20部
「それで警察がどのようなご用件ですか?」
50代前半くらいの少し痩せ気味の男性が、不機嫌そうに竹中達を出迎えた。竹中はその男性の態度を無視するかのように笑顔で、
「いやぁ、かなり儲けておられるらしいやないですか。
記事を書いた記者さんも鼻が高いんとちゃいますか?」
「うちの収益が高いのは何か法律に違反するんでしょうか?」
男は竹中を睨み付けながら言う。竹中はあくまでその男性の態度に負けることなく、
「編集長さんとお話したいいですけど呼んでもらえますか?」
「私が編集長の井上です。」
「ああ、そうやったんですか。これは失礼しました。いきなり編集長さんが出迎えてもらえると思ってなかったんですよ。」
「あんたがたが先ほど行かれた出版社から連絡がありました。
記事の件を警察に話してしまったから、うちにも警察が来ると思うけどすみませんってね。」
「ほんなら話は早いですね。あの会社に仕事回さんとか嫌がらせはしたらんとて下さいね。」
「あなたに言われるまでもないです。高校の後輩ですからね、あそこの編集長は。
それに業界ではよくあることですから、別にそれがバレたからといってうちには何の影響もありませんしね。」
「そうですか・・・・・。
まあ、それはそれでいいとしてですね、あの記事の出元についてお話頂きたいんですけどいいですか?」
「それにはお答えできません。」
「ある記者のUSBにこちらが出元の記事を発売のだいぶ前に作成したデータを保存してましてね、その記者について今調べてるとこなんですよ。
その記者からこの記事を買ったのかどうかをお聞きしたいんです。」
「うちの記者が書いたものだとは思わないんですか?」
「そらそうでしょう。出元が怪しいからよその会社から出させたわけですし、自分の会社で書いたなら他の会社に回す意味がないですからね。」
「その記者から原稿を買ったとして、それが何かいけないことなんでしょうか?」
「いえいえ、別に悪いとは言ってませんよ。ただ、その記者からは週刊誌はどこもネタを買わないと教えてもらいましてね。それなのに週刊晩夏さんは買われたのかと驚きましてね。」
「だ、誰が書いたと思ってるんですか警察は?」
明らかに井上編集長には動揺が走っている。竹中と井上の会話を黙って聞いていた今川と大谷は竹中が少しずつ編集長を追い詰めているのが目に見えて明らかだと感じていた。
竹中は少し貯めてから、
「ブラックジャーナリストの佐和田貴史と名乗ってる奴ですよ。
ご存知なんやないですか?」
井上から血の気が引いて行くのが感じられた。先ほどまでの勢いがなくなり、井上は
「そ、それは本当ですか?あの記事を佐和田が?」
「そうですよ。佐和田の記事を週刊誌に載せたことがわかればあなたも、ただでは済まないでしょうね?」
「ち、違うんです、あれは印刷会社が間違えて載せた物を、販売前にさし止めて、あの出版会社に回したんです。」
「どういうことですか、載せる記事を間違うなんてことあるわけないですよね?」
「週刊誌の記事は、担当者が記事を直接持って行ってるんだが、電話でミスが判明したから違う原稿を送ったと連絡があったらしくて、その記事を我々に再度印刷会社が確認して来たんだ。
うちはミスなどしてなかったから大慌てで確認したところ、あの記事だったんだ。
内容を見ても売れるだろうなと思ったが、うちからは出せないと判断したんだ。」
「それで後追い記事を書いて、あんたらも儲けたってことやな。」
「ああ、そうだよ。うちの業界内で勝手に原稿を変えられたって噂が流れた時期があったんだ。
でも、その記事が売れる内容だったからその週刊誌も公にせず、自分達の手柄にしたんだろうな、そのおかげで直ぐに噂は無くなったよ。」
井上は開き直ったかのように勢いよく言った。竹中はまだ情報を持っているのではないかと思ったのであえて挑発するように、
「後追い記事の内容も、佐和田に書いてもらったんちゃうんか?」
「色んな大物政治家が、あいつの記事でえらい目にあってからは党のお偉いさんがマスコミに釘さすようになったんだよ。そんな人らに目を付けられたら、週刊誌だけじゃなくてうちの会社関連の書籍も全部売れなくなるんだよ。
そんな危ない奴と取引なんてするわけないだろ!」
「そうか~、じゃあ、他にも出元不明の面白い記事もってるんやろ?まだ世間に出てないやつとか?」
「最近は出元がわからない物でも、一部利用していたがそれも上から注意されて、最近のは全部自分達で調べた物ばかりだ。もう新しい記事はない。
もういいだろ、帰ってくれ!」
「じゃあ、最後に一つだけ、佐和田の外見がわかる写真とかないか?」
「どういうことだ?佐和田がどんな人物かわからないのか、あんたたちは?」
「経歴とか噂話は知ってるし、外見の特徴も知ってるんやけど正確な外見がわからんねん。
ほら、多摩川の川岸で見つかった焼死体、あれ佐和田と違うかと俺らは思ってるんやけど、元も見かけがわからんで、未だに身元不明の死体になってるんや。」
「ちょ、ちょっと竹中さん、それまだ外部に出しちゃいけない情報ですよ。」
今川が慌てて言うと、井上が
「週刊誌のジャーナリストは基本的に外見をばらさないものですよ。
佐和田のように一流になると全く顔を知らないのに記事は見たことがあるなんてのも珍しくないですからね。」
「そうなんか~、まあええわ。じゃあ、これで帰らせてもらいますね。
お忙しい中ありがとうございました。」
竹中は頭を中途半端に下げて、編集部から出て行った。今川と大谷もそれに続いて、出て行き、その場に立ち尽くしていた井上編集長は口角が上がりニヤリと笑っていた。




