第七章:エスピオナージ・オペレーション/01
第七章:エスピオナージ・オペレーション
――――それから数日後の、夜更け頃。
ノーティリア帝国を構成する二つの大きな島の片割れ、西のトリニティ島。その南部沿岸の洋上にある一隻の豪華客船。そこにウェインとフィーネ、二人の姿はあった。
船内のカジノフロアの中、二人はそこのスタッフに扮して潜入している。
ウェインは白黒のウェイター姿で、そしてフィーネはというと…………。
「いくら潜り込むためって言ったってよ……」
「なんだ、不服か?」
「逆に平然としていられるお前がすげえよ……」
肩を竦めるウェインの横に立つ、フィーネの変装。
それは――――何故かバニーガールの格好だった。
そう、あのバニーガールだ。エナメルっぽい質感の青いバニースーツに、脚には濃いめの黒タイツ。頭にも可愛らしくウサギの耳なんか着けている。露出度は言わずもがな、肌面積は超大胆そのものって感じだ。
あの時、寮でアタッシュケースを開けた二人が思わず顔を見合わせたのも、このバニースーツに目を疑ったから。マトモじゃない衣装チョイスだとすら思ったほどだ。
……が、蓋を開けてみればどうだろうか。
二人が居る船内カジノフロアには、意外と同じような格好のバニーガールが多い。悔しいが、紛れ込むなら確かにこの恰好が一番だ。
……尤も、マトモじゃない衣装なのは疑いようもないのだが。
「とりあえず、今は適当に探るとしよう」
「……お、おう」
そんなバニーガールの格好でも平然とした様子で振る舞うフィーネに、ウェインはどうにも戸惑いつつも……二人でスタッフを装って歩き出す。
そうして二人でスタッフとして振る舞っていれば。
「ふふっ……なんだ、私に見とれているのか?」
小さく笑いながら、フィーネが小声でそんなことを言ってくる。
「ばっ、なわけ……」
そんなわけない、とは言い切れない。
何せ今の彼女の格好はバニーガールだ。ただでさえ絶世の美少女そのものなフィーネが、そんな刺激的な衣装を着ていれば……嫌でも無意識に視線は向いてしまう。
すると、そんな彼の反応を見たフィーネはふふっとまた笑って。
「心配しなくても、帰ったら個人的に見せてやる。好きなだけ……な?」
なんて風にからかってくるから、ウェインも「あ、あのなあ……!」と微妙な反応しかできない。
それを見たフィーネはまた小さく笑い。
「とにかく、今は任務に集中しろ。ここからは別行動だ……油断するなよ?」
そう言って、ウェインとは別方向に歩いていってしまう。
素肌を大きく見せたフィーネの背中は、すぐにカジノの人混みの中に消えていく。
彼女の言った通り、ここからは別行動だ。ただでさえ広い船の中、二人で別々に探索した方がいいのは言うまでもない。
だからウェインはやれやれ、とまた小さく肩を竦めてから。
「……よし、俺らも行動開始だな」
と言って、彼もまた独自の判断で潜入捜査を開始した。




