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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『DANCE WITH CRISIS』
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第一章:プラーナの風が吹く/04

「――――で、お前ら二人とも出ることにしたのね」

 翌日の早朝、ホームルーム前の教室でウェインたちはナイトメイル競技会への出場を決めた件について、風牙とフレイアに話していた。

「そういうお前だって出るんだろ?」

 どこか眠たげに間延びした声で頷く風牙に、ウェインがそう訊くと。しかし風牙は気怠そうに顔の前でふるふると手を横に振って。

「いんや、俺はパスするんよ」

 なんて意外なことを口にした。

「んだよつまんねえな、出ねえのかよ。折角またお前とサシで戦えると思ったんだがな」

「悪りいな、競技会の時は恒例で俺っち実況に回ってるんだわ」

「実況……というと、スポーツ中継でありがちなあのポジションか?」

 きょとんとしたフィーネに「おうよ」と風牙は頷き返す。

「いっぺんモルガーナ先生に誘われて試しにやってみたらエラく好評でよ、そっから毎回恒例になっちまったってワケ」

「しかし、お前ほどの実力を持っていながら出ないというのは勿体ないのではないか?」

「それなフィーネちゃん、最初の頃によく言われたわ。でもよーく考えてみてくれよ? その……フレイアが居る時点で俺っち、どう考えたって勝ち目ねえだろ?」

「う、うむ……確かにな」

「良い判断かも知れねえな……そりゃあ」

 言われたフィーネもウェインも、これには納得だった。

 風牙の『天雷』の戦闘スタイル――遠距離戦メインという点などを鑑みると、とてもじゃないがフレイアの『デュランダル』に勝てるビジョンは欠片も見当たらない。

 それにナイトメイル同士の相性もそうだが、フレイアは稀代の天才戦略家だ。あのタッグマッチで見せた驚異的な戦術……あの時の風牙は味方だったが、しかし彼女の巧みな策略を向けられる側になると考えてみたら……どう楽観的に見積もっても、風牙がボコボコにされる結果しか見えないだろう。

 もし仮に相手がウェインの『ファルシオン』やフィーネの『ジークルーネ』であれば――状況や地形次第でまだ勝ち目は十分にあることは、転入早々のあの決闘での激戦を振り返れば明らかだ。しかしフレイアが相手では……勝ち目なんてゼロだという風牙の判断は、至極真っ当なものだった。

 だからこそ、二人ともこんな風に微妙な顔をしつつ納得していたのだ。

 それに何よりも、こんな風に何かとやかましい彼なら……良い言い方をすればムードメーカーみたいなところがある風牙なら、実況役にはこれ以上なくピッタリに違いない。いつもの息もつかせぬマシンガントークで競技会を盛り上げる光景が目に浮かぶようだ。

「……ってことは、やっぱフレイアも競技会にゃ出るのか」

 と、色んなことに納得しつつウェインが言うと、傍らに控えていたフレイアは「そうですね」と柔らかな笑顔で肯定してくれる。

「私も競技会には毎回出ていますが……今回はいつも以上に刺激的になるでしょうね。お二人とまた相まみえるのが、今から楽しみで仕方ありません……♪」

「お手柔らかに頼むぜ……次は叩き斬られねえように用心しねえとな」

「ウェインを斬り伏せるぐらいだからな……間違いなく一番の強敵になるだろう。私も今から楽しみだ」

 少なくとも、フレイアは今分かっている限りの面子では最も警戒すべき相手だった。

 でも、だからこそ俄然(がぜん)やる気になってくる。

 特にウェインにとっては――先日のタッグマッチで彼女に撃破されてしまった彼にとっては、ある意味でリベンジマッチのようなもの。闘志を燃やして当然だった。

 と、そんな会話の最中に――――。

「…………む」

 ふとした瞬間、フィーネがほんの少しだけ怪訝な表情を浮かべる。

 ほんの一瞬、ほんの些細な変化だ。目の前で見ていたフレイアと風牙が気付かないほどの、微かな表情の変化。

 しかしウェインはそれを見逃さず、どうしたとすぐに声を掛けようとしたのだが。

「――――はい、皆さんそろそろ席に着いてくださいね」

 予鈴が鳴り響く中、ガラリと戸を開けて入ってきた担任教師エイジ・モルガーナの声に遮られてしまい、フィーネに話しかけるタイミングを逃してしまう。

 そうこうしている内に、朝のホームルームが始まろうとする。

 皆が一斉に自分の席に戻っていく中、ウェインも自分の席に――窓際最後尾の席に座りながら、前席のフィーネにそっと「どうした?」と改めて小声で問うてみる。

 するとフィーネは「うむ……」と小さく振り返りながら頷いて。

「なに、大したことじゃない……詳しいことは後で話そう」

 とだけ言って前に向き直ると、そこで話を打ち切ってしまった。

 一体、彼女が何を感じ取ったのか。

 フィーネの感覚は常に鋭く研ぎ澄まされている。僅かなプラーナの流れを『風』として捉えられるほどのそれは、特異体質と言ってもいい。

 そんな彼女ならば、きっと自分には感じ取れない何かを察知したはずだ。根拠はないが、今のフィーネの様子からウェインはそう思っていた。

 ――――でも、聞くのはまた後で。

 フィーネが後で話すというのなら、それ以上は訊くまい。ウェインは気になりつつも、しかし今は頭の片隅に置く程度に留めておいて……今のところは、目の前のことに意識を向けることにした。

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