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30部

「秘書の小谷だからこそわかることが多いですね。

何より、多くの政治家の秘書を務めていたからこその情報量が凄いですね。」

 伊達は車の中で、USBの中身を一通り確認した後で言った。山本が

「それで、何か『秘政会』のやつらが世間に知られたらまずいような情報はあったのか?」

「知られるとまずい情報は山ほどありましたけど、『秘政会』のとなると僕には判断がつかないですね。

 例えば、この中本議員の医療関係者との食事ですけど、中本議員は農水省の官僚上がりの政治家で、食物の遺伝子改造や牛や豚などのクローン技術に関連する法案を提唱していたことがある人物です。

そんな人が医療関係者と食事って、その中身がかなりきな臭いと思うんですけど?」

「人のクローンが作れるかを話していたとかか?」

「とんだSFの話ですね。他で言うなら、例えばIPS細胞がかなり発達していますよね?

 それを使ったビジネスの話とかもできるんじゃないですか?」

「内臓をIPS細胞で作って、売るってことか?」

「臓器売買は人道的な側面から批判を受けてきました。生きてる人間から臓器を摘出して売る行為が、人の生命にかかわる問題だったからです。でも、IPS細胞のように培養して臓器自体を作り出せるようになれば、世界中の内臓疾患を抱える患者から臓器を売って欲しいと願われることが出てくるでしょう。

 今の技術では実現不可能でも、1年後、5年後、10年後にはその技術が確立されるかもしれない。

そうなった時に真っ先に自分が利権を得るために先手を打ってくる企業はあるでしょうからね。」

「現時点を基準にそんな話をしている政治家は非人道的だとみなされる。そうなってくると、この話自体がとん挫して、未来に得られた利益が無くなるのを恐れた、あるいは利用価値のある政治家を潰したくなかったと考えると、この情報は隠しておきたいものに分類される可能性が高いな。」

「どちらにしても、一国民からすると怒りを感じるような話ですけどね。」

「他には?」

伊達はパソコンを操作しながら、

「そうですね。

前島和夫財務相のSHとの会談、これなんてどうですか?」

「『SH』っていうのがおかしいな。

他の会談相手は人物名だったり、団体名・企業名だったりするのに、これだけがまるで名前を明かせない人と会っていたと言ってるようなもんだな。」

「例えばですけど、この『SH』が『秘政会』のボスの名前ってことはないですか?

前島大臣の噂は聞きますけど、優秀な人物というよりかはただの飾りで財務省は今トップが大臣じゃなくて、事務次官だとか揶揄されるくらい何もしてないって聞きますよ。

それなら『秘政会』の誰かが秘書で前島大臣を動かしているとも考えられるじゃないですか。」

「小谷さんは前島大臣を金に汚い使えない政治家だと言ったぞ。

そんな利用価値が低い政治家を自分らのトップと会わせるか?」

「それも~、そうですね。使えない奴に任せてドジ踏まれたら政治もくそもないですからね。

そうなると『SH』の意味が『秘政会』の重要な何かになるわけですけど、小谷とまた会うことはできますか?本人から聞くのが手っ取り早いんですけど。」

「それが、俺と会った翌日から消息がわからなくなっていて、無理そうだな。

お前の話では小谷さんは『秘政会』の中心人物だから消されることはないのかもしれないが、念のために姿を隠している可能性はあるだろうな。」

「なるほど、じゃあとりあえず『SH』の件は置いといて、佐和田に関係あるかはわかりませんが、憲法学者を訪ねるジャーナリストってやつを調べましょうか。

 誰かお知り合いにそういう人はいますか?」

「緑山学院大学の准教授が知り合いだ。そういえばこの前会った時もそんな話をしていたような気がする。」

「じゃあ、その人に詳しく聞きましょうか。」

 伊達はパソコンを閉じて、エンジンをかけて車を発進させた。


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