第六章:少女たちの休日/02
強引に連れられて、ウェインは繁華街の中をあっちこっちとフィーネに連れ回されていた。
最初は服飾店がズラリと立ち並ぶ煌びやかな通りに引っ張り込まれて、フィーネが始めるのはウィンドウショッピング。
「なあウェイン、これなんか私に似合うんじゃないか?」
「んあ? ……パーティ用のドレスねえ。いやお前に紫のドレスは似合わんだろ」
「じゃあ、お前は何色なら私に似合うと思う?」
「急に難しいこと訊くなよ……」
「あくまで例えばの話だ、別に今すぐ買うわけじゃない」
「…………強いて言えば、青か黒系じゃねーの」
「ふむ、その心は?」
「青は単にフィーネのイメージカラーっぽい、お前のルーネも青色だしな」
「確かにな。では黒は何故チョイスした?」
「……俺の好みだ。お前の髪と合わせたらゴシック調っぽくて良いと思った」
「ほう? なるほど……ウェインの好みは黒のドレスか。ふむふむ、覚えておくとしよう」
「ンなくだらねえこと覚えなくていいっつーの!」
なんて風にウィンドウショッピングを楽しんだ後は、次にフィーネは「一度やってみたかったんだ」なんて言って、今度は繁華街にあるゲームセンターにウェインを連れ込んでいく。
「――――だぁぁぁぁーっ! また負けたこんちきしょう!!」
「これでお前の五連敗だな。どうするウェイン、まだやるか?」
「幾らなんでも強すぎねえか……? お前ホントにレースゲームなんて初めてなんだよな……?」
「というより、ゲームセンター自体が初めてだ。来る機会なんて無かったからな」
「マジかよ……俺自信なくしてきた」
「ふっ、まあそう落ち込むな。私のスピードはお前が誰よりも知っているはずだろう?」
「そりゃそうだけどよ……それとこれとは話が別だろ……?」
「まあいい、次に行くとしよう。今度はウェインのやりたいものをやるとしようか」
「んだったら対戦じゃなくて協力プレイにしようぜ。丁度いいのが目の前にあるしな」
「良いだろう。……ふむ、横スクロールのシューティングか」
「だったら早速コイン入れてっと。ほらフィーネ、お前も座れよ」
「椅子は大きいのがひとつだけとはな。……少し狭いな」
「座れるだけ上等ってことよ。――――やっべえ早速死んだぞ!?」
「……早すぎないか?」
「よそ見してたんだよよそ見! ――――うおおまた死んだああああ!!」
「お前……さてはこの手のゲーム下手なのか……?」
なんて風に、店にある全ての筐体を遊びつくす勢いでじっくり楽しんだ後でやっとこさゲームセンターを出て。するとフィーネが何を思ったのか。
「――――そうだ、水族館に行こう」
なんてことを突然言い出したものだから……ウェインはまたモノレールに乗せられて、少し離れた海沿いにある水族館まで連れて行かれることに。
市街エリアのある大きな島、その港湾部の一角にある水族館だ。繁華街からはモノレールで十五分から二〇分程度で行ける距離で、水族館だけでなく周辺一帯も商業施設が充実している。
そのためか、どうやらデートスポットとしても人気があるらしい。それを思い出してなのか、それとも単なる気まぐれなのか……どちらにせよ、持ち前の強引さで彼女がウェインを連れて行ったのはそんな場所だった。
「おおっ……! 見てみろウェイン! たくさん泳いでいるぞ!」
「ま、水族館だからな。おおマンボウが泳いでやがる……デケえなオイ」
「あっちを見てみろ、イルカも泳いでいるぞ! 凄いな……水族館は初めてだが、こんなに楽しい場所だったとは知らなかった!」
そんな水族館に入ってすぐ、薄暗い館内でフィーネは目の前にある大きな水槽に駆け寄って目を輝かせていた。
ウェインは水槽に張り付かんばかりの彼女の隣に立ちながら「俺もだ」と短く返してやる。フィーネほどじゃないが、ウェインも初めて訪れる水族館に心躍っていた。自然と緩んだ口角が何よりもの証だ。
(そういや、ここ最近は任務続きで忙しかったからな。休みなんてロクに過ごした覚えもねえや)
目をきらきらさせながら、水槽に釘付けになる隣のフィーネ。
ウェインは無邪気そのものな彼女の横顔をチラリと横目に眺めつつ、ふと何気なくそんなことを思っていた。
――――休暇をちゃんと過ごしたのなんて、いつぶりだろうか。
ここしばらくの間、ウェインは任務に次ぐ任務でずっと忙しくしていた。その極めつけが今の潜入任務だ。今日までの長い間、忙しさにかまけていたせいで……ロクに休暇を満喫した覚えがない。
それこそ、最後に街に繰り出したのなんて一体どれだけ前のことだったか……パッと思い出せないぐらいだ。
当然、それは隣に居る相棒も――フィーネも同じことだ。
任務の時だけじゃなく、こうして休暇に出掛ける時も大抵は彼女と一緒……というかフィーネに無理矢理に引きずり出される形だったから、ウェインの記憶にないということはそれ即ちフィーネも同じこと。こうして考えてみるまで気付きもしなかったが、こんな休日らしい休日を過ごす機会は、なんだか随分と久し振りな気がする。
(そういや、昔からしょっちゅう引っ張り回されてたよな)
隣の彼女を何気なく横目に見ながら、ウェインは思う。
――――ウェイン・スカイナイトとフィーネ・エクスクルード。
二人の関係性は相棒であると同時に、なんというか……幼馴染のようなものだった。
幼い頃――といっても十歳は過ぎていたが、元居た家を飛び出したウェインは紆余曲折あった末、今の上司で親代わりのニール・ビショップの元に転がり込んだ。そこで出会ったのが彼女……フィーネ・エクスクルードだったのだ。
実を言うとウェインは中々に複雑な家庭事情の持ち主なのだが、フィーネもそんな彼に負けず劣らずの複雑な事情を抱えていた。
だから彼がニールの元に転がり込んだ時、最初の内はフィーネは心を開いてくれなかった。でも互いに交流を深める内に、自然と心を開いてくれて……今ではこんな仲になってしまっている。
だから、ウェインにとってフィーネは相棒であり幼馴染のようなものでもあり、姉のようでも妹のようでもあり。何というか、どこか気の置けない……そんな特別な存在なのだ。
確実に言えることは、彼女はウェインにとって唯一と言ってもいいほど深く信頼している相手ということだ。
無論、それはフィーネにとっても同じこと。でなければ互いに相棒として、生死を懸けた中で背中を預け合うことなんて出来ない。
故にウェインは――――フィーネのこういう強引なところに辟易しつつも、でも不思議と嫌な感じはしていなかった。
むしろ、その逆かもしれない。こうした彼女の強引さが、彼女に振り回されることが、どこか心地良くも感じてしまっている。
(……妙な気分だな)
だからこそ、ウェインは……任務の一環であるとはいえ、こうして二人一緒に普通の学生生活を送っていることが、どこか不思議で仕方なかった。
それだけじゃない、こんな風に年相応に休日を楽しんでいる今のこの時間も、何故だか不思議に思えてしまう。
同時に、ウェインはこうも思うのだ。もしもお互いにこういう形ではなく、もっと普通に出会っていたら――――どうなっていたんだろう、と。
「なんだ、難しい顔をしているな」
――――と、ウェインがそんな風に思っていると。いつの間にか振り向いていたフィーネが声を掛けてくる。
彼女に言われて、彼女の真っ赤なルビーの瞳にじっと見つめられて。ウェインはハッと我に返ると「……気のせいだろ」と適当に取り繕おうとする。
しかしフィーネは「いいや、気のせいじゃない」と即座に否定すると。
「どうせお前のことだ、任務のことでも考えていたんだろう?」
と、ウェインの内心をピタリと言い当ててしまう。
どこか呆れっぽく、まるで全てお見通しだと言わんばかりの調子だ。まさに図星、だからウェインは「うぐ……」と言葉に詰まり、ぐうの音も出なくなってしまう。
そんな隣の彼を見つめながら、フィーネはふふっと小さく表情を綻ばせると。
「あまり真面目に考えすぎるな、肩肘を張りすぎるのはお前の悪い癖だ。ガサツに見えて意外と生真面目だからな、お前は……どのみち今日は休日なんだ、探ろうにも探れないだろう。ニールもああ言っていたことだし、せめて休みの日ぐらいは肩の力を抜いて、普通に楽しめばいい」
そう、どこか諭すような口調で彼に語り掛ける。
言われたウェインもどこか腑に落ちた様子で「……ま、確かにな」と小さく肩を揺らして。
「お前の言う通りだ、考えすぎだな。フィーネの言う通り、今日は何も考えねえようにするさ」
文字通りに肩の力を抜きながら言うと、フィーネは「うむ!」と満足そうに笑顔を見せてくれて。
「じゃあ次はあっちだ! なんでもイルカのショーとやらがもうすぐ始まるらしいからな!」
と言ってまたウェインの手を取ると、そのまま彼の手を引っ張って……また強引にあっちこっち連れ回していくのだった。




