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焚火で焼き芋をするにはベヒーモスの皮が最適

森の中での戦闘があってから1ヶ月後、ワタルはフランフールの町に戻っていた。

まだ暖かくなったとはお世辞にも言えないが、雪が降るほどではなくなっていた。

街に入るとき、ワタルはブランカの存在を隠すことなく、ギルドで登録済みの従魔として小さくなってもらったブランカを肩に乗せ、門番には、普段のサイズとは違うことも説明した。

街に入るときのチェック内容である犯罪歴の有無については、森の戦闘におけるブランカがエドガーを殺めた事実は、ギルドカードにおいても、正当防衛と認識されていた。従魔による殺人であるため、ワタルがその責に問われる可能性はあったが、そもそもベルリーの憲兵隊であるエドガーが街を遠く離れた森の中で何をしていたのかの説明も付かなければ、ワタルがベルリーで罪を犯した記録はないため、ワタルの捕縛または討伐という説明も出来なかった。そればかりか、エドガーが知らないだけでワタルは救世の英雄パーティーのメンバーである。そんな人物に刃を向けていた憲兵隊はその事実を知って、驚愕したという。

またワイズは右手の肘から先がなくなり、魔法を使うことも出来なくなった。さらに、エドガーの死亡に至った事件の調査が行われ、ゴールドモッテンマイヤーとの黒いつながりが判明し、ワイズは冒険者資格の剥奪となった。まあ魔法の使えない魔術師が冒険者を続けられる訳もないが。

とりあえず、一次的な平穏は訪れたと言っていいのだろう。まだ、元凶が諦めたと言えるかどうかは分からない状態だったが。

ワタルはフランフールの街につくと、すぐに宿を探した。

今回は従魔がセットであるため、同伴可能な宿でなければならなかった。

もっともテイマーという職業が普通に存在するこの世界で、従魔可の宿もそれなりに存在していた。

スライムのエメリーはともかくドラゴンのブランカはいくらサイズが小さくなるといっても、ドラゴンであり、宿泊にあたって、保証金を前払いすることを要求され、また部屋の代金も1日金か1枚と、同ランクの部屋としては他の宿に比べ大分割高だったが、高ランク冒険者であるワタルには特に気にならない金額だった。

ワタルは宿を決めると、すぐにマンモス商会に足を運び、テントの納品の時期を確認した。

当初の説明どおり、まだ1ヶ月は掛かるようだった。

ワタルは、別途グリーンドラゴンの羽の皮と胴体の皮を使って、大きめのテントを発注したいという思いがあったが、自身の拠点を決めてからでないと、遠方に出て戻ってくるのが大変だというのが、この間の経験で分かったので、さらに注文するのは控えておいた。

まだ1ヶ月あるということなので、ワタルはその間、この街に滞在することに決めた。

とりあえず、この間採取して、そのまま収納に塩漬けになっている素材の買取をしてもらおうと、冒険者ギルドに行くことにした。

久しぶりのフランフールの冒険者ギルドに入ると、ワタルは素材買取の窓口へ向かおうとした。

ところが、すぐに呼び止められる。

「ワタルさーん。お久しぶりです。あの後ギルドではお見かけしなかったですが、どちらにいらっしゃったのですか。」

明るい声で、ワタルに声を掛けてきたのは、以前このギルドで護衛のクエストを受けた時に受付をしていたエレナだった。

「あ、久しぶり。別の街に行ってた。今日は素材の買取を頼もうと思って。」

「それなら、私が担当いたします。」

どうやらギルドの受付職員には、定額の給金の他歩合もあるらしく、高ランクの冒険者の担当として、高額のクエストの受注や高額な素材の買取の担当になることで、給金が弾むらしく、受付職員は一人でも多くの冒険者、一つでもランクの高い冒険者の担当になろうとしのぎを削っているらしい。

ワタルは別に誰でも構わないと思っていたので、そのまま素材の買取を頼むことにする。

「それならあんたでいいか。買取を希望するのは、バトルシープの羊毛と角20頭分、グリーンドラゴンの血、鱗、肉だ。」

「エーーーーーーーーーッ?!ド、ドラゴン?」

いつかどこかで見た光景

エレナはギルドカードでワタルが勇者パーティーの一員であることを知ったときと同じ絶叫を繰り返した。

その場で収納から出しかけたのだが、場所が足りないと、ギルドの裏手に回ることになったが、これもファンタジー小説で、あまりにも規模が大きすぎるアイテムボックス持ちによる素材買取の場面のテンプレートらしい。

ドラゴンの血はエメリーの特殊能力で収集出来たので、その他の素材の解体はちょっと堅くて大きなワイバーンと変わらない。鱗を剥ぎ、肉を切り分け、血管や腸などは、防水のレインウェア用素材として別に取り置くため、すでに解体済みであった。

ドラゴンの素材の中で最も人気も値段も高い、爪と牙、そして皮はワタル自身がキャンプ用の素材とするため、売るつもりがなかったが、ワタルの持ってきた素材を見て、是非とも売って欲しいと懇願された。が、素材は採取した冒険者の財産であり、自身の装備のために残しておくことも通常であったため、ワタルが頑として売らないと言ったことで、最終的には諦めた。

羊毛と角は、金額もたかが知れているため、20頭分とはいえ、金貨2枚と銀貨40枚がその場ですぐに支払われたが、ドラゴンの素材については、高額になるため、きちんと査定したいとのことであった。

ワタルは明日またギルドに来ることを約束し、宿に戻った。

翌日、ワタルは朝ご飯を宿の食堂で取ると、ギルドに向かった。

買取の窓口に立ち寄る前に、ワタルはクエストの掲示板を確認した。

別に今更仕事が欲しい訳でもなかったが、討伐依頼の中に美味しそうな標的がいれば、出没地域を確認し、時間があれば食材確保ついでに依頼も達成してしまおうと考えていた。

ブランカの体が大きくなるにつれて、食べる量も増えてきたので、定期的に肉は調達しておく必要があった。どうせならワタルも美味しく食べられる物の方がいい。

キマイラなどはどうしてもワタルの口には合わないし、かといってワタルと違うものを食べるのをブランカもエメリーも嫌がったため、同じ食材を出来るだけたくさん確保しておく必要があった。

しかしながら、この日掲示板に貼りだしてあった討伐依頼はゴブリン、オーク、狼といった定番のものだった。

ワタルはクエストを受けることもなく素材買取の代金を受け取るためカウンターに行くと、エレナはワタルを見つけ、ギルドマスターが話があるので部屋に来て欲しいとワタルに告げた。

「断りたいのだが。」

ワタルは面倒事に巻き込まれる予感がして、断りたいと告げた。

エレナは困った顔をして「連れてくるように言われているのです。お願い出来ませんか。昨日のドラゴンの買取代金も高額ですので、防犯の意味もあって、ここではなくそちらでお渡ししたいということでもありますし。」

おそらく、後半は名目だろう。どうもやっかい事を頼まれそうな空気が先ほどから感じられて仕方なかった。

「俺は別に構わないので、ここで代金を渡してもらっていい。なんなら口座に振込でもいいぞ。」

ワタルは関わりたくないとばかりに、牽制するが、エレナは板挟みにあって泣きそうになっていた。

「お願いです。ワタルさんを連れて行かないと私が怒られるので。」

美人の涙とか卑怯だよな。

ワタルはため息をついて、奥の部屋に行くことにした。もうこの先の展開はギルドマスターがいて、何かややこしいことを言って来るのだろうという未来しか想像できなかった。

ワタルが部屋に入ると、そこには初老の男性が居た。

「わざわざ済まない。冒険者ギルド、フランフール支部のギルドマスターをしている。オーウェンだ。以後よろしく頼む。」

「以後よろしくされるほど、この地に居る予定はないのだが。さしあたり、昨日依頼した素材の買取代金を受け取りに来た。」

ワタルは、気むずかしい人物であるように振る舞い、ぶっきらぼうにそう応答した。

「無論代金は渡す。ところで、一つ頼みがあるのだが。」

早っ!

もう少し貯めてから、なんか言って来るかと思ったら、直球ストレートか。

「何を言おうとしているのか知らないが、俺はこの地には長く留まる予定はない、約束もあるし、その前にこの街で注文していたテントを受け取りに来ただけだ。」

「そうか、ちょっとした問題があって、なかなか頼める人物がいないのだが、ワタル殿は大量発生したキマイラの討伐だけでなく、ワイガーのダンジョンの異変も解決したとか、その実力を見込んで頼みたいことがあったのだが。もちろん報酬は十分に払うぞ。」

「俺は別に金に困っているわけじゃないんだ。キマイラの件と言えば、牛肉1年分の追加報酬の約束をあの村は守ったのか。チーズも付けるという話だったが。」

「ああ、その件については、ギルドが責任をもって、回収にあたっている。肉は3ヶ月分すでに受領して、熟成した状態でアイテムボックス保管にしてある。後で裏の保管庫によって持って帰ってくれ。チーズは約束の全部の量がすでに確保出来ている。」

「それは吉報だ。ありがとう。それでは、後は素材の代金だけだな。」

「話くらいは聞いてくれんのか。こういう場合、流れ的には、とりあえず話を聞いて、その後、断りづらくなって、最後には渋々ながら依頼を受けるというのが、物語の流れのはずなんじゃが。」

「それは一体どんな物語なんだ。現実の世界では、厄介な依頼は普通に断られるというのが通常だろう。現によそ者の俺じゃなくてこの地を拠点にしている冒険者に頼めば良い話じゃないのか。それを断られて俺に話を振る時点で、トラブルのにおいしかしないんだが。」

「まあ、危険であることは否定しないが。」

「その危険な内容をさらっと人に押しつけるなよ。」

「それで内容なんじゃが」

「なぜ、受けないと言っている話を進めようとしているんだ?」

「受けてもらえんのか?」

「始めからそう言っているが?」

「人助けだと思って。」

「危険なんだろ?他人が困っているのは同情するが、そのために命を張れというのはどうなんだ。」

「ベヒーモスが街道に出たんじゃ。」

「討伐したらいいんだな。」

「あれ?話の流れでは、だからどうした断るって言っただろ、っていう展開じゃなかったのか?」

「ベヒーモスは美味いらしいしな。まだ食べたことがないんだ。」

そう、ワタルが以前ベヒーモスと戦ったのは魔王討伐遠征中のダンジョンのラスボスとしてであり、ドロップ品は皮だった。ダンジョンの魔物は解体が不要の代わりに倒すと光になって消えてしまい、何がドロップされるかはランダムになってしまう。ベヒーモスの素材でもっとも価値が高いのは、全属性の魔法による攻撃を半減し、炎属性魔法については無効とするその皮で、魔術師を始めとして、軽量装備に防御と耐久性を持たせるマントの素材として最高級品である。ワタルはその最高級の素材をこともあろうに柔軟で燃えないという特性を利用してたき火台の天板にし、あるいは焼き芋用の包み紙にしているのである。

こうして、ワタルはダンジョンではなく地上に出没するベヒーモスの討伐依頼を受け、頭数の増えたキャンプファイアーに備えて、焼き芋の包み紙を調達すると同時に最上級の牛肉目指して依頼を受けることになった。

あ、ついでにドラゴンの素材は,最も高い値のつく部位がことごとくワタルの手元に残り、肉と鱗だけにもかかわらず、金貨1000枚での買取代金となった。

フランフールの冒険者ギルドにドラゴンが持ち込まれたのは今のギルドマスターが知る限り、一度もないとのことだった。




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