67部
「和夫、本当にいいのか?今ならまだ他のことを公表して場を・・・・」
北条が最後まで言いきる前に前島和夫財務大臣が止め、
「北条君、迷惑をかけることになると思うけど、これ以上は兄とも相談した上で決めたことだし、本当は私みたいな者が政治家になってはいけなかったんだよ。」
「それでも・・・・」
北条が食い下がろうとしたところで、前島恒夫議員が来て、
「和夫、そろそろ行くぞ。」
「わかりました。」
前島大臣は兄に向かって返事をした後、北条に向かって、
「この会見の後で例の法案の話をしてくれないかな。
私のような政治家の不適合者が出ないようにする仕組みを作ることをすぐに発表してくれる方が、法案に対する理解も早いと思うんだ。」
北条は色々と考えた結果、
「わかった。お前のことも使わせてもらう。」
「はじめて北条君の役に立てるよ。」
前島大臣はそう言って、会見場へと足を踏み出した。
会見場に前島兄弟が現れた瞬間にカメラのフラッシュが会見場を包んだ。所定の位置まで前島兄弟が進むと、二人同時に頭を下げて、兄である前島恒夫が
「本日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございます。
本日お集まり頂きましたのは、私・前島恒夫と弟で財務大臣である前島和夫の父・前島恒和が起こした犯罪行為について関係者に対してお詫びをしたいと思ったからでございます。」
恒夫が言い終わると前島大臣がマイクを取り、
「犯罪行為に関しまして説明させて頂きます。
父、恒和は私が政治家になることに反対をしていました。ご存知のことだと思いますが私は一人ではまともに仕事もできない、そんなダメな政治家です。
そのため、秘書が勝手に裏献金を受け取っていたことも最近になるまで知りえなかった、そんなダメな政治家でした。
父はそれをわかっていたために、私が政治家になることを阻止しようとしていたのです。
ただ、私もそんな父に反発して政治家になることばかりを考えてしまい、そしてかけがえのない親友を失うことになりました。
27年前、財務官僚であった山本信繁とその奥さんが風間太郎という男に殺される事件が起きました。風間氏は死刑を宣告されながら、現在も刑務所で死刑が実行されるその日を待っている状態です。
父の行ったことに話を戻しますが、父は当時、財務官僚であった私に実現不可能な難題を担当させることによって評価を下げ、私が政治家になることを阻止しようとしていました。
そんな無理難題を共に解決してくれていたのが山本信繁氏でした。優秀だった彼は自分の仕事を完璧に遂行した後で、あまった時間を私の仕事の解決に充ててくれました。
今、私が国会議員になれているのも山本氏の存在があったからだと考えています。
その山本氏を邪魔に思った父が、当時、借金で苦しんでいた風間氏に山本氏を殺害するように依頼したということです。
つまり、父の行った犯罪行為は嘱託殺人です。父が山本氏とその家族を殺したのです。
我々ばかりが話していても信用して頂けないと思いますので以後、質問を受け付けます。
なお、被害者遺族の方に対してご迷惑になりますので、被害者家族の方への今後の取材などは行わないで下さい。
我々が言えたことではありませんが、どうかご配慮のほどをお願いいたします。」
そう言って前島兄弟はそろって頭を下げ、そこから進行役の人間が質問を挙手制ではじめ、記者の一人が
「なぜ今頃になって、公表することにしたのですか?」
恒夫がマイクを取り、
「私が父の遺品整理をする中で、この事実をメモしていた手帳を発見し、弟と相談した中でご遺族の方に謝罪し、その責任を我ら兄弟が取らなければいけないと思ったからです。」
「その手帳というのはどこにありますか?」
「申し訳ありません。私が当初、この事実の発覚を恐れて燃やしてしまいました。
刑事責任を追及されれば謹んでその罪を受ける覚悟でございます。
申し訳ありませんでした。」
恒夫は頭を深々と下げた。進行役が気を回したのか
「ほ、他に何かご質問はありますか?」
他の記者が
「それでは、前島財務大臣にお伺いしますが、自身の秘書が政治献金を受け取っていたことを知らなかったと仰られましたが本当でしょうか?」
進行役が「その質問は・・・」と言いかけたところで和夫が
「何でもお答えいたします。
私は政治に関して、全て秘書や官僚の方々の言う通りしてきました。政治家が秘書を監督するのではなく、秘書や官僚が私を管理・監督していたという、政治家として大変お恥ずかしい状況にあり、言われたことをそのまま実行するだけだった私には秘書がどんな仕事をしていたのかを把握するだけの能力すらなかったわけです。」
「それではいつ頃から秘書がその献金を受け取っていることを認識されていましたか?」
「最近の報道が出る2週間前に把握し、秘書を問いただすだけの材料を集めている間に報道が出てしまいました。事実確認をしないことには世間に公表ができないと思っていた矢先の報道でしたので大変驚きました。」
「亡くなられた山本氏を親友と言われていましたが、どのようなご関係だったかを教えて頂けますか?」
「財務省に同時期に入庁しました。私と違い優秀だった彼は次期事務次官候補として、多くの人に慕われる存在でした。困っている人がいれば誰でも助ける、そんなヒーローのような人で、私は助けてもらってばかりでした。」
「その同期には北条総理もおられたと思いますが、北条総理もその山本氏と仲がよろしかったのでしょうか?」
「総理も山本氏と同様に事務次官候補と目されていましたが、山本氏と対立していたようなことはなく、三人でご飯を食べに行ったり、私の愚痴を聞いてもらいながらお酒を飲んだこともありました。」
前島大臣の答えには昔を懐かしむような響きと二度と訪れることがないその瞬間を悲しむかのような響きがあった。記者が
「それではお二人に質問しますが、お父様のされたことです。お二人はどのような責任をおとりになられるおつもりでしょうか?」
前島大臣が
「財務大臣の役職は当然辞任させて頂きますし、国会議員も辞職します。今後、私の関係者が私の選挙区から出馬することはないでしょう。」
前島恒夫議員が
「私は父の手帳を燃やし、証拠を隠滅いたしました。刑事罰を受ける覚悟を決めていますし、この会見後すぐに辞職願を受理して頂く予定になっています。
弟・和夫が言ったように、私の選挙区からも前島家の人間やその関係者が出馬することはありません。今後、前島家の人間が政治家にならないことをこの場をお借りしてお約束させて頂きます。」
二人は並んで同時に頭を下げた。記者からの質問はその後も続きそうに思われたが、進行役の人間が一枚のメモを手渡されて、質問しようとしている記者を制止し、
「皆様、大変申し訳ございませんが、前島議員の会見はここで終了させて頂き、総理から国政に関する重大な発表を行うということなので、急遽、この会見を総理の会見にさせて頂きます。
なお、前島大臣ご兄弟に関するご質問は総理の会見後にもう一度改めて行うということです。」
会場中にざわめきが起こる。その様子を会見場の外から見て、北条は深く息を吸い込み、そしてゆっくり、ゆっくりと吐いていく。気持ちを落ち着かせたところで、心を決めて会見場へと一歩を踏みだした。




