第六章:少女たちの休日/01
第六章:少女たちの休日
「そうだウェイン、街に出るぞ」
朝も早くからフィーネが突然言い出した一言。この言葉が切っ掛けで、ウェインは彼女と一緒に街に繰り出すことになっていた。
都合よく今日は土曜日、つまりは休日だ。フィーネが言い出した街というのは学園都市の一角、学院エリアに隣接する市街エリアのこと。実を言うと二人とも、市街エリアに行くのは今日が初めてだった。
というのも学院に来てから二週間のあいだ、特に外に出る用事もなかったから。寝泊まりは当然ながら学生寮で良いし、食事は学食で、必要な日用品なんかは購買で事足りてしまう。わざわざ市街エリアの方まで遠出する必要もなくて、だから二人とも学院の外に出たことはなかったのだ。
「ウェイン、本当にこの路線で合っているのか?」
「流石に間違えねえよ……俺を何だと思ってるんだお前」
「お前は案外抜けているからな、万が一ということもある」
「へいへい……」
――――ということで、二人は土曜の朝早くからモノレールに乗って市街エリアに向かっていた。
前に述べた通り、学園都市エーリスは大小の島々が連なるエーリス群島に設立された都市で、その間を網目のように通された大橋や海底トンネル、モノレールなどが全ての島とエリアを繋いでいる。
二人が揺られているこのモノレールも、そんな学園都市には無くてはならない交通手段のひとつだ。
ちなみにモノレール自体は、高架橋のレールの上に銀色の車体が乗っかる『跨座式』というタイプのものだ。モノレールと言われて想像しがちな、レールにぶら下がる方式……懸垂式とは違うが、これも立派なモノレールのひとつだ。
学院エリアの駅から乗り込んで、五分も揺られればモノレールは学院エリアの島を通り抜けて……海の上を走る高架橋へ。海面にキラキラと朝焼けが反射して煌めく、綺麗なオーシャンビューを窓の外に眺めつつ……比較的空いた車内で、二人は隣り合って座っていた。
「フレイアから話は聞いていたが……確かに良い景色だ」
「ま、海の上走ってるからな。……っつーかよ、車使った方が早かったんじゃねえか?」
「分かってないな、ウェイン。確かに時間的にはその方が早く着くだろう。しかし……それではいささか風情に欠ける」
「風情、ねえ? そんなもんかね」
「そんなものだ」
と、こんな風に取り留めのない会話を交わしながらモノレールに揺られる二人。休日だから当たり前だが、二人とも今日は私服の格好だ。
ウェインの方はグレーのカッターシャツの上から黒のスーツジャケットを羽織り、下はジーンズといったラフな感じのコーディネート。
フィーネもまた似たようなもので、グレーのキャミソールの上からワインレッドのジャケットを……肘下で袖を折り曲げる形で羽織って、下は膝上丈の灰色のスカート、黒いニーハイソックスで包まれた脚には焦げ茶色のブーツを履くといった具合だ。
当然ウェインの懐には白い短剣が収まり、フィーネの首元には銀色のペンダントが揺れている。私服で休日にお出かけといっても、相棒たるナイトメイルは決して肌身離さないのが魔導士というものだ。
――――とまあ、そんな二人が他愛のない会話を交わしている内に、いつしかモノレールは海上に架かる橋を渡り切って、市街エリアのある大きな島に差し掛かる。
それから更に街中を走ること十数分。停車したモノレールの扉がピンポーン、とベルを鳴らして開けば、そこが目的地だ。
席を立って扉を潜り、駅のホームへ。そこから更にエスカレーターを降りて改札口を通り抜けていくと――――現れるのは、賑やかな街中の景色だ。
「へえ、意外と活気あるんだな」
「学園都市といっても、学生ばかりが住民じゃないからな。普通の街と何ら変わりないさ」
ウェインたちの目の前に広がるのは、賑やかな繁華街の景色だ。
休日ということもあって、かなりの人が通りを行き交い、店は繁盛し街は賑わいを見せている。こうして見ていると、本当に普通の街中と何も変わらないように思えてしまう。
――――学園都市といっても、住民の全てが学生というわけじゃない。
フィーネの言う通りだ。確かに学園都市エーリスは魔術学院や付随する研究機関を中心として設立された街だが、住むのはそれに関連する人々だけじゃない。
むしろその真逆だ。学院や魔導士、ナイトメイルと全く関わりのない多くの人々が都市エリアに根付き、日々の営みを繰り返している……。
島ひとつを隔てた学院エリアに居ると全く分からないが、こうして実際に目の当たりにするとよく分かる。
「ほら、さっさと行くぞ!」
だがウェインはそんな景色をじっくり眺める間もなく、フィーネに手を引かれていく。
「ちょっと待てって、転んじまうっての!」
突然引っ張られたウェインは足をもつれさせながら、彼女に手を引かれるままに繁華街へ繰り出していくのだった。




