スライムドライのシチュー
オークの集落を壊滅させ、三桁に上るオークの肉を手に入れたワタルは、そlれから数日掛けて血抜きと解体に追われ、さらに熟成を経て、ベーコンとソーセージを完成させた。
tごりあえずベーコンとソーセージを100kgずつ持って、辺境領に向かうことにした。
ワタルは、朝ご飯の支度をしたあと、作り置きのシチューの寸胴をコンロの上に置き、コルに、不在中自由に食べてもらってよいので、留守番を頼むと告げ、同様にリルにも留守番を頼み、ブランカに乗って辺境領に向かった。
辺境領の聖堂はクリスの伯爵の屋敷と中央広場を結ぶ大通りのクリス邸寄りにあるが、孤児院は教会の所有といっても、そのような一等地にあるわけではなく町の外れ、貧民街の一角にあった。
直接の用事は孤児院への寄付だが、ワタルはマリアに断りを入れてからでないとマリアの面子をつぶすことになるので、先に聖堂に向かった。
マリアは朝のミサの真っ最中で、ワタルは邪魔にならないように一番後ろのベンチに座っていたが、聖堂内に入室するときにマリアと目が合い、マリアがかすかにほほえんだ気がした。
とりあえず、ワタルは,ミサが終わるのを待ってからマリアに声を掛けようとベントに座ったまま待っていた。
お昼前にミサが終わり、マリアはワタルのところに駆け寄ってきた。
「どうしたの?」マリアがワタルに嬉しそう煮声を掛ける。
「私に会いに来てくれたの?」
「ん?ああ、オークの集落を壊滅させて130体ほどオークの肉が手に入ったので、ベーコンとソーセージを作ってマリアの教会の孤児院に寄付しようと思ってな。」ワタルが素っ気なく伝える。
マリアは嬉しそうに目を大きく見開いて「本当?>ありがとぅ。私の治癒への寄付だけだとちょっとしんどいんだ。善意の寄付はどんなものでも嬉しい。」
「そうか、じゃあマリアに渡しておくから、孤児達の食事にあげてくれ」ワタルはそう言って、収納から取り出せる場所を尋ねる。
「それなら孤児院に直接持っていってもらっていい?私もついていくから。」マリアはそう言って嬉しそうに目を輝かせる。
「この後の予定は大丈夫なのか?」ワタルは尋ねる。
「大序部、滅多に会えないワタルが来てくれたんだから、それより大切な予定なんてないわ」マリアは胸を張って答える。
大丈夫なのか?まあ孤児院への用事はそれほど時間も掛からないだろう。
ワタルはマリアと一緒に孤児院を訪れる。
「この人がミレーナさん。孤児院の院長をしているの。」
「マリア様、今日は突然どのようなご用件で?」ミレーナがマリアに尋ねる。
「そしてそちらの方は?」ミレーナはワタルを見ながらマリアに尋ねる。
「こちらはワタルさん、私がとてもお世話になった人、今日は孤児院に寄付を持ってきてくれたの。」マリアが心持ち頬を染めながら答える。
「それはありがとうございます。お志はどのようなものでも歓迎です。」ミレーナがワタルにお辞儀する。
「あ、いや、それほどのものでもないので、気楽に受け取って頂きたい。」ワタルはそう告げて、収納からオークのベーコンとソーセージを各100kgずつ取り出す。
ちょっとした山が出来た。
「え、こんなに?しかもソーセージとかそんな貴重なものを。」
ソーセージに必要な材料であるバトルシープの腸はそもそも魔物の危険度が高いことや、討伐してすぐに内臓を処理しないと腸が溶けてしまうため、非常に貴重で高価なものであり、従ってソーセージも極めて高価な食べ物である。
それを目の前に山積みにされたので、ミレーナが驚くのは当然であった。
「気にしなくレいいぞ。材料のバトルシープはうちにいるドラゴンがたくさん狩ってきてくれたから、まだまだある。解体処理もそれほど時間はかからないし。肉は安物のオークの肉を使っているから。」ワタルが何でもないという認識で答えるが、その言葉を聞いて、ミレーナは驚きの余り言葉を失ってしまう。
「オークの肉って高級品ですよね?」
そう、一般市民の感覚では、魔物の肉を使うこと自体が高級品扱いになる。冒険者でなければ魔物の肉を調達できない。オークともなれば、戦闘スキルを持たない市民には恐怖の対象でしかない。冒険者が危険を冒して狩る魔物であり、その値段は家畜とは訳が違う。
一般市民の間隔ではそうなのだが、ワタルにしてみれば、オークなどスライムと大差はない。本心から「気にしなくていい。俺はオークの肉はどうも生理的に受け付けないので」ワタルはそう答える。実際、オークは人間にとって厄介で害悪な存在であるため、討伐対象なのだがどうせなら資源の有効利用をした方が良い。それだけの理由で討伐したオークの肉を回収しているのである。
「ありがとうございます。」ミレーナは目を輝かせながらワタルにお礼を言う。
マリアも嬉しそうだ。
「リディアに氷を作ってもらうといい。食料保管庫の中を低温にしておけば、10日間くらいは持つふぁろう。食べきれないようなら、販売するのもありだが、出来れば孤児達にはお腹いっぱい食べさせてやってくれ。」ワタルはそう言って、その場を後にしようとする・・・が、マリアに止められる。
「ワタル、本当にありがとう。この街は、まだクリスが孤児院に寄付もしてくれるし、他の町に比べて熱心な信者も多いから孤児院が受け入れられる孤児もよその町より多いけど、それでも教会は孤児院への予算を削って、聖職者への給与を増やそうとするの。孤児院が存続するための方法を考えなければいけないわ。何か良い方法思いつかない?」
「そんなことを言われても、俺は部外者だぞ?」
「そこをなんとか考えてくれない?ほら,ワタルって昔からいろんなアイディアを出してきうれるじゃない。」
「そういうの無茶ぶりって言うんだぞ。」ワタルはため息をつきながらマリアの無茶ぶりについて考えてみる。
ワタルの前世では、教会の事業と言えば、バターやクッキーを作ったり、ワイン農場の経営くらいか。
「辺境領の孤児院で独自の商品開発をしたらどうだ?その収益を孤児院の経営に充てる。子供でも参加出来るような、たとえば畑仕事をして作物を販売するとか。料理を作って販売するとか。」
ワタルはそこまで言って、何かを思いついたように急に黙り込む。やってみる価値はあるか。
「孤児院の敷地に、小屋を一つ作るだけの場所ってあるか?」ワタルが尋ねてみる。
「畑にしているところがありますが。」ミレーナが答える。
「マリアの権限で、そこを貸してもらうということは出来るか?」ワタルがマリアに尋ねる。
「良いわよ。でも何をするの?」マリアが怪訝そうに尋ねる。
「まだうまくいくかどうかは分からないが、幸い新しいダンジョンが見つかってこの街は冒険者が増えている。うまくいけば新しい商売につながるかもしれない。」
「とりあえず、賃料は月に金貨1枚でいいか?あとはそのときに。」ワタルはマリアと孤児院の敷地内にある畑に行き、借りる場所を決めて、杭を打っていく。
「とりあえず、今日から借りる。」ワタルはそういうと、ミレーナに金貨1枚を渡す。
「こんなに、いいんですか?」ミレーナは驚く。いくら街中といえ、孤児院が建っているのは町の外れの貧民街の一角である。ワタルの払った賃料は相場の10倍を超える。
「気にしなくていい。龍とフェンリルが獲ってくる魔物素材だけで、お金が増えていく一方だしな。」
「それなら教会にも寄付をお願い。」マリアが上目遣いでお願いしてきた。
「マリアだって上級冒険者だろ?ヒーラーとしてダンジョンに潜れば、すぐに大金得られるんじゃないか?」
「クリスもリディアも忙しいのよ。私もね。」
「今すぐは確約できないが、考えていることがうまくいけば、孤児院は独立採算が可能になるかもしれないぞ。そしたら教会も少しは余裕が出来るんじゃないか?」
とりあえず、出来ることからやっていくとワタルは話を打ち切る。
孤児院を出たワタルは鍛冶屋に足を運び、特注で、直径3m高さ1mの銅の鍋を注文し、他には同じ銅製の平たい長方形の容器と、その容器の中を10cm四方に区分けする仕切りを同じく特注で製作してもらった。
鍛冶屋は何に使うのか不思議がったが、ワタルが割り増しの料金を支払うと申し出て、やる気がでたのか、すぐに取りかかり、3日で完成してもらうことになった。
町の鍛冶屋も冒険者が増えたことで、武器や防具の注文が増えたらしく、盛況だった。
ワタルは、鍛冶屋を出ると、今度は町を出て粘土質の土が取れる山に行き、土魔法で、20cm×10cm×5cmのブロックを大量に作り出していくと、風と火の混合魔法で、ブロックを乾燥させていく。最後にブランカがブレスでブロックを焼き固めて、大量のブロックが完成した。
ワタルは町に引き返し、借りた土地の外周にブロックを積み重ねていく。外壁が出来た後は、自宅を作った余りの木材で屋根を付け、簡易の小屋があっという間に完成した。小屋の中の半分を大きなかまどが、残り半分を調理場が占めるような間取りが完成した。入り口と入り口を付ける壁は鍋をかまどに据えてから完成させるので、そこだけ壁があいたままになっていた。
ワタルは一旦そこで自宅に戻ることにした。
家に戻ったワタルは、早速寸胴を取り出し、野菜の切れ端やオークの骨などを水とワインで煮込んで行く。ベースとなるストックが出来たところで、トマトを始め、具材となる野菜と、オークの肉、香草などを煮込んでいく。試作品なので本番は3日くらい煮込む予定だが、8時間ほどで完成させる。
一応シチューが完成した。
それをバットに流すと、ワタルが前世で常用していたフリーズドライのシチューを作ろうと、フリーズだから、氷魔法で一旦凍らせて、さらに風魔法で凍った水分を吹き飛ばでばよいはずだ、ワタルはそう考えてとりあえず、試してみた。
シチューを凍らせることで油脂分と水分が分離するのは分かったが、むしろ水分をその後風魔法で吹き飛ばすことが出来る訳ではない。
ワタルは、前世でフリーズドライがどうやって作られていくのか知らなかった。
以前テレビで見たのは、オーブンで低温で5時間くらい熱を加えると水分が抜けるというものだったが、魔石コンロや薪ストーブで同じような方法を再現するのは難しかった。
ワタルが途方に暮れていたとき、全く思いつかなかったところに正解があった。
「ご主人-、血抜き終わったよー。」
それはエメリーの声だった。オークの解体のため、分裂して血抜きを担当していたエメリーが血抜きが終わったことをワタルに知らせに来たのだった。
「あるいはもしかして。」
ワタルはエメリーを見ると、シチューの入った容器の前にエメリーを置いて、スライム水分吸収を試してもらうことにした。
「いーよー。」
「一応断っとくけど、食事じゃないからな。食事の分は別にあるから食べるんじゃなくて、水分だけ抜いてくれ。以前やった切り倒した木の水分を抜くのと同じ感じで。」
ワタルがそう告げると、エメリーは触手を容器の中に入れて震え出す。
しばらくすると、容器の中のシチューに異変が起きた。表面がみるみるうちに砂浜から波が引いて行くように乾いていったのだった。
そのまま見ていると、エメリーが「終わったよー。」と言って触手を引っ込める。
ワタルは、容器の中でルゥになったシチューをつついて、その後ナイフで切って中を確認した。そこにあったのは紛れもなく前世で散々お世話になったフリーズドライのシチューだった。
これで、お湯で戻れば成功だが。
ワタルは、5cm四方に固まったシチューを切り出し、熱湯を注いで見る。
すると、すぐにその塊はどろどろのシチューに戻っていった。
念のため味見もしてみるが、やはりシチューだった。
フリーズドライ製法に替わるスライムドライのシチューが完成した。
ワタルは嬉しくなって、エメリーを撫でて、褒めた。「よくやった。」
エメリーは嬉しそうに「えへへ、ご主人の役に立てて嬉しい。」と答えた。
数日後、ワタルは注文していた大鍋と型抜きを受け取り、孤児院の庭の隅にある小屋の中で、シチューを作ると、容器に流し込み、オークのベーコンを薄切りにして4枚ずつ枠の中に入れて、シチューを流し込み、エメリーに乾燥させてもらう。
そうして出来たものを型枠の後に沿って割っていく。一欠片が4皿分のシチューが出来た。
それを、マリアとミレーナの見ている前で熱湯を注いで戻すと、マリアもミレーナも目を丸くして驚いた。
「食べるときはお湯を掛けるだけで済む。乾燥させているから日持ちもする。冒険者にはうってつけの携帯食になる。シチューは焦げ付かないように、根気よくかき混ぜることが必要だから、孤児院で当番で作ってもらえれば、材料はこちらで負担する。この一欠片の材料原価が銅貨15枚、販売価格は一欠片銀貨1枚にする。一皿銅貨25枚だから飛ぶように売れるだろう。孤児院には調理費用として、金貨1枚を渡せる。ギルドに販売委託することで、販売手数料が25%として、月1回の割合で製造販売すれば毎月金貨1枚の収入が得られる。これなら孤児院にも安定した収入が得られるのではないか。もし販売量が増えれば月2回の製造販売に増やせばいい。ただ、注意したいのは、つまみ食いが過ぎると、赤字になる可能性がある。毎回最低でも100人分は作らないと、赤字になる。孤児に手伝わせるとき、つまみ食いに気をつけないとならない。もちろん、元々孤児達が食べる分も入れた上で、コスト計算しているから、毎回決められた材料で100人分のシチューを作れば、採算合うぞ。」ワタルはそう説明する。
「ありがとうございます。」ミレーナは目に涙を浮かべてワタルにお礼を言う。
これで調理場の賃料と製造委託料を合わせて月金貨2枚の収入と毎月シチュー2皿が孤児に振る舞われることになる。これだけで孤児院の経営を全部賄うのは無理だろうけど、かなり余裕が出来ることになるだろう。
ワタルは、領主のクリスにも応援を頼み、孤児院印の乾燥シチューを広めてもらうことにした。最初はとりあえず、冒険者ギルドに売り込み、その利便性特にアイテムボックス矢マジックバッグを持たない冒険者にとって、ダンジョンに潜る際に荷物をどれだけ軽くするかは死活問題である。だからといってパサパサに乾燥し、カチカチの黒パンとチーズだけでは、魔物と戦う気力も出ない。それが数日も続けば、ストレスもたまり、命の危険さえ生じてしまう。
アドベンチャーガイドとしてのワタルの経験は前世の登山ガイドの経験も追加して、この商品が冒険者に受け入れられることを確信していた。
実際ギルドマスターはワタルの実演に目を剥いて驚き、二つ返事でギルドが委託販売すると申し出た。金額についても、もっと高くてもいいんじゃないかとさえ言われたが、冒険者も決して裕福な職業じゃないので、価格はワタルが提示した金額で販売し、ギルドの販売手数料は慣行に従い25%に設定された。
販売初日に美人として世界中に名の知れ渡ったマリアが実演販売に立ち会ったことから、アイドルの握手会さながら、開始10分で売り切れてしまい、その後実際に食べた冒険者による再入荷の問い合わせが殺到したことから、ギルドは孤児院になんとか製造量を増やしてもらえないかと頼み混むことになったが、製造に欠かせないエメリーが毎回毎回辺境領に留まる訳にはいかないことと、余り製造量を増やすと飽きられる可能性もあるので、月2回を上限として、確実に販売出来るのは月1回、2回目の製造が可能であれば予め孤児院からその旨ギルドに通知するということになった。
フリーズドライのシチューはきっと冒険者に受けるはずだけど、実際にファンタジー世界で作るとなるとどうなるか?やっぱりスライムg一番ありそう。ということで新しいスタンダードを提案します。




