表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
PR
64/137

第四章:ダブルデート・アタック!/02

 で、学院を出た一行が向かった先は近場にあるモノレール駅だった。

 校門を出てすぐの位置にある最寄り駅で、寮暮らしじゃない通学組の学生や教師が毎日の足として使っている駅だ。前にウェインがフィーネに連れられて出掛けた時も、この駅から乗っていった。

 平日であれば混み合っている駅も、休日の今日は利用者の数もまばらな様子。どうやら目的地までは快適に行けそうな雰囲気だ。

 そのモノレール駅に着いた一行は、さっさと切符を買って乗り込もうとした……のだが。

「えっと、これは一体どうすれば……?」

 フレイアは首を傾げながら、困った様子で券売機の前に立ち尽くしてしまう。

「どうするって、買うんだろ切符?」

「え、ええ。でもウェインさん……お恥ずかしながら、その……どうしたらいいのか分からなくて」

「……マジかよ」

「あー……そういやフレイアお前、電車の切符なんて買ったことなかったよな」

 心底困った顔で言ったフレイアの反応にウェインが絶句する傍ら、風牙は合点がいった風にうんうんと頷く。

 ――――フレイアは、切符を買ったことがない。

 なんともベタにも程がある話だが、納得はできる。普段こうして接していると忘れがちだが……彼女は帝国でも有数の名門貴族・シュヴァリエ家のご令嬢なのだ。そんな高貴な出自の彼女ならば、電車の切符なんてものの買い方を知らなくたって不思議じゃない。

 現にフレイアは券売機の前に立ち尽くしたまま困り果てている。冗談を言っている様子じゃないし、どうやら本当に分からないようだ。

「ふむ、なら私のを見て覚えろ。出来るな?」

 そんなフレイアの傍で、隣の券売機の前に立ちながらフィーネが言う。

 フレイアが「は、はい」と頷くと、了承したフィーネは傍らの彼女に教えながら、慣れた手つきで購入操作を進めていく。

「確か行き先は……ここだから、同じ運賃のボタンを押せ。その後で必要な金額を入れればいい」

「なるほど……」

 頭上の案内図を見ながらボタンを押し、チャリンチャリンと券売機に300フェリアの硬貨を入れてやる。

 ちなみに『フェリア』というのはノーティリア帝国の通貨だ。三桁まではコインで、それ以上は紙幣が用いられている。

 ……と、そんなフィーネの操作を間近でフレイアが見つめる中。僅かに唸った券売機はチャリンチャリン、と30フェリア硬貨のお釣りと一緒にシュッと切符を出してきた。

「――――で、終わりだ」

 出てきた切符とお釣りのコインを受け取りながらフィーネが言うと、見ていたフレイアはきょとんと目を丸くして。

「えっと……これだけ、ですか?」

 こんな風に、真面目に驚いた風な反応を見せる。

「そうだ、もう覚えたな?」

「え、ええ……本当に簡単なんですね。こんなに大きな機械ですから、もっと複雑かと」

「ふふっ、その逆だフレイア。簡単にするために機械を使っているんだ。……ほら、今度は自分でやってみろ」

「分かりました、やってみます……えっと、こうですよね?」

「正解だ、後はお前の思う通りにやればいい」

「はいっ。……出来ました! 出来ましたよフィーネさんっ」

「よしよし、よく出来たなフレイア。ちゃんと自分で買えたじゃないか」

 フィーネの見よう見まねで券売機を操作してみて、ちゃんと切符が出てくれば子供のように喜ぶフレイア。

 本当に子供みたいに、嬉しそうな顔をするフレイアの無邪気な反応に、隣で見ていたフィーネもどこか満足げな様子だった。

 …………それにしても、本当に世間離れした少女だ。

 学院の中に居ると分かりづらいが、こういうところはやっぱり貴族のご令嬢なのだろう。たかがモノレールの切符ひとつでこうも喜べるとは……なんというか、普段の聡明なフレイアからは想像しづらい気がする。

 が、これもまた彼女なのだ。意外に世間知らずなところも、たまに子供っぽいところを見せるのも……それも含めてのフレイア・エル・シュヴァリエなのだ。

 そういう意味では、フィーネもフィーネで相変わらずだ。

 困ったフレイアに丁寧に教えてやる彼女は、ウェインのよく知っている世話焼きなフィーネそのもの。相も変わらずの面倒見の良さに、見ていたウェインも思わず頬を緩めてしまう。

 ……と、そうこうしている内に時刻が近づいてきたらしく。いつの間にか改札の向こうに行っていた風牙に「おーい! 終わったんならとっとと行こうぜー!」と呼びかけられて、三人も慌てて改札を潜っていく。

 もちろんフレイアにとって、自動改札機を潜るというのも初体験だ。

 先に行ったウェインとフィーネを見よう見まねで切符を入れてみて、初めて見る自動改札機の動作にまた驚きながら……先に行った風牙の後を追って、ホームへと続く階段を昇っていく。

 そうしてフレイアが階段を昇り切ったタイミングで、丁度ホームに銀色の車体が滑り込んできたところだった。

 モノレールが停車し、車両のドアが開いてからコンマ数秒後にホームドアも開く。

 四人で乗り込んでいったモノレールの車内は、やはり随分と空いている様子だった。

 休日も、それもこんな朝早くということもあってか、フレイアたち以外の乗客はほぼ居ないに等しい。平日の今頃ならとっくに埋まり切っている座席も選びたい放題だ。

 そんなガラガラの車内で、四人は適当な座席に腰掛ける。シート自体は簡素な横長ベンチシートだから、四人で横並びになる形だ。

 そうして座ったタイミングでドアが閉まり、モノレールが発車する。

「……そういえば、昔はよくこんな風に……風牙は私を連れ出してくれましたよね」

 静かに走るモノレールに揺られながら、ふと思い出したようにフレイアがポツリと呟く。

 風牙はそれに「そういや、そうだったなあ」と呑気な顔で相槌を打ち。

「あの時ゃ俺っちが切符とかまとめて買っちまってたから、お前が知らなくても無理ないわな」

「風牙に連れ出してもらって、二人で色んなところに遊びに行って……今でも昨日のことのように思い出せます。楽しかったですね……本当に」

「帰った後でお互いの親に二人揃って大目玉喰らう、ってのまでがセットだったけどよ」

「ふふっ、でも後悔はしてませんよね?」

「後悔なんざ、俺っちがすると思うかい?」

「思いません♪」

 どうやら、話の内容は二人の思い出話のようだった。

 会話から察するに、恐らくは二人の幼少期の出来事について。名門貴族の生まれで……恐らくはかごの鳥に近い窮屈な暮らしだったのだろうフレイアを、風牙がしょっちゅう連れ出してはあっちこっち二人で遊びまわっていたとか、そんな感じの話なのだろう。

 横で聞いているウェインもフィーネも、色々と気になることはあったが……楽しそうな二人に水を差しても悪いと思い、ただ黙って聞いていることにした。

「……ま、あん時のフレイアってなんだか窮屈そうだったからよ。俺がどうにか出来る時は、せめて楽しく過ごさせてやりてえって思ったんだよな」

「ですね。あの頃は社交パーティや習い事の毎日で、なんだか息が詰まりそうな日々でしたから……だから初めて風牙が連れ出してくれた時、本当に嬉しかったんですよ?」

「まー、だったら何度も大目玉喰らった甲斐はあったってことだな。俺もフレイアの感じてた窮屈さはよーく分かってたからよ……名門貴族のお前と俺なんかとじゃ、比べものにならないぐらいだっただろうけどな」

「でも、とっても嬉しかったです。本当に懐かしい……今でも夢に見るんです、あの時のことは」

「へえー? 奇遇じゃん俺っちもだわ」

「ふふっ、いい思い出ですからねっ♪」

 揺れるモノレールの車内で、楽しく思い出話に花を咲かせる二人。

 そうして話している内にもモノレールは走り続けて……目的地の駅に到着したのは、出発からおよそ三〇分後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ