第三章:男の名はミシェル・ヴィンセント/01
第三章:男の名はミシェル・ヴィンセント
その後、ナイトメイル競技会は滞りなく進んでいった。
ウェインは順調に勝ち進み、同じブロックのフレイアも快勝を続け。そして別ブロックのフィーネも勝ち進んでいく中……あのミシェル・ヴィンセントも着実に勝利を重ねていった。
ウェインとフィーネにフレイア、そしてミシェル。
四人がひとつずつ勝利を重ねていく中で、競技会は進んでいく。
と、そうした日々の中……ウェインは暇を見ては、例のミシェルの様子を注意深く観察し続けていた。
――――ミシェル・ヴィンセント。
身長182センチの長身痩躯で、髪は金髪のオールバック。切れ長の瞳の色はエメラルドグリーン、目元にはフレームレスの細い眼鏡を掛けている。
性格はキザで皮肉っぽくて、口調は独特な……べらんめえ口調というのだろうか。とにかく奴はそんな男だ。
そんなミシェルの経歴に、これといって特に不審な点は見当たらない。
ごく普通の学生そのものだ。スレイプニールのデータベースから改めて奴の経歴――学院への潜入前に頭に入れておいたものを確認してみたが、やっぱり不審点はどこにもなかった。
少なくとも、経歴はごく普通の魔術学院の学生そのものだ。
だからウェインは、次にミシェルの普段の様子を観察してみることにした。
しかし……それもなんというか、ごく普通だったのだ。
授業態度は可もなく不可もなくといった感じで、人間関係は……意外にクラスメイトたちから人望があるらしく、何かにつけては色々と頼りにされているらしい。
授業内容で分からないところがある、と隣席の男子にせがまれれば「仕方ねえな」と教えてやったり。
昼休みに一緒にご飯を食べよう、と複数の女子に誘われた時は「悪りぃな、飯時にゃ一人で過ごすのがおいらの流儀でね」と軽く受け流し、でもそれが却って格好良く見えるのか、キャーキャーと黄色い声を浴びたり。
更に生徒間で揉め事があれば「落ち着きなよ、お二人さん」と自ら仲裁に入ったり。
…………といった具合に、随分と周りから慕われている様子だ。
ミシェル本人もああいうキザな言動や皮肉っぽい態度の割に、存外これで面倒見がいい。
だからか、周囲からは兄貴分のように慕われているようだった。
……で、数日前のことだ。
ウェインが学院内を歩いているとき、たまたま彼が女子生徒に告白されている現場に出くわしたのだ。
その時も、無論ミシェルはいつものキザったらしい口調だったのだが……。
でも、なんというのだろうか。口調は本当にいつも通りの感じだったのだが、でも皮肉っぽい感じじゃなく。告白してきた娘の気持ちを真摯に受け止めながら、相手がなるべく傷つかないように……優しく断っていたのだ。最後にポンッと相手の肩を叩いてやりながら、気持ちは嬉しかったぜとフォローもしつつ。
相手の女の子は、まあ当然泣いてはいたが……でもこの断り方なら、すぐに吹っ切ってくれるだろう。
ミシェルはそんな風に、相手がなるべく傷つかないように振る舞っていた。
……それが、ウェインには少しだけ意外に思えていた。
――――とまあ、しばらくの間ウェインが観察していたミシェルはそんな感じだった。
見た目はまあちょっと老け顔に見えるが、それだけ。ミシェルは普通の学生そのもので、その経歴も普段の立ち振る舞いも、不審に思える点はなにもない。
それにフィーネもあの日以来、ミシェルが居る中で、以前のように気味の悪い風は感じていない……と言っていた。
だから、彼がゲイザーの内通者であるかどうかは微妙なところだ。そうだと決めつけるには、まだ早すぎる。
……だが、彼のあの明らかに戦い慣れた雰囲気と、そして時折見せる鷹のように鋭い……戦士のそれによく似た鋭い眼光が、ウェインはどうしても気がかりだった。
……と、そんなある日のことだった。
昼休みの食堂で、ウェインとフィーネ、それにフレイアの三人はテーブルを囲みつつ、今まさに行われている競技会の試合の中継を眺めていた。
食堂棟の壁掛けテレビに映る試合だ。ウェインたちだけじゃなく、食堂に居る生徒たちの大半は食い入るようにテレビの中継を見つめている。
ナイトメイル競技会の様子は、基本的にこうして学院中に中継されている。
ちなみに生中継だ。だからか風牙は実況の役割の関係で、珍しくこの場には居なかった。
その代わりテレビから大音量でハイテンションな彼の実況が聞こえてくるから、やかましさの度合いでいえばいつもより酷いのだが。
……にしても、凄まじいハイテンションっぷりだ。
午前の授業中に風牙が居眠りをしてたのも、きっとこれに備えての体力温存だったのだろう。……決して褒められたことではないのだが。
とにもかくにも、ウェインたちが見つめる壁掛けテレビに映るのは、今まさに行われている競技会の試合だった。
テレビに映るのは、ミシェル・ヴィンセントのソードブレイカー。場所はこの間のタッグマッチでも使った仮想都市フィールド、相手は別クラスの女子らしい。
ミシェルの相手は、風牙の天雷とよく似た弓を使う遠距離型のナイトメイルだ。
一見すると、近接メインのソードブレイカーとは相性が悪そうにも思える。
ファルシオンのように空を飛べたりビームを撃てるわけでもなく、ジークルーネのように超高速戦闘で翻弄できるわけでもない。対戦カードを見る限りでは、ミシェルが不利にも思える試合だ。
しかし……流石に彼は格が違った。
ミシェルは仮想都市フィールドにある高層ビルなんかを上手く盾にして、それを巧みに使って弓の射線を切りつつ……間合いを詰めれば、一方的に相手を叩きのめしている。
手に持っていた弓を蹴っ飛ばし、相手がナイフを両手に召喚して接近戦の構えを取れば、十手を巧みに操って瞬時にそれも弾き飛ばしてしまう。
「ミシェルさん、相変わらず容赦ないですね」
テレビに映る中継を眺めながら、フレイアが箸を片手に言う。
「フレイア、アイツとは長いのか?」
そんな彼女にウェインが訊いてみると、フレイアは「はい」と肯定する。
「クラスも一緒ですし、競技会ではこれまで何度も戦いましたから」
「ふむ、それでお前は勝ったのか?」
続けてフィーネが問うと、フレイアは「ええ」と頷く。
「何度かは勝たせて頂きました。……とても手ごわい相手でした、お二人に匹敵するほどに」
「そんなにか……お前が言うのだから間違いないだろうが」
「あの方のソードブレイカーは手札が少ないですから、ミラーリフレクターを使った戦術パターンを応用すればどうにかなります。貴女のジークルーネほど厄介ではありませんでしたが、それでも強敵でした」
「……だ、そうだ。褒められたぞルーネ」
〈お褒めにあずかり光栄です、フレイアさん〉
「ふふっ、事実ですから♪」
腕組みをするフィーネに微笑むフレイア、それにジークルーネの声も聞こえる中、テレビの中で試合はどんどん進んでいく。
そんな試合を、ウェインは箸を止めたまま、神妙な顔で見つめていた。
「……やはりあの男、戦い慣れているな」
見つめる彼に、隣からフィーネが小声で囁きかける。
「フィーネ、野郎から何か感じないのか?」
「馬鹿を言うな、この距離で風が分かるわけないだろう……」
そんな彼女に一応訊いてみたのだが、しかしフィーネは呆れた顔でそう囁き返してくる。
ウェインは「ま、そりゃそうか」と肩を竦めつつ、
「……で、どう思う?」
と、やっぱり小声で彼女に訊く。
フィーネはそれに「やはり、なんとも言えんな」と答えて。
「ただ……注意は必要だろうな、あらゆる意味で」
「……そうだな」
シリアスな顔でポツリと呟いたフィーネに、ウェインは頷き返し。そうすれば、また壁掛けテレビを見上げてみる。
そこに映るのは、ミシェルの……見事に勝利したソードブレイカーの雄姿。
ウェインはテレビに映るその姿を、スッと細めた瞳でじっと見つめるのだった。




