三十九話「お帰りなさい」
「ミゼ……?」
蒼魔女が、バリの昔の名前を恐る恐る呼ぶ。
バリは、空間に一人取り残されていた。僕たちを攻撃した時みたいに、おかしい様子はないので僕もそろりそろりと近づいてみる。蒼魔女の姿を見たバリの顔は、驚愕に満ちていた。なぜ、どうして、疑問が顔にそのまま貼りついているみたいだった。蒼魔女が、そっとバリに近づく。バリが、一歩後ずさりした。蒼魔女は歩を止めることなくバリに近づいて行く。
「リザ、リー……」
「会いたかった。会いたかったのよ、ずっとずっと。あなたに」
僕からは蒼魔女の後姿しか見えないからどんな顔をしているのかわからないけど、声から察するに泣いてるとみた。
バリが、恐る恐ると言った様子で蒼魔女の肩に触れる。バリの手が触れた瞬間、蒼魔女がパッとバリに抱きついた。声をあげて泣きだし、バリがオロオロしている。……うん、これはまごうことなきカップルだ。それも街中でイチャつく系のムカつく感じのカップル。まぁ、事情が事情なだけに同情はするけど嫉妬もするぜ? ちくしょう恋人とか羨ましいぜチクショー! 心の中で嫉妬の叫び声を上げていると、スフルが近寄ってくる。
「ミゼはもう落ち着いたみたい。全部思いだしたって」
「ん、そか。そりゃよかった」
さぁて、あとは泣きじゃくる蒼魔女さんをどうするかですねー。まぁ、そこはバリに任せるとしようか。何せ恋人ですからな。
「ところでいい加減僕と初代勇者のこと一緒に呼ぶのやめてほしいんだけど?」
「同じ名前なんだから仕方ない」
「じゃぁ初代勇者は今の名前で呼べばいい。初代勇者ミゼは、もういないんだから」
僕の言葉に、スフルが俯いて、寂しそうにポツリと呟いた。
「そうだね。彼は……生まれ変わりだから。よし、元の世界へ帰ろう! バリ、リザリーも!」
「おっしゃー! 帰るぜ」
「帰ろう、リザリー」
「うん」
僕と蒼魔女は蒼魔女の住む森へ帰って、バリは自分の城へ無事帰った。精神体が抜けているはずの僕の体が突然消えたからリッツはかなり驚いて慌てて城中を探し回って、それでもいないから外に出て探しに行こうかと思ってた、と後から聞いた。僕の体が消えたのは多分、亀裂に飛び込んだ時だろうな。リッツには心配かけたけど、元はと言えばリッツが言いだしたことだから謝らないぞ。
「で、無事お二人さんは恋人同士に戻ったわけだけど……お二人さんには魔王をやめてもらう」
夕食後、リッツの部屋に集められた僕、バリ、蒼魔女の三人。椅子に足を組んで偉そうに座っているのはリッツだ。そのリッツの発言に、僕だけが飲んでいたお茶を噴き出した。バリと蒼魔女は平然としている。それが当たり前だと、すでに受け入れているようだ。
「もちろん、魔王をやめたあとは適当に匿ってやるからその間に住むとこ見つけて、俺たちの目も届かないところへ行ってくれ。後は俺と影の魔王に任せとけ」
ニッと歯を見せて爽やかに笑うリッツはやっぱりイケメンだった……。蒼魔女の肩を抱いたバリが、頭を下げる。一言、「すまん」とだけ謝って。バリに肩を抱かれている蒼魔女は実に幸せそうに笑っている。くそう、カップル……カップルぅ……! モテない男はつらいぜ!
「じゃ、もう会うこともないだろうけど。さよなら、バリ、そして蒼魔女」
「感謝するよ、ありがとうリッツ」
「ありがとう、さようなら」
リッツと挨拶を済ませた二人が、クルリと僕のほうに向きなおる。一人でお茶をすすっていた僕は慌ててカップをテーブルに置く。
「キザキ、お前にも感謝している。混乱した際に攻撃してしまったことを、謝る。すまない。エル、スフルにも謝っておいてくれ」
「毒を盛ったのを謝るわ、ごめんなさい。ありがとう」
「どうかお幸せに」
二人は静かに部屋を出て行った。僕とリッツで、歩いて行く二人の後姿を見送った。
……僕、大人な態度だったなぁ。毒盛った蒼魔女に「どうかお幸せに」なんて言えるなんて。内心カップルめぎぎぎ、って感じだったけど。




