オークでベーコンとそーせじを作ろう前編
朝仁なり,精霊達はそれぞれの住処に戻っていき、クリス達もコルに送ってもらい、辺境領に帰っていった。
ワタルは、新たに仲間になったフェンリルが日中見張りをしながら過ごす場所を作っていた。
風よけの土壁の内側に柵を作り、入り口を作って入ったところに,門番の詰め所のような小屋を建て、日中はフェンリルがそこに滞在することが出来るようにした。
もちろん夜は、家の中で寝ることにしていた。
コルが竜の姿に戻って寝ることも出来る大きな納屋は、柱も壁も使えないので、外壁を煉瓦で強化して出来ており、万一他の竜が尋ねてきても泊めることが出来るようにそこそこ広いものとなっていたため、ワタルの小屋はありとあらゆる来訪者を想定した規模に少しずつ広がっていった。
クリスからは、辺境領に新しく見つかったダンジョンが探索によって思った以上に深いものであったため、いつものメンバーで探索しようと誘われたのだが、ワタルは食料のため以外に魔物と戦うのにはあまり乗り気でなく、そのように伝え、ダンジョン探索は遠慮したいと伝えていた。
それよりも、辺境領の冒険者ギルドにコルのための調査クエストの依頼をしに行った折に小耳に挟んだ辺境領を狙っている王侯貴族の噂のほうが気になった。
この世界は高級食材や鉱物、素材などの多くを魔物討伐によって調達しており、それらを入手してくる冒険者はなくてはならない職業であるが、もちろん魔物はそうやすやすと欲しい者を譲り渡してくれる訳ではなく、冒険者は一攫千金のために命を賭けて臨む職業であった。
ところが王侯貴族らには、その冒険者の危険と隣り合わせの生活など想像すらできず、ただ辺境領にダンジョンが新たに見つかって、活況になったことだけで、その土地を手に入れようという短絡的な発想になっていた。
元々勇者が辺境領の領置を得るのは、魔物の領置と国境を接しており、王国を魔物から守る防波堤だからである。
平和ボケした王都の貴族などに領主がつとまるような土地ではないというのに、金のことにしか興味がなくまた考えることもできない貴族の欲に真正面から向き合わなければならないクリスの心労が伝わってくるような噂だった。
ま、ワタルには関係のないことだが。
コルが帰ってくるまでにフェンリルの小屋を作ったワタルだったが、フェンリルとずっと呼び続ける訳にもいかないので名前を付ける必要があった。
ファンタジー的にはフェンリルだからフェンとかフェルになるんだろうが、それではありきたりでつまらないので、「リル」と呼ぶことにした。
まあ、定番であることに代わりはないのだが。
リルは、出自が狼であるため、気配を消して獲物に近づき狩ることを日常にしていることから、ワタルは、深淵の森で、食料を獲ってくることをリルに要求した。コルもブランカもリルも結構な量の肉を食べるので、解体して熟成させる作業も日常業務の中にいれておく必要があった。
コルは長い年月を生きた龍だからなのか、容量の大きな収納魔法を会得していたが、リルは収納魔法を身につけてないので、特大のマジックバッグを首から掛けて持たせていた。ガイドであるワタルは依頼者に帯同する場合には自らの容量無制限の収納にほぼ全ての荷物を入れることが出来るが、だからといって遭難して顧客とはぐれないとは限らない。このため、一人一人が必ず最低限の荷物を自ら携行しなければならず、そのためにあまり容量の大きくないマジックバッグを商売道具として持っていた。あまり高価なものは、客が黙って持ち逃げする可能性があるため、客に渡すのは小さなリュックサックサイズで50リットル入る普及品である。
これ以外に、クリス達のようなSランク冒険者になると、ダンジョンに潜ったら踏破するまで地上に戻らないのが当たり前で、その間の素材やドロップアイテムを収納するために特大のマジックバッグを所持しているのが通常である。この特大のマジックバッグを人の場合は両手が使えるようにバックパックにしておくのが通常であるが、フェンリル向けでなくても、たすき掛けにポーチのようにしたものも市販されているので、それをリルの首から掛けて、自分で狩った獲物を収納するように教えたのである。
リルは、立ち上がると、深淵の森の中に、食料調達に走っていった。
これで家に残っているのは、ワタルの他、ブランカとエメリーだけだった。コルもクリス達を送り届けたらすぐに戻ってくるだろう。
ワタルは、コルが戻ってきたらエメリーとブランカとリルを連れて、みんなで狩りに行きたいと考えていた。
幸いにして先日コルとブランカが獲ってきた魔物は大量にストックされているが、マリアが務めている辺境領の教会が経営している孤児院にも食材の寄付を求められた。ワタルは転生者としてこの世界に突然召還されたため、幼少を貴族の三男とかで過ごしたとか、孤児院に世話になったなどのような異世界転生ストーリーにありがちなルートを通らなかったが、それでも冒険者として成功したと言えるだけの金を得ており、また当人お生活はむしろ金をほとんど必要としなかったため、お金に対する執着が全くといっていいほどなかった。同業者のためにむしろ冒険者を案内する場合には、相場相応の料金は請求するし、魔物の討伐にしても素材の買取にしても、相場を荒らさないように、ギルドでの買取金額に異論を述べることもなく、また無償でこれらの行為をすることもなかった。
コルが戻ってきたら、深淵の森にオークとネズミとウサギを狩りに行き、得た獲物は全部マリアの教会に寄付しようと考えていた。
マリアは大聖女であり、この世界に知らない人など居ないといっていいほど有名な存在である。その治癒魔法は他の治癒師寄せ付けない実力で、貴族達は他の治癒師でも直せるような怪我や病気までこぞってマリアに治療を求め、マリアに王都での活動を求め、それもかなわないとなると辺境領まで治療のためにわざわざ出向くのだった。
そんな状況であるから、マリアはその気になれば貴族から治療費として多額の料金を徴収することで、孤児院の経営も教会の財政も潤すことが出来るのだが、神が自らに亜建てた能力で金儲けをするつもりはないと、自らの治癒魔法にお金を取ることは一切しなかったことから、金に意地汚い貴族が感謝して寄付をするなどということもなく、教会の財政は決して潤沢とは言えない状態だった。
ワタルは、しばらく遠出をする予定がなかったことから、孤児院に寄付するベーコンとソーセージを作ることにした。
時間停止のアイテムボックスなど孤児院にあろうはずもなく、その食料保管庫も決して高級なものではないため、常温で日持ちのする料理を寄付しようと考えていた。
合わせて食材も寄付しようと考えた。
ワタルは、さっそく、ストックしてあるバトルシープの腸の在庫を確認してみた。半分くらいしか残っておらず、バトルシープの腸も手に入れる必要があった。
昼過ぎ、コルが辺境領から戻ってきたので、ソーセージ作りとベーコン作りの方針を告げて、ベルリーの南西にある草原でバトルシープを大量に獲ってきて欲しいと頼んだ。なお、場所柄ブランカを狙っているゲルマニアの富豪ゴールドモッテンマイヤーには注意するように忠告した。
コルとブランカが狩りに出るのと入れ違いに、リルが深淵の森から戻ってきた。リルのマジックバッグにはホーンラビットが7羽とラージボアが3頭入っていた。マジックバッグには時間停止の機能がついていないので、リルが昼食を食べている間に、エメリーに血抜きをしてもらった。エメリーが分裂を覚えてからは、一度に全部の獲物の血抜きを同時進行で出来るようになったため、リルがご飯を食べている間に,全部の血抜きが終わった。
解体は午後の狩りが終わってからまとめてすることにして、一旦ワタルの収納に移し、午後は残ったワタルとエメリーとリルで深淵の森に狩りに出かけることになった。
今回の狩りの標的は、辺境領の孤児院に寄付する生肉と干し肉用の材料となるホーンラビット、オーク、ラージボアなどである。特にワタルは余り生理的に隙になれないオークは低位冒険者の討伐クエストとして常設されていることから比較的流通しやすく、魔物食材の中では庶民の口にも入りやすい食材であるが、そうはいっても他人の寄付に経営を依存する孤児院では、やはり滅多に食べられるものではない。
ワタルは、今まで討伐してもわざわざ解体しようとまで思わなかったオークを孤児院への寄付という形で有効活用しようと考えたのである。
ワタルは久々に広範囲の索敵魔法を展開した。リルの気配察知もそれなりに広い範囲に及ぶが莫大な魔力を持ち、ガイドとしての基本スキルにあたる索敵つまりワタルのソナーは辺境領と同程度の広さを持つ深淵の森の全域にまで及ぶ。しかも、一度出会っている魔物については、その魔力の波形から特定も可能となるため、魔物を狩るときも、危険な魔物との遭遇を避けるためにもワタルのソナーは有効であり、ネイチャーガイドとしてもダンジョンガイドとしても、多くの冒険者の命を救ってきた。
そのワタルのソナーは深淵の森の外れ、ブリタニア辺境領側ではなくゲルマニア側の入り口付近にオークの集落があることを突き止めていた。
しかしながら、コルとブランカは、夜には戻ってくるはずなので、深淵の森の移動をリルの背中に乗って移動しても、往復3日、討伐と収納に半日かかるとしても、時間が足りなかった。
ワタルは今日のところは一旦、家に戻ることにして、コルとブランカに、数日家を空けることを説明してから、再度オークの集落を攻略することを決めた。
ワタルは今日中に家に戻ることの出来る深淵の森の入り口付近での索敵に集中した。
午前中にリルが狩ってしまったため、少なめだったが、それでもラージボアを2頭とホーンラビットを5羽、ブラックグリズリーを1頭狩ることが出来た。エメリーが同行しているので、その場で血抜きだけして収納し、その日は家に帰ることになった。
戻るとワタルは早速午前中にリルが狩ってきた分と合わせて,解体を始めた。
解体も手慣れたもので、瞬く間に全部の解体を終えた。エメリーに血抜きが出来ることを知るまでは、素材を得るためでなく、食用のための解体の時間の大半を要したのが、ほとんど一瞬になったため、ギルドの解体場を格段に上回る速度で解体出来るようになっていた。
ブラックグリズリーはその毛皮も貴族が敷物にしたり、なめすことで強靱な耐久力を持つ皮を鎧の材料にしたり素材としても優秀なことから、キズのないものは特に高額で取引される。金はすでに使い切れないほど持っているワタルは、素材を売却した分も合わせてマリアに寄付しようと考えた。
大きなものから解体を始めて、ラージボアの解体が終わったところで、夕飯の準備をする時間になってしまった。ホーンラビットの解体は翌日に回すことにして、夕食の準備を開始することにした。
といっても、ご飯を炊くだけで、ワタルの収納にはまだ作り置きのコカトリスとロックバードの唐揚げが大量に残って居た。
そこで、ワタルはマヨネーズを作ることにした。油と酢と卵を入れて、攪拌するのに、ワタルの無駄に高出力で精密度な風魔法が役に立った。フードプロセッサーに材料を入れて、ハンドル付の棒を差し込み氷の刃を魔法で生み出して回す代わりに、その穴めがけて、極細の竜巻を発生させる。容器はミスリルで出来ているので、中で竜巻による高出力の攪拌が起きても容器にはダメージ一つ付かない.数秒でマヨネーズが容器一日にできあがった。
そこに、ブランカとコルが戻ってきた。
ワタルに頼まれたということと愛娘であるブランカと狩りが出来るのが楽しいという二重のモチベーションアップの事情にコルはすっかり張り切ってしまい、ベルリー南方の草原まで行って戻ってくるのに半日かかるのに、1時間もなかったであろう狩りの時間だけで50頭のバトルシープを狩っていた。ブランカもワタルが喜ぶかもとノリノリだったらしい。
全員が揃ったところで、唐揚げを収納から取り出し、各自の皿に葉物野菜を敷いてその上に唐揚げをのせていき、作りたてのマヨネーズを添えた。
マヨネーズは全員に好評だった。
「うまいのう。この白いものは一体何じゃ?」コルが尋ねた。
「我も初めて口にする」リルも相づちを打つ。
まあ,人間の食べるものだし、コルもリルも口にしたことはないだろう。
そういえば、この世界にマヨネーズってあるのかな?見たことなかったけど。
「これはマヨネーズといって、ソースの一種だ」ワタルが答える。
「ソースとは何だ?」リルが尋ねるが、コルはさすがに一日の長があるのかソースは知っていたらしい。
「食べ物の一種だと思ってもらえればいい。どろっとした感じで料理の味付けに使われる食べ物だ」ワタルがリルの質問に答える。
正直ソースはソースだとしか認識していなかったので、いざ説明しようと思うと、よく分からないな。
ワタルは今日深淵の森のゲルマニアに近いところでオークの集落を見つけたことから、明日一日解体作業の日を挟んで、明後日から討伐で家を空けるとコルとブランカに話をする。
するとコルは「それならワシらも一緒に行くぞ」と言い、ブランカも「キュアッ」と鳴いた。一緒に行きたいらしい。
「森の中での狩りにはコルもブランカも向いていないだろ?」
それでも、コルに乗っていった方が移動は速いのは間違いない。
そこでワタルは
「それなら、深淵の森をゲルマニアに出たところに野営の拠点を設置するから、俺とエメリーとリルは深淵の森でオーク退治、コルとブランカはその近くでコカトレイスとロックバードを狩ってきてくれ。鳥の肉が残り少なくなってきた。」
と提案した。
「なるほど、それは面白い、ワタル殿と一緒に遠征に出られるのじゃな。張り切らせてもらおう。」「キュアッ!」
コルもブランカも楽しそうだ。
翌日は、遠征用のご飯を作り置きする作業と並行して、昨日の残りのホーンラビットの解体とコル達が獲ってきたバトルシープの解体作業に追われた。
コルの収納魔法も時間停止で、内蔵を痛めないように、首を爪の一撃で切り落としていただけなので、素早くエメリーが血抜きをして、無駄なく全部の個体から腸が入手出来た。これでしばらくソーセージの材料には困らない。
バトルシープの羊毛は衣服の原料であり、布団の中綿にもなる優れた素材である。
ワタルは羽毛の布団の方が好みなのと、衣服を糸から作ることはせずに買うので、バトルシープの羊毛は全部売ることにしていた。肉も入手に危険を伴う魔物の肉なので、そこそこの値段で売れるが、仲間が増えた今、どれだけたくさんあってもありすぎるということのない肉である。当然自分たちで食べることにした。
熟成用の保管庫にはまであ先日コルたちが獲ってきたミノタウロスを始め、一頭で保管庫の半分を占めてしまうベヒーモスがまだ熟成途中であったことから、新しく狩ってきた獲物はワタルの収納の中にいれておくしかなかった。
さすがにミノタウロスやベヒーモスを寄付するのは大騒ぎになりかねない。貴族でも口に出来るかどうかという超高級食材だからだ。
遠征中のご飯のため、コカトリスやロックバードなどの鳥種の肉は全部使い切って唐揚げにし、揚げ物ついでに、ラージボアの肉もミノタウロスの肉もカツにした。」
ご飯も鉄釜で3回分炊いて、容器にご飯を移して熱々のまま収納に保存する。
朝、夜明けと共にコルにのって出発し、昼前には野営地に着いていた。
コルに乗って移動するのはこれまでの移動手段よりも遙かに優秀な移動手段であることはブランカに乗って辺境領に行った時にも痛感した。
この世界で竜騎士が最上位の戦闘職なのも分かる気がする。
ワタルは顧客用の大型テントを手慣れた手付きで設営すると、防犯と防御の結界を張り、コルに、日没までに戻るよう伝え、自分はリルとエメリーを連れてオークの集落ごと討伐してくると伝えた。
こうしてコルとブランカは鳥肉を調達しに、ワタルはリルとオークの討伐を開始することになった。
30分後、ワタルは気配を消したまま木の陰からオークの集落を眺めていた。
一体一体はもはやワタルの敵ではないが、数が多すぎた。
一昨日の索敵の段階で分かってはいたが、3桁を超える数のオークが居る事実は、その頂点にオークキングが居ることを物語っていた。
また、その事実は雑兵のオーク以外に、オークジェネラルを部隊長とするマジシャン、アーチャー、など特殊職のオークも居ることを示唆していた。
ワタルもリルも遠距離攻撃の手段を持っていない。リルの暫撃は中距離からの切り裂き攻撃を可能にするが、それでも数体のオークを倒している間に取り囲まれる恐れがある。広々とした草原なら、そうそう不利なポジションになることはないだろうが、森の中となるとフェンリルの俊敏さを活かしにくい地形でもある。
そこで、ワタルは落とし穴を掘って、リルにオークを誘い込みながら陽動役を務めてもらい、その隙に回り込んで背後から真っ先にオークキングを倒すという作戦を立てた。
ワタルは、土魔法で3箇所に大きめの穴を掘り、リルには間違って自分が落ちないように気をつけるように言うと、リルと別れて集落の反対側に気配を消したまま移動した。
リルには、ワタルが集落に向かって大きめの石を投げた時を合図にすると告げていた。
ワタルはオークに気付かれないように索敵しながら回り込む。集落には2箇所の出入り口があり、それぞれ入り口にはオークが二匹ずつ居た。
ワタルはリルが気付くようにとこぶし大の石を、ワタルから遠い方、リルの居る方向の入り口近くに落ちるように空に向かって石を投げた。
数秒後、ワタルの投げた石は偶然リル側の入り口にいた門番の頭に当たり、それを見たリルがオークに見えるところまで姿を現して、遠吠えをする。
すぐにオークの集落は蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、オークジェネラル率いる一団が集落の入り口を出てリルに向かって行った。戦闘開始の火ぶたが切って落とされた。
リルは、アーチャーにより放たれた矢をこともなげに躱すと、オークの集団を引きつけてから、前足を振り上げ、近づいたオークジェネラルに暫劇を繰り出し、かすり傷を負わせた。あくまで手を抜いてかすり傷に留め、逆上させて落とし穴への警戒を薄めると同時に、集団を引き連れてくるよう指示させるためである。
リルは間近に迫ったオークの集団に背を向けると逃げるフリをしながらワタルが堀った落とし穴に向かって走り出していく。またリルは自身がフェンリルであることに気付かれないように気配を薄めることも忘れなかった。リルがフェンリルであることに気付いた場合、警戒してオークが近づいてこない恐れがあったからだ。
リルによる周到な伏線に加えて、初撃でキズを負わされたジェネラルは逆上して冷静な判断ができなくなっており、捕まえられそうで捕まえられないリルを追ってひたすらその後を追い続けた、次の瞬間、先頭にいたオーク数頭が穴の中に消えた。リルが狩るがウルと飛び越えた落とし穴に後続のオークがまとめて落ちたのだった。慌てて急停止したジェネラル以下残りのオークに対し、リルは再び暫撃でジェネラルにキズを負わせる。そこで警戒されて引き替えされると、あと2つの落とし穴が無駄になってしまうので、さらに頭に血を上らせ、後を追いかけさせるためである。思惑どおり、ジェネラルは再びキズを負わされたことで、目の前で落とし穴に落ちたオークを放置したまま、さらにリルを追いかける指示を出した。
リルは内心で笑いをこらえながら、再び同じように挑発しながら、次の落とし穴へと誘導していく。
一方その頃
ワタルは、リルの遠吠えによって集落が騒然とし、リルの居る方向に集落の注意が集まったのを見計らって、瞬時に入り口に接近し、門番の首を続けざまにアックスで切り裂いた。
門番は声を出すまもなく、その場で絶命した。すぐに近くの木の陰に門番の死体を引きずり込み、気配を絶ったまま、ワタルは集落の様子を窺った。
ワタルはエメリーに門番2匹の血抜きを木陰でさせていた。
集落はリルによる敵襲に気を奪われ、反対側の入り口に門番が居なくなっていたことにも気付かなかった。
ワタルはしばらくしても、ワタルの居る入り口にオークが集まってこないことを確認し、集落に向かってソナーを発動した。集落の中央にキングが居ることは分かっていたが、底にたどり着くまでにどれだけ敵の数を減らせるかが重要だった。
ワタルは物陰を利用しながら身を隠し、少しずつオークキングの居る中央の大きな建物に近づいていった。
オークキングの屋敷は、建物前に大きな広場があり、入り口はそこにしかなかった。
その入り口の前に門番が2人居るほか、詰め所あ入り口を入ったところにあり、オークが5匹居るのがソナーで分かっていた。
しかし、ワタルは馬鹿正直に入り口から入っていくつもりなどなかった。ワタルの手に握られているのはオリハルコン製のアイスアックスである。ワタルはこの作戦の時点で、建物の存在も把握していたため、収納からアイゼンを取り出し、背後の建物の壁をよじ登っていた。岩ですらワタルのアックスの前では豆腐と変わらないのである。土と木で出来た壁など、むしろワタルの体重を支えられるほどに強度があるかどうかのほうが心配なくらいであった。
ワタルはクライミングで壁を乗り越え、建物の天井裏から、建物に侵入することに成功する。
オークキングは部屋の中央の玉座に座っていた。周りには近衛のオークソルジャー、マジシャン、回復役のプリーチャーが居た。
定石なら、回復役を真っ先に倒してからということになるが、ワタルの攻撃力なら、プリーストによる治癒魔法より先にキングを倒すことが出来ると判断した。もし無理なら作戦を変更してプリーストから先に倒すことになる。
プリーストを先に倒している間にキングとの間にソルジャーが壁を作ってしまうと討伐が長引く可能性がある。そうなるとワタルも無傷ではすまない。危険性が格段に上がってしまうことになる。
ワタルは静かに天井の梁を伝ってキングの真上まで行くと、気配を絶ったまま、飛び降りた。こういうとき下手に意気込んで、殺気を放出すれば,たちまちキングに気付かれて防御されてしまう。そのような素人のミスをするほどワタルは未熟ではなかった。
息をするようにキングの脇を通り過ぎる刹那に、ワタルはアイスアックスを一閃、キングは何があったかに気付く前にワタルのアックスによって頸動脈を切断され、そのまま命を絶った。
こうなるとプリーチャーが回復することも出来なかった。
突然部屋の真ん中に現れたワタルに状況が理解出来ずに呆然としているところを、ワタルはすぐにオークプリーチャーに駆け寄り、同じようにアックスで首を切り落とす。
これで残りはソルジャーとマジシャンだけとなった。
それぞれ5体ずつ居るが、回復役さえ倒してしまえば、ワタルの敵ではない。
マジシャンの放つ魔法など、ワタルの持つオリハルコンさえねじ曲げる膨大な魔力による障壁の前にひび一つ付けることも出来ずに跳ね返される。同じことはソルジャーの攻撃にも当てはまり、後は一方的な蹂躙が開始されるだけだった。
数分御、ワタルの足元には、部屋に居たオークの全部がキングを筆頭に死体として転がっていた。
ワタルはエメリーに全部の死体の血抜きを指示し、討伐証明部位を採取していく。
雑兵のオークはともかく、特別職のソルジャー、マジシャン、アーチャー、プリーストは集落の存在を示す魔物であり、危険度が跳ね上がるため、討伐報酬も高額である。
孤児院に寄付する肉のための戦闘であるが、ついでに討伐報酬ももらっておけば、金銭での寄付も出来る。それによって助かる孤児が増えるなら、そうしない理由などワタルには見当たらない。
ワタルによる襲撃が騒然とする間もなく終わったことから、外のオークにはすでにキングが討伐されたことにすら気付いていなかった。
ワタルはエメリーによる血抜きが終わったオークを全部収納すると、建物の外に出て、近く似いたオークあら手当たり次第に討伐していった。
ワタルは若い女性や弱い村人などを襲うゴブリンとオークにはわずかほどの情けを掛けるつもりもなかった。魔狼が敵意を示さなければ命を取ることなく逃げることを認めるワタルも、オークは戦意の有無を問わず根絶やしにしたのは、オークの襲撃によって悲惨な目に遭った村を見てきたからである。
ところかわって再びリルは、飛び出して来たジェネラルを引きつけながら、ワタルが掘った落とし穴3つを全部有効利用し、オークの数を減らした後、本気を出すことにして、リルが戦意を無くして逃げ回っているのだと勘違いしたジェネラルを一撃で瞬殺し、その事実に驚いたオークアーチャーが次の矢をつがえる間もなく、その前足の一降りが生み出す風魔法で、首を飛ばしていた。
残りの雑兵も統率がとれずにあたふたしているところを全てリルの一撃で絶命することとなった。
ワタルには、後でエメリーが血抜きをするので、できるだけ死体は纏めておいて欲しいと言われていたので、落とし穴に落ちたオークにもトドメを刺し、一箇所にまとめておき、ワタルの援護のために集落の中に入っていった。
それから1時間もしないうちに集落に居たオークは全滅していた。
ワタルはリルが倒した分も含めて特別職の討伐証明部位だけを剥ぎ取り、その過程で入手した魔石を収納した。血抜きだけは現場でする者の、残りの解体は家に帰ってからすることにしていた。
森の中でリルが倒したオークも含めて、血抜きと討伐証明部位回収を終えた後、全部収納した。オークはキングを筆頭に全部で137体居た。これだけ肉があれば、半年は持つだろうが、それでも加工して保存が利くようにしないと食料を無駄にするだけになる。
ワタルは目的としていたオークの集落壊滅が終わったので、主に首から上の部分の死体を全部キングの屋敷の前の広場に集めるとエメリーに消化するように頼んだ。
そのままにしておくと死体が腐敗し、病気が蔓延する原因となり、魔物を呼び寄せる原因にもなる。
また集落については、建物をきちんと取り壊し、別のオークやゴブリンの群れが集落化しないように防止する必要があった。
周囲が森のため、焼却することで延焼する危険があるため、ワタルは土魔法で集落の底地をひっくり返し、そのまま埋めることにした。
こうして全部の処理が終わり、ワタルたちは野営地に引き上げることにした。
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本業があるので、更新は間延びします。本業からストレスの現実逃避の手段ですので。




