23◆ あのとき、そのとき
ヘリアンサスの気が立っていることは十分以上に分かっていただろうが、トゥイーディアはそよとも表情を動かさなかった。
俺はもちろん、ディセントラもコリウスもアナベルも、それから今回ばかりはカルディオスさえ、息を詰めてヘリアンサスから目を離せなかったというのに、トゥイーディアは、少なくとも表情と態度においては、平然として見えた。
「てっきり逃げたのかと思ったわ」
冷淡に呟いたトゥイーディアに、脚を組んだヘリアンサスが低く笑った。
俺はぞっとした。
あのとき――キルフィレーヴの皇宮でヘリアンサスを見たときと、全く同じ声色の笑みだった。
「残念ながら、ご令嬢。僕は不出来な息子と違って約束は守る」
俺は心臓を氷で突き刺されたようにも感じて、ヘリアンサスの横顔を眺めた。
ヘリアンサスは黄金の双眸で、睨むようにトゥイーディアを見据えていた。
その視線の先で、トゥイーディアが頷いた。
「そうみたいね」
俺は覚えず俯いた。
じわじわと罪悪感が喉元に昇ってきて、焼けるように胸が痛くなった。
「……アンス」
カルディオスが、小声で呼んだ。
窘めるでも慰めるでもなく、単純に口を衝いたような声だった。
だが、ヘリアンサスはカルディオスの方は見なかった。
トゥイーディアが、俺をちらりと見た。
その視線を感じた。
だがすぐに彼女は目を逸らして、ヘリアンサスに視線を戻した。
「――ヘリアンサス、おまえがさっき言ったことだけど」
ヘリアンサスがにっこり笑った。
毒のある花のように美しく。
「きみが僕を殺す算段をつけたがってるって話?」
トゥイーディアが微かに眉を寄せた。
その表情を見て、ヘリアンサスが声を上げて笑った。
俺はいっそうぞっとした。
「――可哀想な僕の姉を呼んで確かめるまでもないよ。
ご令嬢、きみがあの子を助けようとするなら、魔法は廃絶するしかない。魔法を廃絶するためには、僕と、もうひとつの僕を壊すしかない。
――何しろ、」
ヘリアンサスの声が、狂気的に歪んだ。
声に恨みが籠もって低くなった。
「魔法があるからきみたちの世界は栄えている。その魔法を発展させているのは、僕だ。世双珠だ。
僕ともうひとつの僕が在る限り、世双珠は絶えない。
――金の生る木だ、本当に」
腕を組んで微笑んで、ヘリアンサスが呟いた。
「――まったく。
きみは僕の全部を知っているんだから、もう少し、僕のことを憐れんでくれてもいいはずなのに」
「――――」
息を吸い込んだのは誰だったか。
トゥイーディアの向こうに座るディセントラだったかも知れないし、その隣のアナベルだったかも知れない。
――憐れむ。憐れむ?
この、俺たちを何十回と惨殺してきた魔王だったものを。
微かな違和感を覚えて、俺は顔を上げた。
カルディオスも同じ顔をしていた。
ディセントラやコリウス、アナベルが、単純にヘリアンサスの、この魔王らしからぬ台詞に違和感を覚えたのだとすれば、俺たちは明確に、ヘリアンサスの言葉に対して違和感を覚えていた。
――『おまえに憐れまれる覚えはひとつもない!!』
あのとき、トゥイーディアに明瞭な憐憫を向けられたとき、ヘリアンサスはそう絶叫したというのに。
だが、もちろん、トゥイーディアにその記憶はない。
トゥイーディアは、あのとき確かに憐憫を以てヘリアンサスを見詰めたのと全く同じ飴色の瞳に冷淡な色を浮かべて、恬淡と言葉を返していた。
居間の大きな窓から差し込む陽光が、静かにトゥイーディアに降り注いでいる。
カルディオスとヘリアンサスとの間で陽光が明確に一線を引いていて、ヘリアンサスは影の中にあった。
陽光の中から影にいるヘリアンサスに視線を注いで、トゥイーディアが首を傾げている。
「――おまえの全部を知っているから言うんだけど、あっちのおまえを壊したところで、こっちのおまえを殺すことになるの?」
“あっちのおまえ”、と表現されたものを把握して、俺は思わず口を開いた。
世双珠の母石のことはみんなに話してあるが、トゥイーディアの曖昧な表現で、全員に認識が共有されているかどうか分からなかったからだ。
が、俺が何を言うよりも早く、コリウスがぼそっと呟いていた。
「つまり、ルドベキアの言っていた、世双珠の原石?」
ヘリアンサスが、冴え冴えとした黄金の瞳でコリウスを一瞥して、皮肉っぽく唇を歪めた。
「それ以外に何がある」
「――母石、な」
俺は思わず、そっと注釈を入れるように言っていた。
だがどうやらそれを全く聞いていなかったらしく、アナベルが言っていた。
「ルドベキア、確か世双珠の親玉と……ヘリアンサスは、同じものだって言ってなかった?」
「母石だって。――いちおう、ふたつでひとつのはずだけど……」
俺はそう言いながら、窺うようにヘリアンサスを見た。
ヘリアンサスは石のような無表情で、アナベルのことも俺のことも、一瞥だにせずにトゥイーディアを眺めていた。
「そこの番人が言っている通りだ。
――あっちの僕とこっちの僕じゃない。こっちの僕とこっちの僕なんだ」
「今は違うんでしょ?」
トゥイーディアがそう言った。
苛立たしげな様子も皮肉っぽさも欠片もなかった。
純粋に疑問に思っている、という風だった。
ヘリアンサスが眉を寄せた。
「――は?」
トゥイーディアが、身振りで何かを伝えるような仕草をした。
ぱっ、と、その蟀谷の辺りで真っ白な光の鱗片が散った。
窓から差し込む日差しの中でなお際立つ、明るい魔法の光だった。
同時にヘリアンサスが、低い声で呟く。
――トゥイーディアが、言葉ではなしに思考で、ヘリアンサスに何かを伝えたのだとそれで分かった。
「……いや、それは確かに――」
ヘリアンサスがまっしろな睫毛を伏せて、何かを考え込んだ。
「アンス?」
カルディオスがヘリアンサスの顔を覗き込んだが、ヘリアンサスは顔を上げなかった。
同時に俺は、殆ど閃光じみた思考の転換を得て、思わず指を鳴らした。
妙な既視感があったがそれには頓着しなかった。
「――そうだ、違う!」
「ああ、そうね」
殆ど同時に、ディセントラが考え深げにそう言った。
ヘリアンサスを、何かを憚るような瞳で見てから目を逸らし、肩を竦める。
「ルドベキアの話では、その――最初の私たちが、ヘリアンサスを『魂のあるもの』だって定義したんでしょう? そうすると――」
「そう! 命の有無は魂に遵う。
だから今のヘリアンサスには――命がある」
当然ながら、
「母石に命はない。
――だから、ヘリアンサスの命が母石から独立しているものだとすれば――」
「世双珠の親玉の方をぶっ壊しても、アンスが死ななくて済むってこと?」
カルディオスが勢いよく立ち上がりながらそう言って、顔を上げたヘリアンサスが、疲れたようにそれを押し留めた。
「カルディオス、心配してくれるのは嬉しいけど、そんなにいいものじゃないよ。
第一おれのは偽物だ。――普通なら、おまえなら、ムンドゥスのための肉体があって、その肉体のための魂がある。でもおれのは逆だから。
――ルドベキアが、」
ヘリアンサスが唐突に俺の方を向いたので、俺は息が止まりそうになった。
黄金の目が、妖しいまでに美しい双眸が、俺を見て細められていた。
「どうしてもおれを殺したいからって、無理に作っただけのものだ。
壊されるためにあるから転生もない。そういう魂に引き摺られて、おれにも血肉が出来ただけのことだから――」
「おまえのことはどうでもいいのよ」
トゥイーディアがあっさりと言って、カルディオスが座り直しながら、棒を呑んだような顔になってトゥイーディアを振り返った。
彼女の表情は透き通るほどに冷淡だった。
「むしろ逆なの。おまえの首を落とすことで、あっちのおまえも一緒に壊せるなら、私が喜んでおまえを殺してあげるんだけど、おまえの命があっちのおまえとは無関係なところで存在しているなら、そういうわけにもいかないでしょう」
「ご令嬢」
ヘリアンサスがにっこりと笑った。
いっそ獰猛にさえ見えるほどの笑顔だった。
「僕が乗った賭けを忘れたの?
賭けに負けたからには望み通り、世界の寿命を救うに足るだけの協力をしよう。
――もしそのために僕の命が必要になるなら、きみが自分で獲りにおいで。
僕は逃げたり隠れたりしない、そういう協力をしよう。
いつもの通りに相手をしてあげるよ」
その言葉に気色ばんだのは、カルディオスをも含んで全員同様、トゥイーディアがすうっと目を細めて首を傾げる。
しかしヘリアンサスはそれには頓着しなかった。
そのときは、と言葉を継いで、ヘリアンサスが俺を振り返っていた。
黄金の目を細めて、いっそ甘やかすような笑みで俺を見て、ヘリアンサスが言った。
――あのときと全く同じ口調で。
俺の心胆を氷漬けにするに足る、あの口調で。
「おれのためのおまえでいてくれ」
首を傾げて、すぐに頷かない俺をいっそ不思議そうに見て、微笑む。
「あのとき言ったはずだ、ルドベキア」
退廃的なまでに美しく。
「おれが愛せるおまえでいてくれ」
俺は息を吸い込んだ。
――今や、みんなは息を呑んでいた。
呼吸すら憚るような沈黙が居間に蔓延っていた。
俺は息を止め、唇が震えそうになったのを堪えた。
いちど唇を噛んで、口を開く。
「そのとき答えるべきだったんだけど、ヘリアンサス」
軽く頭を下げて、それから顔を上げて。
「おまえは俺のことを考えて生きてない」
ヘリアンサスが首を傾げている。
何を言われたのか分からないように微笑んだままだった。
――俺はもういちど息を吸い込む。
「ヘリアンサス、冬が楽しみなんだろう。
おまえとトゥイーディアがやり合うと、そういう暢気なことは言ってられない。
少なくともカルは、おまえだけの味方はしない」
ヘリアンサスは瞬きして、俺を見詰めた。
「……カルディオスは自由にすればいい」
「そうだな、でもおまえ、」
言って、俺は息を吐く。
「――もうカルと喧嘩するのは嫌だろ」
トゥイーディアが身を乗り出した。
多分――俺には確とは分からないが――もし仮に、本当に、トゥイーディアがヘリアンサスの全部を知っているのだとすれば、彼女はヘリアンサスが受けてきた採珠の仕打ちを知っているのかも知れない。
ゆえにヘリアンサスが人間に向ける、憎悪といって余りある激情を知っているのかもしれない。
――そしてそれに拮抗する、カルディオスに向けるこいつの情を、最後の命綱として見込んでいたのかも知れない。
俺は息を止めた。
トゥイーディアが見込んだ命綱を、俺が掴んだのであれば誇らしかった。
――それに、あのとき――俺たちがヘリアンサスに仮初の魂を与える決まり事を創ったあのとき――ヘリアンサスは、彼にとっては十分以上に可能だっただろう、距離を跨いで魔法を撃って、俺たちの命を根こそぎにして、あの決め事を妨げることをしなかった。
もしそれが、俺たちの傍にいたムンドゥスを巻き込むことを恐れたゆえだったとすれば。
もし、そのムンドゥスを、世界を惜しむ気持ちを、カルディオスが与えていたとすれば。
世界を惜しませるに足る思い出を作ったカルディオスを、ヘリアンサスはどれほど特別視していることだろう。
「――な、そうだろ、ヘリアンサス?」
ヘリアンサスがもういちど瞬きした。
それから、何かを思い返すように黙り込んだ。
俺はヘリアンサスの頭越しにカルディオスと目を合わせたが、どうやら奴は自信がなさそうだった。
――こいつがそういう顔をするのは珍しいので、俺は思わず面喰らってしまう。
だが、やがて目を上げたヘリアンサスは小さく頷いて、それから小さな声で言った。
「……確かにね。
――でも、少なくとも、おれが先に死ぬことには道理がない」
おかしい、と、ヘリアンサスが呟いた。
おまじないのように、熱心で一途な呟きだった。
「おかしい。いつもおれが犠牲になるのはおかしい」
「じゃあ、おまえの命と母石が別物だったらいいわけだろ?」
俺はなんとか微笑んで見せようとしたが、頬が強張っただけに終わった。
「もう採珠はない。おまえから世双珠が生まれないなら、壊す必要があるのは母石の方だ」
ヘリアンサスは瞬きした。
それから薄らと微笑んで、ゆったりとカルディオスを振り返った。
彼が憂慮の眼差しで自分を見ていることに気付いて苦笑して、また俺の方を向く。
そして、低い声で言った。
「――確かに。もう、おれの涙は宝石じゃない」
カルディオスがこっそり息を呑んだようだったが、俺はそちらに注意を割けなかった。
ヘリアンサスがいつ俺を殺すものかと、抑えようにも抑えられない恐怖があった。
俺は指が震えるのを隠すために、両手を握り合わせて膝の間に置いた。
「おまえ、今でもムンドゥスの弟なの?」
ヘリアンサスは首を傾げた。
唇が皮肉っぽく曲がった。
「――さあね。確かにあの子が僕を弟と呼ぶことはなくなったけど、僕が姉と呼んでも否定はされない」
少し考えるような間を取って。
「もうひとつの僕のことも、分かる。今どこに在るのかは分からなくても、存在していることは分かる。なにしろ僕のことだから」
俺は眉を寄せた。
目を上げて、咄嗟に、この数百年の習慣どおりに、意見を求めるためにコリウスとディセントラを見た。
コリウスが顔を顰めて、何かを言おうとした。
だがそれを遮って、ディセントラが言った。
「――基本的なことだけど、ヘリアンサスはここにいるんだから、原石――あら失礼、母石だったかしら。少なくともそれと、ヘリアンサスは、別物の存在なのよ。
ふたつでひとつと言うからには、以前はお互いにお互いの存在を依存していたっていうことなんでしょうけれど――」
首を傾げるディセントラの赤金色の髪が、窓から差し込む陽光を弾いて煌めいた。
ほっそりとした白い指を頤に宛がって、ディセントラが眉を顰める。
「つまり問題になるのが、今でもヘリアンサスと母石の間にある関係と、ヘリアンサスにしかない命と、どっちがヘリアンサスの存在に及ぼす影響が大きいかって話でしょう」
コリウスが、椅子の背凭れに体重を預けた。
「分かりやすく、どうも。その通りだ」
コリウスの、苦虫を噛み潰したような表情が、“なぜ俺たちがヘリアンサスの生存を気に掛けねばならないのだ”というところに起因しているのが分かったが、俺はその表情からはそっと視線を逸らした。
――俺だって、またトゥイーディアと殺し合うのは嫌だ。
トゥイーディアがヘリアンサスの首を落とそうとすれば、どうあっても俺は、またトゥイーディアと殺し合うことになってしまう。
「――でもそれ、あたしたちで分かるものなの?」
アナベルが大粒の薄紫の目を瞬かせてそう言って、薄青い髪を揺らしてヘリアンサスの方へ視線を移した。
「試しに斬ってみましょうってほど簡単じゃないでしょ。その、世双珠の親玉――ああ、母石っていうんだったかしら、少なくともそれも、すぐに手が届くところにはないんでしょうし」
ヘリアンサスは愛想よくアナベルを見返した。
「スクローザ夫人。処刑場できみに助けられたからね、今の一度は許す。
でももう一回でも、言葉の上であっても、気軽に僕のことを扱ってごらん。
喜んできみの喉を潰すよ」
「――――」
アナベルが、椅子の上ですっと身を引いたのが分かった。
怯えたというよりは驚いたように見えた。
トゥイーディアが息を吸い込んで、噛み付くような勢いで何かを言おうとする。
が、それに先んじて、彼女の隣のカルディオスが、片手で彼女を押し留めて、大きく息を吸い込んだ。
「アンス」
カルディオスが、殆ど叱り付けるようにしてそう呼んだ。
ヘリアンサスが肩を竦めてカルディオスを振り返る。
「なに? ――怒った?」
「怒った」
呆れたようにそう言って、カルディオスが丁寧にヘリアンサスと目を合わせた。
翡翠色の目が悲しそうなのを見て、ヘリアンサスが急に度を失ったように見えた。
「――カルディオス?」
「――アンス」
溜息を吐いて、カルディオスがそう呼んだ。
「不愉快だからって、簡単に他人に怪我させちゃいけない。おまえは人より強いんだから余計にだ」
ヘリアンサスは眉間に皺を寄せた。
「まだ何もしてない」
「俺たちに対しては、おまえ、脅すのも良くない」
カルディオスは気難しくそう言って、右手の親指と人差し指をぴんと立てて、その人差し指でヘリアンサスを示した。
「おまえ、散々俺たちを殺してきたんだから」
「きみたちが撒いた種だろうに」
ヘリアンサスが呆れたような声を出したところで、ディセントラが勢いよく両手を合わせて、ぱんっ! と音を立てた。
カルディオスがぎょっとしたようにディセントラの方を向き、俺も、他のみんなも、軒並み度肝を抜かれて彼女を凝視したが、ディセントラはディセントラで、彼女の記憶にある限りでは初めて、ヘリアンサスの言葉を明確に遮ったことで、どうやら緊張しているようだった。
薔薇色の瞳を戴く花貌が強張っている。
だが、ヘリアンサスは興味深げにディセントラを見詰めていた。
驚いた様子はあったが不快の表情はなかった。
ディセントラは、人外の黄金の双眸と目を合わせて一秒、緩やかに息を吐いて、如何にも女王さまらしく、指を一本立てて見せた。
視線がゆっくり俺たちを巡った。
「――いちいち話を逸らさないでよ。
――アナベルの言う通り、私たちだと分かることより分からないことの方が多いでしょ。そもそも人の領分ではないわ。
だったら確実に話が分かるものに訊けばいいのよ」
彼女にしか出来ない綺麗な角度で首を傾げて、ディセントラが誰にともなく言い放った。
「誰か、ムンドゥスを連れて来てくれない」
「――それなら」
ヘリアンサスが応じた。
当然のように、彼の黄金の瞳がどことも知れない中空を見た。
「連れて来るまでもない。
――ムンドゥス、おいで」
「……なあに、ヘリアンサス」
眠たげな、水晶の笛を鳴らすような声がして、忽然とムンドゥスが現れた。
ヘリアンサスの正面に当たる円卓の上に、華奢な足を崩して座り込む格好で現れた罅割れだらけの世界そのものが、幾重にも結い上げてなお、座り込めば足許に届く長さを持つ黒真珠の色の髪を長く円卓の上に垂らして、完璧な無表情をヘリアンサスに向けていた。
鏡のような銀色の瞳が、ゆっくりと瞬きした。
「どうしたの、ヘリアンサス。
わたし、とてもねむいのよ」




