ドライアドさんと焼きリンゴと焼き芋
過去に例を見ない魔物が出没した事件は,結局イレギュラーな出来事として放置せずに、ギルドを通じて大規模なキャンペーンのクエストにしたことで、予想以上の冒険者が集まり、結果として未踏のダンジョンの発見につながったことで、早晩にクエストにクリスが領主として投じた予算の回収見込みが立った。
というよりむしろ、新しいダンジョンの発見は王国中に冒険者ギルドを通じて情報として広がり、高ランクの魔物討伐にうってつけの場所として冒険者に人気のダンジョンとなっていった。
今のところ存在が確認されたタイラントパイソンはその巨体、猛毒の牙を持つこと、動きも俊敏であることから、Cランク冒険者のパーティーではとても太刀打ち出来ず、全滅の危険があると言えたが、一方でクエストの4日間の間に、そのランクの魔物に遭遇したのも一度しかなく、未だダンジョンのランク指定を行うには情報不足ということが出来た。
そこで、Aランクの魔物が生息している報告もあるとしながら、一応クエスト設定時に解放したCランク以上いついてダンジョンへの立ち入りを禁止しないという形を取った。
もっともそういったところで入り口を常時管理し人の出入りをチェックしているわけではないので、一攫千金を夢見てというのか、自己の実力を理解していない無謀な冒険者というのかが立ち入ることを事実上制限することは不可能だった。
立ち入り制限を決めるに辺り、クリスはワタルの助言を重視していた。
ワタルはきっかけとなったタイラントパイソンとの遭遇がワタル達よりも前に情報としてなかったこと、ダンジョンのある場所は薬草の採取場所として今までにも冒険者に広く利用されており、以前から棲み着いている魔物であるなら、もっと早くに目撃情報が寄せられていたであろうこと、ダンジョンの一層目からAランクの魔物に遭遇した事実から、出来て間もないダンジョンが形成途中ではないかと判断していた。
この先、下層へとダンジョンが拡張していくに従って高ランクの魔物は下へと移動していくのではないか。
通常ダンジョンは層が広がることによって、下層に魔素がたまりやすく魔物が強力になっていくと考えられていたが、同種の魔物が上位に進化していく形態のダンジョンであればともかく、出没する魔物の種類が異なっているのに下層に行くほど強くなるというダノンであれば、その強弱は魔素の濃淡では説明つかず、外から魔物が入って来てそこに棲み着くのに、少しずつ魔素の強い下層へと惹かれていくという説明が適当ではないかと考えたのである。
その仮説から、ワタルは時間の経過と共に上層は落ち着いて来るのではないかと考えていた。
クリスは自分がダンジョン踏破に真っ先に乗り込む気満々だったが、早々にダンジョン踏破などしてしまえば、冒険者の仕事を奪うことになりかねない。
領地の発展のためにも止めるようにとワタルに諭されて、おもちゃを取り上げられた子供みたいにふくれっ面になりながらも、最終的には納得したのである。
ワタルは元々テントが完成したら流浪の旅に出る前にクリスに会いに来るという約束を果たしただけで、その途中でターラの新芽が生えているという情報に接して強いまい、天ぷらを食べたかっただけで、元々の予定は完了したので、旅に出ようと考えていたのである。
クリス、マリア、リディアは、さらにワタルの足止めを企画しようとしたが、さすがにワタルも新調したテントをフルに活用出来るロケーションでのキャンプ生活をしたいという気持ちをこれ以上抑えるのは無理だと、クリス達に別れを告げることにしたのである。
ワタルの中では行き先は決まっていた。
深淵の森の南にあるという標高4000mを超えるという山である。
そこまで高い山はワタルが前世で住んでいた日本という国には存在しなかった。限りなく近い標高の山はあったが、観光地化していて、純粋に登山を楽しむには物足りない山だった。もちろん、残雪の残る季節や厳冬の季節には山は表情を一変し、およそ素人に登ることが出来る山ではなくなるが、ワタルにしてもブランカが居る以上、気温の低い時期に登ることは無理だった。
ワタルは辺境領を後にして、再び深淵の森に入っていった。
森を入ってすぐ、ゴブリンに遭遇するが、ワタルだけでなく、ブランカもすでに攻撃力として十分過ぎる力を備えていた。もちろん幼竜の時からゴブリン程度であれば一撃で屠ることが出来たが、成竜まで数ヶ月となった今はブレスなど使わなくても、竜の咆哮だけで低位のゴブリンをショック死させる威力があった。
討伐証明部位を切り取るのも面倒なので、ワタルはそのままエメリーに後始末を指示する。
エメリーはベヒーモスを倒したことにより中間を省略して、一気に進化していて、人語が話せるというだけにとどまらず、分裂し、巨大化し、さらにはマリウス鉱山で摂取していたミスリル鉱石を体内でミスリルを抽出出来るようになっていたばかりか、体表をミスリルに変化、つまりメタルスライムに変身出来るようにもなっていた。
格段に進化したエメリーは数十体のゴブリンを分裂して、一度に取り込み、わずか数分で骨すら残らず浄化してしまっていた。
これで生きているゴブリンにまで攻撃としてその方法が採れるなら、ゴブリンの集落の壊滅をエメリー一体で行うことが出来るということになる。
なお、無用な殺生は魔物といえど避けるワタルも、ゴブリンとオークだけは容赦しなかった。
理由は、これらの二種は凄まじい勢いで繁殖し、近隣の村を襲い、若い女性を攫って生殖の対象とするからであった。
オークはこの世界では貴重なタンパク源とされているが、ワタルがボアの肉にこだわるのも、その事実があるからである。
森に出没する魔物として定番の狼はフェンリルの命令が行き届いているのか、ワタル達を襲って来ることはなかった。そもそもワタルの索敵の範囲にすら現れることはなかった。
ワタルにしてみれば近くに狼の気配がないのだから、イノシシ型の魔物が出てこないかなとちょっと期待していた。
辺境領に入ってからは食料になる魔物を狩る機会に恵まれず、一方でとんでもない食欲の3人とギルド職員にまで朝昼晩三食の提供をしてきたことで、普通の食材の肉の量が心許なくなってきてしまったのである。
さすがに一人1日銀貨3枚の予算でベヒーモスとか出すつもりはないし、羊も結構食べたし、ボアはベーコンとソーセージにしたことで、そちらのストックは多少残って居るが、生肉が足りなくなっていた。
何より、ここまで鳥肉を食べていないのである。
たき火台の上に焼き網をのせて豪快に焼いていく鳥肉、考えるだけで涎が出そうである。
この世界で鳥肉と言えば、コカトリスとロックバードだが、ロックバードはアラビアンナイトに出てきた大きな鳥としてファンタジー世界で定番の鳥形魔物となったものであるから、さすがに砂漠の岩山に生息しているだろうし、コカトリスは深い谷のある深山に住んでいると言われている。
森に出てくる鳥型の魔物って何だろう。
どう考えても思いつかなかった。
せめて、ラージボアとか出てこないかな。
こう考えるときはまあ、遭遇しない。
結局、ワタル達が辺境領に入る前に滞在の拠点としていた泉にたどり着くまで、結局ゴブリン以外に遭遇した魔物と言えば、コボルトやオークという定番の弱い魔物だけだった。
オークくらいは食材になるのだが、どうしても生理的に受け付けなかった.味が悪い訳ではないのだが。
ワタルは森の奥の泉の側で、再びテントを張って目的の山の麓に行く前に、食料調達のための狩りを森で行うことにした。
その日の晩、もう気温はたき火をするほど寒くはなかったが、ワタルはたき火をしていた。
理由はドライアドが焼きリンゴを再び所望してきたからだった。
ワタルはリクエストに応えて、リンゴをたき火に投入するついでに、スイートポテトも同じようにたき火に入れた。つまるところ焼き芋である。
そのままでも十分美味しい焼き芋にさらにバターを一かけのせてドライアドに渡すと、ドライアドはおそるおそる一口かじったあと、目を大きく見開いて、そのまま無言でネズミのようにかじり始めた。
どうやら気に入ってもらえたらしい。
たき火の火も消えかかって,夜も更けてそろそろワタルもテントに入って寝ようかという時間になってたき火パーティーをお開きにするとドライアドに告げる。
するとドライアドは森の奥に帰って行く前に、その場に立ち止まり、しばらく考え込んでいる素振りをしたかと思うと、ワタルの方を向いて、「また来てもいい?そのときお友達も一緒に連れてきていい?」と尋ねてきた。
「もちろん。多い方が楽しいしな。」ワタルは快諾した。するとドライアドは嬉しそうに笑って、森の奥へと消えていった。




