第九章:天の雷/01
第九章:天の雷
「オラァァァァッ!!」
真っ先に動いたのは、やはりウェインの方からだった。
戦闘開始の号令が響いた瞬間、背中のプラーナウィングをはためかせたウェインのファルシオンは瞬時に加速。一気に天雷の懐目掛けて、最速の踏み込みで飛び込んでいく。
「うえっ、いきなり来んじゃねえよ気持ち悪りい!」
が、数瞬遅れて風牙も反応。バッと後ろに大きく飛んで距離を取りつつ、迫り来るウェインに対して迎撃の構えを取る。
「ライトニングアロー、展開! ったく、いきなり使う羽目になんのかよ……!」
小刻みにバックステップを繰り返しながら、風牙は左腕にある固定装備の弓――ライトニングアローを展開。格納されていた弓のリム部分をバシンと上下に起こし、弓の形を形成する。
「外すかよ……喰らいやがれ、スパークボルトだっ!!」
そうして展開した弓に、風牙は右手に生成した光の矢――『スパークボルト』を番え、ギュッと引き絞る。
後ろに飛びながら、狙い定める標的はファルシオン。
瞬時に照準を定めた風牙の天雷、その左腕からバシンと放たれた光の矢は、猛スピードで突っ込むウェインに向かって真っすぐに飛んでいく。
「っと、危ねぇっ!」
その光の矢を、ウェインは当たる寸前のところでグイっと捻り込んで回避。そのままグッと急上昇して風牙から一旦距離を取る。
「逃げんなよ、折角のおもてなしが台無しだろうが!」
「飛び道具振り回してる奴に言われたかねえんだよ!」
急上昇して飛び上がったウェインに対し、立ち止まった風牙は二の矢、三の矢と番えて発射。地上からの猛烈な対空砲火をウェインに浴びせる。
下から飛んでくる無数の光の矢を、プラーナウィングをはためかせながらの回避運動でウェインは難なく回避を続ける。だが……熾烈かつ冷静な対空砲火を前にして、思うように動けないでもいた。
――――ファルシオンは、空戦に於いては圧倒的な優位を持つ。
それを知っているからこそ、風牙は敢えて彼と同じ土俵には上がらず、ただ地上からの対空砲火に徹しているのだ。相手の有利な場じゃなく、あくまで自分の持ち味たる飛び道具を生かす形で立ちまわっている。
意外にクレバーな立ち回りだ。風牙は直情的でどこかアホっぽいように見えて、意外と頭の回転が早いタイプなのかも知れない。
どちらにせよ、このままでは決着なんてつくはずもない。
「だったら……プロミネンス・バァァァァストッ!!」
そう思ったウェインは、すぐに次の行動に打って出た。
次々と飛んでくる対空砲火を避けながら、その中の一瞬の隙を突いたウェインは――バッと右手を突き出して、そこから真っ赤な灼熱の奔流をブッ放す。
放たれたのは火属性の攻撃魔術『プロミネンスバースト』。僅かな隙を突いて放たれた超高熱の火柱は、地上でライトニングアローを構える風牙に向かって真っすぐに伸びていく。
「うおおおおっ!?」
予想だにしないタイミングで飛んできた火柱に、風牙は表面上こそ驚きつつも冷静に対応。番えかけていた光の矢を放り捨てつつ、すぐに横っ飛びに大きく飛んで回避する。
横に大きく飛んだ天雷、そのすぐ真横を火柱が通り過ぎて……灼熱の奔流が、天雷のオレンジ色の鎧を僅かに焦がす。
「チッ……! ライトニングハーケン、乱れ撃ちだぁぁぁっ!!」
避けられたのを見てウェインは小さく舌を打ちつつ、今度は数十本の光の槍を撃ち下ろす。
「おっとっと!」
ウェインが放った無数の光の槍――ライトニングハーケンの雨に、しかし風牙はやはり冷静に対処。ぴょんぴょんと兎のように跳ねまわり、降り注ぐ光の槍の雨あられを巧みに躱していく。
「ちょこまか逃げやがって、この野郎!」
「バーカ、これも戦術って奴なんだよ!」
あっちこっち逃げ回る天雷に業を煮やし、苛立ちの怒鳴り声を上げるウェイン。
それに風牙はニヤニヤ笑いながら飄々とした態度で返しつつ、再びライトニングアローに光の矢を番えて迎撃。ウェインはそんな対空砲火の隙間を縫うように、一気に急降下して……。
「オラァァァァッ!!」
そのまま落下の勢いを利用し、鋭い飛び蹴りを敢行。流石に風牙もこれには対応しきれず、右肩に飛び蹴りを喰らった彼の天雷は大きく後ろに吹っ飛んでしまう。
「こんにゃろう……! 俺の可愛い相棒に傷を付けやがったなぁぁぁっ!?」
しかし風牙も転んだってタダで起きる男じゃない。吹っ飛びつつも空中で上手く態勢を整えて着地すれば、ザァァァっと後ろに滑りながら……瞬時に番えた光の矢をライトニングアローから撃ち放つ。
「ッ!」
それをウェインは反射的に手で払い除けたが、しかしほんの僅かな掠り傷がファルシオンの右手の甲に刻まれてしまう。
「へへっ、これでおあいこって奴だ……!」
「野郎、中々やるじゃねえか……! てめえがそう来るってんなら、こっちにも考えがあるぜ!」
文字通りに一矢報いてニヤリとする風牙に、ウェインもどこか楽しげな顔で笑い返すと。
「――――ファルシオン・バトルキャリバァァァァァッ!!」
バッと伸ばした左手の先にプラーナを集中させ、両刃の剣――ファルシオン・バトルキャリバーを生成。握り締めたそれを構えれば、一気に風牙目掛けて突っ込んでいく。
「うおっと、近づかせるかよ!」
プラーナウィングを激しくはためかせながら、弾丸のような勢いで突進してくるファルシオン。
それに対し、風牙は立ち止まったままライトニングアローから光の矢を連射して迎撃を試みるが……。
「でりゃぁぁぁぁぁっ!!」
しかし、ウェインは左手のバトルキャリバーを素早く振るい、飛んできた光の矢を全て空中で斬り払ってみせる。
「おいおいおいおい……! マジかよ聞いてねえぞ!?」
「そう何度も何度も喰らってやるかってんだ、甘いんだよてめえは!」
風牙が驚いている間にも、ウェインは猛烈な勢いで懐に飛び込んでいて……振り上げた左手の剣を、眼前の天雷に向かって振り下ろす。
「ッ……!」
だが彼だって無抵抗でやられはしない。風牙は反射的に右手を構えれば、手の甲からバシュンと両刃の隠し剣『アームブレード』を射出展開。ガキィンッと刃同士が激突すれば、天雷の胴体が叩き斬られる寸前でどうにかバトルキャリバーを受け止めてみせた。
「っ、らぁぁぁぁぁっ!!」
どうにか受け止めた風牙はそのままファルシオンを蹴っ飛ばしつつ、後ろに大きく飛んで間合いを取る。
飛び出したままのアームブレードを元に戻して、風牙はバッと右手を掲げれば――その先に、持てるプラーナを集中させる。
「フェイルスピア! てめえ、俺にコイツを抜かせたな……!」
そうして右手の中に生成されるのは、穂先が三又に分かれたトライデント型の長槍『フェイルスピア』。それを頭上でぐるんぐるんと振り回しながら、風牙は悔しげに奥歯をギリリと鳴らす。
「ケッ、やっと本気になりやがったか!」
「馬鹿言うんじゃねえ、最初から本気も本気だってえの!」
「ああそうかい! じゃあさっさと来やがれ! 逃げも隠れもしねえ、真っ正面から相手になってやらぁっ!」
「言ったなこの野郎! 後悔しても知らねえぞぉぉっ!!」
売り言葉に買い言葉、ウェインと叫び合った風牙はダンッと強く踏み出して、今度は自分から攻撃を仕掛けにいく。
右手のフェイルスピアで鋭い突きを放ちながら、避けたウェインの見せた僅かな隙を突いてライトニングアローを発射。ウェインが反撃してくるとすぐに一方後ろに引いて、弓での射撃の合間にまたフェイルスピアでの攻撃を仕掛ける。
そんな風牙の戦いぶりは、今までの引き撃ち気味な、どちらかといえば受け身っぽい戦い方とは打って変わってかなり積極的なもの。近すぎず遠すぎず、槍と弓を上手に使い分けた遠近一体の、変幻自在な戦闘スタイルでウェインを翻弄し続ける。
トリッキーな風牙の戦法を前に、ウェインは思うように攻めることも守ることもままならず。少しばかり押され気味になっていた。
――――ウェインが、押されている。
彼自身にも信じられないことだったが、しかし風牙のトリッキーな戦法と、何よりも今のこの環境がウェインをより不利にしている。
というのも、ここは手狭なスタジアム。幾ら普通の競技場と比べて圧倒的に大きなスタジアムといえども、ナイトメイルにとってはやはり手狭な空間といえる程度の広さしかない。
そんな狭い中では、ファルシオンの持ち味たる高い機動力を生かした空戦、縦横無尽の三次元戦闘はどうしてもやりにくい。ある意味で閉所ともいえるスタジアムの環境が、風牙にとってはより有利に、そしてウェインにはより不利に働いているのだ。
「流石にやるみてえだな……野郎、そんじょそこらの有象無象とはワケが違うぜ」
そんな不利な状況でもウェインは巧みに立ち回りつつ、思わずそんなことを口にする。
戦いの中で、彼は風牙の実力を認めつつあった。こうして刃を交わしていれば否が応でも分かる。認めるしかないだろう――――相対する彼の、雪城風牙の強さを。
だからこそ、ウェインは戦いの中で思わずそんな言葉を漏らしてしまっていた。
「燃えてきたぜ……! こんだけ刺激的な相手なんざ、フィーネ以外じゃ初めてだ!」
〈しかし、このままでは……!〉
風牙の振るうフェイルスピアの刃を躱しながら、心底嬉しそうな笑顔でひとりごちるウェイン。
その傍ら、あくまで冷静な声で言うファルシオンに「分かってんだよ、んなこたあ!」と言い返しつつ。
(ま、確かにこのまんまじゃあヤベえよな……!)
……内心ではそう、自身がどんどん不利な状況に追い込まれているのだと悟っていた。




