらしく、逮捕した刑事が相田の番組終了と同時に局のお偉いさんにそのことを伝えたうえで、公務執行妨害をした社長をそのままにすると局のイメージが悪くなって視聴率も下がるのではないかと言ったらしい。

 それを聞いたお偉いさん方は速攻で鈴木を切ることに決めたらしい。」

「なるほど、それでこちらに不都合なこと等は何かありましたか?」

 藤江が聞くと、伊藤が険しい顔で

「ああ、残念な話だが、俺と西川に関して警察が本格的に調べているようだ。」

「それはどういうことですか?」

 西川が聞くと、伊藤はため息をついてから

「鈴木と面会した顧問弁護士が、取り調べで聞かれた内容を伝えてきた中で、俺と西川のことを知っているかを鈴木に聞いたらしい。四枚の写真を見せられて知っている男はいるかと聞かれて俺と西川の話をしたらしい。」

「四枚ということは、ここにいる四人の写真ということでしょうね。」

 藤江が冷静に言い、谷が

「どうするんだ、もう身元もバレてるし、この状況ではどんな手を使っても私達の望んだ情報が公開されることは無くなったということだぞ?」

「公開されないなら、自分達で公開すればいいんだよ。」

 伊藤が言い、藤江が

「どうやってですか?インターネットなどでは模倣した奴らがクズみたいな情報を流しているんですよ。事実の情報でも数に紛れれば相手にされないことくらい我々はわかり切ってるじゃないですか。そうなるとインターネットは使えません。他の媒体もすでに我々が与えたダメージで機能していません。残っているのはテレビだけですがそれももう・・・・・」

「なら、テレビ局を占拠してでも情報を流してやるだけだ。」

 伊藤が勢いよく言うが谷が

「そんなの無理に決まってるじゃないですか。この人数ですよ、何千人って人がいるテレビ局を占拠することなんてできるわけないじゃないですか。」

「そ、それでもやるしかないだろ!沢田さんの理念を遂げるにはそれしかないならやるしかない。

そうだろ、西川?」

 西川は目を閉じて何かを考えているようで、なかなか返事が来ない。そして、西川が目を開け、「それしかないかもしれないですね。」

「おい、西川君まで何を言ってるんだ。正気か?」

 谷が聞くと、西川は

「テレビ局全体を占拠することは難しいかもしれませんが、番組を一つ占拠するくらいならできると思います。出演者や番組スタッフを人質にとれば情報を公開するぐらいの時間は稼げると思います。」

「でも、それは実行している我々には逃げ道が無くなる、いわば、特攻だろう?

我々にはもう帰る場所はないが、西川君には家族がいるじゃないか?

 本当にいいのか?」

 藤江が心配そうに西川に問う。西川は覚悟を決めた顔で

「皆さんも私の家族のようなものです。それに、ここに来る前に妻とお義父さんにはすべてを話してきています。捕まったとしても私に後悔はありません。」

 藤江は西川をじっと見た後で、諦めたように

「じゃあ、計画を考えないといけないね。どこの局のどの番組を狙うのか、いつやるのか、あとは占拠するために見かけだけでも相手を脅せるような武器も必要だね。」

「ちょっと、藤江さんまで何を言ってるんですか?正気じゃない。

西川君、君はまだ戻れる。私達のことは気にせずに家族のもとに帰りなさい。」

 谷が必死に言うが西川は首を横に振り、

「いいえ、ここで皆さんを見捨ててしまえば、お義父さんとの約束を破ってします。

昔気質な人ですからね、仲間を見捨てるような奴は息子じゃないと言われています。

 家族を失うとしても、俺はあの人の息子でいたいと思います。

谷さんのお気持ちはありがたいですが、もう決めましたから。」

 西川はそう言って、谷に笑顔を向ける。谷はその笑顔を見て自分がいかに小さい人間なのかを思い知った気になり、

「暴力団関係でツテがあります。拳銃を用意できないか聞いてみますよ。あとは本物じゃなくてもダイナマイトみたいなものでもあれば警察も簡単には突入できないでしょう。

 それは私が何とかしますよ。」

 谷はそう言って、部屋から出て行った。伊藤が

「じゃあ、俺も協力してくれる奴がいないか探してくるよ。」

「あまり人を巻き込みたくないのですが・・・・」

 西川の言葉に伊藤は微笑み、

「安心しろ、局に入る手伝いとか、内部で手引きするとかバレにくいことを頼むだけだよ。

それでもだめそうなら脅されて仕方なくやったって言わせればいいんだ。

 じゃあな、完璧な計画を頼んだぜ。」

 伊藤はそう言って出て行く、藤江が

「さぁ、それでは『完璧な計画』とやらを考えますか。」

 西川はもう一度目を閉じて、深く息を吸い込み、吐き出して

「はい、よろしくお願いします。」と言った。

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