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精霊チームと焼きリンゴ

深淵の森の中をさらに南に進み、大陸一高い山を目指しているワタルは森を抜けて山の麓まであとわずかというところまで来ていた。

危険度の高い魔物が多く生息するという深淵の森の中を歩いていた割には、ゴブリンだのオークだの、どちらかというと知能が低く、彼我の実力差も理解出来ずに襲って来る雑魚を返り討ちにすることが続いていた。

オークは食べられるらしいのだが、これから向かう先にギルドがあるわけでもなく買い取ってもらえないので、討伐して特に肉を調達するわけでもなく、エメリーが廃棄物処理していた。

そして、ワタルは森を抜ける。

山の麓といっても、山の北側、日照時間も南側や平地に比べて少ない高原の台地に広々とした草原があった。山に積もる雪が周囲より低い場所に集まって谷を形成し、上流に行くほど幅が狭く、また峡谷が深くなっていく。その谷と尾根がぶつかる高原台地

ワタルにとって郷愁をそそる光景であった。

ワタルは直感的に、ここに自分の拠点となる家を建てようと考えた。

幸いにして綺麗な水も手に入る。高原には食べられそうな魔物が生息し、また森にもおそらく食用になる魔物はいるはずである。

もっともブランカの気配に怯えてワタルたちはここまで来るのにほとんど遭遇していないのだが。

いざとなれば、年に1,2回近隣の街に買い出しに出ればいい。ワタルの持つ異空間収納は無限と言っていい収納力を有しており、1年分の食料の保管も楽勝である。

最寄りの街はおそらくクリスが領主を務める辺境領となるだろうから、ワタルが1年分の食材を調達し、あるいは魔物の素材をまとめて売りに出せば、クリスの領地

財政的に潤うことになる。

早々に家を建てようと考えるワタルだが、木材の調達にあたっては森の木を切ることになるので、一応森の管理者であるドライアドに尋ねて了承を得ておこうと考えていた。

先日焼きリンゴを食べに来た時には,今度友達を連れてくるといっていたので、深淵の森の入り口近くで野営し、ドライアドが来るのを待ってみる。

それから3日後のことだった。

ワタルがテントの前でたき火をしながら、いつものようにエメリーやブランカと食事をしている時、真っ先にエメリーが「ご主人ー、ドライアドさん来たよー」とワタルに告げた。

スライムは元々最弱の魔物で臆病な性格、他の魔物と争えば真っ先に死んでしまうので、気配察知の能力に優れている。ワタルが意識してソナーを発動しているのでなければ、エメリーがいつも最初に魔物の接近に気付くのであった。

エメリーの言葉からほどなくして、森の中からドライアドが出てくる。

3回目ともなるともう慣れたものだ。

そして、そのドライアドの後ろから、4人の人型の何かが後をついてきた。

「ワタルー来たよー」ドライアドがたき火の前に座ってドライアド達を見つめていたワタルに声を掛ける。

「焼きリンゴ食べたい。」

二言目がそれかい。

ワタルはだんだん遠慮がなくなっていくドライアドに苦笑しつつも、「分かった。ちょうど食事が終わったところだから、今からリンゴ焼くよ。他に食べたいものは?あと後ろの人たちは誰?」

「あ、忘れてた。紹介しておくね。」

「ひでえな。俺たちの紹介の前に焼きリンゴとか。欲望に忠実過ぎるだろ。」

後ろに居た一人がドライアドに声を掛ける。

「今のがイフリート、火の精霊だよ。」

「で、こっちが、ウンディーネ、水の精霊」

「この小さいのが、ノームで土の精霊ね。」

「で、最後に,宙に浮いているのがシルフィード、風の精霊」

「この人達、私が最初にワタルに焼きリンゴもらったときにすごく美味しくてその話をしたら、自分たちも食べたいって、紹介しろって言ったから、前回のときに友達紹介してもいい?って聞いたの。ワタルがOKって言ってくれたから、今回全員が揃うのを待って連れてきた。」

「あ、初めまして、ワタルです。」

普段は冒険者として敬語は使わないワタルだが、精霊の機嫌を損ねたら面倒なことになりそうと敬語を使ってしまった。

「あ、普段どおりでいいですよ。」一番落ち着いて年長ぽいウンディーネがワタルにそう話しかける。

「あ、お気づかいどうも。」ワタルが答える。

エメリーはドライアドが森から出てきたところで、飛び跳ねてドライアドの胸に飛び込んでいき、今はドライアドの腕の中に収まっている。

元々エメリーは森の中に住んでいたスライムで、ドライアドとも面識があったらしい。

「それで、いきなりきて厚かましいんだが、俺達にも、その、焼きリンゴってやつを食べさせてもらえないか。」イフリートが待ちきれない様子で、ワタルに頼み込んできた。

「いいですよ。まだリンゴは残ってます。」

「あ、私焼き芋も食べたい。」ドライアドが付け加える。

「焼き芋?何それ?」ノームがドライアドに尋ねる。

「お芋をたき火で焼いたの。前回焼きリンゴを食べに来たら、ワタルがくれたの。焼きリンゴも美味しいけど、焼き芋も美味しい。」

「それ食べてみたい。」ノームが食いつく。

「全部食べる。」ポツッとシルフィードがささやく、どうやらリディアと気が合いそうな気がする。

「あ、じゃあこちらにどうぞ。」ワタルがたき火の周りに腰掛けるように促し、収納から人数分のリンゴ、スイートポテトを取り出し、リンゴは芯をくりぬいて、砂糖とバターを詰めてから、焼き芋は水につけてしめらせてから、それぞれベヒーモスの皮に包んでたき火の中に入れていった。先日ベヒーモスの皮が追加で手に入って良かった。

エメリーはなにやらドライアドと小声で話をしているらしい。ブランカは宙を飛んでいるシルフィードが気になるらしく、視線がそちらにいっていた。

「みなさん精霊なんですね。普段からいつも一緒に居るんですか。」

「ううん。最初にワタルが焼きリンゴを食べてたとき、そのにおいに惹かれていたら、焼きリンゴくれたでしょ。それが美味しくて、ウンディーネに話をしたの。そしたら私だけずるいって話になって。自分たちも食べたいっていうから、今度ワタルに会ったら頼んでみるって言ったの。で、この間、今度友達連れてきていい?って聞いたらいいって言ってくれたので、その話をしたら、ウンディーネが他の精霊にも話をしたらしく、みんな来たいって。一度にたくさん押しかけてごめんなさい。」

ドライアドがなんとなく申し訳なさそうに言うが、他の4人は、ドライアドだけ美味しい物食べてずるいという気持ちからか、ドライアドが一人良い子になるのはずるいという視線をドライアドに送っていた。

「気にしなくていいですよ。みんなで食べた方が美味しいですし。まだリンゴもスイートポテトもありますし。」ワタルは全く気にしていないとすぐに歓迎の意思を示す。

「分かってるじゃねえか,人間」イフリートが機嫌良く大声を出す。

なんだろう、こんな感じのギルドマスターつい先日見かけたような気がするが。

「それにしても精霊って結構たくさん居るんですね。火と水と風と土の精霊ですか。ドライアドは森の精霊ですよね。他にも居るんでしょうね。」

「精霊は自然界の万物について、その上位の概念が具現化したものだから、自然の現象や具象ごとに精霊は居るよ。人の形になって人語を話せるのはその中でもさらに一部の上位種だけだけど。」

「あ、そういえば、今度会ったら尋ねようと思ってたんですけど、俺、この地が気に入ったので、家を建てようと思うんですが、森の木を切って家を建てても大丈夫ですか?一応森の木なんで勝手に伐採したら悪いかなと思い、森の精霊に尋ねておこうと思ったんですけど。」

「うん、大丈夫。すぐに新しい木も生えてくるし、森がなくなるくらいに切る訳でもないし。火災とかで焼失する方が問題だから。」

「ありがとう。じゃあ早速明日から家を建てる作業を始めるよ。あ、そろそろ焼けたかな。」

ワタルはそういってたき火の中から、リンゴと芋を掻き出す。

リンゴは中のバターがこぼれ落ちないように、天地をひっくり返さないように慎重にベヒーモスの皮を外して、お皿に乗せて、精霊達に配っていく。ドライアドはスプーン使って食べてたけど、他の精霊にも出来るのかな?

全員問題なくスプーンを使って食べていた.焼き芋は少し冷まして二つに割って食べるのはワタルだけで、他は全員出した直後の熱いままの状態で口に入れていた。猫舌でなくても熱すぎるだろうと思うのは人間の感覚だけらしい。まあ火の精霊は分からなくもないが、水の精霊とか・・・あ食べた瞬間に冷めるか。

ブランカは元々口から火を吐くぐらいだから、熱い物を食べても平気なのは知っている。エメリーに至っては温度を感じる器官があるのかどうかも分からないが。

しばらく全員が無口のままひたすら焼きリンゴを食べていた。

ワタルは、収納の中を見ながら、リンゴがまだあるといっても、あと1ダースくらいしか残って居ないことを確認し、精霊達がこの先も焼きリンゴを求めて来訪した場合、がっかりさせることになると考えて、一応伝えておくことにする。

「リンゴなんですけど、あと12個しかないので、次の季節までは持たないんですが、他にも食べられそうなものあります?肉とか食べます?」

ワタルは遠慮がちに聞いてみた。時々食べに来るのは全然構わないのだが、ワタルがリンゴを買い溜めしたのは去年の晩秋、残念ながらこの世界にビニールハウスはないので、季節外れの果物は出回らない。もちろん収穫時に大量に時間停止の収納に入れてしまえば、半永久的に日持ちするのだが、そのときはまさかこんなペースでなくなるとは思っていなかった。クリス達も最初に食べて味を占めると「焼き肉、焼きリンゴ付きで」と言い出すようになり、みるみるうちに数が減っていったのである。

次のシーズンにはさらに買い溜めしておかないと。

「皆さん、肉って食べます?」ワタルはおそるおそる聞いてみる。あまり精霊が肉食って聞かないけど、もしそっちで満足してもらえるなら、結構良い肉揃ってます。

「食べないわ。」「食わん。」「無理」ですよねー。

「パンやチーズとかは食べます?」

「食べられないことはないわ。」「美味しいと思わないが」

あ、食べだれるんだ。

「今日は焼きリンゴで満足頂くとして、結構リンゴの数が心許なくなりそうなので、もしこの先も遊びに来るなら、ちょっと他のおもてなしも考えないといけないので。」

「そうなのか?」「それは困る。」「もっと食べたい。」

「次のシーズンにはもっとたくさん買っておきます。あと、もし可能なら、森の中とかで果物が手に入るなら、持ってきて頂くと、焼くのではなく、他の方法で美味しく出来るかもしれないので、一応お願いしておきますね?」

「OK」「分かった。」

「普段みなさんはどちらに?」

「俺は、ここから南東の方向にある山の続きに火山があって普段はその溶岩の中にいるな。」イフリートが答える。

「私は川や泉を転々としているわね。ドライアドちゃんから焼きリンゴの話を聞いたときは、ワタル達が野営していた泉で会ったの。」ウンディーネがそう答える。

「ボクは、冬には後ろの山の山頂から吹き下ろす風に乗って森の中を吹き抜け、夏には森から山に向かって斜面を上がっていく暖かい空気に乗って山頂に上がっていくことが多いかな。」シルフィードはまさにこの場所が通り道だと説明する。

「ボクは、そのときの気分なんでどこっていうのが特になくて。」ノームがもじもじしながら最後に答えた。

「そうか、俺は、さっき話したとおり、この高原が気に入ったので、ここにログハウスを建てようと思っているけど、基本冒険者なので、いろいろと旅をすることも多いので、もし何か面白そうな食材を見つけたら、戻ってきたときにまた屋外でたき火しながら食べるから、良かったらそれを会津にして、食べに来てくれて構わない。」

「本当か?楽しみにしているぞ。」「嬉しい。ありがとう。」「ボクも食べに来る。」「来る。」

ドライアドさんは少し考えこんで「なんか私たちが食べちゃって残り少なくなったのは申し訳ない。」と寂しそうに言った。

「いや、キャンプの醍醐味は、みんなで食べることで余計美味しく感じられるところにあるから、一人で焼きリンゴ10回食べるより、10人で焼きリンゴを1回食べる方がずっと美味しくて、その方が焼きリンゴを食べたーって甲斐があるから、本当に気にしなくていいぞ。リンゴを買う金くらいいくらでもあるしな。」

ワタルがそう言って慰めると、ドライアドは嬉しそうに笑顔になって「ありがと」とはにかんだ。


よし、森の精霊の承諾も取れたし、明日からログハウスを建てよう。






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