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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
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第八章:ジークルーネ/02

 飛び出したのは、ほぼ同時だった。

 ダンッと地を蹴って踏み出したデュランダルと、コンマ数秒遅れて走り出すジークルーネ。しかし僅かなタイムラグなど問題にもならないほどのスピードで、ジークルーネは――フィーネ・エクスクルードは駆け抜ける。

 青の鎧で風を切り、背中のマントを靡かせながら疾走するジークルーネ。静かに構えたミラージュレイピアの切っ先が睨むのは、デュランダル――フレイア・エル・シュヴァリエただひとり。

「テンペスト! イリュージョンッ!!」

 そうしてフレイアの懐に踏み込む寸前、フィーネは超加速して分身。複数方向から、出し惜しみ抜きの多重斬撃をフレイア目掛けて閃かせる。

「甘く見ないでください! その程度の分身――――」

 分かれた八つの影が同時に斬り掛かってくる、フィーネの分身殺法。

 しかしフレイアは臆することなく、自らもまたカーディナルソードを構えると。

「――――既に、見切っていると知りなさい!」

 瞬時にその刃を閃かせると――――あろうことか、迫る八つの斬撃全てを斬り払ってしまった。

 まるで、分身に対する八つの斬撃をほぼ同時に閃かせるように。フレイアのその剣捌きは……まさに神速。風の申し子たるフィーネに勝るとも劣らない、達人級の剣捌きに他ならない。

「やるな……!」

 こんな形で防がれるとはあまりに予想外で、だからかフィーネは思わず賞賛の言葉を口にする。

 ……今までの引き撃ち気味のスタイルから見て、フレイアは近接戦は不得手だとばかり思っていた。

 が、実際はどうだ。射撃戦やトリッキーな攪乱戦術だけじゃなく、フレイアはこんな真っ向勝負も十分すぎるぐらいに強いじゃないか。

 ウェインに匹敵するだけの高い近接戦闘能力と、フィーネをも凌駕する天才的な戦術眼。

 間違いない――――彼女は強敵だ、フィーネが今まで出会ったこともないほどの!

〈チャンスだ、フレイア!〉

「逃す私ではありません! スパイラル……ブリザァァァドッ!!」

 分身殺法が捌かれたのを見て、ダンッと後ろに飛んで一時後退したフィーネ。

 それを見たフレイアはこれぞ好機と睨み、スパイラルブリザードを――さっきウェインにも使った、風と氷の双属性の攻撃魔術を発動。瞬時に吹き荒れる超低温の猛吹雪を、後退したフィーネに向かって叩きつける。

「同じ手、二度も通じると思うなっ! ――――スプラッシュウォール!!」

 迫り来るのは吹き荒れる猛吹雪、あれを喰らえばジークルーネとて瞬時に氷漬けにされるだろう。

 だがフィーネはあくまで冷静な頭で状況を判断。タンっと着地すると、すぐに右手を地面につける。

 そうすれば――――彼女の前に、地面から激しく噴き出した水の壁が現れた。

 水属性の魔術『スプラッシュウォール』だ。効果は見ての通り、分厚く巨大な水の壁を生み出すというもの。

 とはいえ、所詮はただの水だ。剣や魔術での攻撃を防ぐだけの力はない。

「ッ……!?」

 ――――が、今だけは何よりも効果的だった。

 今まさにフィーネを凍り付かせんと迫っていたスパイラルブリザードの猛吹雪が、たった今フィーネが展開した水の障壁に激突。すると……超低温の嵐はその水壁を凍結させたのみで、肝心のフィーネには届かない。

 そう、スプラッシュウォールは単なる水の壁。ならば当然……極低温に晒されれば氷になる。

 液体は凍れば固体になる。小学生だって知っている常識中の常識だ。

 そして固体になれば、風は遮られて向こう側へは届かない。

 つまり――――スパイラルブリザードの嵐は、フィーネには届かない。

 普通にフォトンシェードを展開していれば、きっとこうはいかなかっただろう。例え強固な光のバリアといえども、吹き付けて回り込んでくる極寒の嵐までは防げない。

 それをフィーネは瞬時に判断し、敢えてスプラッシュウォールで防御する選択をしたのだ。

 無論、これは先にウェインが喰らったことでスパイラルブリザードを知っているということも大きい。

 だが……普通の人間では、こんな判断を瞬時にはできっこない。

「流石ですね、これを防がれるとは思いませんでした……!」

 だからこそフレイアは驚きながらも、見事に防いだ彼女に素直な賞賛を口にしていた。

 それにフィーネは「褒めても何も出ないぞ!」と言葉を返し、

「だが……気付いていないようだな、自分が罠に嵌まったと!」

「ッ――――!?」

 ニヤリと笑うフィーネが叫んだ瞬間、フレイアもハッと異変に気が付いた。

 …………チェーンだ。

 デュランダルの周りに、いつの間にかチェーンが張り巡らされていたのだ。デュランダルを中心として網目のように、フレイアが少しでも動けば、すぐに触れてしまうほどの密度で……。

 間違いない、これはジークルーネのアレスターチェーンだ。

 何故、今まで気付かなかったのか。見れば地面につけているジークルーネの右手首からは、地面に沿うようにチェーンが流れているではないか。

〈フレイアッ!〉

「……駄目です、動けない……!!」

 ちょんっと指先で触れただけで、チェーンからビリビリと稲妻が激しくスパークする。

 間違いない、網目のように張り巡らされたチェーンには……魔術的な電流が流れている。恐らくは……先刻も浴びたショックバースト。

「掛かったな、フレイア! お前の目を掻い潜るのは骨が折れたが……どうやら上手く行ったようだな!」

「くっ、フィーネさん……!!」

「触れれば最後、ショックバーストの電撃がお前を襲う! フレイア……お前に逃れる術などないと知れ! この半径400メートル、張り巡らせたアレスターチェーンの檻からはッ!!」

「ふふっ……まさか私が虚を突かれてしまうとは……」

「これでチェックメイトだ、フレイアッ!!」

「――――――いいえ、勝負を決するにはまだ早いです!!」

 仮想都市フィールドの中、網目のように張り巡らされたショックバーストの檻の中、身動きも取れないままにフレイアはバッと左手を天に掲げて。

「ミラーリフレクター!!」

 彼女もまた、背中から六枚のミラーリフレクターを再射出。空中にジグザグの軌跡を描く機動でチェーンの網の目を掻い潜らせたそれを、瞬時にフィーネの周りに展開する。

〈いけない、お姉様!〉

「分かっている……予想出来ていたことだ!」

「間に合いなどしません! 舞い刻みなさい! ライトニング……ダガァァァッ!!」

「くっ……!!」

 フレイアが放った無数の光刃が――ライトニングダガーが飛翔し、リフレクターの鏡に反射すれば、氷の壁の裏側に隠れていたフィーネを狙い撃つ。

 同時にフィーネもギュッと右手を引いてチェーンを絞り、狭めたチェーンの檻でそのままフレイアを拘束。バチンと指を弾いて強烈な電撃を彼女に浴びせる。

 飛来するライトニングダガーに氷の壁を食い破られ、ジークルーネの全身に光刃が突き刺さっては火花が弾ける。

 締め上げられたフレイアは身体を縛り上げるチェーンから伝わる激しい稲妻を浴び、その強烈な電撃に身を焦がす。

「ぐぅぅぅぅっ!?」

〈こ、これは……大丈夫ですか、お姉様……っ!!〉

「心配するな! この程度で……負けられるか、この私がぁぁっ!!」

〈ッ……早く脱出しないと、幾らボクでも長くはもたない……ッ!!〉

「負けられない、負けられないんです……風牙のためにも、私自身の気持ちのためにも! 私は……私はぁぁぁぁぁっ!!」

 互いの攻撃に苦しめられながら、腹の底からの雄叫びを上げて。フィーネとフレイア、二人は同時に互いの攻撃を食い破る。

 フィーネは左手から射出したもう一本のアレスターチェーンを振り回し、周りに浮かんでいた六つのミラーリフレクター全てを叩き落として。フレイアは気合いを込めると、自身を縛り上げていたチェーンを力づくで千切り抜ける。

「ふふ……流石ですフィーネさん、貴女はやはり格が違う……」

「ど、どうしたフレイア……もう降参か? お前の覚悟とはそんなものだったのか……?」

 危険な状況から強引に突破した二人が、互いに膝を突きながら……大きなダメージを負った鎧から煙を吹き出しながら、小さな笑みを浮かべて言葉を交わし合う。

 そんな二人の顔に浮かぶのは、微かな笑顔。こんなにボロボロだというのに、こんなに熾烈な戦いの中だというのに……二人は、心の底から楽しそうに笑っていた。

「――――風牙っ!!」

 そうして笑い合いながら、聖剣を杖代わりにしながら……よろよろと立ち上がるフレイアが叫ぶ。遠くでこの戦いを見ているであろう、愛しい彼の名を。

「例え何があろうと、私の気持ちは変わりません! 見ていてください……私の覚悟を、私の戦いをっ!! 答えは……その後で、聞かせて貰いますっ!!」

 よろめきながら立ち上がり、ボロボロの身体でカーディナルソードを構えるフレイア。

「ならば……ウェイン、私からも言っておく!」

 そんな彼女と向かい合いながら、フィーネもまた彼の名を叫んで立ち上がる。傷付いた身体に鞭打って、今にも手折られそうなほどにフラついた身体の芯に気合いを入れ直して。

「私はお前の勇気に救われた! 私にとってお前は、かけがえのないたった一人の……だから私は、何があってもお前を守る! そして……全ての勝利をお前にくれてやる! ウェインの剣であり盾となる……この誓いに懸けて、絶対に!!」

 傷付いた身体に渾身のプラーナを流し込んで、構えるのはミラージュレイピア。細い刀身の、鋭く研ぎ澄まされた騎士の剣。

 金色の聖騎士デュランダル、そして蒼き神速の騎士ジークルーネ。

 互いに傷付き、今にも折れそうな身体で立ち上がり、互いに向け合うのは鋭い剣の切っ先。今この瞬間にもどちらが倒れたっておかしくないギリギリの状況下で、二人はただ静かに睨み合う。

「…………ウェイン、俺っちは」

「言うなよ、今は何も言うんじゃねえ」

 そんな少女二人の戦いを、傷付き倒れたナイトメイルから共に見守る風牙の言葉を、ウェインはそっと制する。

「でもよ、俺はフレイアの気持ちにどう向き合えば……」

「何も言うんじゃねえ、今は何も言うんじゃねえよ。それはお前が決めることだ、お前が自分自身と向き合って……それも全部、アイツらの戦いが終わった後だ」

「……ウェイン」

「今はただ、しっかり見届けてやるんだ……目を逸らさず、最後までキッチリとな」

 風牙は、どこか迷っている様子だった。

 顔は見えなくても、声のトーンで何となく分かる。今まで単なる幼馴染だと思っていたフレイアに突然あんな風に想いを打ち明けられて、戸惑っているのだろう。

 だが、それは彼と彼女が決めること。ウェインが横からどうこう言うべきことじゃない。

 ただ今するべきことは……この戦いの行く末を、彼とともに見届けることだけ。フィーネ・エクスクルードとフレイア・エル・シュヴァリエ、二人の少女の……誇りと純粋な想いを懸けた、騎士の決闘の行く末を。

〈……フレイア、多分これで決着が付く。それ以上は……ボクも持ちそうにない〉

「ええ、理解しています。……ごめんなさい、デュランダル。貴女には無理をさせてしまいました」

〈気にしないで、ボクもフレイアのことを応援したいから。だから……彼に見せてあげて、君の覚悟って奴を〉

「……はい!」

〈…………こちらも限界です、お姉様……私に言えることはただひとつ、必ず勝利を掴んでください〉

「当然だ、私は必ず勝つ……だろう、ルーネ?」

〈ウェインの剣であり、盾であるが故に……でしょう、お姉様?〉

「ああ――――その通りだ!」

 ダンッと踏み込んで、ジークルーネが疾走する。

 目にも留まらぬ速さでの、神速の踏み込みだ。とても常人の目には捉えられないほどの超高速で、フレイアの懐目掛けてフィーネが飛び込んでいく。

 それに対し、フレイアも剣を構えることで応じる。

 ――――スピードでは、どう足掻いてもジークルーネには及ばない。

 今までの戦いで散々思い知らされてきたことだ。ならば今は……敢えて防御に回るのが最善策!

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 とんでもないスピードで懐に飛び込み、斬り込んでくるフィーネ。

 その音速を突破した斬撃を、フレイアは半ば勘だけで防御。バシンと聖剣の柄から伝わる重い衝撃に顔をしかめながら、力づくでフィーネを振り払う。

「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 振り払い、瞬時に刃を返して放つのは縦一文字の斬撃。ザンッと振り下ろされたカーディナルソードの一閃は鋭く、そして重い。

 それをフィーネはサッと身を捩ることで回避。そのままの勢いでサッと足払いを仕掛けてやれば、フレイアを転ばせてやる。

「ッ……!」

 足を払われたデュランダルが、後ろにのけぞるようにして転倒する。

「貰ったぁぁぁぁっ!!」

 そうして仰向けに倒れたフレイアに向けて、フィーネは鋭い刺突を放つ。

「――――見切りました! そこぉぉぉっ!!」

 だが、フレイアは突如として聖剣から手を離すと……迫り来るミラージュレイピアの刀身をバシンと、あろうことか両手で挟んで受け止めた。

 刀身を左右から手のひらで挟み込んで止める、まさに真剣白刃取りだ。

「な……っ!?」

 フレイアが取ったのは、完全な奇策にして賭けだ。

 刺突を白刃取りできる確率はほぼ五分五分、少しでもタイミングを間違えていれば、今頃フィーネの勝利で決着はついていただろう。

 だが、フレイアは賭けに勝った。

 故にフィーネが見せるのは、この驚きの表情。故に彼女が見せるのは、予想外のことだったための大きな隙で。

「まだ……まだ私は、負けていませんっ!!」

 そんな彼女の隙を突くように、フレイアは白刃取りの格好のままフィーネの脇腹を蹴りつける。

 急に襲い掛かってきた横からの衝撃に、たまらず吹っ飛ぶジークルーネ。着地した彼女が起き上がるまでの間に、フレイアもまた立ち上がり……拾い上げたカーディナルソードを構え直す。

 …………まさに、死力を尽くした戦いだ。

 フィーネはもとより、フレイアも先程までの理性的な戦い方は完全にかなぐり捨てている。さっきまで見せていた巧みな戦術はどこへいったのか、相手の足を掬うような論理的な戦い方はどこへ消えたのか。今のフレイアは、完全に本能だけで戦っている。

 ――――そうせざるを得ない相手、ということだ。

 フレイアにとってフィーネがそれほどまでに強大な相手で、そして……互いに限界ギリギリの、ボロボロな状況での戦いということの何よりの証だった。

「さあ行くぞ、フレイアぁぁぁっ!!」

「フィーネさん……私が、必ず貴女をっ!!」

 起き上がるや否や、ダンッと踏み込んだフィーネが再び斬り掛かってくる。

 それに対し、やはり防御からのカウンター主体で応じるフレイア。

 ミラージュレイピアとカーディナルソード、細身な剣と大きな騎士の聖剣。交わす刃は幾百、幾千、幾万と積み重なり……互いの刃の間で散った火花は数知れず。超高速の斬撃とそれを受け止めてのカウンター、二人が交わす剣戟はあまりに素早く、そして一撃一撃が重い。

「ッ――――貰ったぁぁぁぁっ!!」

 そんな剣戟の最中、一瞬のチャンスを見出したフィーネがザンッとレイピアを斬り上げる。

 瞬間――斬り飛ばされるのはデュランダルの左腕。レイピアに斬られた肘から下が千切れ飛んでいってしまう。

「しまっ……!!」

「これでフラッシュバインドは使えないな!」

「っ……このぉぉぉっ!!」

 だが、フレイアもただではやられない。

 フィーネがレイピアを斬り上げた刹那、フレイアもまた右手のカーディナルソードを下薙ぎに振るい……ジークルーネの左脚を貰っていく。

 膝上から下をザンッと聖剣の分厚い刀身に叩き折られ、吹き飛んだ脚の残骸がくるくると回転しながら彼方に飛んでいってしまう。

〈お姉様っ……きゃぁぁぁっ!?〉

「ルーネっ!? ……やってくれたな、フレイアぁぁぁっ!!」

 片足を失ったことでバランスを崩しかけながらも、フィーネはどうにか体勢を立て直し……残った右脚をバネのように伸縮させて、ダンッと天高く飛び上がる。

〈フレイア……これ以上は持たないっ!〉

「――――スパイラル・ブリザァァァドッ!!」

 そんな飛び上がったフィーネに対し、フレイアは聖剣を一度地面に突き刺すと……彼女に向かって右手を突き上げる。

 瞬間、再び巻き起こった超低温の猛吹雪が上空のフィーネに向かって放たれた。

「うおおおおおおっ!! フォトンシェェェェドッ!!」

 今は上空、さっきのようにスプラッシュウォールで防御はできない。

 瞬時にそう判断したフィーネは、突き出した右手で光のバリアを展開。フォトンシェードで迫り来る猛吹雪を受け止めながら、眼下のフレイア目掛けて急降下していく。

「くっ……!」

 当然、フォトンシェードでは猛吹雪自体は受け止められても、その極低温の風までは防ぎ切れない。

 だからかバリアを展開するジークルーネの右腕は、加速度的に凍り付き始めていて。それにクッと顔をしかめたフィーネは――――。

「すまんルーネ……荒っぽくいかせて貰うぞっ!!」

 しかし右腕が氷結するのにも構わず、そのまま突撃を敢行。急降下の勢いをつけて、フォトンシェードを張ったままの右手を――デュランダルの顔面に叩きつける。

「きゃぁっ!?」

 フレイアの小さな悲鳴が上がった瞬間、デュランダルの頭部にぶつかったジークルーネの右手が砕け散る。

 それこそ氷が砕けるように、ガラスが派手に割れた時のように。スパイラルブリザードを防ぎ切れずに凍り付いていたジークルーネの右肘から下が、細かい氷の破片となって砕けて散る。

「うぉぉぉぉぉっ!!」

「まだ……まだぁぁぁぁっ!!」

 そうしてフレイアが怯んだ隙に、フィーネは本命の斬撃を叩き込む。

 同時にフレイアも聖剣を抜き放ち、フィーネに向かってカウンターの一閃を放つ。

 ――――ガキン、と激しい火花が散る。

 互いに放った斬撃は、そのどちらもが直撃。フィーネの振り抜いたレイピアはデュランダルの右肩口に深く食い込み、フレイアが閃かせたカーディナルソードの刀身は、ジークルーネの左脇腹に深く食い込んでいる。

 だが――――まだ、勝負はついていない。

「デュランダル――――ッ!!」

「ルーネ……お前の速さを見せてみろッ!!」

 飛び退いて間合いを取るフレイアと、今一度ダンッと天高く飛び上がるフィーネ。

 フレイアは握り締めたカーディナルソードに渾身のプラーナを注ぎ込み、最後の一撃を放つべく……今再び、その刀身を黄金に輝かせ始める。

 同時に上空ではフィーネが更に加速。音の速さを遙かに超えたスピードで突撃していく。

〈やっちゃえ、フレイアぁぁぁぁぁぁっ!!〉

「デュランダル・ファイナルジャッジメント! でやぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」

 飛び掛かってくるフィーネ目掛けて、フレイアは雄叫びを上げながら光り輝く聖剣をザンッと振り抜く。

 取った――――。

 振り抜いた瞬間、フレイアは確かな手ごたえを感じていた。

 ――――だが。

「掴んだぞ、お前の風を……!!」

 斬撃が命中する、コンマ数秒の刹那……ジークルーネの姿が、消え失せた。

「なっ……!?」

 同時に、フレイアは背後に気配を感じる。

 一瞬の内に背中へと回り込んだジークルーネの――フィーネの確かな気配を。

「貰ったぞ、フレイア!」

 瞬時に背後に回り込んだフィーネは、ダンッと片足でデュランダルの背中を蹴り飛ばしてまた飛び上がり。

「テンペストイリュージョン、発動ッ!!」

〈レディ! ――――参りましょう、お姉様っ!!〉

 そして、満を持して分身を発動。ザッと八つの影に分かれたジークルーネが、四方八方から無防備なデュランダルへと一斉に斬り掛かる。

 迫り来る八つの影、ひゅんっと閃く八つの刃。

 しかしフレイアには……最後の力を振り絞り、必殺の一閃を放ってしまった彼女にはもう……フィーネの刃から、逃れる術は何もない!

「喰らえぇぇぇっ! ミラージュ! テンペスト――――ブレイクッ!!」

 飛び込んだ時間は、ほんのコンマ数秒。

 しかし、その僅かな刹那だけで十分。風のように斬り抜けた八つの影は、確かにデュランダルの全身を斬り裂いていて。分身体の消えたジークルーネがザンッと着地し、膝立ちに崩れた頃……フレイアはもう、一歩も動けずに。

「…………お見事です」

 笑いながらそれだけを呟いて、デュランダルは……爆発。ガシャンと膝を折れば、そのまま前のめりに倒れ込んでいった。

「――――――見たか、これがジークルーネの……音のスピードを越えた戦いだ……!!」

 フィーネもまた、一歩も動けない。片腕片足のナイトメイルでは、もうこれ以上は何も出来そうにない。

 だが……それでも、ジークルーネは健在だった。ボロボロの満身創痍でも、それでも……この仮想都市フィールドで最後に立っていたのは、間違いなく彼女だった。

 しん、とした静寂が辺りを包み込む。

 あれだけの熱量を持った激闘の余韻に浸るように、誰もが静まり返った中。まるで時間すら止まってしまったかのような、永遠にも感じられる刹那の沈黙の後で、響き渡るのは――――。

『――――デュランダル、行動不能。フレイア・エル・シュヴァリエさんの撃墜を確認しました』

 仮想都市フィールドに設置されたスピーカーから響く、今日三度目のエイジ・モルガーナの声で。

『チーム全滅を確認、戦闘終了(ノック・イット・オフ)

 続けて木霊するのは、激闘の終わりを告げる一言。そして僅かな静寂の後に……。

『勝者……ウェイン・スカイナイト、フィーネ・エクスクルード』

 今一度スピーカーから聞こえてくるのは、そんな……フィーネたちの勝利を告げる、凱歌にも似たエイジ・モルガーナの号令だった。





(第八章『ジークルーネ』了)

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