第一章:プラーナの風が吹く/05
「――――そうですか! よかったです、お二人が出られるのなら今年の競技会も盛り上がりますよ、きっと!」
その後の休み時間、職員室で二人がナイトメイル競技会に出ると決めた旨を伝えると、エイジはとても嬉しそうに、どこか興奮した様子でそう二人に微笑みかけていた。
「私たち二人が出るぐらいで、大袈裟ですよ先生」
いつも爽やかで冷静な彼らしくもないそんな態度に、フィーネは苦笑い気味にそう言う。
しかしエイジは「とんでもない!」と椅子からガタッと立ち上がる勢いで返せば、
「以前の決闘の時といい、この間のタッグマッチもそうですが……お二人は今、この学院で最も注目されていると言っても過言ではないのですから!」
「そ、そうですか……」
らしくもなく興奮しきった様子のエイジの勢いにフィーネが押される横で、ウェインも同じように苦笑いを浮かべる。
どうにも複雑な思いだ。そんなに注目されているとは……思わなかったわけではないが、しかし実際に面と向かって言われると微妙な気持ちになってしまう。
一応は潜入捜査中のエージェントなのに、幾らなんでも目立ち過ぎてやしないか……? と今更すぎることを思わないでもないウェインだったが、しかしほとんどはニールの許可を得た上でやっていることばかり。ならば……大丈夫なのだろう、多分。
「とにかく、良い決断をされましたね」
そんな風にウェインが微妙な思いを抱く中、エイジが続けて二人にそう言う。
「お二人ともまだ学院に来て間もないですから、競技会について分からないことも多いでしょう。何かあれば遠慮なく、どんな些細なことでも訊いてくださって構いませんからね」
「だったら先生、ひとつ質問いいか?」
「はい、なんでしょうウェインさん?」
「確か、俺たちの他にもウチのクラスから出るって言ってたが……人数の枠みたいなのは大丈夫なのか?」
「あはは、それなら問題ありませんよ。私のクラスからはフレイアさんを始め、多くの方が出場する予定ですが……締め切り日に人数が確定してから、その辺りは調整する予定になっていますから」
と、ウェインが投げかけた質問にエイジがいつも通りの爽やかな笑顔で答えていると――――横から飛び込んでくるのは、同じ職員室で聞き耳を立てていた他の教師たちの声で。
「モルガーナ先生のクラスは精鋭揃いですからな、出場人数も毎年一番多かったはずですよ」
「特に優秀な生徒が集まっていますからね、モルガーナ先生の担当クラスは毎年エリート扱いなんです」
…………と、いうことだ。
言われなくても、ウェインもフィーネも二人ともその辺りの事情は心得ている。
――――エイジ・モルガーナが担任するクラスには、特に優れた素養を持った生徒ばかりが集められている。
だから彼のクラス……すなわちウェインたちのクラスは、このエーリス魔術学院で最も優秀なエリート揃いと言ってもいいのだ。でなければ風牙やフレイアといった実力者が、こうも一同に会したりはしないはずだ。
「…………こほん」
と、そんな風に横から他教師たちの声が飛んでくる中、エイジは小さく咳払いをし。
「何より、お二人が決断してくださったことに感謝します。是非とも競技会を頑張って、何よりも楽しんでくださいね? ウェインさんにフィーネさん、お二人とも存分な戦いを期待しています」
やっぱり普段と変わらない爽やかな笑顔を浮かべてそう言って、エイジは話を締めくくるのだった。




