コカトリスとロックバードのから揚げ大盛り
昨晩は、初めて自分の家と呼べる山小屋を建てたことに興奮してなかなか寝付けなかった
気がついたらすっかり日も高くなって、ブランカがシュラフから顔だけ出しているワタルに自分の顔をこすりつけてワタルを起こしたのだった。
どうやらお腹がすいているらしい。
ブランカも昨日は自分が役に立てたことが嬉しかったのだろう、ご褒美に蛇の唐揚げをたくさん作ってもらったことで上機嫌だった。
ワタルは、シュラフから這い出すと、収納から昨日作り置きしていた唐揚げをブランカとエメリーの分を盛りつけて、自分は堅パンとチーズで朝ご飯にした。
さすがに朝から揚げ物はちょっと重たい。
ワタルはさらに1日かけて、小屋の中の床を全部張り、山から吹き下ろして来る風を遮る防風の壁を建物から数m離れたところに土魔法で地面を盛り上げたあと、ブランカのブレスで焼き固めて作った。
さらに次の日には建物の南にウッドデッキのテラスを設置し、晴れた日は外でたき火を囲みながら食事も出来るように真ん中に大きなたき火台を設置した。
イスやテーブル、食器棚などの家具は、いずれ街に出た時にどこかの商会で買わなければならないが、一応定住の家が完成した。
その何日か後、気配をたどってコルがワタルの家を訪れた。
「もしかして、ここはワタル殿の家なのか。」
コルは久しぶりにあったブランカの頭を撫でながら尋ねた。
「そうだ。俺はこの風景が気に入った。遠い俺の故郷の景色によく似ている。俺の故郷も高い山を背に、近くを綺麗な川が流れていて、自然が豊かな場所だったんだ。こういうところで余生をゆっくり過ごすのが俺の夢だったんだ。」
「我が娘ブランカが大変世話になっている。ずいぶん大きくなったようだ。」
コルはブランカの頭に手を置いたままワタルに感謝の意を示す。ブランカは久しぶりに父親と会えたことが嬉しいようで目を細めながら顔をコルにこすりつけている。
「ところで、ブランカを連れ去り、嫁さんを殺した敵は見つけられたのか。」
結構センシティブな話題だとは思ったが、ブランカを預かっている身としては、いつまでその状況が続くのかは確認しておかなければならなかった。
ワタルのその言葉にコルは顔を曇らせながら、「全く手がかりがつかめない。」と答えた。「ブランカは十分強くなったと思うが、一緒に連れてはいかないのか。」
ワタルはブランカが親と一緒に暮らすのがいいのではないかと率直に尋ねてみる。
ところがコルの回答は「竜は成竜になったら一人立ちするものなのだ。あとわずかでもあるし、このままワタル殿と一緒に居させてやってくれんか。ブランカもワタル殿と一緒に居られることを喜んでおるようじゃ。まあ、たまにはこうして会いに来させて欲しいのじゃが。」コルは一緒に暮らすことはないとはっきり言う。
「それなら、コルもここに暮らしてみるのはどうだ。こうして小屋は作ったのだが、俺は基本冒険者だ。ずっと小屋に閉じこもって生活する訳ではないし、ここは自由に使ってもらっていい、というより、時々ここに居てもらえると留守番の代わりになるしな。食料はこの後倉庫を作って、保管出来るようにしておくので、自由に食べてもらっていい。風呂とかは、俺が居るときしか使えないが、自分で水魔法と火魔法でお風呂の用意が出来るなら、この家用に浴槽をもう一つ作っておくが。」
「気遣いは無用じゃ。そこまで迷惑を掛ける訳にはいかん。」
「いや、迷惑だと思ってないぞ。さすがにコルには人の形をしていてもらわないととても入りきらない小さな家だが、今の姿なら快適に過ごせるだろ?もし本来の竜の姿でないと快眠にならないというのであれば、屋外に何か考えるが。まあ誰もいなくなるときは結界を張って置いてもらえると助かるが。もし、人間が古龍であるコルに襲いかかるというのであれば、別に家が壊れても文句は言わないが、そこまで命知らずな人間もいないだろう。と、時々精霊達が遊びに来るみたいだから、そいつらとは喧嘩しないでくれ。もし来たら紹介して置くし。」
「なんと精霊達とも仲良しなのか?」
「なんか焼きリンゴが大好物らしいぞ。さすがにここまでたくさん作るとは思わなかったので、残りがあまりないのだが。」
「そうか、迷惑でなければ、そうさせてもらおうか。」
「ああ、自分の住処だと思って気楽にしてくれ。ところで、寝るのは室内でいいよな。人間の姿のまま寝るのは疲れが取れないとかあるのか?あるいは寝ている間に本来の姿に戻ってしまうとか?」
「ん、古龍の姿で寝る方が通常だな。無理すれば人間の姿のまま寝ることもできるが、これはこれで魔力を消費することにはなるからな。」
「そうか、ならば、今日だけ不便だが、小屋の前で野外で寝てくれ。明日には、コルの寝床を家に隣接する形で作っておく。ただ、古龍のサイズで屋根や壁は無理だから、せめて大きさだけはなんとかならないか?」
「あいわかった。人間の姿になることを考えれば小さくなるのは何でもない。迷惑を掛けるが好意に甘えることとしよう。」
「きゅあう」
ワタルとコルの会話を聞いていたブランカが嬉しそうに鳴く。コルと一緒に生活出来るのが嬉しいらしい。
そして翌日一日かけて、ワタルは、土魔法で地面を隆起させて壁を三方向に造り、天井を木の板で覆って防水の効果を付与し、床には木材の余りを小さく破断したチップを敷き詰めて、弾力のある地面にして、残る一方向を木の壁にして出入り口を付けた。
木の壁を一方向だけにすることで、中の広さは高さこそ古龍の正規のサイズより大分小さいものの、横幅と奥行きは結構広い空間ができあがった。
コル以外にも、寝泊まり出来そうな感じだった。
こうしてワタルたちとコルは、コルが敵を探す旅に出るまでの間、ワタルが冒険者として家を空けるまでの間、小屋で生活することになり、今のところ共同生活することになった。
そうなると、ストックしている肉も少しばかり心許なくなってくる。ワタルは、コルにその旨告げて、しばらく周辺で狩りをすることを伝えると、コルも、それならば自分も世話になるのだからと狩りに出ることを告げた。
翌日、ワタルは森の中で狩りをした。ブランカにはコルと一緒に狩りに行ってもらった。親龍から子竜へ、狩りのレッスンをする親子水入らずの時間を作って上げようと思った。まあ通常は本能的に覚えるもので、親が子に狩りの方法を教えるというのは生態系の頂点である龍に関して言えばないらしいのだが。
ワタルは、ブランカの気配で弱い魔物が逃げていってしまうということがなかったため、ソナーで効率的に狩りをすることが出来た。
ワタルの狙いはなんと言ってもラージボアだった。焼いてよし、煮込んでよし、ソーセージの材料としてもベーコンの材料としても重宝した。
一日掛けて、3頭のラージボアを仕留めることが出来た。
他には、普段は居ることにさえ気付かない角ウサギも七羽手に入れることが出来た。
角ウサギはEランク冒険者に好適な初心者向けの魔物で、その肉はあっさりしていて広く好まれている。毛皮は寒い季節の衣服の材料として喜ばれるので、街の近くの草原などで、低ランク冒険者がクエストの対象としてターゲットにするものである。
合間に、野いちごや紫の実などを見つけて、こちらも採取しておく。リンゴの数が心許なくなってしまったため、食後のデザートのレパートリーが限られてきてしまうのだ。
ワタルは、お昼過ぎには、小屋に戻ってきて、早速ボアの解体を始めた。皮と牙は素材として買取の対象となるため、収納に入れて置く。肉は皮を丸ごと剥いだ状態から、前足、後ろ足、背骨から半分ずつにそれぞれ分けた枝肉を小屋に隣接して建てた物置の天井から吊しておく。内側の壁を凍らせ、内部の機密性を高めることで、低温を保ち、湿度を低くして腐敗しないように熟成を進める保管庫を作ったのだった。これにより、大量の肉を保管でき、順に出し入れしながら、常時熟成を進めることが出来るようにした。
ウサギは解体して熟成を待たずにすぐに食べられる獣肉であったことから、この日の晩はウサギ肉のシチューにすることにした。
野菜を一口大に切って寸胴で煮込んでいく。火が通ったところで、別途小麦粉をバターで炒めながら牛乳で伸ばしていくホワイトソースを合わせ、塩と胡椒と香草で味を調え、完成である。
できあがりの状態で収納し、いつでも出来たてが食べられるようにしておく。
後は米を炊いておく。
夕飯の準備が出来た状態で、ワタルはコルとブランカの帰りを待っていた。
日が沈む頃、コルとブランカが西の空からどんどん近づいて大きくなっていくのが見えた。コルが着陸するときは地表近くに暴風が吹き荒れることから、少し離れたところにコルは降りたが、ブランカはいつもの調子で真っ直ぐワタルに向かって行ったもちろんコルと一緒に狩りに出て行ったときはほとんど成竜と変わらない大きさだったが、ワタルにそのサイズで突っ込んだらいくら身体強化したワタルでもひとたまりもない。ちゃんといつものサイズに戻ってワタルに突っ込んでいった。まあそれでも高密度のエネルギー体の衝撃を受けるのは命がけであったが。
一見手ぶらに見えたのだったが、そこは人間よりも遙かに長い時間を生きている古龍、ワタルが使える異空間収納を古龍も使えるらしく、後から後からどんどんと何も内空間から引きずり出される魔物の数たるや、古龍のサイズと変わらない魔物の山ができあがってしまった。
どうもコルは自分の子供に狩りを教えて、親子で一緒に狩りが出来る楽しさに我を忘れて自重できなかったらしい。
滅多に地上では,観ないはずのベヒーモスが1体を筆頭に、ミノタウロスが10体、ロックバードが3羽、コカトリスが7羽、バイトタートルが1匹、キングアリゲーターが2匹、ギガントボアが5匹積まれていた。
どうやら明日から1週間は解体と熟成の準備に追われそうだった。
それにしても水辺の魔物であるタートルは一体どこまで狩りに行ったのか。ミノタウロスなんて、神殿型の遺跡以外で見たことはないのだが、どこに居るのか。
そういえば、クリス達はコルの背中に乗せてもらってブリタニアに帰ったはずだが、ワタルはまだ龍に乗ったことがない。ワタルも乗せてもらえないかと率直に聞いてみた。
すると「もちろんじゃ、ならば次の狩りにはワタル殿を乗せて一緒に行こうぞ」とコルが快く応じてくれた。
コルとブランカが戻ってきたので、早速たき火台の前に座って、皿にご飯を盛りつけ、上からシチューを掛ける。シチューオンライスもキャンプでは定番の料理だ。
コルはブランカと一緒に狩りが出来たことにいたく感動しており、終始ご機嫌だった。
翌日、ワタルは朝からコル達の獲物を解体する作業を始めた。
エメリーに血抜きしてもらい、一頭ずつ解体するが、なんと言ってもベヒーモスは貴重である。ワタル自身見るのは3回目だが、解体して食用に出来たのは前回の街道沿いに出たクエスト討伐のときだけである。内蔵まで捨てるところがないベヒーモスの解体だけで半日かかってしまった。皮も貴重なものだが、さすがにドラゴンとの戦闘では無傷というわけにはいかず、コルの爪痕が広範囲にあり、利用出来る部分はあまり多くなかった。まあ、ベヒーモスはドラゴンにとって相性の悪い相手なので、むしろ食べるところもなくなるくらの激戦にならなかったことを喜ぶべきか。
ミノタウロスはその点、一撃で首をへし曲げられており、胴体は綺麗だった。ワタルは初級ダンジョンのボスという認識しかなかったため、肉や内臓が手に入るミノタウロスを見るのは初めてだった。この世界のミノタウロスは半人半牛ではなく、全部が牛の魔物である。オークと違い二足歩行の牛ではないので、特に抵抗なく食べることが出来そうだった。
それでも数が多すぎて、ミノタウロスの解体だけで2日掛かった。
ワタルがベヒーモスと同じくらい楽しみにしていたのが、バイトタートルである。ワタルは前世で調理師の免許を持っていた訳ではないのでスッポンの捌き方は知らなかったが、エメリーが血抜きし、その血を容器に集めてくれたので、素人が解体するにもずいぶん容易になった。バイトタートルは内臓も貴重な食材である。甲羅を回りの柔らかいところからナイフで切り外し、内臓を傷つけないように丁寧に取り外せば、あとは適当名大きさに切り分けた肉をそのままひとまとめにして解体終了である。甲羅はさすがに食べることは出来ないが、その堅さと軽さから、盾の素材として極めて希少で高価な素材である。今度街に行くときに売ろうと考えていた。
もちろん、夕食は豪華にバイトタートルの鍋である。
タートルは素材自体から良い出汁が出るので、お湯で煮るだけで良い。大切なのは高火力で一気に火を通すことで、味付けにはショウガと醤油だけでいい。日本酒があれば良かったが、この世界にあるのかどうかは分からない。米があるのだから日本酒も造れないことはないだろうが、さすがにワタルは作り方は知らない。ヴォルフガング商会にも売っていなかった。
バイトタートルの鍋はみんなに好評だった。ワタルも前世で食べたスッポン鍋を思い出していた。ワタルの前世では、スッポンは高級品だったが、山間の村では貴重なタンパク源として昔から重宝されてきた歴史があり、牛や豚よりもむしろ食卓に登った歴史は古い。ワタルが住んでいた村でも、近所の寄り合いにスッポン鍋が出ることはあったのだった。
このペースだと、あと3食分しか残ってない。唐揚げも食べたいし、今度コルに連れて行ってもらおう。
全部の解体が終わるのにさらに3日を要した。
その後2日かけて、ワタルはコルが獲ってきたコカトリスとロックバードを全部唐揚げにしていた。一部は焼き鳥にしたい衝動に駆られたが、コル達が獲ってきたものであり、特に留守中のコルには唐揚げのほうが食べやすい。朝からひたすら唐揚げを作り続けて、コルが獲ってきたコカトリスとロックバードを全部空が上げにしたら、全部で3トンの唐揚げが出来てしまった。エメリーは血抜きだけでなく、揚げ物で汚れた油を濾過し精製することで、何度も繰り返し油が使えるので、減った分を継ぎ足すだけで揚げ物を繰り返すことが出来た。スライム万能である。
さらに、2日掛けて、今度はひたすら、ラージボアのショウガ焼きととんかつを作っていた。唐揚げだけでは飽きるからである。元々コルは生で肉を食べていたはずだが、熟成した後熱を加えた肉の味をすっかり覚えてしまい、住処に戻っても生肉が物足りなくなって、自分でもブレスで焼いて食べていたそうだが、火加減が難しく炭になってしまうこともあるので、我慢して生食することが多かったらしい。
元々コルが自分用に獲ってきたものなので、お相伴に預かるのと,食べられない素材は換金するので、お礼にとワタルは自分が留守の間にも料理した肉が食べられるようにと大量に作り置きをすることを考えたのである。ただ、これだけ作っても、古龍の姿では一食分にしかならないおそれがあったので、そこは節約して人間の姿で省エネルギーに努めて欲しいとは伝えておいたが。




