第七章:風の牙と金色の姫騎士と/04
そんな二人の様子を――――少し離れた席から、雪城風牙はじっと遠巻きに眺めていた。
「あの野郎、フィーネちゃんに食べさせて貰うなんて羨ま……じゃなくてけしからん奴め……今に見てやがれ」
風牙はずるずると昼食のラーメンを啜りつつ、なんというか嫉妬全開のジトーっとした目で遠くから二人を見ていて。その横に座ったフレイアが「やめなさい、みっともない」と見かねて小言を言う。
しかし風牙は「うるせー」と子供じみた反応をするだけで、呆れたフレイアは「もう……」と小さく溜息をつくことしかできない。
「……決闘、本当にやるつもりですか?」
溜息をつきながら、フレイアは小声で彼に問うてみる。
すると風牙は「あたぼうよ」と即座に頷き肯定し。
「何があったって俺は野郎に勝たなきゃならねえ、勝って……フィーネちゃんを俺のモノにしてやるんだ」
と、瞳の奥でメラメラと闘志の炎を燃やしながら続ける。
「でも、それだけが理由じゃないんでしょう?」
完全にやる気全開な風牙に、フレイアはあくまで冷静な口調で問いかける。
「…………」
だが、今度の質問には何故だか風牙は沈黙して答えようとしない。
そんな彼を横目に見つつ、フレイアは彼の答えを待たぬまま、続けてこうも風牙に言った。
「貴方の気持ちや、感じている苦しさは……私にもよく理解できます。けれど……これは、単なる八つ当たりなんじゃないですか?」
風牙の感じている苦しさ、それは……恵まれすぎているが故の窮屈感、そして周囲の向ける期待が大きすぎるが故の、強い束縛感。
彼を誰よりも近くで見てきて、そして誰よりも共感できる立場にあるからこそ、フレイアが投げかけた言葉。
それに風牙は「分かってらあ、そんなこと」と返して、
「ああそうだ、フレイアの言う通りだ。決闘自体は単なる八つ当たりさ。けれど……フィーネちゃんが欲しいって気持ちに嘘はねえよ。俺はあの娘が気に入った、一目惚れだった! 俺は欲しいモンは全部手に入れるんだ……今までも、これからもな。
確かにアイツは意外とイイ奴だったよ、そりゃあ間違いねえ。でもそれはそれ、これはこれだ。俺はフィーネちゃんが欲しい……だから奪い取る、例え力づくでもな……!」
そう、ギラつく瞳で遠くのウェインを睨み付けながら……風牙は本音を口にする。
決闘は八つ当たり、でもフィーネが欲しいのは本当の気持ち。だから……どうしたって手に入れる、奪い取ってみせる。
「…………そう、ですか」
風牙の気持ちが向いているのは、あの銀色の髪の少女だけ。すぐ隣に居るのに……彼の視線は、どうしたって向きはしない。
それを思うと、自分でも不思議と変な気持ちになってしまって。だから自然と寂しそうな顔を浮かべていたフレイアだったが……しかし、すぐ傍に居る彼女の、そんな表情も風牙の目には入ることなく。猛禽類のようにギラついた瞳は……ただ真っ直ぐにウェインを、そしてフィーネを見つめ続けていた。
(第七章『風の牙と金色の姫騎士と』了)




