第八章:ジークルーネ/01
第八章:ジークルーネ
「ウェインっ!!」
――――ファルシオンが、ウェイン・スカイナイトが負けた。
撃墜されたファルシオンを見た瞬間、ウェインの敗北を告げるエイジの号令が響いた瞬間。叫んだフィーネは全身が軋むジークルーネを無理矢理に動かして、強引に立ち上がる。
ダンッと地を蹴って急加速し、一気にトップスピードへ。
しかしフレイアに飛び掛かることはせず、彼女を無視してフィーネはそのまま彼の元へと……ウェインの元へと駆けていく。
「おいウェイン、しっかりしろっ! 返事をしてくれ……ウェインっ!」
〈ファルシオン兄様っ、なんとか言ってくださいっ!!〉
力なく倒れていたファルシオンを抱き抱えながら、心底案じた声でフィーネとジークルーネが必死に叫ぶ。
すると、今まで光の消えていたファルシオンの双眸にまた微かな光が宿って。
「…………心配、し過ぎだっての。どうにか無事だぜ……俺たちなら」
〈……といっても、これ以上は動けませんがね〉
そうすれば返ってくるのは、ウェインとファルシオンの掠れた声。ウェインはいつも通りのぶっきらぼうな態度で、ファルシオンは参ったような口調でそう言葉を返してくれた。
そんな返事を聞けば、フィーネとジークルーネはホッと安堵し胸を撫で下ろす。
「馬鹿、あまり私を心配させてくれるな……」
「悪かったよ、だが……気を付けろよフィーネ。アイツの実力……本物だ」
〈言うまでもなく、分かっています。貴方と兄様がやられるぐらいですもの……油断や手加減の許される相手じゃありません〉
「分かった、お前はここでゆっくり休んでいてくれ。大丈夫だ……後は、私に任せておけ」
忠告してくれたウェインに笑顔で言って、そっとファルシオンの額を指で撫でた後……立ち上がったフィーネは、背にしたフレイアの方に振り返る。
その瞳に――ジークルーネの鋭い瞳に、強い闘志の焔を滾らせて。
「…………次は、貴女です」
フレイアはそう言って、静かにカーディナルソードを構える。
「言われなくても、そのつもりだ」
それに対しフィーネもまた、再召喚したミラージュレイピアを構え直すことで応じた。
互いに剣を構えあい、睨み合う二人。
だが、まだ踏み込むことはしない。剣を振るうのは……まだ、もう少し先だ。
「これで、お互いに一対一ですね」
「そのようだな。しかし……フレイア、お前の覚悟には感服したよ。あんな言葉、中々言えるもんじゃない」
「ふふっ、その場の勢いでつい言ってしまいました。今にして思うと、少し恥ずかしい気もしますけれど」
「少しなんてものじゃないだろう。風牙を見てみろ、まだ理解できていないようだぞ」
フィーネに言われて、フレイアはチラリと風牙の方を見てみる。
すると――遠くで横たわっている天雷は、当たり前だがピクリともしていなくて。顔は見えないものの、融合している風牙がボケーっと放心状態になっているのは……何となくだが、気配で伝わってくる。
そんな風牙から視線を戻したフレイアは、目の前の彼女に一言。
「フィーネさんには負けますけどね」
と、ニコッと柔らかな笑顔を浮かべながら言った。
「転入早々、皆の目の前でキスなんて……私にはとてもできません」
「ううむ、そうだろうか」
「はい、そうです♪」
うーんと唸るフィーネに、ふふっと笑いかけるフレイア。
そんな風に二人が言葉を交わす中……二騎のナイトメイルもまた、互いに言葉を交わし合っていた。
〈……デュランダル、と仰いましたか。あのファルシオン兄様を倒してしまうとは……何者ですか、貴女は?〉
〈うーん、それはこっちの台詞かな? こんな異様な力を持ったナイトメイル、ボクは他に見たことがない。君もあのファルシオンも、ほとんど神の領域に片足を突っ込んでるなって感じたぐらいだから……何者だって訊きたいのは、実はボクの方なんだよね〉
〈私は私、兄様は兄様です。それ以上でもそれ以下でもない……ただのナイトメイルですよ〉
〈じゃあ、ボクもそういう答えってことにしておこうかな〉
〈……改めて、名前を訊かせて貰えますか?〉
〈いいよ。僕はデュランダル……我が主フレイア・エル・シュヴァリエの振るう、誇り高き聖剣だ〉
〈私は……ジークルーネ。フィーネ姉様の……相棒です〉
蒼き神速の騎士と、黄金の聖騎士とが向かい合い、静かに視線を交わし合う。
フィーネとフレイア、ジークルーネとデュランダル。
二人と二騎の睨み合いは、しかしそう長くは続かない。
「私のウェインを倒してくれたな。その礼はさせて貰うぞ、フレイア」
「いいえ、勝つのは私たちです。貴女を倒して……風牙の気持ちを、あの子の答えを聞くのはその後です」
「……もしも、アイツが断ったらどうするつもりだ?」
「その時はその時、です。私は私の正直な気持ちを、ありのままの想いを伝えられた。きっと……それだけで、満足ですから」
「…………やっぱり強いな、お前は」
「気付かせてくれたフィーネさんも、とっても強い方ですよ」
「……ふっ」
「ふふふっ……♪」
互いに切っ先を向け合いながら、楽しそうに笑い合う二人。
そうして笑い合った後、またもう一度だけ視線を交わし合った後――――二人の戦いは、遂に幕を開けるのだった。
「では、参りましょうか」
「手加減はせん! 来い……フレイアぁぁぁっ!!」




