第五章:雷鳴の貴公子/03
『――――決闘って、一体全体どうやったらそんな話になるんだ?』
「知らねえよ、ンなもんこっちが聞きてえぐらいだ」
時間は過ぎてその日の夜。学生寮の203号室で、ウェインとフィーネは通信機越しにニールと話していた。
無論、話す内容は今朝の一件について。雪城風牙とウェインが決闘することになった件についての報告だ。一通りの事情を聞かされたニールはなんとも困った顔を浮かべているが……当たり前すぎる反応だった。
「おっさん、とにかく奴のナイトメイルのデータを送ってくれ」
『ん? 別に構わないが、お前の実力なら要らないんじゃないか? 何より任務開始前にある程度は頭に入ってるんだろ?』
きょとんとした顔のニールに「ンなこたあ分かってんだよ」とウェインは言い返す。
「どうにも負けるに負けられねえ事情が出来ちまったんだよ。だから準備は万全にしておきたいんだ」
『……見かけによらず、几帳面なんだよなお前って』
真剣な声で言うウェインにやれやれ、とニールは肩を揺らしつつ。
『分かった、雪城風牙のナイトメイルに関しての情報はすぐに用意させる。少しだけ待ってくれ』
と言ってウェインの頼みを聞き入れてくれた。
『あと、さっきはああ言ったが……相手はあの雪城コンツェルンの御曹司だ。与えられているナイトメイルは連中が持てる技術の全てを費やして造り上げた、雪城コンツェルン最高の逸品だからな。状況次第だが、あるいはお前とファルシオンでも苦戦を強いられるかも知れん。油断するなよ……フィーネのためにも、何よりお前自身のためにもな』
「分かってる、手間かけさせて悪いなおっさん」
『気にしなくていい、お前の無茶にも慣れたよ』
どこか申し訳なさそうに頷くウェインと、それに小さく笑い返すニール。
そうした会話を最後に通信が切れると、ウェインはふぅ、と小さく息をつき。その後ですぐ隣に座るフィーネの方に視線を流すと。
「……さっきも聞いたけど、なんでまた決闘なんて受けちまったんだよ」
と、彼女に改めて問いかけてみる。
するとフィーネは「お前が負けるだなんて欠片も思っていないからな」と、今朝と同じような答えを返してきて。
「それに――――な」
続けて言いながら、膝立ちになると……あぐらをかくウェインの後ろに回り込んで、彼の背中にぎゅっと抱き着いてみる。
背中から身体を密着させて、両腕を彼の首に強く回して。どこにも行かせないと彼を繋ぎ止めるように……フィーネはぎゅっと、強く抱き着いてみる。
「ここでお前と私の立場をはっきりさせておけば、余計な虫が取りつくこともない。何よりここまで派手に動けば、まさか私らが密偵だとは誰も思うまいよ」
「……でもな」
「うるさい、いい加減に覚悟を決めろ。私は……お前になら全部預けられると言っているんだ。その結果がどうなろうが、私は甘んじて受け入れよう」
――――だが。
「だが……勝って貰わなければ困る。私はお前の敵を薙ぎ払う剣であり、そしてお前を守る盾なのだからな。お前以外の何者にも、私の剣を預けるつもりはない。それだけは心しておけよ、ウェイン?」
ぎゅっと強く抱き締めながら、耳元でボソボソと囁くフィーネ。
そんな彼女の囁き声に、ウェインは分かった分かったと肩を竦め返す。
「要は勝ちゃいいんだろ? それで全部丸く収まるんだ。いっぺんコテンパンに叩きのめしてやりゃ、野郎もちったあ棘が取れるだろうよ」
そう言うと、更にもう一言「それに――」と言葉を続けて。
「野郎の気持ちも分からんでもないんだ。恵まれた環境、窮屈さとストレスから来る反発……って言うのか? 俺だって窮屈さが気に食わなくて、家を飛び出して……おっさんのところに転がり込んだからよ」
「……そういえば、そうだったな」
フィーネはフッと小さく笑いながら頷いて。
「何にしても、必ず勝てよ。負けるのはこの私が許さない」
より一層強く抱き締めながら言うから、ウェインもまた「……へいへい」と、大きく肩を竦め返していた。
(第五章『雷鳴の貴公子』了)




